自社は無関係と思っていないか 営業秘密の意外な広さ
今回のテーマは、企業の機密情報を守る給与設計です。営業秘密の守り方について、吉田さんが解説しています。
そもそも会社の機密情報や営業秘密とは何か。吉田さんは、難しい定義はあるとしつつ、ラジオ向けにかみくだいて説明します。
具体的には、会社が持っている顧客リストやノウハウが営業秘密に当たると言われています。
これを聞いた経営者は「うちは関係ない」と思うかもしれません。しかし吉田さんは、意外とそうでもないと話します。
わかりやすい例が、営業職による顧客リストの持ち出しです。
例えば、携帯電話会社の営業職が顧客リストを持ち出し、ライバルの携帯電話販売会社へ転職して、前職から持ち出したリストをもとに営業する、といったケースが考えられます。
ここまでは想像しやすい例です。一方で、営業秘密の範囲はもっと広いと吉田さんは指摘します。
例えば飲食店のレシピも、しっかり管理されていれば営業秘密に該当するのではないかと言われています。
飲食店は機密情報の管理になじまない業種に見えるかもしれません。それでも、きちんと管理された秘伝のレシピを持ち出され、近くで同じような飲食店を開業されたら、店にとっては大打撃になります。
意外とこの秘密っていうのは、どんな会社にも少なからずあるものなんですよ
就業規則と3つのタイミングの誓約書
では、会社の機密情報はどうやって守るのか。吉田さんはまず基本から説明します。
最初の一歩は、就業規則や雇用契約書に、会社の情報を持ち出してはいけないと明記することです。
就業規則は職場のルールブックであると同時に、会社と従業員の約束の一部になります。そのため、情報を持ち出された場合は、その条文を根拠に損害賠償請求などができるようになります。
ただし、就業規則に書いて終わりではありません。具体的には、3つのタイミングで誓約書を取り付けることが多いといいます。
1つ目は入社時です。入社時に取る各種の誓約書の中に、会社の情報を持ち出してはいけないという内容を盛り込みます。
2つ目は退社時です。退職時は持ち出しが最も起こりやすいポイントのため、誓約書に一筆入れてもらい、持ち出しを抑止します。
3つ目は昇進時です。吉田さんは、ここが抜けがちだと注意を促します。
社員は平社員から主任、課長、部長と昇進していきます。昇進するほど会社の秘密に触れる機会が増え、その秘密のレベルも上がり、アクセスできる範囲も広がります。
そのため本来は、昇進の度に誓約書を取り交わすのが正しい考え方になります。ここまでが基本的な部分です。
秘密保持手当が抑止力になる仕組み
会社によっては、情報が特に重要だと考える場合、給与のところまで機密情報を守る設計にしていることがあります。方法は2つあると吉田さんは言います。
1つ目が秘密保持手当を毎月支払う設計です。名前の通り、会社の秘密を守ってもらうために支給する手当です。
金額をいくらにするかは自由ですが、高いほど抑止力が高くなると吉田さんは考えています。例えば月額1万円、2万円、3万円などを支給します。
従業員は毎月給与明細を見るため、その手当を通じて、会社の秘密は守らなければいけないと毎月確認できます。
さらに、就業規則には秘密保持手当の支給目的が書かれているはずです。それを見れば、会社の情報を持ち出してはいけないという意識につながります。
吉田さんは、この手当の有無が争いの場面でも意味を持つと話します。
これ争いになった時に、秘密保持手当があるかないかによって、裁判の時にも会社にとって有利に働くことがあるんです
加えて、もし秘密保持手当を支給していたのに顧客情報やノウハウを持ち出された場合は、手当を返金してもらうという規定も作れると言います。
返金を求めるという抑止力を通じて、会社の情報を守っていくことができるわけです。
退職金で「ちゃんと辞めてもらう」
もう1つの方法が退職金の設定です。これはオーソドックスな方法だと吉田さんは説明します。
多くの人は、入社時は熱量が高い状態で入ってきます。しかし必ずしもそうとは限らないものの、就業年数を重ねるうちに気持ちが落ちてきて、退職時に一番低くなっているケースは珍しくないといいます。
会社との関係性が弱くなれば、最後まで誠意を尽くして辞めるとは限りません。そこで、抑止の仕組みとして退職金が使えます。
最後に退職金という大きなお金が支給される設計にしておけば、それを受け取るまでは問題を起こさないでおこう、という心理が働きやすくなります。
結果として、顧客情報やノウハウを持ち出さない、引き継ぎをしっかりする、何も言わずに退職しない、といった行動につながると考えられます。
つまり退職金の設定は、会社の情報を守るという点でも、ちゃんと辞めてもらう仕組みとして有効だということです。
特許を取らない会社ほど守りが要る
秘密保持手当と退職金を給与設計に組み込んで会社のノウハウを守る、という話ですが、どんな会社に向くのかはケースバイケースです。
吉田さんは、情報を持ち出されたら経営が大きく傾いてしまう会社の場合は、ぜひ入れた方がいいと話します。
その理由として、会社のノウハウは法的に保護される場合とされない場合があると説明します。
例えば特許を取れば法的に保護されるため、その情報をもとに他の商売を始めて儲けたとしても、特許を根拠に訴えることができます。
一方で、あえて特許を取らず、会社の秘密のまま秘匿し、公開せずに営業していくケースもあります。
その場合、情報が持ち出されても特許で保護されていないため、持ち出した人が別の会社で儲けても、場合によっては何も言えないかもしれません。
情報が公開されるが法的に保護され、持ち出しに対して特許を根拠に訴えられる
公開せず営業できるが、持ち出されても法的に何も言えない場合がある
だからこそ、万が一の持ち出しで経営が大きく傾く会社は、まず就業規則の部分をしっかり整えたうえで、秘密保持手当や退職金をうまく設定して情報を守ってはどうか、というのが吉田さんの提案です。
まとめ
機密情報や営業秘密はどんな会社にも少なからずあり、就業規則や誓約書という基本に加えて、秘密保持手当や退職金といった給与設計で守っていける、というのが今回の内容です。
- 顧客リストやノウハウ、飲食店のレシピなど、営業秘密の範囲は広い
- 守りの基本は就業規則への明記と、入社時・退社時・昇進時の誓約書
- 秘密保持手当は毎月の意識づけと抑止力になり、争いの場面でも有利に働くことがある
- 退職金は「ちゃんと辞めてもらう」仕組みとして機密情報の保護にも役立つ
- 特許を取らず秘匿する会社ほど、給与設計での備えが重要になる




