そもそも給与計算のアウトソースは何を得られるのか
この回で吉田さんが取り上げるのは、給与計算をアウトソーシングするメリットです。テーマは事業会社側から見たメリットに絞られています。
吉田さんは、給与計算は社労士のニーズが強い業務だと話します。当社も積極的に引き受けているそうです。
社労士といえばみたいなね、給与計算みたいなところあるかなと思います。
そのうえで吉田さんは、メリットを5つに分けて順番に説明していきます。
気が進まず後回し、を防げる人的リソースの節約
1つ目のメリットは、人的リソースと時間の節約です。吉田さんはまず、社内で給与計算をする場合の気持ちの問題を挙げます。
事業会社の担当者が給与計算をすると、気が進まずギリギリになりがちだと吉田さんは指摘します。夏休みの宿題のように、締め切り直前で重い腰を上げる状態です。
小学生の頃のなんか夏休みの宿題みたいな感じで、ギリギリになって処理するみたいなね。
一方でアウトソーシングしていれば、アウトソーサーの指示に従って動けばよいので、そうした気持ちの負担は減ると吉田さんは話します。
吉田さん自身も、確定申告を外注しているそうです。外注しないと気持ちが乗らず、3月15日の1週間ほど前になって重い腰を上げるといいます。
紙のタイムカードと有給申請に潜むリスク
吉田さんは、社内でやっていると最新のやり方に適合していないケースがあると続けます。人的リソースの節約は、気持ちの問題だけではないという話です。
例として挙げられるのが、紙のタイムカードで打刻し、残業時間を手で集計しているケースです。プロから見れば、デジタル勤怠システムがあるのに手集計は手間がかかると映ります。
さらに吉田さんは、申請承認のプロセスにも大きなリスクがあると指摘します。特に有給休暇の申請を紙でやっている場合です。
紙の申請書は偽造しやすいと吉田さんは言います。有給は原則事前申請が基本のため、事後申請は基本的に認めなくてよいのが前提です。
たとえば上長が出張で不在のときに、日付をごまかして事前申請したように見せかけた申請書をデスクに置いておく、といった不正が起こりうると吉田さんは説明します。
これに対してデジタル勤怠システムなら、何時何分に申請したかがわかるため、不正な申請を防げます。吉田さんは会社の統制という観点でも非常にいいと話します。
ITに強い社労士なら、こうした体制の提案もしてくれるといいます。1つ目のメリットは、人的・時間的リソースの節約であり、社内体制の強化にもつながるという話でした。
忙しいのは月数日、それでも人を雇うのか
2つ目のメリットはコスト削減です。吉田さんは、社内で給与計算をする場合の作業量の偏りに注目します。
給与計算は、直接雇用の1人分の作業量で足りるものではないと吉田さんは言います。締め日が末締め翌15日の場合、忙しいのは翌月5日から10日ごろに集中します。
その期間はものすごく忙しい一方で、それ以外はやることがないといいます。数日の繁忙のためだけに常駐の人を雇うと、かえってコストがかかるという指摘です。
5日から10日までのすごく忙しい期間のためだけに常駐の人を雇うのかってなると、それはそれですごくお金がかかるわけです。
仮に20万円で正社員を雇っても、給与計算期間以外にやってもらう仕事がなければもったいないと吉田さんは話します。労務担当を置けるほどの事業規模なら別だといいます。
さらに、実際に雇えば経験者でも教育・育成コストがかかり、経験者を探す採用コストもかかります。この面でも外注は有効だと吉田さんはまとめます。
「正しく計算できている方が珍しい」給与計算のリスク低減
3つ目のメリットはリスク低減です。吉田さんは、他社や他の士業が担当していた給与計算を引き継いだときの実感を語ります。
引き継いでみると、あれも違うしこれも違うし、どこから直せばいいのか、という状態がよくあるといいます。
よくある間違いとして、残業の1時間単価の誤りや、社会保険料の誤りが当たり前のようにあると吉田さんは挙げます。
