ブドウと猫吸い、最近の「鼻歌」はどこにあった?
ハナウタラジオは、ため息の中にあるポジティブな「鼻歌」をリスナーと一緒に探す番組です。今回の出演者は、トマトをこよなく愛するデザイナーの佐藤たまさんと、ゆうさんの2人です。
冒頭は、最近の小さな幸せを話す時間です。ゆうさんは8月から9月の頭ごろ、自分で買っていないのにブドウが続けて届いた出来事を挙げました。最初に2房が届き、それが無くなりそうなころ、お米の時期にいつもお米を持ってきてくれるおじさんが今度は3房くれたそうです。
あ、ブドウってこんななんか集まってくるんだって思って。自分で買ってないのに。
ゆうさんにとってブドウは、スーパーでは値段が気になってなかなか手が出せない食べ物です。大人になってから贅沢でいい食べ物だと感じるようになり、しばらくウキウキした気持ちで過ごせたと話しています。
たまさんの小さな幸せは、食ではなく2匹の飼い猫です。猫に顔をうずめて匂いを吸い、癒やされる「猫吸い」を日課にしていて、黒猫のクロワは天気によって背中やお腹の匂いが変わるといいます。
なんかポカポカの時は、キャラメルポップコーンの匂いがするんですよ。で、ジメッとしてたりしっとりしてる時は塩味のポップコーンになるっていう。
ゆうさんが「塩の日はやっぱり天気が悪いのか」と尋ねると、たまさんは、雨が続いた時期は塩の匂いが続き、晴れてキャラメルになった日は「よし」という気分になると答えました。天気を予想できるほどではないそうです。
たまさんは最近、不安になることが多いストレスの強い毎日を送っています。そんな中でも、猫を吸って「今日は雨だからこれだな」と感じる時間は、ほっとして気持ちが緩むひとときになっているといいます。
トマトは果物か野菜か、アメリカで裁判になった?
次のコーナーは、番組に寄せられたお便りの紹介です。ゆうさんが、ため息さんから届いた今回のお便りを読み上げました。
トマトってフルーツですか?
ゆうさんは、最近のスーパーには糖度の数字を示した甘いトマトが増えていると感じています。たまさんは、甘みのあるトマトが売れるからだろうと受けたうえで、この質問を「フルーツか野菜か」という問いとして受け止めました。
逆にたまさんはトマトはなんだっていう認識ですか?
え、トマトは野菜ですよ。
たまさんがそこで持ち出したのが、トマト裁判です。1893年ごろのアメリカで、トマトが果物か野菜かをめぐって実際に裁判が起き、ニックス対ヘッテン事件という名前で知られているといいます。たまさんはこの事件を何かで知り、本屋で見つけた絵本を息子さんと一緒に読んでいたそうです。
たまさんの説明によると、当時のアメリカでは野菜には関税 ── 輸入品にかかる税金。国内の産業を守ったり、国の財源にしたりする目的で、品目ごとに税率が決められますがかかり、果物にはかかりませんでした。そこでトマトの輸入業者は、花からできる植物学上の果実なので果物だと主張し、関税を払わずに済ませようとしたといいます。
トマト裁判は最高裁まで争われました。トマトは夕食のおかずとして出され、デザートには出されないという理由で、最終的に「野菜である」という判決が出たとたまさんは紹介しています。日本でも現在、法律上の区分はやはり野菜だそうです。
輸入業者の立場。トマトは花からできる植物学上の果実なので、関税がかからない果物だとした
最高裁の結論。夕食のおかずとして食べ、デザートには出さないので野菜だとした
甘いフルーツトマトは台風被害から生まれた?
話題は「フルーツトマト」に移ります。ゆうさんは、トマトの酸味が苦手な人に向けて甘く作られたもので、糖度が一定以上だとフルーツトマトと認定される、というイメージを持っていました。
たまさんは、フルーツトマトが品種ではなく栽培方法で糖度を上げたトマトだという点は合っていると応じました。そのうえで、自分は生産者ではなく、好きで調べて知識を入れている一般の立場だと断っています。
もしこれ聞いてくださってる方でなんかそれ(トマトの知識)違ってるよみたいなったら逆に教えてほしいです。正しい知識を入れたいので。
たまさんが紹介したフルーツトマトの始まりは、酸味が苦手な人のための工夫ではありませんでした。1970年に高知県で台風被害があり、畑に海水が流れ込んで、土の塩分のせいでトマトが水を吸えなくなったといいます。
高知県の畑のトマトは育たず小ぶりになり、失敗かと思って食べてみたところ、驚くほど甘かったそうです。それがフルーツトマトの始まりで、そこから水分を厳しく制限して糖度を上げる「水分ストレス栽培」につながっていったと、たまさんは話しています。
台風被害
1970年、高知県の畑に海水が流れ込む
水が吸えない
土壌の塩分で、トマトが水分を吸えなくなる
小ぶりで甘い実
失敗かと思って食べると、驚くほど甘かった
水分ストレス栽培
水分を厳しく制限し、意図して糖度を上げる栽培へ
じゃあたまたま生まれたものっていう感じなんですかね。作ろうとして作ったというより。
そうそう、奇跡の発見みたいな感じで言われているようです。
ゆうさんは、フルーツトマトのおかげで「トマトが苦手だったのに意外とおいしい」と感じる人は絶対にいるはずだと話し、たまさんもそれに強くうなずいています。
トマトが苦手になった理由は、田舎の家庭菜園?
