累計30億円調達、投資家が受けた「衝撃」
この回のゲストは、株式会社MWのCo-Founder & CEO成田修造さんと、本ラウンドをリードしたVCアルファのGeneral Partner立岡恵介さんです。MWは未来の家「MW Living Home」を提供し、シードラウンドで累計30億円を調達したばかりです。
立岡さんが率いるアルファは、去年立ち上がった200億円規模のVCファンドです。シードアーリーフェーズを中心に、1社あたり平均3〜5億円をワンショットで出資しています。
立岡さんは、アルファ創業直後のシェアオフィスに成田さんが来たときのことを、出資の原点として振り返ります。
成田さんに来ていただいて、結構衝撃を受けてですね。考えの深さであったり、人を巻き込む力みたいなところはすごく深い。
立岡さんは、大きなチャレンジをしっかり成功につかみ取り、日本を代表する会社になるのではないかと感じ、出資を決めたと話します。
クラウドワークス卒業と、18歳で断念した電気自動車
成田さんは大学生の頃に起業を経験したのち、クラウドワークスの創業期に役員以外の第一号社員として参加しました。2014年末のIPOを経て、副社長として約8年、通算11年ほど経営に携わってきました。
辞めたのは、売上が100億 ── クラウドワークスの売上規模。従業員は約500名まで拡大していたと成田さんは話しています、営業利益が10億を超え、会社が軌道に乗ったタイミングでした。30歳を迎え、経営を続けるか新しい挑戦をするかの二択で悩んだ末、挑戦を選んだといいます。
その根っこには、18歳のときにやりたかったことがありました。2008年当時、成田さんが最もやりたかったのは電気自動車でした。
明らかな産業革新が起きうる、どう見てもメガトレンドが起きるよね。かつハードウェアであり、ものがあるビジネス。すごく心が躍るタイプなんですね。
しかし当時は資金力が足りませんでした。2008年の日本のベンチャーキャピタルの年間総投資額は約400億円で、現在の1兆円規模とはまるで違ったといいます。若さも技術もない中で、電気自動車は断念しITへ進みました。
電気自動車をやりたかったが、資金力とVC市場の未成熟で断念しITへ
ディープテックにお金が流れる兆しがあり、未来の革新的なものを作る挑戦に踏み切った
成田さんは、若いうちは低資本でスケールするソフトウェアが起業の場として向いていると振り返ります。一方で、未来の革新的なものを作りたいという最終的な思いから、今のタイミングでやらないと死ぬ時後悔しそうだと考え、もう一度挑戦を選びました。
なぜ「住宅」だったのか。MW立ち上げの5条件
クラウドワークス退任後、成田さんは約1年のブランク期間を、事業構想とメディア露出、創業メンバー集めに充てました。今のMWの構想に行き着いたのも、辞めてから1年ほど経ってからだといいます。
住宅とロボティクスに着地した背景には、成田さんが設定した5つの条件がありました。
自動車も検討しましたが、資金的に現実的でなく断念しました。5つの条件を満たすものとして残ったのが住宅だったと成田さんは話します。
この5つぐらいを条件に設定すると、これしかなかったです。
立岡さんが唸った事業設計。「Less is more」と神は細部に宿る
立岡さんは、当時は日本でディープテックに大きな資金が集まるか懐疑的なVCが多かったと振り返ります。中国や米国に勝てる事業が生まれるのかという空気の中で、成田さんの話を聞き、難しいと感じつつも設計の秀逸さに惹かれたといいます。
そもそも大上段として住宅をアップデートするみたいな大上位概念があって、その結果ヒューマノイドとかもついてくる。全体の設計の仕方がまず秀逸だなと。
建築出身の立岡さんは、好きな建築家ミース・ファン・デル・ローエ ── 20世紀を代表するモダニズム建築家。極限までシンプルにした構成で知られ、代表作にバルセロナ・パビリオンやバルセロナチェアがありますの「Less is more(少ない方がより多い)」を引き合いに出します。MWの建築はシンプルなのに美しく、成田さんは事業全体でもそのシンプル化を実践していると評します。
もう一つ、立岡さんが挙げたのが「神は細部に宿る」という概念です。細かいところを積み重ねて良い建築が生まれるように、事業でもディテールが効いてくるといいます。
シンプリファイする力が強いんだけれども、一個一個のディテールもめちゃめちゃ細かく理解して詰めていく。その両方ができる稀有な起業家。
立岡さんは、複雑でリアルが絡むチャレンジをやり切れる起業家であるがゆえに、むしろチャンスだと判断したと話します。
テスラのドアハンドルに宿る美学。買う理由はシンプルじゃない
