円満に復職できるケースには、そもそも論点がない
この回のテーマは、前回扱った「一人目の休職」に続く「一人目の復職」です。休職制度で一定期間会社を休んだスタッフが、最終的に職場へ戻る場面で何に気をつければよいかを扱います。
まず吉田さんは、円満に復職できるパターンから説明します。たとえば半年の休職期間が終わりそうなとき、主治医に意見を聞いたら「もう回復して復職できます」と診断が出たケースです。
このとき会社側も「ぜひ復職してほしい」と考えていれば、対応はシンプルです。優秀なスタッフがたまたま怪我や体調不良で療養し、治って戻ってくるようなケースが典型例だと吉田さんは話します。
ここはちょっと正直論点ないんですよ。お互い復職したいと思ってて、お医者さんも復職してOKですよって言ってるから、揉める余地はあまりないと。
つまり、本人・主治医・会社の三者が復職に前向きなら、揉める余地はほとんどありません。問題になるのは、この足並みがそろわない場合です。
復職で揉めるのは、会社だけが「危険だ」と感じているとき
吉田さんによると、復職で揉めるケースは圧倒的に次のパターンだといいます。会社は「復職させるのは危険だ」と思っているのに、本人と主治医は「復職できる」と言ってくるケースです。
多いのはメンタル不調による休職者の例だと吉田さんは挙げます。会社が事情を聞くと、まだ朝も起きられないような状態で、とても復職できそうにないと見えるのに、本人は「復職できる」と主張する、という状況です。
背景には、多くの会社では復職できないことがそのまま退職につながる事情があります。無職になるのが怖い、今の会社で続けたいという気持ちから、本人が無理に復職しようとしたり、できると思い込んでいたりするケースがあると説明されます。
主治医の側にも事情があります。客観的に診断しているとはいえ、患者は病院にとって顧客でもあり、本人から「復職可能と書いてください」と頼まれると、応じてしまう医師も世の中にはいるようだと吉田さんは指摘します。
患者さんから復職可能ですっていう診断書を書いてくださいとか頼み込まれちゃうと、今までお医者さんっていろんな方と接してきましたけど、優しい方が多いので、復職可能ですって書いてくださるようなお医者さんも世の中いるみたいです。
こうして主治医は「復職可能」、本人も「復職したい」、しかし会社は「事情を聞くと難しい」という三すくみが生まれます。ここから、会社がどう対処すべきかという本題に入ります。
温情で安直に復職させると、安全配慮義務が新たな論点になる
会社としてまず重要なのは、本当に復職させてよいのかを客観的に判断することだと吉田さんは話します。本音として復職させたくないと思っていても、安直に判断してはいけないという趣旨です。
たとえば主治医も本人もOKだからと十分に吟味しないまま復職させ、結果として病気が悪化したり、回復しきっていない状態で別の怪我をしたりした場合を吉田さんは想定します。
ここで問題になるのが、会社が負う安全配慮義務です。安全に就業させる義務を果たさなかったために病気が悪化した、新しい怪我や病気が生じた、という別の論点が発生してしまいます。
つまり、会社の本音がどうであれ、復職の可否はきちんと対応して判断しなければならない、というのがこのパートの要点です。会社の本音がどうであれ、ちゃんと対応していかなきゃいけないという点を吉田さんは強調しています。
意見が対立したとき、相談すべき相手は産業医
意見が対立した場合に一番相談できる相手は、産業医だと吉田さんは述べます。1事業所に50人以上のスタッフがいる場合は産業医の選任義務があるため、多くの会社では産業医に相談できます。
具体的には、産業医に事情を詳しく説明して復職できるかの意見を聞き、それをもって復職の可否を判断していく、という流れになります。産業医は、対立が起きたときの客観的な相談相手として位置づけられています。
復職を決めるのは会社。ただし医師の意見を無視すれば負ける