たまさんは、トマトについてよく相談を受けるといいます。「トマトと仲良くなりたい」「子どもに食べてほしい」といった相談で、苦手な理由はたいてい酸味、青臭さ、中のジュルッとした食感のどれかだそうです。加熱したトマト料理なら好き、という人も多いといいます。
ゆうさんも、たまさんの挙げた苦手ポイントにまさに当てはまると答えました。そのうえで、なぜトマトが苦手なのかを収録前に振り返り、ルーツは子どものころの食卓にあると気づいたそうです。
ゆうさんの実家は愛媛の田舎にあり、近くのおばあちゃんの家も含め、畑を持つ人が多い地域でした。トマト農家ではなくても夏になればトマトを育て、トマトはたくさん採れたといいます。
(家庭菜園のトマトが)美味しいかどうかと言われたらすごく微妙だったんですけど、その微妙な理由は多分その酸味とかその青臭さとか、完全に熟してないのに収穫しちゃったとか。
私の中でのトマトイメージがそれになっちゃったっていうか。
ゆうさんは、中のジュレのような部分の食感も苦手だとしつつ、決定打があるというより「まだおいしいトマトに出会えていないだけかもしれない」という説もあると話しました。
たまさんも、北海道の富良野の近くで生まれ、家で育てたトマトが食卓に出てくる環境で育ちました。家のトマトは酸味が強く、昔は砂糖をかけて食べていた記憶があるそうです。たまさんは、小さいころのトマトの記憶が大人になっても引き継がれ、「トマトってそういうもの」というイメージが残るのかもしれないと話しています。
フルーツトマトについて聞かれたゆうさんは、自分で買ったことはないものの、レストランのメニューで添えられているものは食べたことがあると答えました。中には「これトマトなんだ」とおいしく感じるものもあり、お店で出るような中身がぎっしり詰まったトマトなら大丈夫だと思い出したといいます。
(中のジュレは)食べれるけどなくてもいいっていう。
たまさんは、トマトの中のとろっとした部分を「ジュレ」と呼んでいます。ジュレが少ない品種や、甘い品種、酸味が控えめでサクサク食べられる品種もあるため、ジュレが苦手ならしずく型のトマトを試してほしいと勧めました。
生でも加熱でもない「中間の食べ方」とは?
たまさんは、トマトが苦手な人に勧めたい食べ方として、生と加熱の「中間」を挙げます。生はきついけれど加熱すれば食べられるなら、その間のどこが苦手なのかを探ってみてほしいという提案です。
ゆうさんは、これまで加熱して形が変わったトマトしか試したことがないと気づき、中間の食べ方を尋ねました。たまさんの答えは、食感をずらすことを意識するというものです。
中間の食べ方は私はその苦手な人に言ってるのは、食感をね、ずらすっていうことをちょっと意識してみてほしいなと思うんです。
たまさんの具体的な提案は、丸かじりや半分に切るだけでなく、角切りにして山椒などのスパイスと和えたり、辛いものが好きならキムチと一緒に食べたりする方法です。トマトがダイレクトに口に当たるのではなく、スパイスの風味が少し加わるだけで食べやすくなることがあるといいます。
中のジュレが苦手な場合も、角切りにしてサルサソースのようにし、肉の上にかければ食べられることがあるそうです。たまさんは、皮をパリパリに焼いたチキンにトマトをのせると、赤い色で食欲がわき、トマトの爽やかさで鶏肉だけより美味しくなると話しています。
ゆうさんは、トマトが苦手な人には「生のスライスやかじりつきをクリアしないと、トマトを食べられると言ってはいけない」という謎の縛りがあったと打ち明けました。キムチと混ぜるような食べ方でおいしければ、トマトを買うことにつながりそうだといいます。
なんで生でね、丸かじりしないとトマトが、好きまで言わなくたって、もうトマト食べれるって言ってもいいじゃん。
ゆうさんは、トマトが苦手だと言う人の多くは、生で食べられない、単体で食べられないという意味で「苦手」と言っているのかもしれないと振り返りました。たまさんは、トマトはいろいろな可能性があって懐が広いので、ぜひ仲良くなってほしいと話しています。
産後のつらい時期、なぜトマトに救われた?
