なぜ、こんなに幅広い領域に関わるのか
この回は、Scaleup Solutionsが財務やCFO機能の支援から新規事業開発、ミッション・ビジョンの言語化までなぜ幅広く関わるのか、という田中さんの疑問から始まります。
杉山さんは、起業当初の出発点をこう振り返ります。東京の会社で当たり前のことを地方に持ち込めば、地方の成長につながるのではないか、という仮説からのスタートでした。
東京で当たり前に行われていることを持ち込むことで、地方にとっては新しい視点を持ち込めるところがあるんじゃないか。それがスタートだったんです
最初は財務やCFO機能CFO ── Chief Financial Officer。最高財務責任者。企業のお金まわりの戦略や管理を統括する役職です。といった、お金の面を中心とした企業の成長支援が中心だったといいます。
新規事業の相談が、ミッションの話に戻っていく
財務支援からクライアントと話す中で、実際によく出てくるのが新規事業開発の相談だったと杉山さんは話します。
熊本で誰もが知る歴史のある会社でも、本業だけで今後もやっていけるのかという不安から、新しいことを考えたいという相談が来るのだといいます。
ただ、新規事業はすぐには儲かりません。杉山さんは、ベンチャーでよく言われるJカーブJカーブ ── 事業の立ち上げ期に一度赤字が深まり、その後に業績が伸びていく様子を、アルファベットのJの字にたとえた言葉です。を例に、先行投資として一度は赤字を掘る覚悟が要ると説明します。
安定した会社ほど、この赤字への抵抗は大きくなります。今しっかり稼いでいる役員からすれば、なぜよくわからないところに金を使うのか、という反応になりかねません。
今はいいけど、これが本当に向こう30年続きますかと考えた時に、本業が良いうちに新しいところに手を打たなきゃいけない
新規事業をどう位置づけるのか。杉山さんは、その問いに答えるには会社の存在意義まで立ち戻る必要があると言います。
この会社って何のためにあるんですか、10年後どんな会社でありたいか。その大本のところに遡らないと、新規事業をどう位置づけるかが定義できない
つまり、新規事業開発の相談が、会社のミッション・ビジョン・バリューミッション・ビジョン・バリュー ── 会社の存在意義(ミッション)、目指す将来像(ビジョン)、大切にする価値観(バリュー)をまとめた経営の指針です。の言語化へと戻っていく。そこから中期経営計画づくりまで広がっていくといいます。
社員のエンゲージメントは、行き先が見えるかで決まる
行き先が見えないと困るのは経営層だけではありません。現場の社員も、自分がどこに向かえばいいのかわからなくなります。
杉山さんは、近年よく語られるエンゲージメントエンゲージメント ── ここでは社員が会社や仕事に前向きに関わり、意欲を持って働いている状態を指します。も、この「行き先が見えるか」と結びついていると話します。
毎日自分が頑張っている業務がどこにつながっていくのか。それがないと、なかなか気持ちも上がっていかない
バラバラに見える支援領域が、実は会社の成長という一本の線でつながっている。第三者かつ東京や海外も見てきた立場だからこそ、その重要性を伝えられるという流れが見えてきます。
地域に足りないのは「もう少しポンポン進む」速さ
話題は、では今の地域に足りないものは何か、へ移ります。杉山さんが挙げたのは、物事が進むペースでした。
もうちょっとポンポン進んだらいいのにな、と思うことはありますね。そのペースというか
ただし、東京や海外の超高速がいつも幸せとは限らない、とも付け加えます。100メートル走をずっと続けるようなスピードは、働く人にとってつらいという話です。
一般論として、地方は意思決定意思決定 ── ここでは物事を決めて次に進めること。ディシジョンメイキングとも呼ばれています。が速くないと言われるし、自分でもそう感じることがある、と杉山さんは認めます。
その理由の一つが人の少なさです。地方では一人がたくさんの役割を抱えるため、一つのことだけに集中しにくい。ネクストステップの時間軸も「夏休み明けたら」「涼しくなったら」と曖昧になりがちだといいます。
大企業も速くない ― 判子のスタンプラリー
一方で、大企業なら速いのかというと、そうとも限りません。専門分化して部署が多い分、関わるステークホルダーステークホルダー ── 企業活動に関係する利害関係者。ここでは他部署や広報など、承認に関わる社内の関係者を指しています。も増えます。
