フルマラソン目標のせい?冒頭コントから本題へ
番組冒頭は、ポセイドンさんの語りかけから始まります。以前ラジオ内で立てた目標として、ポセイドンさんがフルマラソンを走ることになり、そこに向けて練習しているという話です。
ところが練習のせいで膝が痛くなってしまい、ポセイドンさんはその原因を、目標を立てようと提案したすばるさんのせいだと言い出します。
こんなか弱い俺に対して目標立てろと発破かけてきて、膝を痛めて、ほんとなんか償(まど)うてくださいって感じです。
この「償うてください」というフレーズは、この後に紹介する物語の核になる言葉です。ポセイドンさんはすぐに、これがコントであることを明かします。
落ち着いてください。皆さんコントです。私こんなやばい奴なんで。安心してください。
ここから本題に入ります。今回はネズミが出てくる物語を紹介する回で、番組内でたまにやってくる神話じゃない回として、宮沢賢治の作品を取り上げます。
すばるさんによると、これは以前の坂口安吾に続く「気ままに賢治」の第2弾という位置づけです。
嫌なやつが痛い目に遭う「ネズミ三部作」
宮沢賢治といえば「銀河鉄道の夜」や「セロ弾きのゴーシュ」「注文の多い料理店」などが有名です。ただ今回は、あえて有名でない作品を取り上げます。
ポセイドンさんは、宮沢賢治には動物が登場する作品が多いという特徴を挙げます。今回紹介するのは、その中でもネズミ三部作 ── 宮沢賢治の作品のうち、ネズミが登場する「ツェネズミ」「クンネズミ」「鳥箱先生とフウネズミ」の3作を指す呼び方ですと呼ばれる作品群です。
この三部作には共通点があります。嫌な性格のネズミなどが登場し、最後に痛い目に遭う、という構造です。
あー、成敗、成敗受ける系。
ただしポセイドンさんは、それを単純に「成敗」と呼んでいいかどうかは、読み手の感じ方によると補足します。今回はまず一作目「ツェネズミ」の話から始まります。
善意のイタチに「償うてください」と迫るツェネズミ
物語の主人公は、古い家の天井裏に住むツェネズミです。冒頭から嫌なやつとして描かれる、とポセイドンさんは前置きして原文を読み上げます。
ある日、イタチがツェネズミに、家の戸棚から金平糖がこぼれているから早く拾いに行くといい、と教えてくれます。善意のアドバイスです。
優しい。
ところがツェネズミは、イタチに礼も言わずに一目散に走っていきます。その途中で足をチクッと刺され、金平糖を運んでいたアリの軍団に「うちに入ってはならん」と追い返されてしまいます。
天井裏に帰ったツェネズミは、だんだん腹が立ってきます。ただし、その怒りの矛先はアリではなくイタチに向かいました。
ツェネズミの理屈では、アリは強くて戦っても勝てないから仕方ない、けれどイタチに教えられて行ってひどい目に遭ったのが気に障る、というものです。
そしてツェネズミはイタチの家に文句を言いに行きます。イタチは金平糖はどうだったかと尋ねますが、ツェネズミの返答は謝罪の要求でした。
イタチさん、お前も随分ひどい人だね。私のような弱い者を騙すなんて。償うてください。
イタチは、金平糖は確かにあったし騙してはいない、行くのが遅かっただけだ、と反論します。それでもツェネズミは「償うてください」を繰り返します。
最後はイタチが、優しさから金平糖をいくつか投げ渡して追い払います。ツェネズミは持てるだけの金平糖を持って帰っていきました。
イタチが助言
戸棚に金平糖があると善意で教える
アリに追い返される
運搬中のアリの軍団に刺されて撤退
怒りをイタチに向ける
勝てないアリではなくイタチに矛先が向く
償うてくださいと迫る
善意のイタチに謝罪と補償を要求する
柱もちりとりも道具の友達すら痛い目に
ツェネズミは誰に対してもこの態度なので、動物の友達がどんどんいなくなっていきます。相手にされなくなった結果、柱やちりとり、バケツといった道具と友達になっていきます。
気のいい柱は、冬になる前に頭の上の羽毛を寝床に使うといい、とツェネズミに教えます。ところが準備の途中でツェネズミは柱から転げ落ち、怪我をしてしまいます。
すばるさんは、このあとの展開をぴたりと予想します。
そんな言い出さへんかったら俺は怪我なんかせえへんかったのに。償うてください、償うてくださいと柱に言うんだろうな。
予想通り、ツェネズミは謝る柱に対して「償うておくれ」を繰り返します。柱がいくら謝っても許しません。
弱い者をいじめる奴は私は嫌いなんだ。償うておくれ、償うておくれ。さあ、償うておくれよ。
柱はどうしようもなく泣いてしまい、それ以来ツェネズミを怖がって口を聞かなくなります。すばるさんは、柱は何も悪いことをしていないと指摘します。
同じことが道具の友達にも繰り返されます。ちりとりがくれた最中を食べてお腹が痛くなれば「償うておくれ」。バケツがくれた洗剤で顔を洗ってヒゲが抜けても「償うてください」。
こうしてツェネズミは、道具の仲間からも口を聞いてもらえなくなっていきました。
天敵ネズミ捕りとの「来てあげましたよ」の関係
そんな中で、ただ一人ツェネズミを嫌っていない存在がいました。それが天敵のはずのネズミ捕りです。
このネズミ捕りは本来は人間の味方ですが、人間からも褒められず、人間側に感情移入していません。むしろ捕まるネズミに同情していて、ネズミと仲良くしたいと思っています。
だからネズミ捕りは、人間が仕掛けた餌を「餌だけあげるよ」とネズミに差し出します。ほかのネズミは警戒して近寄りませんが、友達のいないツェネズミはその情報を知らず、素直に近寄ってきます。
