喪主に近い立場で二度、葬儀を依頼して
伊東さんは最近、喪主ではないものの、それに近い立場で葬儀を行う経験が立て続けにあったと話します。
別々の葬儀会社に二回依頼する機会があり、そこで普段のビジネスとは違う商習慣や文化を感じたといいます。
今回はあくまで経済的な側面だけに絞るため、あえて「受発注」という言葉で表現していきます。
最初に断りとして、それが良い悪いという話ではなく、単に差分を感じたという趣旨だと強調されています。
なるほど、そっちの業界はそうなのかと思ったということですね。
一方で、この経験からスモールビジネスを自分がやっていく上で気をつけるべき点も見えたといいます。
葬儀は最も時間がタイトな商取引
葬儀会社との取引の特徴として、冠婚葬祭の中でも葬儀は最も時間がタイトだと指摘します。
結婚式は精神的に余裕がある状態ですが、葬儀はその真逆だといいます。
全く精神的リソースがない中で、次々と示される選択肢を即断即決していかなきゃいけない。
そのため、比較検討の相見積もりのようなことがしづらい微妙な局面でもあります。
長期療養で余命が分かっている場合は事前に比較することもあり得ますが、伊東さんの直近二回はそうではありませんでした。
なんとか事前に葬儀会社のリストアップこそ完了していたものの、葬儀会社側に事前相談はしておらず、見取りをした後で初めて連絡を取る形だったといいます。
終わってみて気づいたのは、葬儀は最初に電話をかけた会社でやることに、ほぼ自動的に決まってしまうという点でした。
ドライアイスが「発注」になっていた
事前にリストアップしていた葬儀会社の一つに電話をかけたところ、こう言われたといいます。
ご遺体の傷みが心配なので、まずはとにかくドライアイスをお持ちさせてください。
こちらは「そういうものか」と受け入れ、依頼しました。
ところがドライアイスが届くと、火葬場の予約や具体的なプランの話へどんどん進んでいったといいます。
さすがに途中で「ちょっと待ってください」と伝え、まだ正式な発注をしていないのに具体的な話になっていると申し出ました。
すると葬儀会社の言い分は、次のようなものでした。
ドライアイスを持ってきた時点で、葬儀のご依頼ということにさせていただいています。
これは普段接しているビジネス上の一般常識とは少し違うのではないか、と伊東さんは感じます。
通常の仕事の依頼としては「そんなの成立しないのでは?」と返し、ドライアイス代を払って他社と比較検討したいと言うかもしれません。
しかし三、四日の間に火葬場を押さえ、各方面に知らせ、葬儀まで終えなければならないタイムラインでした。
さらに自分だけでなく周囲の人間も心身が疲労し混乱している中で、仕切り直すのはリスクがあると判断し、結局その会社に依頼したといいます。
後出しをしない、という原則
このやりとりから、伊東さんは自分がビジネスをする上でも気をつけるべき原則があると考えます。それはとてもシンプルなことでした。
電話を受けた最初の時点で、一言こう伝えておけばよかったのではと指摘します。
「ドライアイスをお持ちしたなら、そのまま弊社で葬儀まで基本的にお任せいただく流れとなりますが、よろしいでしょうか。」
そう言われて断る可能性自体、そもそも高くはないだろうといいます。
受発注のボーダーラインを最初に明確にしておくことは、むしろ後で相手に不安を抱かせないために必要な振る舞いだと改めて感じたそうです。
巧みなオプション設計と行動経済学
続いて伊東さんが気づいたのが、オプションの巧みさです。悪い意味ではなく、上手だと感じたといいます。
葬儀の祭壇に用意するものは、多くが左右で対になっています。
たとえばお花を一つ三万円で選ぶと、対になるため自動的に二つ置く必要が出て、結果的に金額が倍になる仕組みです。
値段設定もうまく、オプションの中で価格帯を三つほど用意し、真ん中を心理的に選びやすくしているように見えたといいます。
一番安いものを起点に、たとえば40パーセント金額を増やせば内容は倍ほど豪華になる、といった見せ方です。
わざと相対的に魅力の低い選択肢を混ぜておく手法だろうと分析しています。
こうした仕掛けのあるパンフレットの中で、即決を迫られていくことになります。
ここで伊東さんはデータを紹介します。
基本プランのおよそ倍の金額に最終的に膨らみやすい、ということかもしれないと伊東さんは述べます。
一方で、葬儀会館という不動産の建設・維持コストもかかるため、利益率はあまり高くないのではと考えます。
調べてみると営業利益率の平均は3.5パーセントという情報もネット上に出てきたため、そこまで儲かるものでもないのかもしれないと話しています。
葬儀後まで続くワンストップの出口戦略
伊東さんが今回分かったもう一つの点は、葬儀が終わった後も重要なマーケットだということです。
まずお香典返しの手配があります。葬儀後もお香典が多く届くため、その返礼が必要になります。
さらにお墓や仏壇といった高額な品もあります。
相続の困り事、遺品整理、遺族向けの高齢者リフォーム、老人ホームの手配まで、葬儀会社や関連会社にワンストップで依頼できる仕組みになっているといいます。
商売として、その出口までちゃんと押さえておくという王道をやっているなというふうに思って参考になりました。
これらすべてを直接手掛けるわけではなく、提携先があって手数料を取るモデルだろうと見ています。
余談として、以前、高額な仏壇を扱う仏具屋に取材した際のセールストークが紹介されます。
「奥様への最後のプレゼントとして最高のお仏壇を」
「最後のプレゼント」と言われれば、財布の紐が緩むどころかなくなってしまいそうだと、その巧みさに触れています。
まとめ
喪主に近い立場で二度葬儀を依頼した経験から、伊東さんは葬儀業界特有の商習慣とビジネスモデルを、良し悪しではなく差分として読み解きました。時間的にも精神的にも余裕のない状況での商取引だからこそ、受発注の境界の明示や巧みなオプション設計が際立って見えたといいます。
- 葬儀は精神的余裕のない中で即断即決を迫られ、最初に電話した会社にほぼ決まってしまう
- ドライアイス搬入が「発注」扱いだった経験から、受発注のボーダーラインを最初に明確にする大切さを学んだ
- 対になる祭壇や三段階の価格設計など、行動経済学の相対性を利用したオプション設計が巧みだった
- 葬儀費用の平均は110.7万円で基本プランの倍ほどに膨らみやすい一方、営業利益率の平均は3.5パーセントという情報もある
- 香典返し、仏壇、相続、遺品整理、リフォーム、老人ホームまでワンストップで押さえる出口戦略がある




