冬休みだからこそ読みたいAIの本
今年最後の深掘り回のテーマは「もうすぐ冬休みだからAIの本を読もう」です。まとまった時間が取れる冬休みだからこそ、長い本や厚い本に挑んでほしいという、しぶちょーからの提案です。
紹介するのはエンジニア以外の人でも読める、でも押さえておきたいAI関連の本です。細かい技術書ばかりを並べるとエンジニア向けになりすぎるため、あえて幅広く選んだといいます。
本読んでばっかだね、あなた。冬休みだろうが関係ないね。
俺は冬休みだろうが関係はないんだけど、やっぱちょっとまとまった時間が取れて、長い本や厚い本を読むっていうことをやってほしいんですよ。
本は読んでほしい順に紹介していきます。最初に挙がったのが、しぶちょーが「一番読んでほしい」という1冊でした。
1冊目『サム・アルトマン』:AI業界の人物と背景を知りたい人へ
1冊目は『サム・アルトマン 生成AIで世界を手にした起業家の野望』です。今年10月に出たばかりの本で、しぶちょーは「めちゃくちゃ面白かった」と評します。
本書はキーチ・ヘイギーが取材して執筆した評伝です。しぶちょーは、起業家の人生を追う本は登場人物が多く、誕生や家族の話から始まるため、読み慣れていない人には難しく感じられると前置きします。それでも、AI業界の背景を知るために読んでほしい一冊だといいます。
それでも、この本を押さえておく価値は大きいとしぶちょーは話します。理由は、サム・アルトマン ── OpenAIのCEO。生成AI時代を象徴する人物で、AIの普及やガバナンスの議論を強く牽引していますという人物を知ると、OpenAIの動向や企業としての性格が読み解けるようになるからです。
描かれるサム・アルトマン像は、IT系の天才起業家としては珍しいものだといいます。ジョブズやマスクのように偏屈で気分屋なのではなく、楽観的で「みんなからいい人と言われている」人物として描かれています。
イーロン・マスクみたいにすごい激しい人かと思うんだけど、サムはすごく楽観的でめちゃくちゃいい人。だから人脈の人なのよ。
キャリアの流れも整理されています。スタンフォード大学でコンピューターサイエンスを専攻して中退し、最初にLooptという位置情報を使ったコミュニケーションアプリのベンチャーを立ち上げますが、これは失敗に終わります。
転機となったのが、スタートアップ支援機構Yコンビネーター ── 世界最大級のスタートアップ支援アクセラレーター。短期間で事業を磨き、投資家やネットワークにつなぐ仕組みで多くの有名企業を輩出してきましたでの立ち回りでした。講師やパートナーを経て社長になり、多くの起業家やスタートアップへ投資していきます。
その中でサム・アルトマンは、AIが世界を変えると考え、AGI ── 汎用人工知能のこと。特定の作業だけでなく、人間のように幅広い課題に対応できる知能を指しますは人類の営みを変える強い力だから非営利でやろうと、OpenAIの前身を立ち上げます。
技術より先に「人類はどうあるべきか」から始まった
しぶちょーがこの本で面白いと感じたのは、話が技術先行ではない点です。GPTやAIの可能性がまだ見えない時期から、「コンピューターは知性を持てるのか」という問いから始まっているといいます。
その出発点は、チューリングが残した問いにあります。サム・アルトマンも「コンピューターはものを考えられるようになるのか」という小さな疑問を抱き、そこから思考を広げていったと描かれています。
さらに特徴的なのは、汎用人工知能ができる過程がまだ何もない段階で、まず安全策から考えていることです。AIに滅ぼされないために人類はどうあるべきか、といった議論を、頭のいい人たちが早い時期に交わしていたといいます。
時期でいえば2014年ごろ、サム・アルトマンが起業していたあたりから、AIや不老不死、核エネルギーといった夢物語のような領域に投資していた、その一つがAIだったと語られます。
登場人物の多さも、この本の読みごたえの一つです。マーク・ザッカーバーグをはじめ、名の知れた人物が次々に出てきて、世界の一部が少数の天才によって動かされている様子が伝わってくるといいます。
AI企業の人間関係から、技術ニュースの背景を読む
OpenAI設立後には内部の対立も描かれます。サム・アルトマンを嫌う人たちが出ていってAnthropic ── Claudeを開発するアメリカのAI企業。AIの安全性を重視し、開発現場に哲学者も多く関わっていますになった、という人間模様がこの本で語られます。
話題はDeepMindやGeminiにも広がり、しぶちょーはAI業界の人脈を知る面白さを語ります。編集補足:企業とAIモデルは区別が必要です。Google DeepMindの公式説明では、DeepMindは2010年に始まり、2023年にGoogleのBrainチームと統合されています。番組の人脈の話を、そのまま企業・製品の沿革として読むことには注意が必要です。
