名義を「本城まなぶ」に統一、ギター・マガジンで連載開始
今回の収録は、いちがみさんと本城まなぶさんにとって今年初めての収録です。前回の共演は、年末に収録して1月8日に公開した万年筆の回だったと振り返っています。
本城さんは今回から、名義を漫画の仕事で使ってきたペンネーム「本城まなぶ」に統一しました。名義を使い分けるのが大変になったため、ひとつにまとめることにしたそうです。
漫画関係の仕事では本城(の名義)でやってたんですけど、こう分けるのがもう大変で。
本城さんの近況として、音楽誌『ギター・マガジン』10月号から漫画連載が始まりました。表紙は高中正義 ── 日本を代表するギタリストの一人。フュージョンを中心に活動し、長年にわたって人気を集めていますさんで、オレンジがかった黄色が目印だといいます。
なぜギター・マガジンの漫画は裏表紙からめくるのか?
本城さんの連載は、ギター・マガジンの裏表紙側から読み進める独特の構成になっています。いちがみさんが理由を尋ねると、本城さんは雑誌と漫画で開く方向が逆になっているからだと説明しました。
音楽誌は楽譜を載せる必要があり、楽譜は必ず左上から読むものです。そのためギター・マガジンは、日本の一般的な雑誌とは綴じ方向が逆になっています。
音楽の雑誌だから、そうすると楽譜を載せなきゃいけないじゃないですか。
日本の漫画は右上から読むため、左開きの音楽誌にそのまま載せることはできません。本城さんは、逆側から読ませる「裏技」で漫画を掲載しているのだと表現しています。
いちがみさんが手元の本を確かめると、ほとんどがギター・マガジンとは逆向きでした。同じ向きだったのは、業務用の商品カタログくらいだったそうです。
連載第1回に、なぜウェス・モンゴメリーを選んだのか
本城さんの連載は、ジャズギタリストの半生とエピソードを紹介する漫画です。1回は全6ページで、ストーリー漫画が5ページ、おすすめのアルバムや使用機材を紹介するページが1ページという構成になっています。
初回で取り上げたのはウェス・モンゴメリー ── アメリカのジャズギタリスト。1968年に45歳で亡くなりました。ジャズギターを代表する存在として、今も多くのギタリストに影響を与えていますです。いちがみさんが「わからない」と答えると、本城さんはジャズギターをやっている人なら絶対に知っている人物だと驚いていました。
編集者から「初回はお任せします」と言われたとき、本城さんはウェスしかいないと考え、編集者もすぐに了承したそうです。ギター・マガジン2026年1月号の「史上最も偉大なギタリスト100人」でも、ロックが中心のランキングの中で、ジャズギタリストとして最上位だったといいます。
本城さん自身にとっても、ウェスは思い入れのある存在です。20歳ごろにジャズやフュージョンを聴き始めたとき、地元のジャズベーシストにおすすめを尋ねたことがきっかけでした。
(地元の詳しい方に)「ちょっとジャズ聴いてみたいんですけど、おすすめあります?」ってこう聞いたんですよね。そしたら「ウェスって知ってる?」って言われて。
本城さんが初めて買ったジャズギターのCDはウェス・モンゴメリーの作品でした。そうした個人的な体験も、初回にウェスを選んだ理由になっています。
人気者ほど資料が残るジャズギター、マイナーな人物を描く不安
ウェス・モンゴメリーには、多くのギタリストがピックを使うなかで親指で弾いていた、という有名な逸話があります。本城さんは、こうした逸話の多さもウェスの人気につながっていると話します。
いちがみさんは、伝説的な人物であれば参考になる文献も多いのではないかと尋ねました。本城さんによると、ウェスほど人気のある人物には、過去の雑誌記事や家族へのインタビューを収めたドキュメンタリー映像が残っているそうです。
