人の体はなぜ「円と螺旋」でできているのか
この回は、ダンサーやスポーツ選手の体を長年見てきた鍼灸師の浜本健太郎さんを迎えた2回目です。PUNCHしょーへーさんは、SNSで話題の江戸走りや古武術 ── 日本に古くから伝わる武術の総称。近年は、西洋式とは異なる体の使い方としてスポーツや介護の分野でも注目されていますのような体の使い方が、踊りにどうつながるのかを尋ねます。
浜本さんが一番こだわっているのは、体の中の「円と螺旋の組み合わせ」だといいます。ロボットがどれだけ進歩しても、人間の滑らかな円運動と螺旋運動は再現できていない、というのが浜本さんの見立てです。
例えばパンチくんがご飯をお箸で取って口に持っていく。この動作って円で螺旋なの。
ウィーンじゃないでしょ。
浜本さんは、背骨の中を流れる脳脊髄液 ── 脳と脊髄の周りを満たしている透明な液体。脳や脊髄を衝撃から守るクッションの役割などを担っていますも例に挙げます。心臓のようなポンプがない背骨の中で液体が上下に循環しているのは、螺旋で降りているからではないか、と浜本さんは考えています。
さらに浜本さんは、おしっこがスクリューのように出ることや、赤ちゃんが頭の骨を小さくして螺旋状に生まれてくること、DNAが螺旋であることを並べます。話は宇宙まで広がり、浜本さんは「聖闘士星矢のコスモと一緒」と笑わせます。
だから人間の体の中、全部円と螺旋でできてるの。
膝のダウンアップは「教えやすさ」から始まった?
浜本さんによれば、足も手と同じように、ぐるぐる回るような螺旋運動をしています。前回のワークショップで扱ったかかとの動きも、かかとから作る円運動・螺旋運動が全身に伝わっていくものだと説明します。
PUNCHしょーへーさんは、ダンスのダウンアップが、鏡を見ながら直線的な動きで教えられがちだと指摘します。浜本さんは以前、ダンサーのP子さんP子に、なぜ膝のダウンアップが基本になったのかを尋ねたことがあるそうです。
ですかねって聞いたことあって。一番教えやすいからちゃう?って。P子さん。
教える側でもあるPUNCHしょーへーさんは、膝の曲げ伸ばしで頭の位置が動き、音楽に乗る楽しさが伝わるのは確かだと応じます。浜本さんも、入り口としてはそれでいいと認めたうえで、20年以上いろいろなジャンルを見てきた経験からこう話します。
(ダンスを)長年二十何年間見て、いろんなダンスのジャンルを見てきて、やっぱ綺麗に動く人っていうのは、いろんなところが円と螺旋で動いてて。
背中も全部こうくねくねくねくね円と螺旋でしか見えへんのね。
大きい関節ばかり使うと何が起きるのか
浜本さんは、肩関節や股関節を大きな歯車やエンジンにたとえます。大きな関節は動かしやすい一方で、パワーが大きいぶん体幹が振り回され、体を固めないと動けなくなるという悪循環が生まれるといいます。
悪循環。肩ばっかり股関節ばっかり使っちゃダメですよ。
浜本さんの考える正しい動き方は、車のギアをローから順に上げていくように、小さな骨や小さな歯車から全部をつなげていくことです。それが円運動・螺旋運動だと説明しています。
小さい骨
小さな歯車から動きを始める
つなげる
ギアを順に上げるように、全身へ連動させる
円・螺旋運動
人間本来の滑らかな動き方になる
こうした考えにどうたどり着いたのかと聞かれ、浜本さんは、ダンスに限らず動物やさまざまなスポーツを観察し、自分の水泳経験も振り返りながら仮説を立てて試してきたと答えます。
うちでやってる運動っていうのは、自分ができへんことは絶対人にはさせない。
体の硬さは性格も映し出す?