イーロン・マスクとの関係も描かれます。マスクはOpenAIに出資したものの、途中で全権限をよこせと言い出してサム・アルトマンと喧嘩別れし、自分でxAIを立ち上げた、という流れです。
(AI界隈が)みんなそこなの。っていうのがすげえ事細かにわかる、そういう本でございます。
しぶちょーが特に驚いたのは、ChatGPTが出ていない時代のサム・アルトマンの動きでした。AIに仕事が奪われると考え、その補填をするユニバーサルベーシックインカム ── すべての人に無条件で一定額を給付する制度の構想。AIによる雇用喪失への対策としても議論されていますという政治的な仕組みから始めていたといいます。
一方で、この本には解けない謎も残ります。サム・アルトマンが一度OpenAIのCEOを解任された経緯は、本を読んでも「よくわからなかった」としぶちょーは率直に話します。
解任した側は良かれと思って解任したのに、誰も喜ばず、本人すら理由がわからないまま結局戻ってきた、という不可解ないざこざとして描かれているそうです。
読了10時間超えの分厚さと、リアルな場所の大切さ
この本は非常に長く、しぶちょーでも読み切るのに8時間ほどかかったといいます。400ページ以上あり、普通の人なら10時間以上かかるだろうという分量です。
冬休みに一日2時間ほど読めば読み切れる目安だといいます。しかも半分以上はAIの話ではなく、サム・アルトマンの親の話やベンチャー失敗の話が占め、ChatGPTという単語は後半3割ほどでやっと出てくる構成です。
読んで得られるものとして、しぶちょーはシリコンバレーの「キラキラ感」に触れます。毎日ギラギラした人がいる雰囲気が本から伝わり、日本がこうした場所に勝てない理由もなんとなくわかる、と語ります。
やっぱそういう人が集まる場所って大事なんだなって思った。ちょっと行ったらあの起業家がいてみたいな、そういうリアルの場所ってやっぱ大事だなって。
日本にも同様の試みはあるといいます。しぶちょーは、愛知にあるStationAIを例に挙げ、そこの「AI」はいわゆるAIではなく愛知の「愛」だと補足しつつ、ベンチャーを志す人が集まる場所として紹介します。
かねりんが「打ちひしがれそう」と漏らす一方で、しぶちょーは「俺はやる気が出た」と話します。ジョブズやマスクを「やべえ奴」と感じたのに対し、サム・アルトマンは基本的に争いを好まない、いい人という印象だったといいます。
2冊目『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』:人間らしさを考えたい人へ
2冊目はエンターテインメント寄りの1冊、SF小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』です。フィリップ・K・ディック ── 現実と虚構、人間と非人間の境界を描き続けたSF作家。AI時代の倫理や哲学の文脈でもしばしば参照されますによる作品で、映画『ブレードランナー』の原作でもあります。
しぶちょーがこの本を勧める背景には、「生成AI関連で活躍している人はSFに影響されている」という見立てがあります。サム・アルトマンもSFに影響を受けており、日本でAI分野で活躍する人にもSF小説から入った人が多いといいます。
ちょっと先の未来じゃなくて、すごい先の未来を見てる人とか、見通せる人とか想像できる人がやっぱ強いのよね。
物語の舞台は、人間の多くが火星に移住した世界です。人間の姿をして生活するAI搭載のアンドロイドがいて、それを始末する「アンドロイドハンター」の主人公が、アンドロイドを見分けて倒していく筋書きです。
この作品のテーマは「人とアンドロイドの境界線は何か」です。アンドロイドはほぼ人間と変わらず、わずかに人間の倫理観を理解していない部分がある。そこを手がかりに判別していく過程で、人間とは何かが問われます。
しぶちょーが驚いたのは、古いSFが、意識とは何か、人間とは何かという現在にも通じる問いを扱っている点です。編集補足:原著は1968年の作品です。番組で挙がった1977年は、早川書房のハヤカワ文庫SF版の刊行年にあたります。
なぜAI開発者はSFに魅了されるのか
しぶちょーは、SFがAI開発と結びつく理由をバックキャスティングという考え方で説明します。未来の姿を先に想像し、そこから逆算して今の行動を決める発想です。
これを物語として行う手法がSFプロトタイピング ── SF的な物語で未来の使われ方を具体化し、技術・制度・倫理の論点を先に洗い出す手法。新技術の社会実装で起こりうる摩擦を試作として物語化して検討しますです。技術の進展が読めないからこそ、先の未来をSFのように想像し、自分たちの行動に落とし込むという考え方だといいます。
この発想はビジネスの現場でも注目されています。SF小説家をブレインストーミングの場に呼び、その成果物としてSF小説を書いてもらい、そこから企業の未来像や必要なアクションを決めていく取り組みもあるそうです。