中身は実質決まっていても、隣の部署や広報のOKが必要で、外に出すまでに時間がかかる。杉山さんはこれを「判子のスタンプラリー」と表現します。
私が社会人なりたての頃は、本当に物理的に判子のスタンプラリーで。判子を持って偉い人を順番に回るわけです
職位の下の役員から順に押すルールで、秘書室に断られながら調整する。そのスタンプラリーの調整だけで3日かかったこともあったと振り返ります。
電子化された今も、多くの人からOKをもらう構図は残っている。ここに、地方の会社が持つ強みが浮かび上がります。
決裁権者が近いという、地方最大の武器
地方の部長は、東京と同じ肩書きでもサポートが少なく、やることは多い。しかし逆に、その人が決められたり、社長やオーナーが近くにいてすぐ決まったりする、と杉山さんは言います。
自社を例に、意思決定の速さを語ります。
私と会計士がこれで行こうねと言えば、それで終わり。メッセンジャーでOKとか、サムズアップのスタンプがやってきて、それですぐ終わるんです
このアジャイルアジャイル ── もともとはソフトウェア開発の手法で、小さく素早く試しながら進めるやり方。ここでは機敏で素早い進め方を指しています。なやり方は、むしろ地方のほうができるのではないか、というのがこの回の核心の一つです。
象徴的なのが、あるグローバル企業の人から言われた言葉でした。地方のスタートアップに期待している、というのです。
地方で、しかも若い会社のほうが、こういうことをやりたいという思想が伝わる人がいれば、あとはバーッとやってくれる。よっぽどアジャイルで期待もできる
大企業に頼むとあれこれで時間がかかる。だからこそ、思想さえ伝われば一気に動く地方の若い会社に期待している、という話です。
杉山さんは、こうした大企業と地方のスタートアップをつなぐ役割こそ、Scaleup Solutionsの仮説だと話します。スピード感を知る立場がクッションとなり、無理のない形でつなぐという発想です。
AIは大企業も地方も「よーいどん」が同じ
もう一つの追い風がAIです。田中さんは、東京の実務力と、人手の少ない地方の差を、AIが埋める可能性があると指摘します。
杉山さんは、市場に本格的に降りてきてまだ1年経つか経たないかという点に注目します。つまり、大企業も地方も同じスタート地点だというわけです。
むしろ地方のほうがレバレッジレバレッジ ── てこの原理のこと。ここでは少ない元手や人手で大きな成果を生み出す効果を指しています。が大きいかもしれない、と杉山さんは言います。DXでは資本のある大企業が専門家と作り込んできたが、AIは一人でも進められるからです。
決裁権者が近い地方なら、いいと言えばすぐ動ける。10年前や20年前よりレバレッジが効く時代になった、という見立てです。
失敗を許容できる仲間と組めるか
ここで杉山さんは、真面目に考えるとしきたりやガバナンスガバナンス ── 企業統治。組織が適切に運営されるよう、意思決定やチェックの仕組みを整えることです。の話になり、なかなか速く進めないという現実にも触れます。
鍵になるのが、方向性の共有です。杉山さんは、以前話したAmazonのワンウェイドア・ツーウェイドアの考え方を引きます。
多少お金を損してもいい、ただしお客様の信頼はダメだ。トライして、ダメならまた次の道を考える。そうしたバリューが共有されていれば、仲間の中でどんどん先に行ける、という話です。
我々は失敗はウェルカムです、早く失敗して次に行こう。そういうバリューが共有されていたら、その仲間の中では先に行ける
だからこそ、失敗を許容できる仲間や信頼関係が重要になります。杉山さんは、目線が合った仲間で進めると速い、と繰り返します。
地方はお互いをよく知り、信頼関係の中で進められる。そこに目を向ければ、いいポイントは多いのではないか、と2人は話しています。
まとめ
財務支援から新規事業、ミッション言語化までが一本につながる理由と、意思決定の速さという地方の強みを語った回でした。AIの登場でスタート地点がそろった今こそ、その速さが武器になるという話です。
- 財務やCFO支援から新規事業、ミッション・ビジョンの言語化までは、会社の成長という一本の線でつながっている
- 大企業は承認の階層が多く、地方は決裁権者が近いため、思想が伝われば一気に動ける
- あるグローバル企業は、アジャイルに動ける地方のスタートアップに期待していると語った
- AIは市場に降りてまだ1年ほどで、大企業も地方も「よーいどん」が同じ。むしろ地方のほうがレバレッジは大きいかもしれない
- 失敗を許容するバリューを共有し、信頼できる仲間と組めるかが、速さを生む鍵になる