これが専門家に依頼するとかなり減るはずだと吉田さんは話します。ただし0とは言い切らず、自分の首を絞めるようだからと、あくまで「減る・低減できる」という言い方にとどめています。
知識のない事業会社が行うのと、社会保険労務士が専門家として行うのとでは、当然後者の方が精度が高いというのが吉田さんの見立てです。
さらに給与計算の間違いは、伝え方を誤ると、会社がスタッフを騙して安い給与で働かせていたという文脈に受け取られかねません。専門家に任せれば、そうした事態も避けやすくなると吉田さんは話します。
間違いの修正から見える人事的な課題
4つ目のメリットは、人事的な課題の発見につながるかもしれないという点です。吉田さんは、単純ミスとそうでないケースを区別します。
給料30万円のところを31万円と打っていた、という単純ミスならデータを修正して終わりです。しかし、そうではないケースも多いといいます。
たとえば残業の1時間単価が会社全体で間違っていたり、残業計算に含めるべき手当を含めていなかったりする場合です。放置すると、後で大きな問題になります。
労働基準監督署の調査などでそれが見つかると、追加で未払い賃金を払わなければならなくなると吉田さんは説明します。
吉田さんは、第三者に強制的に見つけられる前に、自分たちで直していけるきっかけになる点を、アウトソーシングの良いところだと話します。
さらに、正しく計算したデータを分析すれば、人事の課題が見える可能性もあるといいます。離職率が高いという相談に対し、給与水準が世間相場より明らかに低いことがわかる、といった例です。
社長、この給与データ扱ってますけど、給与水準が低すぎるから、辞めるの仕方ないですよみたいな話の
ここまで踏み込むのは難しいかもしれないとしつつ、気の利く社労士ならこの金額では難しいのではないかと言ってくれるかもしれない、と吉田さんは補足します。
紙の台帳で起こる漏洩と、機密性の向上
最後の5つ目のメリットは機密性の向上です。吉田さんは、給与データの保管場所という観点から説明します。
きちんと給与計算を受けている事業者は、クラウドサーバーなどしっかりした場所に給与データを保管しているため、情報漏洩のリスクが減ると吉田さんは話します。
社内で紙の賃金台帳や役員報酬の記録を保管していると、スタッフがたまたま戸棚を開けてしまい、みんなの給料がわかってしまうこともありえます。
経営者や人事担当者の中には、給与情報を経営者クラスと人事・労務部門しか知らない状態にしたい、という考えを持つ人もいると吉田さんは言います。
そうした場合、紙や社内サーバーでの保管には限界が来ます。外注してデータを社労士が保管すれば、うっかり漏洩する可能性も減るという整理です。
メリットのまとめと、次回のデメリット予告
吉田さんは最後に、5つのメリットを振り返ります。1つ目がリソース節約、2つ目がコスト削減、3つ目がリスク低減です。
4つ目が人事的課題の発見、5つ目が機密性の向上です。ただし機密性については、外に出しているからこそ逆に漏洩するかもしれない、という見方もあると吉田さんは付け加えます。
今回はあのメリットなんですけど、続けて次回では、あの給与計算のデメリットについてお話ししていきたいなと思います。
まとめ
吉田さんは、事業会社にとっての給与計算アウトソースのメリットを5つに整理しました。単なる作業の代行ではなく、体制強化や課題発見にもつながるという視点が示されています。次回はデメリットが取り上げられる予定です。
- 後回しになりがちな給与計算を、指示に従って進められる形にできる
- 繁忙が数日に集中する業務のために常駐人員を抱えずに済む
- 残業単価や社会保険料など、専門家が担うことで計算ミスのリスクが下がる
- 間違いの修正を通じて、未払い賃金や給与水準の問題に気づけることがある
- クラウド保管により、紙の台帳で起こりがちな情報漏洩のリスクを減らせる