浜本さん自身、2019年のコロナ禍の前までは、開脚してもおでこが床につくかつかないかという硬さだったそうです。コロナ禍で時間ができて体の使い方を見直し始めると、今では驚くほど柔らかくなり、さらに柔らかくなり続けているといいます。
2019年のコロナ前は、開脚でおでこがつくかつかないか
体の使い方を見直し、今も柔らかくなり続けている
PUNCHしょーへーさんが、硬い人は一定以上柔らかくならないと思っていたと話すと、浜本さんは柔軟性には性格も出ると返します。
だからバカがつくほど真面目ですとかいう人が、やっぱ体硬かったり。
あとふわーってこう抜けてるような子はふにゃふにゃしてるけど芯がないとかね。
浜本さんはさらに、前に倒しているつもりで後ろに反ってしまう「テディベア一族」と呼ぶ人たちは表情が硬い、と話します。浜本さんは自分自身も、知らない人から「街で会ったら声をかけない」と言われるほど表情が硬いそうで、胸の硬さとも関係があると見ています。
後頭骨と仙骨はなぜリンクするのか
PUNCHしょーへーさんは、ワークショップで頭の後ろをほぐしてもらった瞬間に、顔つきが変わり柔らかくなった感覚があったと振り返ります。浜本さんがほぐしたのは後頭骨 ── 頭蓋骨の後ろ側の下部にある骨。首の上端とつながり、別名「枕骨」とも呼ばれますで、頭蓋骨のパーツの中でリーダー格の骨だといいます。
浜本さんは地震のプレートにたとえ、後頭骨に他の骨が寄って歪んでくると、顔の前の筋肉も寄って表情が硬くなると説明します。猫背や反り腰の人も、顔の前側や顎まわりが硬くなりやすいそうです。
ワークショップでは、お尻の仙骨 ── 骨盤の中央にある逆三角形の骨。背骨の土台にあたりますにも触れていました。浜本さんによれば、後頭骨と仙骨はひっくり返すと同じ形をしているといいます。
で、これ体の類似、類似性っていって、似たような形のところは必ず動きがリンクします。
手のひらと足の裏も同じようにリンクしており、鍼灸の世界には手首や足首から先だけで全身を治療する人もいるそうです。浜本さんは、耳ツボも含めて体のつながりを解き明かすには「二回目の人生」も必要だと笑います。
なぜ体に興味を持つことが大事なのか
PUNCHしょーへーさんは、浜本さんの話は「こうなるからこうなる」と理由がわかるので、体そのものへの興味がわいてくると話します。浜本さんは、多くの人は動ければいいと思っているものの、50代を過ぎると体は動かなくなってくると返します。
街中ね、背骨が動かず手足だけ振って上がれてるね。通称なにわのおっちゃん歩きっていうね、ガニ股でとか、もうほんまそういう人が多くなってきて、僕ら同級生でもそんなんいるからね。
浜本さんが強調するのは、踊っていない時間のほうが長いということです。座り姿や立ち姿が整うと、そこから体の動きが連鎖的に変わっていくといいます。
姿勢
座り姿・立ち姿が整う
呼吸
姿勢が整うと呼吸も整う
背骨
呼吸が整うと背骨が動いてくる
円・螺旋運動
背骨が動き出すと円運動・螺旋運動が出てくる
背骨が動き出すと円運動、螺旋運動が出てくる。全部一緒なんよ。
PUNCHしょーへーさんは、関西のトップダンサーたちが浜本さんのもとへ教えを請いに通うのはまさにこのためだろうと話します。浜本さんは、ダンスだけでなく日常生活にも生かしてほしいと付け加えます。
赤ちゃんは「動きの天才」、手足は振り子
ここからは、グラフィーに通う子どもや保護者、大人のダンサーに向けたアドバイスに移ります。浜本さんはまず、子どもについてこう切り出します。
赤ちゃんってね、動きの天才なんですよ。それを悪くしてるのは大人です。