(このジャンルの)SF映画を俺はよく見るんだけども。『インセプション』とかね。やばいですから。
話はSFと哲学が「スキルになる時代」へと広がります。技術屋ではなく、思想家や想像できる人がAI時代に活躍するとしぶちょーは指摘します。
その象徴が、哲学専攻の学生がAI界隈で採用されているという話です。かつて哲学や数学の専攻は就職先が限られていましたが、論理的思考や思想で物事を考えられる人が生成AI時代に必要とされているといいます。
安全に関する倫理とか、今後どういうふうにAIを人類と共生させるかみたいなところって、やっぱ哲学的になってくるのね。
知能とは何か、人間らしさとは何かという問いは、必ず思想の領域に入っていきます。だからこそ、哲学を理解した人が思想を持って開発現場をリードすることが求められているとしぶちょーは話します。
3冊目『#100日チャレンジ』:AIで何かを作り始めたい人へ
3冊目は『#100日チャレンジ 毎日連続100本アプリを作ったら人生が変わった』です。今年出て流行った本で、著者は大塚あみ ── 『#100日チャレンジ』で知られる作家・アプリ開発者。生成AIを活用しながら100日連続でアプリを作って公開する取り組みを行い、書籍化しましたさんです。
話は、理系ではない女子大生が「授業をサボりたい」という一心でChatGPTを使い始めるところから始まります。最初は簡単なオセロのアプリを作り、そこから100日連続でアプリを作ってSNSに投稿するチャレンジへと発展していく、ドキュメンタリー的な内容です。
この本の面白さは、生成AIが万能ではないと気づいていく過程にあります。「何でもできるぜ」と始めたものの、知識が要ると気づいてプログラムを勉強し、物理学まで学び直していく展開だといいます。
よく言うじゃん、そのバイブコーディング、やっぱ中身知らないといかんよねみたいな。まさにそれを100日間のチャレンジの中で体現していくみたいな。
しぶちょーはこの本で一番好きなフレーズとして、生成AIは使い手以上の能力のことはできない、という一節を挙げます。作れる風には見えても、選ぶのは自分であり、結局は自分を高めていくしかないという気づきです。
しぶちょーは最近、著者の大塚あみさんの講演をStationAIで聞いてきたといいます。今は独立して自分の会社を経営し、AIの指示だけで100万円を稼ぐチャレンジなど、100にちなんだ取り組みを続けているそうです。
関連して、AIが生成したポッドキャストが増えたものの「面白くない」という話にもなります。しぶちょーはポッドキャストの原稿をAIで作るチャレンジもしているが、100%にはならず、人の手は必要だと語ります。
本を読んだ先の実践が気になる方は、同じ二人が「Manusで番組公式Webサイトを作成」を相談する回へ。AIに何を任せ、どんなサイトを作るか、具体的なアイデアを話し合っています。
4冊目『その仕事、AIエージェントがやっておきました。』:概念を学びたい人へ
4冊目は『その仕事、AIエージェントがやっておきました。』です。技術のお勉強本ですが、エンジニアでなくても読める粒度だといいます。
この本を勧める理由は、AIエージェント ── 目的を与えると、計画・実行・結果の確認までを自律的に回すAIの概念。ツール操作や複数ステップの作業をまとめて任せられる実務寄りのAIとして注目されていますという概念が今年よく語られたからです。しぶちょーは今年を「AIエージェント元年」と呼んでもいいほど流行したと話します。
しぶちょーは、AIエージェントの特徴を「自律的に動く」ことと説明します。逐一の操作を人が指示するのではなく、与えられた目的に向けて処理を進めるイメージです。さらに複数のエージェントが役割分担し、仕事を割り振るAIと実行するAIが組織のように連携する未来も紹介されています。
こちらの指示(インプット)を受けて応答する
与えられた目的に向け、逐一の操作指示なしに処理を進める
本書は2023年12月刊行で、配信時点では約2年前の本です。しぶちょーは、個別サービスの情報には古さがある一方、エージェントの考え方を理解するのに向いていると紹介します。最新ツールの操作手順を探す本というより、概念をつかむための読書として位置づけています。
来年も多分エージェントの話はすごく出てくると思うんで。今後いろいろな使われ方をするし、より使いやすくなってくるとは思う。
5冊目『ゼロから作るDeep Learning』:実装して仕組みを理解したい人へ
最後の5冊目は、ディープラーニングを実装しながら学ぶ『ゼロから作るDeep Learning』です。魚の表紙で知られるオライリーの本で、しぶちょーが「経典」と表現するほど重視している一冊です。ほかの4冊とは異なり、プログラミングに踏み込んで仕組みを学びたい人に向けた紹介です。