ここで吉田さんは、復職の可否を誰が判断するのかという重要なポイントを挙げます。理解が十分でない経営者が多い部分だといいます。
復職させるかどうかを誰が判断するのか。ここは意外と間違ってる人とか、十分な理解をしてない経営者の人多いと思います。
結論として、復職を決めるのは会社です。会社が復職させるかどうかを決められる、というのが吉田さんの説明です。
ただし、会社が好き勝手に決めてよいわけではありません。ここに誤解があると吉田さんは注意します。
たとえば主治医も産業医も「復職可」と言っているのに、会社が復職させたくないという理由だけで「復職できません」としてしまう場合を吉田さんは挙げます。
これは医師の意見をすべて無視して会社が独断で復職させないケースにあたり、裁判所に話を持っていかれるとほぼ負けると吉田さんは言います。医師の意見は社会的にも重みがあるためです。
そのため、医師の意見を十分に勘案したうえで、最後に会社が可否を決める、という順序が大切だと説明されます。
医師の意見を聞く
主治医・産業医から復職の可否について意見をもらう
意見を十分に勘案する
社会的にも重みのある医師の意見を無視せず考慮に入れる
最後は会社が決める
医師の意見を踏まえたうえで、復職させるかどうかを会社が判断する
主治医と産業医の意見が一致していれば、その通りにするのが一番よいと吉田さんは話します。一致していない場合は最後は会社判断になるため、顧問社労士や顧問弁護士といった人事労務の専門家と相談して決める形になります。
意見が割れたら、業務内容まで踏み込んで「深掘り」する
産業医と主治医の意見が対立したとき、どちらの医師が好きかといったいい加減な決め方は絶対にダメだと吉田さんは戒めます。ここで必要なのが「深掘り」です。
そこで意見が対立した場合、どうすればいいのかっていうと、深掘りしなきゃいけないんです。深掘りがすごく重要です。
なぜ深掘りが重要かというと、医師であっても事実関係を正しく把握しないまま「復職可能」あるいは「復職不可能」と言っているケースがあるからだと吉田さんは説明します。
吉田さんが挙げるのは、仕事内容による復職基準の違いです。同じメンタル不調でも、事務職として戻れるかと、トラック運転手として戻れるかでは基準が変わってきます。
事務職なら、仕事中にうたた寝をしても大事にはなりにくい面があります。一方でトラック運転手が居眠り運転をすれば大事故につながりかねません。仕事の内容によって復職の基準は変わってくるという点が、深掘りの理由になっています。
仮に仕事の途中でうたた寝をしても、大事故には直結しにくい
常に集中が必要で、居眠り運転は大事故につながりかねない
ところが主治医に「この人の仕事は何ですか」と聞くと、実は分かっていないケースもあると吉田さんは指摘します。だからこそ、意見が対立したら必ず事実関係を深掘りすべきだと述べます。
具体的には、自社の業務内容や復職後に任せる予定の難しい業務を医師に伝え、それでも復職できるかを確認します。こうした内容を文書で送ると、診断書が書き換わり「この場合は復職できません」となることもあるといいます。
いい加減な対応をせず事実関係を整理していけば、会社にとっても本人にとっても、その他の人にとってもよい結論が出るはずだ、というのが吉田さんの締めくくりです。
まとめ
復職をめぐって本人や主治医と会社の見立てが割れたとき、会社は医師の意見を無視せず勘案したうえで、最後は自ら可否を判断する立場にあります。判断を誤らないために、産業医への相談と、業務内容まで踏み込んだ事実関係の深掘りが鍵になります。
- 本人・主治医・会社がそろって前向きなら、復職に大きな論点は生じない
- 温情で安直に復職させると、安全配慮義務違反という新たな論点が生まれる
- 復職の可否を決めるのは会社だが、医師の意見を無視して独断で決めると裁判ではほぼ負ける
- 意見が対立したときの相談相手は産業医。50人以上の事業所には選任義務がある
- 仕事内容で復職基準は変わるため、業務内容を伝えて事実関係を深掘りすることが重要






