フェンダー3割、ギブソン2割。エレキギター市場の勢力図
伊東宏之さんは、ウェブディレクションと音源制作を手がけるシララ株式会社の代表として、番組の初回に自身が大好きなエレキギターのブランドビジネスを取り上げました。最初に示したのは、ブランドごとの売上シェアです。
伊東さんが複数のデータを当たった結果、エレキギターのブランドシェアは1位がFender、2位がGibson、3位がPaul Reed Smithでした。長年ギターに触れてきた伊東さん自身の感覚とも合っているといいます。
4位には日本のブランドIbanezが入っています。Ibanezは星野楽器 ── 名古屋に本社を置く楽器メーカー。自社ブランドIbanezのギターやベースを世界で展開していますが作るブランドで、伊東さんは品質の良さから「日本が誇るギターブランド」だと評価しています。
(Ibanezは)品質が良くて、やっぱりお世辞抜きで日本が誇るギターブランドだなと思います。
シェアの内訳は、海外のマーケティングサービスGitNuxによればFenderが30%、Gibsonが18%、Paul Reed Smithが9%、Ibanezが8%です。伊東さんは「Fender3割、Gibson2割、Paul Reed Smith1割」と覚えやすくまとめています。
各ブランドは価格帯の作り方にもはっきりした違いがあります。伊東さんの説明を整理すると、次のようになります。
| ブランド | シェア | 価格帯の特徴 |
|---|---|---|
| Fender | 30% | 2万円のエントリーから100万円級のカスタムショップまでフルラインナップ。ボリュームゾーンは8万〜20万円台 |
| Gibson | 18% | 数万円のモデルもあるが、15万〜30万円弱に山がある |
| Paul Reed Smith | 9% | 50万〜100万円級の高級路線が基本で、後から10万円クラスのStudentモデルを投入 |
伊東さんは、上から下まで揃えるFenderのフルラインナップを、自動車メーカーでいえばトヨタやフォルクスワーゲンに近いと例えています。
職人のギブソン、工業製品のフェンダー。そして業界を襲った逆境
FenderとGibsonは、そもそもの成り立ちから違います。伊東さんによれば、Gibsonは職人気質な作り方をしていたのに対し、Fenderは工業製品としてエレキギターを作るスタンスで市場に参入しました。
違いがわかりやすいのが、ギターの首にあたるネックの取り付け方です。
接着剤でがっちり固める。凝固に時間がかかる
ボルトとプレートで一瞬で取り付ける
ただし伊東さんは、Fenderの方式だから音が悪いわけでは全くなく、それぞれに良さがあるのが楽器の面白さだと話しています。
一方、ギター業界を取り巻く環境はここ十数年ほど過酷だったといいます。実際にGibsonは2018年に経営破綻し、再建中です。伊東さんは、その要因を2つ挙げています。
1つ目は音楽シーンの変化です。70〜80年代に比べてロックバンドが減り、R&BやHIPHOP、ダンスミュージックが台頭したことで、憧れの対象となるギターヒーローも減りました。
2つ目は木材の枯渇です。森林伐採により昔使われていた材が条約で入手できなくなり、各メーカーは過去のストックに頼るしかなく、良い材を使ったギターは極端に価格が高騰する場合があります。
ロックバンドの減少
ギターヒーローが減り、憧れて始める人が減る
木材の枯渇
希少材が入手困難になり、価格が高騰する
成長の鈍化
業界全体の伸びが止まる
コロナ禍
コンサートが消え、ギターに触れる機会もなくなる
コロナ禍でむしろ急成長。フェンダーの売上はどう伸びた?
