なぜ短時間アルバイトの労務は見落とされがちなのか
この回のテーマは、短時間のアルバイトスタッフを雇用するときに気をつけることです。吉田さんは、この領域は落としがちなポイントが多いと話します。
その背景として挙げられるのが、日本の雇用慣行です。正社員を主役とする考え方が根強く、賞与や退職金も正社員には手厚く用意されている、といった前提があります。
日本の雇用慣行って正社員中心主義みたいな考え方で、正社員こそ主役なんだみたいな考え方なんですよね。
その結果、短時間のアルバイトスタッフは、よくも悪くも優先順位が下がってしまうと吉田さんは指摘します。そのため、気をつけていなかった点や見落としが生まれやすいということです。
吉田さんは、この状況の是非については議論があるとしつつ、今回はなかなかスポットの当たらない短時間アルバイトに焦点を当てると述べます。
契約内容を決めずに雇うと、双方にどんなデメリットがあるのか
一つ目のポイントは、短時間であっても労働時間などの契約内容をきちんと決めた方がよい、という点です。
飲食店でよくあるのが、「アルバイトとして入社してください」というところまでしか決めずに入社させるケースだと吉田さんは言います。雇用契約書を作っているだけましな面はあるものの、その内容にも問題が残りがちです。
あなたの働く日と労働時間、何時から何時まで働くかっていうのはシフトによって決めますよしか書いてないんですよ。
つまり、契約内容がよくわからないまま入社してくることが、短時間のアルバイトでは珍しくないということです。
吉田さんは、これがどんなデメリットを双方にもたらすかを具体例で説明します。たとえば口約束で、週5・1日4時間で働く人が入社してきたとします。
本人は週20時間ほど働けると考え、その時給から得られる収入を前提に生活設計を立てて入社してきます。ところが会社の業績はうまくいくときばかりではありません。
飲食店であれば、客が来なかったからと会社側が勝手にシフトを削ったり、客が全員帰ったからと4時間の勤務を2時間で帰らせたりすることが起こると吉田さんは言います。
吉田さんは、会社都合で早帰りさせた場合、このケースでは時給を満額出すべきではないかと話します。週5・1日4時間の契約で結果として半分の10時間しか働けなかったなら、その差分は労働者側に請求する権利があるはずだ、というのが吉田さんの見方です。
一方で、逆のパターンもあると吉田さんは指摘します。スタッフの側から「最近忙しくなったのでシフトを減らしてください」と言い出すケースです。
多くは話し合って変更しますが、会社側には「週5・1日4時間働けるから採用した」という言い分もあり得ます。週3しか来られないなら、そもそも採用していなかったし、働く居場所がない場合もある、というわけです。
吉田さんは、本来の契約が週5・1日4時間なのに本人都合でそれを下回るなら、厳密には解雇などに当たると説明します。労働契約は、会社が払い、スタッフが働くという約束であり、どちらか一方が履行されなければ解消できるはずだ、という考え方です。
労働契約っていうのは会社がお金を払います、スタッフさんが働きますって契約ですから、どちらか一方が履行されてなければそれは解消できるはずなんですね。
こうしたトラブルを避けるためにも、労働時間、休日、時給といった契約内容をきちんと決めた方がよい、というのが一つ目の結論です。
賞与を出したらクレームに?扶養の壁をめぐるトラブル
続いて吉田さんは、雇用期間中の「あるある」として扶養のトラブルを挙げます。
103万の壁とか、130万の壁とかっていろいろあって、配偶者の場合だと150万の壁とか、もう壁だらけに今なってるんですけど。
よくあるのが、会社の業績が良く、12月に「みんな頑張ったから」と会社独自の判断で賞与を出したケースだと吉田さんは言います。会社としては良いことをしたつもりでも、従業員からクレームになることがあります。
理由は、その賞与によって扶養の壁を勝手に突破してしまい、配偶者の扶養を外れなければならなくなるからです。