浜本さんによれば、赤ちゃんは寝返り、お座り、はいはい、つかまり立ちという流れの中で、背骨をきちんと使って動いています。そのうえで、大人にも子どもにも大事なこととして、手足と背骨の役割を分けて説明します。
浜本さんは生き物の進化を例に挙げます。魚類はヒレではなく背骨をくねらせて泳ぎ、両生類や爬虫類、四足の哺乳類も背骨で動いているのに、人間だけが手足で動こうとしているというのです。
その象徴として浜本さんが挙げたのが、数年前に流行した「当たり前体操」です。右足を出して左足を出せば歩ける、という歌詞に対し、浜本さんは足だけを出したら後ろにこけると指摘します。
足だけ出したら進めると思ってるのが当たり前になってる世の中がちょっと僕は怖い。
子どもには「裸足の経験」を
浜本さんの子どもへの具体的なアドバイスはシンプルで、親御さんはしっかりと裸足で遊ばせてほしいというものです。砂場、川辺のゴツゴツした岩場、田んぼ、芝生など、足の裏にたくさんの経験をさせることが大切だといいます。
足の裏で熱い、冷たい、草、泥といった感覚を受け取ると、その情報が脳に届き、体を安定させたり避けたりする働きが育ちます。浜本さんはこれを、車やバイクのサスペンション機能にたとえています。
ねっとり動いてってねっとり知らんかったらねっとり動けない。
PUNCHしょーへーさんにも、思い当たる経験がありました。レッスンで「砂を足で蹴るように」と教わり、子どもの頃の経験からすぐ理解できたものの、同じ言い方で子どもたちに教えたら、足で砂をかけた経験がなく伝わらなかったそうです。
大人がダンスを始めるなら何に気をつけるべきか
浜本さんによれば、最近は30代以上向けのレッスンが増えています。一方で、子どもの幼稚園の運動会でいきなり走ってアキレス腱を切る大人が、年に1人は必ずいたそうです。
これから動き始めるなら、まずはケアをしっかりする
プロらしく、しっかりと動かし方を学ぶ
で、綺麗な動き方っていうのは誰が見ても綺麗から。
PUNCHしょーへーさんが、大人は思った動きができないことが多いと話すと、浜本さんは「できない」という暗示を自分にかけてしまうと返します。浜本さん自身、体が硬かった頃は、おでこが床についてペタンと開脚する夢を見るようになり、イメージできたことはできるようになったといいます。
PUNCHしょーへーさんも、保護者にダンスを勧めると「リズム感がない」と断られることが多く、自分が踊る姿をイメージできていないのだろうと話します。
振りが覚えられなくても音楽で踊れる
浜本さんは自分も踊れないと言いつつ、最近あることに気づいたといいます。振りを覚えようとするとできないものの、音楽に合わせて小躍りするのはできるようになってきたそうです。PUNCHしょーへーさんも、ワークショップでの浜本さんのノリはかっこよかったと話します。
音楽の好みも変わってきました。これまで邦楽しか聞かなかった浜本さんが、最近はジェイムス・ブラウン ── アメリカのソウル・ファンク歌手。「ファンクの帝王」と呼ばれ、ダンスミュージックやストリートダンスに大きな影響を与えましたなど70年代、80年代の音楽を心地よく感じているといいます。
めっちゃ円を感じるのね、音楽の中に。それが心地よくなってきた。
浜本さんによれば、日本の曲は歌詞を楽しむものですが、70〜80年代の海外の音楽はリズムそのものが円になっています。PUNCHしょーへーさんも、繰り返すビートとリズムをどう楽しむかがポイントだと応じます。
この変化は施術にも表れています。浜本さんは、自分の体を扱えないのに道具に力が伝わるはずがないと考え、これまではあまり鍼を使ってきませんでした。