成田さんも「Less is more」と「神は細部に宿る」を常日頃から意識していると語ります。こだわりすぎてコストと期間がかさむ弱点はあるものの、その弱点が強みになるといいます。
成田さんが引くのは、テスラのドアハンドルやアップル製品の例です。テスラのドアハンドルは近づくと出てくる仕組みで、アップル製品はネジが見えません。こうした美学の積み重ねが、良いものを生むと考えています。
いいものはいいっていう感じで買うじゃないですか。それがなんでいいのかっていうと、最後にこの積み重ねなんで。
成田さんは、建築・AI・ロボティクスそれぞれの専門家ではないぶん、一つひとつの本質を掴み、それらが融合する障壁を解きほぐすのが自分の役割だと話します。
KPIはシンプルに、プロダクトは美しく。QCDの誤算
MWの事業は、売上数×単価が売上、原価から人件費を引くと利益、といった具合にKPIがシンプルだと成田さんは説明します。住宅というマーケットがソリッドにあるため、初期の事業を単純に設計できるといいます。
KPIもすごくシンプルに作りながら、内部的には美しく、面白く、細かいプロダクト作りをする。この両立てでやってる感じですね。
一方で、想像以上に原価がかかり、工期が延びる誤算もありました。成田さんは製造業の用語QCD ── Quality(品質)、Cost(コスト)、Delivery(納期・施工スピード)の頭文字。製造業で3つのバランスを管理する考え方ですを挙げ、多くの住宅会社はコストとデリバリーを優先すると説明します。
MWはあえてクオリティを最優先にします。他社がやれそうでやれないデザインを追求するため、コストとデリバリーが後から判明し、そこを改善していく順序になるといいます。
クオリティは業界標準に合わせ、コストとデリバリーを短縮して数を売る
クオリティを最優先(SSレベル)にし、コストとデリバリーは後から改善していく
結果として、クオリティが高いぶん普通より高く売れる現象も起きています。エリアや建物ごとに売れる価格を検証し、価格プレミアムがどれだけ乗るかを実験しながら学習していると成田さんは話します。
ロボット投入は「時期尚早」。ChatGPTモーメント理論
創業から約2年で、MWはすでに家を売り始めています。ただし、想像される双腕アームはまだ実装されておらず、まずは家とソフトウェアを組み合わせた製品を提供しています。
成田さんは、ロボティクスをいきなり投入した家を作るのは時代的に早いと考えています。今のロボティクスは、ChatGPTが登場する3年ほど前、GPT-1 ── OpenAIの言語モデルの初期バージョン。成田さんは、いまのロボティクスの成熟度をこれになぞらえ、ブレイクスルーはまだ先だと説明していますくらいの段階だと表現します。
それはまだ今実装するにはちょっと早いんです。それを実装するために、レディな状態にしとかなきゃいけない。
レディな状態とは、ChatGPTモーメントが来る前にロボットの学習に必要なUXやデータを集めきり、かつロボットが入る前提の家づくりを何年もかけて研究しておくことです。
ロボットはあくまでUXの一つで、その手前にソフトウェアで解くべき課題があると成田さんは指摘します。MWの家にはスイッチやリモコンがなく、遠隔での風呂の給湯やインターホン応答など、今の家の不便を未来から逆算して解決しているといいます。
遠隔でお風呂が沸かせない家が今ほとんどじゃないですか。おかしいじゃないですか。
なぜ人型ではなく天井ガントリー型なのか
世間では人型ロボットが主流ですが、MWは天井裏に潜むセミヒューマノイドという別のアプローチを取ります。成田さんは、いい家を作るという立脚点から見れば、人型かどうかは手段に過ぎないと話します。
理由の一つは日本の家の狭さです。都内の一般的な家は50〜60平米ほどで、身長180センチ級のオプティマス ── テスラが開発を進める人型ロボット。成田さんは価格の目安を約500万円とし、家に入れる際のサイズや充電の課題を指摘していますは大きすぎるといいます。安全性の面でも、転倒時に子どもやペットへの事故につながる懸念があると成田さんは挙げます。
MWの天井ガントリー型は、必要なときだけ固定された経路で出てくるため転倒の心配がなく、人との衝突リスクも低いと説明されます。
成田さんは、食洗機のように家のトータル価格に含められる点も強みだと話します。単体で約500万円のロボットを買うより、住宅ローンに組み込むほうが顧客の心理的ハードルが下がるといいます。
「住宅メーカー×ロボティクス」という定義しづらいポジション
MWはロボティクス・AIカンパニーであり、同時に住宅メーカーでもある、定義しにくい会社です。成田さんは、その定義しにくさが競合の少なさにもつながっている感覚があると話します。