ゆうさんは、トマト農家でもないたまさんが、なぜここまでトマトを追求するようになったのかを尋ねました。たまさんは、子どものころはトマトを特に意識しておらず、「トマトはトマト」としか思っていなかったと答えています。
たまさんの転機は妊娠・出産のタイミングでした。トマト農家に勤める友人が、育てていたトマトをお土産に持ってきてくれたのです。
トマトってこんなに美味しかった?みたいな衝撃を覚えたんですよ。
ただ、そのときのたまさんは「すごくおいしい、また食べたい」と思っただけでした。その後、初めての育児でバタバタするなかで産後うつのような状態になり、息子さんの前で笑えなくなって、夜にキッチンの冷蔵庫の前で体育座りをして泣く時期が続いたといいます。
たまさんには理想の育児像がありました。ガチガチにならなくてもいいと思いながらも、スマホで何でも調べられるために正解探しをしてしまい、誰に何を言われたわけでもないのに自分を縛ってしんどくなっていったそうです。
このままではいけないと感じたたまさんは、自分の心が動いたものを思い出してみようとします。そのとき浮かんだのが、友人のトマトでした。思い出した瞬間、雷に打たれたときの感覚が一気によみがえったといいます。
あんなにトマトはトマトでしかなかったトマトにだって個性がある。
トマトも、作った人や環境によって味が違い、それが楽しい。たまさんは、子育ても同じだと気づいたときに、とても楽になったと振り返ります。どう育っても、子どもと向き合い、試行錯誤しながら面白がっていけばいいと思えて、救われたそうです。
スマホで正解を探し、誰にも言われていないのに自分を縛ってしんどくなっていた
トマトに個性があるように子どもにも個性があると考え、向き合いながら面白がろうと思えた
もう一度あのトマトを食べたくなったたまさんですが、友人はすでにその農家を辞めていました。その農家はレストランなどに卸していて一般販売はしていなかったため、たまさんはInstagramでDMを送り、1箱10個のロットで購入させてもらったといいます。
トマトを取り寄せて食べたことで、たまさんの探求心に火がつきました。SNSで調べたトマトや食べチョク ── 農家や漁師などの生産者から、食材を直接取り寄せられるオンラインの産直通販サービスですでの取り寄せ、道の駅でその土地のトマトを食べることなど、トマトを求めて足を運ぶ日々が始まりました。
ゆうさんも、子どもが2人いて、同じように笑えなくなった時期があったと明かしました。ゆうさんにとって抜け出すきっかけは人と話すことで、それが今の日々を楽しくしているといいます。だからこそ、たまさんにとってのそれがトマトだったなら推したくなる気持ちがわかると話しています。
たまさんにとってトマトは、ポテンシャルをもっと知りたい存在であり、救ってくれたことへの恩返しの対象でもあります。トマトに意識を向けると、どこかへ飛んでいきがちな意識が今に戻るマインドフルネス ── 過去や未来ではなく「今この瞬間」に意識を向け、ありのままを受け止める心のあり方や、その練習法のことです的な力があると考え、トマトを使って感性を育むワークショップを親向けに開いているそうです。
たまさんは、きっかけは身近なトマトでなくてもよく、参加者がその後は自分の好きなもので同じことを生かしてくれればいいと話しています。ゆうさんも「トマトの可能性を感じ始めた」と応じ、たまさんは、たくさん出会わなくても、ゆうさんにとってのベスト推しのトマトが必ずあるはずだと返しました。
トマトの旬は夏ではなく4月、5月?