一方で、連載が進むほど、取り上げるギタリストはマイナーな人物になっていきます。本城さん自身は好きでも、一般的にニッチな人物ほど情報は少なくなるため、先行きに不安もあると率直に語っています。
ジャズギターってもうほんとマイナーなんで、この先結構不安はありますよね。
モダンジャズは1940年代に生まれた、意外に新しい音楽
いちがみさんが、1968年に亡くなったウェスは思ったほど昔の人ではないと話すと、本城さんはジャズそのものの歴史が長くないと補足しました。本城さん自身も、詳しく知るまでは誤解していたそうです。
本城さんの説明によると、1930年代のジャズはアメリカのダンスフロアで演奏されるダンス音楽でした。そこでチャーリー・クリスチャン ── エレクトリックギターをソロ楽器として確立したジャズギタリスト。モダンジャズ誕生にも影響を与えた伝説的な存在ですが弾いたギターソロが、それまでとは違う新しさを感じさせるものだったといいます。
その流れをさらに発展させ、現在につながるジャズのスタイルをつくったのが、サックス奏者のチャーリー・パーカー ── ビバップを代表するアルトサックス奏者。即興演奏の語法を大きく変え、モダンジャズの基礎を築いた人物とされていますたちでした。本城さんは、その時期を1940年代前半、1940年から1942年ごろと話しています。
ジャズが即興でソロを競う音楽になると、主役は前に出て吹く管楽器や、ピアノなどのアコースティック楽器に移りました。ギターは後ろで淡々と伴奏する楽器になり、ウェスが現れるまで目立つ存在ではなかったといいます。
本城さんは、今のジャズも高度には発展しているものの、基本的なスタイルはパーカーの時代に完成していたと考えています。だからこそ、パーカーの音源を最初に聴くと新鮮に感じられないことがあるそうです。
この人たちが始めたっていう意味合いをわかってないで聞くと、なんかまあよくあるジャズの音質悪いバージョンっていうだけなんですけど。
濃いエピソードを5ページに削る苦労
本城さんによると、ジャズの世界には天才が多く、どの人物にも描きたくなるほど濃いエピソードがあります。ただ、ギタリストに限ると、エピソードはむしろ少ないくらいだといいます。
本城さんはチャーリー・パーカーが大好きですが、ギター誌の連載で主役にするのは難しいと考えています。そもそもパーカーの人生を5ページで描くのは厳しい、とも話していました。
収録時点で本城さんは第2話を描いていて、エピソードを絞り込む難しさを感じていました。初回のウェス回もかなり削ったうえに情報を詰め込んだため、文字数もコマ数も増えたそうです。
結構僕、過去にこんな文字多い漫画描いたことないっていうぐらい文字多いんですけど。
それでも本城さんにとって、この連載は念願の企画です。ページの制約から見開きは絶対に使えないと話しつつ、「願ったり叶ったり」の仕事だと語っています。
原稿用紙からiPadへ、漫画制作と写植の変化
本城さんは、今回の連載をiPadで描いています。『最強ジャンプ』で連載していたころは、漫画用の原稿用紙にアナログで描き、スキャンしてからデジタルでスクリーントーンなどの仕上げをしていたそうです。
本城さんによると、今の漫画界ではデジタル作画のほうが多数派だといいます。ただ、多くの漫画家はCLIP STUDIO ── セルシスが開発したイラスト・漫画制作ソフト。コマ割りやトーン貼りなど、漫画制作に必要な機能がそろっていますを使っていて、本城さんのようにProcreate ── iPad向けのお絵描きアプリ。直感的に操作でき、イラスト制作で広く使われていますで描く人は少ないかもしれないそうです。
