『ギブ&テイク』を取り上げた理由と、この本の時代背景
今回の名著再読で加藤さんが選んだのは、アダム・グラント『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』です。
加藤さんがこの本を取り上げたかったのは、単に「ギブする人が成功する」という話ではない点だといいます。
与える人の中には、上位に立つギバーもいれば、報われずに下位に沈むギバーもいる。その設計の違いこそが大事だと加藤さんは話します。
上位にもそういうギバーはいるけれども、下位にも報われないギバーがいるみたいな。で、ここの設計ってすごく大事だよねっていうところ。
浜田さんも、インサイドセールスでよく「ギブから」と言われるものの、実際には悩みが多いと指摘します。
じゃあどんなギブすればいいのかとか、ギブのままで終わっちゃわないみたいな話とかすごくある中で、それをギブ&テイクとはっていうことだけを書いてる本みたいな。
著者のアダム・グラントは『ORIGINALS ── アダム・グラントの著作。独創的なアイデアを生む人の思考や行動を分析したビジネス書です』などでも知られ、ビジネスの思想やコンセプトをまとめる書き手だと浜田さんは紹介します。日本版の解説は経営学者の楠木建さんが書いています。
この本が出たのは2013年で、浜田さんはその時代背景に注目します。経済が物作りからサービスへ移り、営業の重要性が上がってきた時期でした。
同時に、LinkedInやFacebookといったソーシャルなつながりが本格的に広がった時代でもあります。浜田さんは、その中でどういう振る舞いが一番うまくいくのかを分析した本だと位置づけます。
加藤さんは、分業制やザ・モデル型のチームが広がるSaaS業界でも、こうした発想は社内で通じると応じます。
ギバー・テイカー・マッチャーという3つのタイプ
浜田さんは、本書が人間を大きく3つのタイプに分けていると解説します。
ギブから始める人、ギブ中心の人。与えることを起点にする
テイク中心の人。少し嘘をついてでも自分がいいとこ取りをしようとする人も含む
ギブとテイクのバランスを取る人。ギブしたらテイクし、テイクしたらギブする
浜田さんによれば、テイカーの代表例として本書が挙げるのはエンロン ── 2001年に不正会計で経営破綻したアメリカのエネルギー企業。創業者らの利己的な振る舞いがのちに問題となりましたの創業者などで、かなり極端な人物像だといいます。
そのため、ほとんどの人はマッチャーに当てはまると浜田さんは話します。
だからほとんどの人はマッチャーだよねと。いう中で、逆にマッチャーだと特にそのスタンドアウトすることはできない中で、他のいいスタンスの取り方あるのかなっていうのがこの本のテーマなのかなと思ってます。
なぜギバーは成功者にも敗者にもなるのか
加藤さんが特に面白いと感じたのは、ギバーが最上位にも最下位にも現れるという逆説でした。
浜田さんは、成功する人としない人をグラデーションで並べたとき、ギバーが両端の両方に出てきたと説明します。
ギバーっていうのは一番成功する人と一番うまくいかない人、両方側に出てきたみたいな。じゃあなんなの?みたいな。
この「ギバーなのに何が違うのか」が、本書の一番大きな論点になっていると浜田さんは話します。
浜田さんによれば、本書は他者への配慮と自分への配慮という2軸でギバーを整理しています。
苦労するギバーは、他者を大事にする一方で自分を大事にせず、相手を思って与え続けてしまうタイプだといいます。そこにテイカーが現れると、いいとこ取りをされてギバーに何も残らなくなります。
一方でうまくいくのは、他者をケアしつつ自分の評価や状態にも目を向けるギバーです。浜田さんはこれを、本書の言葉である他者志向(otherish) ── アダム・グラントの用語。他者のためを思いながらも自分の利益や状態にも配慮するギバーの姿勢。自己犠牲的なギバーと区別されますとして紹介します。
100時間ルールと「5分間の親切」
浜田さんは、バランスを示す具体例としてボランティアの時間に関するルールを挙げます。
一定の時間を超えてボランティアをやると、他者へのインパクトは増える一方で、自分がどんどん苦しくなっていくといいます。
このボランティアやる時に一定の時間以内にした方が絶対うまくいくみたいな感じになってしまって。
ギブはするけれど、自分に余裕を持ってできる範囲でやる。そこを注意した方がいいと本書は説いていると浜田さんはまとめます。
加藤さんは、これをインサイドセールスに置き換えると、バランスが崩れたときに「何のためにやっているのか」が見えなくなると応じます。
そこで浜田さんが紹介するのが「5分間の親切」という考え方です。1つ1つのアクションを5分以内くらいの負荷に抑えるという発想です。
- Facebookで「この人良さそうなのでつなぎますね」と紹介する
- 「この間のウェビナー、すごく良かったですよ」と一言伝える
- 自分に負荷がかからない範囲の行動をしっかり続ける
成功するギバーが持つ4つの武器
続いて話題は、成功する側のギバーの特徴に移ります。浜田さんは、本書が4つの要素を明確に挙げていると解説します。