この本の特徴は、便利なライブラリを使わずに、ディープラーニングを全編自分で記述して実装する点です。しぶちょー自身も2周したといいます。
AIを理解せずにAIを構築することが全然できてしまうのよ。(それが)ライブラリっていうものがあってさ。
ライブラリを使えばAIはブラックボックスのまま構築できてしまいます。しかし本質を理解するために、その中身を一から自分で作っていこう、というのがこの本の狙いです。性能の高いものは作れませんが、仕組みや計算の流れが手を通してわかるといいます。
しぶちょーは、この本はエンジニア以外には厳しいと率直に話します。それでも、AIをちゃんと実装したい人にとっては第一歩であり、まとまった時間が取れる冬休みにこそ挑む価値があると勧めます。
想定かねりんと、この一年の振り返り
紹介を終え、話は今年の振り返りに移ります。かねりんは、AIのキャッチアップを一度諦めた人間だと明かしつつ、毎週の収録で強制的にキャッチアップができ、しぶちょーの思想も同時に浴びられるのがよかったと話します。
しぶちょーも、かねりんに毎週説明するためにキャッチアップや勉強をし直すのが自分にとって学びになっていると語ります。まとめ直す過程で知らなかったことに気づくこともあるといいます。
ここで明かされたのが「想定かねりん」の存在です。しぶちょーは、頭の中とAIの中にかねりんを想定し、原稿に対してその想定かねりんに質問を投げかけさせ、足りない説明や聞かれそうな点を補っているといいます。
想定されたくないね。
想定されたくないんだったら、ちょっともう奇をてらった質問どんどんしていかないといけない。
かねりんのポエム:AIは君を伝説にしてくれない
話は、かねりんがXに投稿したという言葉へと展開します。生成AIは君を金持ちにはしてくれるが、伝説にはしてくれない、世にない外れ値に行きたいならChatGPTを今すぐ閉じろ、という趣旨の一文です。
かねりんの実感は、AIに質問すると「失敗しない方法」ばかりを導いてくる、という点にあります。確率の高い選択肢を示し、避けるべきものを教えてくれる。それを参考に動く限り、外れ値には飛べないという危機感です。
問題は「最終決定は自分だから、前段階はAIにふるいさせればいい」という考えにもあるといいます。AIが出した選択肢から選ぶ時点で、すでに外れ値は捨てられているからです。
行きたい場所を先に決め、そこへの道筋を聞く
判断ごと委ね、あらゆる可能性を摘んでしまう
しぶちょーは、これはSFの話につながると受けます。未来を見るのは人間の役目であり、こういう未来がいい、こうなったら面白いと自分で想像することが起点になる、という整理です。
二人が行き着いた来年の抱負は「人間であれ」でした。効率に飲まれてAIで効率化した結果、身の回りがAIだらけになれば、それはもう人間ではない、という危機感が背景にあります。
クリスマスと「失敗しない」ことへの警鐘
配信がクリスマスの翌日になることから、話はデートやプレゼントへと及びます。かねりんは、クリスマスのデートプランやプレゼントをAIに聞くようでは終わっている、と強い調子で語ります。
クリスマスの作戦をAIに聞いてるようじゃ終わりです。
かねりんの主張は、こけないデートプランをAIがいくら立てても、そこに愛はない、という一点にあります。しぶちょーも「そこに愛はあるんか」と受け、AIはあっても愛はないかもしれないと応じます。
そのうえでかねりんは、感動が生まれる仕組みを語ります。ほぼ無理だと思っていたところに奇跡が起きるからこそ感動するのであり、AIの指示通りに動いてうまくいっても「AIの指示通りだったな」で終わってしまう、と説明します。
しぶちょーは、この姿勢をサム・アルトマンと重ねます。1%でも可能性があればいけると考える楽観主義であり、AIに聞いていたらあんなものは作れなかっただろう、という締めくくりです。
未来は自分で想像するの。こういう未来がいいなって、こういうことが起こったら面白いなっていうのは、やっぱ頭の中で自分で想像して。
まとめ
冬休みに読みたいAI関連の5冊を軸に、サム・アルトマンの人物像やSF・哲学の重要性、AIエージェントの概念までを幅広く紹介した回でした。話は最後に「効率化に飲まれず、外れ値に飛べる人間であれ」というメッセージへと着地しています。
- 1冊目『サム・アルトマン』は、OpenAIやAI界隈の成り立ちを一人の人生から追える一冊
- 2冊目『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』など、SFや哲学がAI時代のスキルになりつつある
- 3冊目『#100日チャレンジ』は、生成AIは使い手以上のことはできないという気づきを描く
- 4冊目『その仕事、AIエージェントが〜』と5冊目「お魚本」で、概念と本質を予習・深掘りできる
- AIは失敗しない道を示すが、外れ値や感動に飛び込むのは人間の役目という結論に至った