吹き出しの文字入れにも大きな変化がありました。アナログ時代は鉛筆でセリフを書き込み、黒いベタの上に入る文字はトレーシングペーパーに書いて指定していたといいます。
現在の本城さんは、完成した絵をAdobe Illustratorに読み込み、見落としを防ぐために赤い文字でセリフを入れて編集者に送っています。そのデータをもとに、編集者が写植を入れる流れです。
原稿に鉛筆でセリフを書き、ベタの上はトレーシングペーパーで指定する。字の読み間違いもよく起きた
Illustratorで赤字のセリフを入れて送り、編集者がデジタルで写植を入れる。間違いは少ない
(アナログの時は)「これ、これなんて読むんだ?」みたいな。なんかこう意図しない文字が入ったりとかっていうのはよくありました。
音楽と漫画がつながった原点、高校時代のレスポール漫画
本城さんは、絵を描くことと音楽を、ずっと別々に続けてきました。音楽理論を漫画で紹介するような形で2つを混ぜられたらと考えていたところに、今回の連載の依頼が届いたそうです。
いちがみさんは、本城さんがウェブデザインやマーケティングの知識を生かして発信してきたことも、今回の連載につながっていると指摘します。本城さんも「やっとつながった」と応じていました。
本城さんは商業誌でギターを描いたことがありませんでしたが、思った以上に描きやすく感じたそうです。理由を考えると、高校時代にノートへギターの漫画を描いていたことを思い出したといいます。
その漫画は、どうしても欲しかったギブソン ── アメリカの老舗ギターメーカー。エレクトリックギターの名門として知られていますのレスポールを手に入れる話でした。本城さんは、欲しすぎる気持ちを漫画の中で叶えようとしていたと振り返ります。
毎日の楽器屋巡りの末に、修学旅行先の沖縄で出会ったレスポール
本城さんがレスポールを探していたのは、インターネットのない時代です。仙台の高校に通っていた本城さんは、高校2年の秋から2〜3か月ほど、放課後に友人と仙台中の楽器屋を毎日回っていたそうです。
同じギターばかりが並ぶなかでも楽器屋に通い続けたことで、本城さんはレスポールを見る目が肥えていきました。そして修学旅行で訪れた沖縄の国際通りで、偶然入った楽器屋{要確認: タカラレコード}に理想のレスポールがありました。
入ったら、すっごいいいレスポールがあって。うわーってなって。で、そこで買ったんですよね、沖縄で。
価格は19万円ほどで、当時の本城さんにとっては今の100万円くらいに感じる金額でした。それでも迷わず購入を決め、1万円ちょっとを払って売約だけ済ませました。仙台へ戻ったあとに、楽器屋と連絡を取って代金を送ったそうです。
売れないギターと、10年越しに祖母へ返したお金
ギタリストは、カメラと同じように楽器を買っては売り、別のものに買い替えることがよくあります。本城さん自身も何本も買い替えてきましたが、沖縄で買ったレスポールだけはどうしても手放せないといいます。
おばあちゃん、まあお金返したんですけど、なんかおばあちゃんに買ってもらったみたいなイメージが強くて。
本城さんは金欠の時期が長く、祖母への借金を返したのは10年ほど後でした。7万5000円ほどを封筒に入れて返すとき、「いいよ」と断られるかもしれないと少し期待していたそうです。
実際には、祖母は「ありがとう」と言ってそのまま受け取りました。そのあと、廊下で昼寝をしていた本城さんのためにカーテンを開け、日が当たるようにしてくれたといいます。
いちがみさんは、たっぷり溜めて話した割に最後のエピソードが小さいと笑っていました。本城さんも当時は「受け取るんかい」と思ったものの、安いお金ではないと振り返っています。
ギターを弾く人でなければ描けないギターとは?