コロナ禍はギター業界にとって大きなピンチに見えました。ところが王者Fenderは、この時期に業績を大きく伸ばしています。ステイホームの時間に、ギターを始める人が増えたためです。
コロナのステイホームの時間に結局ギターを始める人が増えたと。これはですね、誰も予想できなかったユーザー行動ですよね。
Forbesによれば、2015年に4億ドルだったFenderの売上は、パンデミックの間に年30%台で成長しました。伊東さんがBusiness Insiderや日経ビジネスで確認した数字は次のとおりです。
この成長を後押ししたのが、Fenderのマーケティング手法です。2015年に社長となったアンディ・ムーニーアンディ・ムーニーさんは、ナイキやディズニー関連でブランドマーケティングを手がけてきた生粋のマーケターで、もともとはスタジオミュージシャンでもあったといいます。
伊東さんはこの経歴を「ラノベの主人公か異世界転生ものかと思うほど」と笑いながら、かっこいいと評しています。
「9割が1年でやめる」をどう覆した?Fender Playとブランドの工夫
アンディ・ムーニーさんが社長に就いた2015年頃、Fenderは衝撃的なデータを得ていました。ギターを買った人の90%が、1年以内にギターをやめてしまうというものです。
逆に1年を突破した10%の人は、生涯で10〜12本のギターを買うライフタイムバリュー ── 顧客が取引を始めてから終えるまでの間に、企業にもたらす利益の合計。LTVとも呼ばれますの高いユーザーになります。9割が安いエントリーモデルを買ってやめてしまう状態では、商売になりにくいわけです。
(ギターを)長く続いている方はですね、1割ぐらいかなという感じがします。僕のご提案がね、あまり良くない可能性もあるので何とも言えないんですけども。
伊東さん自身も、ギターを始めたい人の相談に乗る中で、このデータは肌感としてよくわかるといいます。
そこでFenderは、1年以内にやめないようにするためにオンライン学習システム「Fender Play」の提供を始めました。購入したギターのボディにQRコードが貼ってあり、そこから入れる仕組みです。
購入
ギターのボディに貼られたQRコードからアクセス
無料で開始
最初は無料で学習を始められる
有料会員
月10ドルのサブスクリプションで学び続ける
継続
1年の壁を越え、ギターを買い続けるユーザーになる
朝日新聞の記事によると、Fender Playはすでに世界で25万人が有料会員です。伊東さんの計算では月250万ドル、つまり月3億円ほどの売上になり、それ自体にもインパクトがあります。
もう1つ伊東さんが注目したのが、コロナ禍にはアコースティックギターから始める人が多かったらしい点です。Fenderは低価格帯のアコースティックギターを用意していたため、売れやすかったのかもしれないと伊東さんは見ています。
Gibsonは低価格帯のアコースティックギターを廉価版ブランドの「エピフォン」で展開しています。Fenderにも廉価版ブランドSquierがありますが、アコースティックギターはSquierではなくFenderブランドとして売っています。
今からギターを始めるという方は、スクワイアは知らないけどフェンダーなら知ってるよっていう可能性も高いわけで、さらにいかにも廉価版を買わされてるという気にはならないと。
伊東さんは、これがFenderのマーケティング上の計算だとすれば上手だと、ユーザー目線で感じたと話しています。
スモールビジネスに生かせる教訓と、ギター教室ポータルという隙間
売上1000億円クラスの世界的企業の話を、小さな会社にどう生かすか。伊東さんの答えははっきりしていて、Fenderはモノではなくコトを売ったというものです。
伊東さんによれば、ユーザーはギターという物体ではなく、楽器を弾いて習得していく経験を買っています。その経験をFender Playが支えている状態です。経験を売るという考え方は、スモールビジネスにも共通する普遍的なポイントだと伊東さんは考えています。
さらに余談として、伊東さんは日本の個人事業主や小さな会社でも切り込めそうな領域を挙げました。ギター初心者は増えますが、必ずどこかで行き詰まります。そしてFender Playは現段階では日本語に対応していません。
そうなると、対面やZoomでマンツーマンで教えてくれるギターの先生に出会いたいというニーズが生まれる、と伊東さんは見ています。
いま地域名とギター教室で検索すると、ヤマハのような大手教室か、プロギタリストが自分のサイトで集客しているケースが中心です。先行するポータルサイトもいくつかありますが、自動生成されたようなコンテンツが多く、講師やレビューが実在するのか疑わしいものしか見つからなかったといいます。
ここ(ギター教室のポータル)に関してどなたかが手をかけてしっかりしたものを作っていけば、需要はあるかもしれませんよね。
伊東さんは、どこまでビジネスになるかはわからないとしつつ、まだ未整備な領域としてこのトピックを挙げて回を締めくくりました。
まとめ
逆風が続いたエレキギター市場で、Fenderは初心者の「9割が1年でやめる」という課題に向き合い、学習体験ごと売ることで成長しました。伊東さんはそこに、規模を問わず通じる「コト売り」の教訓を見ています。
- エレキギターの売上シェアはFender30%、Gibson18%、Paul Reed Smith9%、Ibanez8%
- ロックバンドの減少や木材の枯渇で業界は苦境にあり、Gibsonは2018年に経営破綻した
- Fenderはコロナ禍に売上を伸ばし、2021年には10億ドルに達した
- Fender Playで継続率を高め、アコースティックはFenderブランドで売るなど初心者目線の工夫がある
- スモールビジネスへの教訓はモノではなく経験を売ること。日本語のギター教室ポータルには余地があるかもしれない