そのため吉田さんは、短時間労働者に賞与を出す場合、扶養に入りたい人には壁を超えない範囲で出すか、出すなら事前にちゃんと説明することをすすめます。そうしないと後でクレームになるかもしれない、というわけです。
扶養にはもう一つ問題があると吉田さんは続けます。入社時に「扶養の範囲内で働きたい」と申告する人がいるケースです。
ところが会社側が人手不足でたくさんシフトに入ってもらった結果、たとえば130万円を超えてしまうことがあります。すると、それに文句を言ってくる人もいるということです。
吉田さんは、扶養の範囲内で働くというのは約束の一部ではあるものの、強く約束しない方がよいと話します。
特に注意したいのが、勘違いしている労働者の存在です。自分の年収が130万円を超えないよう会社側で管理してほしい、と平気で言ってくる人がいると吉田さんは言います。
スタッフの人数が少ないうちはできても、多くなると管理はしきれません。そのため、扶養の範囲内で働くかどうかやシフトの量は、基本的に本人に管理してもらうのが原則だと吉田さんは述べます。
会社側で管理を簡略化するなら、130万円を12で割った額以上のシフトには入れないといったルールをあらかじめ決め、契約書に落とし込んで運用するのがよい、という提案です。
扶養問題、結構揉めるんで気を付けてください。
短時間でも保険はもらえる?労災と失業保険の基本
最後に吉田さんは、短時間労働者が辞めたときに何かあるのか、という質問に答えます。結論として、一定の要件に該当すれば保険はもらえるということです。
本題の前提として、労災保険は短時間の人でも使えると吉田さんは説明します。日雇いの人でも業務中に怪我をすれば労災保険から給付が下り、治療費は基本的に労災保険が負担します。
気になるのは雇用保険です。退職後は無収入になるため、そこを国から補填する制度があり、昔は失業保険と呼ばれていました。これも短時間であっても加入要件を満たしていれば、基本手当としてもらえると吉田さんは言います。
もらえる条件について、吉田さんはざっくりとした説明を加えます。退職日からさかのぼって1か月ごとに区切り、11日以上働いた月が12か月以上あることが一つの条件だということです。
そのため、雇用保険に入っていても、ずっと働いていなければ失業保険を受け取れないので注意が必要だと吉田さんは述べます。
よくあるのが、雇用保険に入る条件で入社したのに、実際には月5日しか働いていない状態がずっと続いていたケースです。この場合、雇用保険に入っていても退職後に失業保険を受け取れないことがあります。
失業保険は最後の6か月の給料で決まる、その意味
雇用保険の注意点として、吉田さんは失業保険の金額の計算方法を挙げます。
雇用保険の注意点なんですけど、最後の6ヶ月の給料を使うんです。
この最後の6か月の給料が高ければ失業保険も多くもらえ、少なければ失業保険は下がってしまうということです。
吉田さんは、社労士としては「最後に猛烈に残業した方がよい」とは言えないとしつつ、働き方によってはたくさんもらえると話します。
余談として、退職前に有給休暇をまとめて消化するケースにも触れます。有給は権利なので使ってよいものの、その間は残業をしない分、失業保険の金額が下がってしまうことがあるということです。
吉田さんは、これらを注意点というより小ネタとして最後に紹介した、と締めくくります。
まとめ
短時間アルバイトは優先順位が下がりがちですが、契約・扶養・退職後の保険という3つの場面でトラブルが起こりやすいテーマです。雇う側も働く側も、あらかじめ内容を決めて共有しておくことが大切だと吉田さんは話します。
- 短時間でも労働時間・休日・時給などの契約内容を決め、契約書に落とし込む
- 会社都合の早帰りやシフト削減は、時給の扱いをめぐるトラブルになり得る
- 賞与は扶養の壁を意識し、超える場合は事前に説明してから出す
- 扶養の範囲内での勤務管理は原則本人に任せ、簡略化するならシフト上限を契約に定める
- 失業保険は「11日以上働いた月が12か月以上」などの要件があり、金額は最後の6か月の給料で決まる