ゆうさんはトマトに夏野菜のイメージを持っていて、旬はあるのかと尋ねました。たまさんによると、トマトは大きく「冬から春」と「夏から秋」に分けられ、甘みや味のバランスが良くなるのは4月、5月ごろだといいます。
冬春トマトは12月から6月ごろに収穫され、ハウス栽培が中心です。冬は気温が低いため熟すまでに時間がかかり、その分うま味や糖分がじわじわと蓄積されます。夜の寒さに耐えることでも甘さが出てくるそうです。
たまさんが話を聞く農家は、2月ごろから味が乗ってくるので2月ごろから出荷すると言い、そのうえで4月、5月のトマトがおすすめだとしているそうです。たまさんがゆうさんに食べてほしいのもその時期で、収録時点ではまだ出回っていないといいます。
夏のイメージが強いのは、ハウスではなく屋外で太陽を浴びて育つ露地栽培の収穫最盛期が夏だからです。むくみを取ったり水分を補ったりするために夏に食べたくなることも、夏のイメージにつながっているのではないかとたまさんは話しています。
さらに、ものによっては11月ごろに収穫されるトマトにもコクが生まれ、収穫量が少ないプレミアムトマトのように言われることもあるそうです。年中どこかでトマトは食べられるので、好みで選べばいいとたまさんは考えています。
| 時期 | 栽培 | 特徴 |
|---|---|---|
| 冬春(12月〜6月ごろ) | ハウス栽培が中心 | 低温でじっくり熟し、うま味や糖分が蓄積される。4月、5月がおすすめ |
| 夏 | 露地栽培の最盛期 | 太陽を浴びて育つ。夏野菜のイメージのもと |
| 11月ごろ(ものによる) | 言及なし | コクが生まれ、収穫量が少ないプレミアムトマトとも言われる |
たまさんは、甘みの高いものが多い4月、5月のトマトなら、トマトが苦手な人にも食べやすいだろうと勧めました。ゆうさんは、甘さがさまざまな栽培方法の上に成り立っていると知り、ありがたくいただかないといけない気持ちになったと話しています。
たまさんは、確かではないがと前置きしたうえで、トマトは夜のうちにでんぷんを蓄えるため、朝一番に収穫するとおいしいという話も聞いたことがあると紹介しました。ゆうさんは、育てる過程だけでなく収穫のタイミングまで考えられているのだと受け止めています。
甘さの点では、ハウス栽培で収穫が始まった、連続で金賞を取っている千葉県の富津のサワトマトさんのフルーツトマトもあるそうです。糖度8度ほどあるものの、直売ですぐ売れてしまい市場にはなかなか出ないといいます。たまさんは手伝いに行く機会があれば手に入れてゆうさんに送りたいと話しつつ、1日経つと鮮度が落ちるのが悩みどころだと笑っています。
ゆうさんは、収録前は「トマトを食べたいと思えたらいい」くらいの気持ちだったものの、今は本当に食べられそうだと感じたそうです。たまさんも、ストレスの多い日々の中でトマトの話をしているときが一番楽しく、今ストレスがなくなったと話しています。
ドキュメンタリー映画『人生フルーツ』の上映会へ
最後は、たまさんからの告知です。たまさんが2年半前に観て、心に深く残る大切な作品になったドキュメンタリー映画『人生フルーツ』の自主上映会を開催することになりました。テレビで放送されたドキュメンタリーが人気となり、2017年に映画館で上映された作品だそうです。
『人生フルーツ』の上映会は、11月3日の火曜祝日に、東京都世田谷区の駒沢で開かれます。会場は駒沢大学駅の地下鉄出口から上がってすぐの、駒沢パーククォーターの地下1階にあるイベントスペースです。たまさんは2年半越しに念願がかない、配給会社から作品を借りて上映するといいます。
映画が描くのは、建築家で90歳の津端修一さんと、87歳の妻英子さんの暮らしです。愛知県の高蔵寺ニュータウン ── 愛知県春日井市にある大規模な住宅団地。1960年代から開発された、日本を代表するニュータウンの一つですの一角に家を建て、30年かけて育てた雑木林と、70種類の野菜、50種類の果実をキッチンガーデンで育てています。
妻が収穫物を日々の料理に変えていく、自給自足のような丁寧な暮らしが映画の中心です。たまさんは、「コツコツとゆっくり時を溜める」をモットーに思いやり合って暮らす2人の姿から、本当の豊かさとは何かを教えてくれる映画だと紹介しています。
映画の中で妻がジャム作りなどの手仕事をする場面があることにちなみ、上映会の合間にはトマトの塩麹作りのワークショップも開催されます。たまさんの推しトマトも登場するそうです。
ゆうさんは、トマト苦手民にとって朗報の回になったのではないかと締めくくりました。たまさんも、トマトはいろいろなところで食べられるので、ぜひ食べてみてほしいと呼びかけています。
まとめ
「トマトってフルーツですか?」という問いから始まった今回は、トマトの分類や歴史にとどまらず、苦手な人との付き合い方、旬の選び方、そしてトマトが一人の人を救った体験にまで広がりました。トマト好きと苦手民の対話だからこそ、トマトの懐の広さが見えてくる回です。
- アメリカのトマト裁判では、食べ方を理由に「トマトは野菜」という判決が出て、日本でも法律上は野菜に区分されている
- フルーツトマトは品種ではなく栽培方法の名前で、1970年に高知県で起きた台風被害が始まりだという
- 生が苦手なら、角切りやスパイス、キムチ、肉料理との組み合わせで「食感をずらす」中間の食べ方がある
- 甘みの高いトマトが多いのは冬春トマトの4月、5月ごろで、夏のイメージは露地栽培の最盛期から来ている
- たまさんは産後のつらい時期に、トマトにも子どもにも個性があると気づいて救われ、今はトマトで感性を育むワークショップを開いている