この点を、成田さんは立岡さんに投資家目線で問いかけます。立岡さんは、超一流の住宅メーカーになるという前提でまず投資していると答えます。
これある意味めちゃめちゃかっこいい家を作ってるんで、ダウンサイドはそこですと。そこ以下にはならないです。
立岡さんは、大ホームランを狙いつつゼロにはならない投資だと位置づけます。都内でマンションが1〜3億円になり戸建てが見直されるなど、富裕層向け戸建てのマクロトレンドも追い風だと語ります。
成田さんも、円安・インフレ・株高が続く見通しの中で、そこに適合するビジネスモデルを創業前から意識してきたと話します。ただの住宅メーカーでは面白くなく、テクノロジーの核心と将来のスケールが必要だといいます。
自分は30年ぐらい今の会社経営しようと思ってスタートしてるんで、長く戦える産業じゃなきゃいけない。
腕が動きすぎるロボット。データ不足という壁
成田さんは、ロボット開発にはまだリスクがあると率直に認めます。自動車業界出身のエンジニアから聞いた話が、その難しさを象徴しています。
車って動く箇所がタイヤかハンドルぐらいしかない。ロボットは動きすぎです。腕がニョロニョロ動いて擦れると、壊れますよね。
MWは、iPhoneのように5年で最新版へ交換する構想を描きますが、複雑に動くハードウェアを5年持たせるのは相当大変だと成田さんは話します。
AI側の壁はデータ不足です。人間が洗濯物を畳む動画のようなフィジカルデータは、そもそも多くありません。データの取り方も日進月歩で、まだ研究段階だといいます。
人間が畳む動画から関節位置を逆算する逆運動学で学習させる
人間がロボットを直接操作して教える、あるいはシミュレーション上で動かして学習させる
どの方法がどれだけ精度を上げるか、各社がしのぎを削っている状況で、成田さんは正解が3年以内に出ると見ています。当初想定していた景色から外れておらず、いけると考えつつも、リスクはあるという立場です。
想定外の高い壁については、ありがたいことにまだないといいます。売上1000億円規模までは想定の範囲で、あとは越えられる人がいるかどうかだと成田さんは話します。
越える人がいるかいないかだなって思います。それぐらいですね。
優秀な創業メンバーが集まる理由
MWには業務委託を含め50名弱のメンバーがおり、共同創業者をはじめ、単独でも通用するスペックの人材が集まっています。成田さんは、その理由をみんなで集まるから面白いことができるという価値観に置きます。
共同創業の大野さんは一人でも稼げるはずだといい、AIロボティクスのトップである朝谷さんも、単独で会社を束ねられそうな人物だと成田さんは評します。それでも面白くないから、違う挑戦をしているのだといいます。
施工管理の古川さんは、20年以上・累計5000棟ほどを手がけ、独立すれば年収1億円もありえた人物です。それでも自分のスキルの切り売りは面白くないと、全く未知の領域に飛び込んできたといいます。
本人は「0.1パーセントです」って言ってて。そういうマインドの人が入ってきてくれてる。
成田さんは、自分が全ての意思決定や専門性を束ねているわけではなく、個々の局面でメンバーが打開していると話します。革新的な家を作りたいというコンセンサスを土台に、各分野でメンバーが貢献する形です。
採用は建築設計、施工、IoT、AI、ハードウェアなど10ジャンルに及びます。アートディレクターやデザイナーなどクリエイティブ職も約15パーセントを占め、一つひとつのケイパビリティを作る組織づくりが大変だと成田さんは語ります。
2026デモハウスから2028世界初出荷へ
MWはロードマップをシンプルに設計しています。成田さんは、難しいことをやっているからこそゴールだけは明確にしておくべきだと話します。
将来的には、自社でロボティクス搭載型ホテルを作る可能性もあれば、他社へソフトウェアやロボットを提供する道もあると成田さんは話します。スケールを考えると他社連携が重要になり、そのタイミングと実現方法が次のポイントになるといいます。
難しいことをやってるからこそ、ゴールだけはしっかりしてないといけないんで。
家が「知覚・知性・身体」を持つ、生きた家
「生きた家(Living Home)」というコンセプトは、共同創業者で建築のトップである松田さんが生み出しました。松田さんは東大建築学科を経てOMAのニューヨークオフィス、日建設計を経て独立した人物です。
従来の家は静的な箱でしたが、センサーや音声が入ることで情報を知覚し、クラウドやエッジと繋がって住む人の好みを推論できるようになると成田さんは説明します。
さらにロボティクスが入ると、家が手足という身体を持ちます。移動経路としての足と、作業をする手が加わることで、知覚・知性・身体が融合するといいます。