今日はボール回したじゃん。あれもちゃんと綺麗に回したら体の中の円が手に伝わってくるみたいな。最近それがちょっとできるようになったから針を持つようにした。
一生踊り続けるには、心も整える
PUNCHしょーへーさんは、番組で宣言をしてもらうと多くのダンサーが「踊れる限り踊り続けたい」と口にすると紹介し、一生ダンサーでいるために必要な考え方を浜本さんに尋ねます。
浜本さんは、親の介護が始まってから、縁側で老夫婦がお茶やスイカを勧め合うような光景が奇跡に思えるようになったといいます。70代、80代になって綺麗に動ける人はほとんどいないからです。
浜本さんの考えでは、動き続けるには自分の体を理解することが欠かせず、その中にはメンタルも含まれます。大事な場面で急にお腹が痛くなるのは脳腸相関 ── 脳と腸が神経やホルモンを通じて互いに影響し合う関係。ストレスで腹痛や便通の変化が起きるのはその一例ですによるもので、腹痛は姿勢の崩れにもつながるといいます。
だから心技体ってうまく言うたもんな。
上手な振りの奥にある「自分の軸」とは
浜本さんは前置きしたうえで、最近流行しているナンバー ── ダンスで、先生や振付師が作った振り付けを覚えて踊る形式。ストリートダンスのレッスンで広く行われていますに触れます。とても上手に踊る子どもが多い一方で、浜本さんには操り人形のように見え、何も感じない子も増えているといいます。
基礎がないというか、軸がない軸というか。これは何、踊りの軸、体の軸じゃなくて、自分がその振りが好きやから踊ってるっていうのもあるんだろうけど。
浜本さんは、好きな先生の振りを踊れる幸せもあるかもしれないとしつつ、それだけでいいのかと感じるキッズや大人が増えていると話します。PUNCHしょーへーさんも、SNSで見栄えや完成度が評価されやすい今だからこそ、ダンスを始めた頃のワクワクのような自分の中心が大事だと応じます。
「瞳」の字が教える、興味を持ち続ける目
浜本さんは最後に、目を表す漢字の話をします。「目」「眼」「白目」「黒目」とあるなかで、「瞳」には「童」の字が入っており、子どもの黒目は大きいのだといいます。
だから楽しい時は目見開く。黒目が大きい。大人になれば、だんだんだんだんそれが黒目がちっちゃくなってきて、白い目で見るっていうのがそれなの。
浜本さんは、大人になっても黒目を大きくして興味を持つことが大事だと話し、自分の場合はそれがたまたま体の使い方だったと振り返ります。
子供で白い目見てる子おったら助けてあげて。
番組恒例の宣言で、浜本さんはこれからも体を追求し、他の人が追求しないようなことをしていくと語ります。PUNCHしょーへーさんは、さまざまな情報を一度自分の体に落とし込んでから伝える浜本さん独自のアプローチを、ダンサー界に広めてほしいと締めくくりました。
僕はこれからも体を追求します。しかも他の人が追求しないようなことをしていきます。オタクです。
まとめ
浜本さんの話は、円と螺旋という体の仕組みから始まり、姿勢や呼吸、足裏の感覚、そして心の持ち方までが一つにつながっていることを示していました。踊る時間だけでなく、日常の立ち方や興味を持ち続ける目が、一生踊り続ける土台になると考えられます。
- 人の自然な動きは直線ではなく円と螺旋でできており、小さな骨からつなげて動くことが大切
- 手足は振り子で、移動の主役は背骨。姿勢が整うと呼吸、背骨、円運動が連鎖して整う
- 子どもには裸足でさまざまな地面を経験させ、足裏のセンサーを育てることが勧められている
- 大人はまずケアを、プロは動かし方の学びを。イメージできないことはできないという視点も重要
- 技術だけでなく心技体と、音楽で体が動くような自分の軸を持つことが、一生踊り続ける鍵になる