いちがみさんは、本城さんがギターを弾く人の姿を描けるのは、普段から関連するコンテンツを見ていることに加えて、自分でも演奏しているからではないかと話しました。体の動きや手首のひねり方を、体感として知っているという見方です。
本城さんによると、ギターにはメカに近いところがあります。音を拾うピックアップなど、マニアックなパーツも多いといいます。
ギター弾かない方が描くギターってなんか結構違和感があることが多くて。
演奏経験があり、音楽理論も学び、そのうえで漫画を描ける人は、かなり限られるはずだといちがみさんは話します。本城さんも、ジャズの偉人を扱った小説や読み物は多いものの、漫画はほとんどないと考えています。そのため、今回の連載を面白い試みだと語っていました。
パーカー、パイロット845、モンブラン149、それぞれの書き味
後半は、番組の定番テーマである万年筆の話題に移ります。本城さんがいま最も愛用している万年筆はパーカーですが、チャーリー・パーカーとは関係がないそうです。
前回の出演時に本城さんが一番気に入っていると話していたのは、パイロットのフラッグシップ的なモデル「845」でした。その後、パーカーのデュオフォールド ── パーカーを代表する万年筆シリーズ。1921年に登場し、大ぶりで存在感のある軸が特徴です・センテニアルと、モンブランのマイスターシュテック149が加わったといいます。
本城さんはモンブランについて、多くのメーカーのシルエットの元になっていると感じたそうです。「これがオリジナルか」と思わせる存在だと話しています。
軸の太さについて、手の大きい本城さんでも、149はさすがに太く感じるといいます。デュオフォールド・センテニアルは845とほぼ同じ太さで、太いとは感じないそうです。
| 万年筆 | 本城さんの評価 | 太さの感覚 |
|---|---|---|
| パイロット845 | 前回一番気に入っていたフラッグシップ的モデル | デュオフォールドとほぼ同じ |
| パーカー デュオフォールド・センテニアル | いい意味でチープで、軽く書ける。今一番使う | 太いとは思わない |
| モンブラン マイスターシュテック149 | 各社の万年筆のベースになっていると感じる | 明らかに太い |
本城さんは、パーカーの魅力を「いい意味でチープ」で軽く書けるところにあると表現します。一方で、吸入式のインク補充に慣れてきたころに買ったパーカーはカートリッジ式で、しかもインクがあまり入らないそうです。
この不便さも含めてなんかこう、可愛い。
顔料派から染料派へ、パーカーの英国製を探す物欲
本城さんは以前、顔料インクしか使っていませんでした。前回の出演後、染料インクにも慣れようと試し続けた結果、今はほぼ染料インクだけを使っているそうです。モンブランなどは顔料インクで詰まることがある、という事情もありました。
本城さんのお気に入りは、パイロットの普通のブラックインクです。水に溶かすと、海外メーカーのインクは紫色に広がり、日本メーカーのインクとは色がはっきり分かれるといいます。そのため、ベースの素材が違うのではないかと考えています。
ペリカンとパイロットの黒インクを混ぜてみたい気持ちもあるものの、ドロドロになるのが怖くて、調合は試したことがないそうです。
本城さんの物欲はまだ続いています。パーカーの限定版が欲しいうえに、現在はフランス製のパーカーについて、もともとの英国製を狙っていたといいます。購入当時は中古の出物がなく新品のフランス製を買いましたが、調整師の{要確認: マエストリート}さんに調整してもらい、とても気に入っているそうです。
最後に、いちがみさんは次回の文具回を提案しました。{要確認: 博明}さんがいれば、どんどん質問してくれるだろうと話して収録を締めくくりました。
まとめ
今回の回では、本城まなぶさんが念願だった音楽と漫画の融合を、ギター・マガジンでのジャズギタリスト漫画として実現した経緯が語られました。連載の裏側からジャズの歴史、青春のレスポール、万年筆とインクの好みまで、本城さんの「好き」がひとつにつながっていく様子が伝わる対話でした。
- ギター・マガジンは楽譜を載せるため左開きで、漫画は裏表紙側から読む構成になっている
- 連載初回のウェス・モンゴメリーは、本城さんが初めて買ったジャズギターのCDにつながる人物
- 本城さんは、モダンジャズを1940年代前半にチャーリー・パーカーらがつくった意外に新しい音楽だと説明した
- 祖母に借りたお金で沖縄で買ったレスポールは、今も手放せない1本になっている
- 最近の本城さんは、パーカーのデュオフォールドとパイロットの黒い染料インクを愛用している