浜田さんは、ギバーの中でもどのギブの仕方が一番レバレッジが効くか、つまり少ない工数で大きなインパクトを与えられるかを、本書が定型化して分析していると話します。
なかでも人脈形成は、営業領域でも設計しやすい要素だと2人は見ています。ライトに人を紹介したり、気軽なネットワーキングの機会を作ったりする振る舞いです。
そうすると自分自身が結局一番つながっていくみたいなところですね。
浜田さんは、人脈形成はAさんとBさんをつなげる行為であり、よほど変な相手でない限り自分がダメージを受けにくいと指摘します。だからこそレバレッジが効きやすいといいます。
営業のギブはなぜ「時間軸」で決まるのか
ここから話は、営業におけるギブの解釈に入ります。浜田さんは、多くの人がマッチャー的な動きになりがちだと指摘します。
情報提供をした直後に「アポをいただけますか」と回収しようとすると、相手にも意図が伝わってしまうといいます。
浜田さんは、成功するギバーとマッチャーの差分は時間軸にあるように感じると話します。
帳簿をつけて回収するのではなく、与え続けてお願いできる関係を作り、いざというときに頼む。そのために、自分が楽で負荷のかからないやり方で与え続けることがポイントだと浜田さんはまとめます。
加藤さんも、ギブした直後に何か求めれば相手にはすぐ伝わると同意します。
もうギブした後直後に何か来たらもうわかりますからね。
浜田さんは、だからこそ自分が得意で負荷にならない方法を探すことが大事だといいます。イベントに出るのが苦にならない人はイベントに通い、SNSが好きな人はFacebookでいいねやコメントをするようなやり方です。
自分の得意と好きに寄せる──想像しない形で返ってくるギブ
加藤さんは、自分が何を得意とし、どこに人脈を持つ人なのかが伝わる「キャラ立て」も大事そうだと投げかけます。
浜田さんは、自分が自然にできることに寄せる大切さを、本書のエピソードで説明します。
ある人が大ファンのバンドグリーンデイ ── アメリカのパンク・ロックバンド。1990年代以降、世界的な人気を得ましたのファンサイトを作り、別のバンドのファンからの連絡をきっかけにサイト同士をリンクさせました。
そして数年後、その連絡をくれた相手に仕事の紹介をお願いすることになったといいます。浜田さんは、普段のギブが5年後や10年後に全然想像しない形で返ってくる例だと話します。
加藤さんも、ファンサイトが仕事につながるとは誰も思わないと驚きます。
浜田さんは、こうしたギブが続く理由は、いつ回収しようと考えていないからだと指摘します。テイクを前提にしていないぶん、相手も気持ちよく受け取れて、結果的に貯金になっていくという構図です。
AI時代にギブの価値はどう変わるのか
最後の話題は、AIの登場でギブの価値がどう変わるかです。加藤さんは、AIを使えばギブっぽいことも簡単にできてしまう時代だと問いかけます。
浜田さんは、パーソナライズした情報提供がAIで簡単にできてしまう中で、それでいいのだろうかと応じます。
加藤さんは、ファクト情報がいくらでも取れる中で、それをどう解釈するか、どんな切り口で見ると面白いかを示す「考察」に価値があると考えていると話します。
コンテンツの説明とかファクト情報はもういくらでも取れる中で、それをどう解釈してるかとか、こういう切り口の見方すると面白いよとか、そういう見方を提供してあげる。
浜田さんは、この本が究極的には「もっと仕事から外れたところでギブしていく」ことを言っている気がすると解釈します。
たとえばランニングが好きなら、インサイドセールス向けのランニングコミュニティを作り、月1回皇居に集まるような場を作る。自分の趣味でもある形にしていくイメージです。
浜田さんは、最終的な成果を見据えて「どういうギブをしよう」と考えると、相手の態度変容を狙うギブになり、それはテイクのためのギブ、つまりマッチャーの動きになってしまうと指摘します。
テイクするためのギブになってるから。じゃなくて、本当に短期的なテイクを見据えないでしっかりギブする。
だからこそ、会社の目標よりも自分に寄せて考えた方がよいと浜田さんはいいます。この人たちと一緒にこれをやったら楽しそうだ、という感覚まで自分事にすることがポイントです。
加藤さんは、そこまで来るとマッチャーとギバーの違いがぴたりと重なると受け止めます。ランニング好きとコミュニティづくりのように、無理なくできる掛け合わせがその答えになると2人は話しました。
まとめ
『GIVE & TAKE』を営業の現場に翻訳すると、鍵になるのは「誰に与えるか」よりも「どう与え続けられるか」でした。短期のテイクを見据えず、自分が負荷なく楽しめる形で与え続けることが、成功するギバーと燃え尽きるギバーを分けます。
- ギバー・テイカー・マッチャーのうち、ほとんどの人はマッチャー。だからこそギバーのスタンスが差別化になる
- ギバーは成功者にも敗者にもなる。分かれ目は他者だけでなく自分もケアする「他者志向」にある
- 「5分間の親切」や100時間ルールのように、自分の余裕の範囲で与えることが燃え尽きを防ぐ
- 営業のギブは時間軸が肝心。短期で回収しようとせず、与え続けてお願いできる関係を作る
- AIで情報提供が均質化する時代ほど、自分の得意や好きに寄せた、仕事の外まで含むギブに価値が残る





