日本のスタートアップは、なぜ海外から見えないのか?
おいなりさんのピッチは、会場への問いかけから始まります。日本のスタートアップをいくつ挙げられるか、そしてその裏にある物語をどれだけ知っているか、という問いです。
How many Japanese startups can you name? And how much do you know about the stories behind them?
おいなりさんは、答えはおそらく「ほんの少し」だろうと続けます。ただしその理由は、日本に優れたスタートアップがないからではないと強調しています。
But it's not because Japan doesn't have great startups, but it's just because their stories stay inside a black box.
日本国外からは、日本のスタートアップの物語がそもそも見えないというのが、おいなりさんの問題意識です。その状況を変えるために運営しているのが、メディアとしてのポッドキャスト「Startup Now」だと説明されます。
Startup Nowのコンセプトは「起業家の物語」で、ゲストの多くは資金調達を終えたばかりの起業家です。1時間のエピソードでは、プロダクトからではなく、人から話を始めるという方針をとっています。
What shaped you? What made you start? And what almost stopped you?
起業家を形づくったもの、起業に踏み出したきっかけ、そして起業を止めかけたもの。Startup Nowのインタビューでは、この3つの問いを軸に起業家の人となりを掘り下げていきます。
Startup Nowは3年間続き、150人以上の起業家が出演し、250本以上のエピソードが配信されてきたといいます。
番組を続けるなかで、おいなりさんが予想していなかった変化も起きました。リスナーの中に、番組を通じて起業家を知り、その会社の求人に応募する人が出てきたのです。
さらに若い人たちが、Startup Nowのゲストの中にロールモデルを見つけ、自分も次に続けるかもしれないと考え始めたといいます。
And young people found role models among our guests and began to think, "Maybe I'm next."
スタートアップ広報の現場から生まれた番組
では、おいなりさんはなぜStartup Nowを始めたのか。ピッチの後半は、おいなりさん自身の経緯に移ります。
おいなりさんはかつてスタートアップで広報(PR)の仕事をしていました。当時はスタートアップを取り上げるメディアがとても少なかったといいます。
We had amazing founders, but almost nobody was telling their stories.
素晴らしい起業家がいるのに、その物語を伝える人がほとんどいない。そう感じたおいなりさんは、自分がやるべきだと考えます。
この思いから、Startup Nowが始まりました。数年後、番組にスタジオが必要になったときには、250人以上のリスナーが資金を出して支えてくれたと語られています。
一方で、スタートアップを取り巻く環境も変わりつつあります。おいなりさんによれば、日本のスタートアップにとってグローバル市場に届くことは以前よりずっと重要になっており、日本人だけに向けたコンテンツではもう十分ではないといいます。
そこでStartup Nowは、制作するすべてのコンテンツに日本語と英語の字幕を付けるようにしました。加えて、海外からゲストを招いた英語コンテンツの配信も始めています。
おいなりさんは、この取り組みによって日本のスタートアップが世界へ届く手助けができると同時に、日本市場に参入したい海外のスタートアップやVC ── ベンチャーキャピタルの略。成長が見込まれる未上場のスタートアップに出資し、株式の値上がりによって利益を得ることを目指す投資会社ですにも機会をつくれると話しています。
「アニメと寿司」の次に、日本はどう語られるか?
ピッチの締めくくりに、おいなりさんは1つの場面を想像するよう会場に呼びかけます。日本人が海外の人と初めて会い、日本から来たと自己紹介する場面です。
今よくある反応は「日本人なんですね、アニメとお寿司が大好きです」というものだと、おいなりさんは言います。そのうえで、代わりにこんな言葉を聞ける未来を望んでいると語りました。
Oh, you're Japanese. I use this Japanese app every day. And my team is working with a Japanese factory to build a robot.
「日本人なんですね。アニメとお寿司が大好きです」
「日本のアプリを毎日使っています。私のチームは日本の工場と組んでロボットをつくっています」
おいなりさんは、この未来は「いつか」の話ではなく、すでに今起きているかもしれないと続けます。まだ耳にしていないのは、誰もそれを伝えていなかったからだという指摘です。
最後におおいなりさんは会場に2つのお願いをしました。YouTubeやポッドキャストアプリでStartup Nowを検索して登録し、エピソードを見てほしいこと。そしてゲストとしての出演に興味があれば連絡してほしいことです。
Japan has great startups. I just want you to know and hear them.
まとめ
おいなりさんのピッチは、日本のスタートアップが海外から見えないのは実力の問題ではなく、物語が伝わっていないからだという問題意識で一貫していました。Startup Nowは、起業家の「人」から語る番組として国内で支持を集め、今は日本と世界をつなぐメディアへと役割を広げようとしています。
- 日本のスタートアップの物語は、海外から見えない「ブラックボックス」にとどまっている
- Startup Nowは資金調達直後の起業家に、プロダクトではなく人から話を聞く1時間のインタビュー番組
- スタートアップ広報の経験から、物語を伝える人がいないと感じたことが番組の出発点
- 日英字幕や海外ゲストの英語コンテンツで、日本と海外のスタートアップ・VCをつなごうとしている