知覚
センサーや音声で、人の存在や会話などの情報を知覚できる箱になる
知性
クラウドやエッジと繋がり、住む人の好みやタイミングを推論できるようになる
身体
ロボティクスが入り、移動する足と作業する手を持つ
生命体
知覚・知性・身体が融合し、ほぼ生命体のように動的な家になる
成田さんは、家がバディになっていく未来を描きます。テクノロジーはその手段の一つに過ぎず、顧客体験として素晴らしいかどうかが究極的に大事だと強調します。
お客さんが物を買うとか、そこに住みたいと思う時は、技術があるから住みたいわけじゃない。そこにいて心地よかったり、アイデンティティが強化されるから買う。
Quiet Luxuryと社名"MW"の由来。原点は「アイアンマンの家」
クリエイティブへのこだわりは、共同代表の大野さんが担っています。成田さんがテスラやアップルをベンチマークに挙げるのに対し、大野さんはボッテガのようなカルチャー・クリエイティブ系の会社を挙げるといいます。
成田さんは、ロゴを前面に出さなくても製品を見ればブランドが分かるボッテガ・ヴェネタ ── イタリアの高級ブランド。編み込みの革(イントレチャート)が象徴で、ロゴを目立たせないデザインで知られますのあり方を、デザインのすごさとして挙げます。
MWのコンセプトは「Quiet Luxury」です。ラグジュアリーを押し付けず、静かに美学に沿って落ち着いた形で表現する考え方で、家もウェブサイトも名刺も、カラーパレットまで厳密に統一されているといいます。
大野から「お前の着てる服はダメだからカラーパレットに沿ってくれ」ということで、いつも怒られてます。
社名のMWは、成田さんと大野さんが100個ほど案を出す中で、造形的に面白いという理由で選ばれました。手塚治虫さんの作品「MW」も踏まえ、「ムー」と読ませる形に落ち着いたといいます。
そして原点にあったのは、映画「アイアンマン」に出てくるトニー・スタークの家でした。顔認証でドアが開き、窓が液晶になり、AIのジャービスが暮らしを支えるフルテクノロジー搭載の家です。
これが最終形のイメージみたいな。今もそういう感じで議論してます。
投資家とのせめぎ合い、そして採用へのメッセージ
こだわりは細部にまで及び、壁と収納が面一になるよう建具が出てこない「おさまり」まで作り込まれています。おいなりさんは、投資家からすればそこにコストをかけるなという声も出うると指摘します。
成田さんは、そのプレミアムが価格に跳ね返ることを投資家に証明する必要があると認めます。高く売れなければ、ただコストの高い家になってしまうからです。
そこを本当に大野と僕はせめぎ合ってます。目指してるものは一緒なので、喧嘩してるわけじゃないんですけど、常にせめぎ合ってる感じです。
採用について、成田さんはそれぞれの分野で問題を解決していけるマインドセットの人と働きたいと語ります。会社は2年間売上ゼロで、3年目でようやく売上が立ち始めた入り口の段階だといいます。
まだ創業メンバーですし、そういうタイミングだからこそ得られる景色がある。そういうものを得たい方はぜひ来ていただけたら。
立岡さんも、家は誰もが長い時間を過ごす場所で、その改善を体現する会社は働いていて面白いはずだと後押しします。共同創業者4名に会った印象も強く残っているといいます。
この4人全員が起業してくれたら全員に出資するよね、みたいな感覚だったんですよ。
立岡さんは、優秀なメンバーが集まるドリームチームで、創業間もない今のタイミングで入ることはプラスしかないと語ります。成田さんは、給与や働く環境も含めて整備していきたいと締めくくります。
まとめ
クラウドワークスで上場を経験した成田修造さんは、18歳で断念した「未来のものづくり」への思いを、住宅×ロボティクスという形で再び追いかけています。MWは巨大かつ硬直化した住宅産業に、シンプルなKPIと美学へのこだわりを両立させながら挑んでいます。
- 成田さんは巨大産業・ToC・革新の余地・自分の理解・資金の5条件から住宅を選び、任天堂やユニクロのような会社を目指している
- MWはロボット投入を時期尚早と捉え、まず家とソフトウェアで未来から逆算した製品を作り、天井ガントリー型という独自アプローチを取る
- クオリティ最優先ゆえコストと納期が後から判明するが、その価格プレミアムが売価に跳ね返ることを検証しながら進めている
- 「生きた家」は知覚・知性・身体を持つ生命体のような家という構想で、2028年のロボット付き住宅の世界初出荷を目標に掲げる
- Quiet Luxuryやカラーパレットまで統一する美学の徹底と、優秀な創業メンバーの結集が、定義しづらいポジションと競合の少なさを支えている