最初のうちは良い関係でした。ネズミ捕りははんぺんをくれ、ツェネズミも礼を言って帰ります。しかし数日経つと、ツェネズミの態度が変わっていきます。
今晩は約束通り来てあげましたよ。
来てあげましたよ。
すばるさんは、この上から目線の物言いにあきれます。何日も通ううちにツェネズミは、腐ったはんぺんを「せいぜい魚の頭、腐ったはんぺん」だと文句を言いながらも「食べてあげる」という態度をとります。
どの口が言っとんね。
すばるさんはこの関係を、ある常連客の姿になぞらえます。
ガールズバーとかの女の子に対しての常連さんの感じが、ネズミ捕りとのやりとりってなんかすごく感じる。来てあげてる。
ポセイドンさんは、この態度をカスハラという言葉で言い表します。
血管切れそうなネズミ捕りとツェネズミの結末
物語は結末を迎えます。腐ったはんぺんに気づいたツェネズミは、ネズミ捕りに対しても例のフレーズを浴びせます。
ネズミ捕りさん、ひどいや、このはんぺんは腐っています。私のような弱いものを騙すなんてあんまりだ。償うてください。
その態度にネズミ捕りはイライラを募らせ、ついに針金がバチンと閉じてしまいます。ツェネズミはそのまま捕まり、入り口に挟まって出られなくなります。
痛いやら苦しいやらで、ツェネズミには「償うてください」と言う余裕もありません。そこへ人間がやってきて、意地の悪そうなネズミだと言いながらツェネズミを捕まえてしまいました。
餌だけくれるネズミ捕りに素直に近寄り、礼を言う良い関係
来てあげた・食べてあげる態度と償う要求で、針金が閉じて捕まる
すばるさんは、この結末に複雑な感想を抱きます。最後に捕まってもスッキリしない、と言うのです。
最後捕まるじゃないですか。でもなんかすっきりせえへんなっていう気持ちもあったりしますよね。
すばるさんは、ツェネズミを徹頭徹尾テイカーで圧倒的他責思考だと評します。読者の心をざわつかせ、イライラさせるネズミだ、という点で二人は一致します。
ツェネズミみたいな人は本当にいる
ポセイドンさんは、この物語を中学生の頃に青空文庫で読み、「償うてください」というフレーズが強烈で記憶に残っていたと明かします。
物語から取り出せる教訓は、こんな風にならないように、というものだ、とポセイドンさんは考えます。誇張されたエピソードを通して、誰にでも少しはあるこうした気持ちを戒める寓話だ、という読み方です。
今回この作品を思い出したのには理由があります。ポセイドンさんは、身の回りにツェネズミそっくりの人物に出会ったと言います。
今日のみんなに伝えたいメッセージとしては、ツェネズミみたいなやつ本当にいるんで気をつけてください。
イタチはフレネミー?視点を変えて読み直す
すばるさんは、イタチの側に立って物語を読み直します。ここで挙げるのがフレネミー ── フレンド(友達)とエネミー(敵)を組み合わせた造語。友達のように見せかけて相手をこき下ろそうとする人を指す言葉として使われますという言葉です。
SNSや作品の中では、フレネミーは悪者として取り上げられがちです。しかしすばるさんは、この物語ではツェネズミの側がフレネミーを作り出しているのではないか、と考えます。
ツェネズミからしたらフレネミーに見える。友達やと思ってたのに、こんな痛い目に遭わせやがって、償うてくださいになる。けど、イタチとかの気持ちはそうじゃないわけや。
すばるさんは、もしツェネズミに交友関係があったら、イタチの悪さを吹聴して回っただろう、とも想像します。善意の相手が、根拠なく悪の元凶に仕立て上げられてしまう構図です。
二人は、どちらの視点から見るか、どちらの話も聞くかが大事だと確認し合います。厄介なのは、ツェネズミ自身が本当にそうだと思い込んでいる点だ、とポセイドンさんは付け加えます。
しかもツェは本当にそうだと思い込んでるから。それで厄介ですよね。
次回予告。嫉妬系のクンネズミへ
最後に次回予告です。ネズミ三部作の残り2作、「クンネズミ」と「鳥箱先生とフウネズミ」を扱っていく予定です。
クンネズミは、ツェネズミとは別種の性格の悪さを持つネズミです。ポセイドンさんによると、こちらは嫉妬系のネズミだといいます。
クンネズミは、誰かが難しい単語を使ったり褒められたりすると、それを遮って妬む、というタイプです。その嫉妬のレベルが振り切れた存在として描かれます。
他責思考。善意の相手に「償うてください」と補償を迫るタイプ
嫉妬系。難しい単語や他人への称賛を遮り、妬み嫉みを募らせるタイプ
三作目の「鳥箱先生とフウネズミ」は少し毛色が違うため、それも合わせて次回紹介される予定です。番組は火曜の朝7時に配信されています。
まとめ
今回は宮沢賢治のネズミ三部作から「ツェネズミ」を紹介し、他責思考やカスハラ的な人物像、そして視点を変えて読み直す面白さについて語り合いました。
- ツェネズミは、善意の相手に「償うてください」と補償を迫り続ける他責思考のネズミとして描かれる
- 動物の友達を失い、柱やちりとりなど道具の友達にも同じ態度をとり、最後はネズミ捕りに捕まる
- すばるさんは、最後に捕まってもスッキリしない、心をざわつかせるネズミだと評した
- イタチの側に立つと、善意なのにフレネミー扱いされる構図が見え、どちらの視点で読むかが重要になる
- 次回はネズミ三部作の残り、嫉妬系のクンネズミと、毛色の違う鳥箱先生とフウネズミを扱う予定






