「MAはスパムを増やしただけ」という問題提起の正体
今回のGrowth Radioは、用語解説シリーズとしてマーケティングオートメーション(MA)を取り上げます。基礎に立ち返りつつ、AIによる進化まで踏まえて解説する回です。
導入の話題になったのが、シンフォニーマーケティング ── BtoBマーケティングの支援を手がける企業。庭山一郎氏が代表を務め、日本のBtoBマーケティングやデマンドジェネレーションの分野で知られていますの庭山さんによる、インパクトのある記事タイトルでした。
「MAの普及はスパムメールを増やしただけ」みたいな。これはもうちょっと話題になってましたね。
ただし加藤さんは、記事の中身はMAそのものを否定するものではないと補足します。問題視されているのは、日本企業でMA導入そのものがマーケティングの終点になってしまう構図でした。
日本企業においてはそのMA導入だけが、それで終わってしまうと。売上とか利益を生む戦略と、そこは紐付いてないことがダメだよねみたいな。
MAツールを入れても成果が出ないという声は実際にあります。そこで加藤さんは、そもそもMAがどこから生まれたのかという歴史からたどることを提案します。
そもそもMAとは何か――「メール配信ツール」ではない
浜田さんは、MAの本質はマーケティングの自動化だと整理します。リードを獲得し、育成(ナーチャリング)を経て、営業やインサイドセールスに渡せる状態にするまでを担う仕組みです。
リードを獲得して、それを育成とかナーチャリングって呼ばれるプロセスを経て、営業とかインサイドセールスに渡せる状態にする。そこを最終目標にした時に必要な機能を持っている、総合的なプラットフォームっていう感じですよね。
その機能には、フォーム、メール、ウェブサイト内のポップアップなど複数の武器が含まれます。MAは単なるメール配信ツールではなく、総合的なプラットフォームだという点が、この回の出発点です。
加藤さんは、1社目が国内MAツールベンダーのシャノンだったこともあり、懐かしさを感じながら聞いていると話します。
1992年に始まる30年史――EloquaとOracle・Salesforce
MAの起源をたどると、その歴史は30年ほどにおよびます。浜田さんが驚くのは、その最初期がインターネット普及以前だという点です。
92年って、もうインターネットあったっけ?みたいな時にMAありましたみたいな。マジで?みたいな。
浜田さんは、1992年がWindows95より前で、当時はパソコン通信の時代だったと振り返ります。その頃に存在したとされるのが、Unica ── 初期のマーケティングオートメーション/キャンペーン管理の製品を提供した企業。1992年創業とされ、MAの起源として語られます。後にIBMに買収されましたというサービスでした。
一方で、今も知られるMAの原型として浜田さんが挙げるのは、1999年のEloqua ── 1999年に登場したBtoB向けMAの草分け的存在。MAというカテゴリーを確立したとされ、後にOracleに買収されましたです。
やっぱこれが最初だったんだっていう。まあOracleですかね。
MA進化の第1〜第2世代――メール配信からウェブ連動へ
浜田さんは、MAの進化には世代があると整理します。2000年代前半の第1世代は、いわゆるメール配信ソフトでした。リストにまとめてメールを送り、オプトアウトを管理する段階です。
第2世代の重要なポイントは、ウェブサイトとの連動です。多くのMAはメール配信の色合いが強い一方で、たいていフォームも備えていました。
フォームを持ってるっていうことは、お客様が資料請求とかした瞬間にリード情報とクッキーが紐付けられるみたいな感じになって。
これにより、メール経由で事例ページに来た、そのページに何秒いたといった行動が見えるようになります。メールだけでは開封とクリックしかわからなかった顧客の「あたたまり度合い」が、立体的に把握できるようになりました。
この段階を担ったのがEloquaやMarketo ── BtoB向けMAの代表的製品。スコアリングやナーチャリングを備え、日本でも広く使われました。後にAdobeに買収されていますで、2000年代後半あたりから今も使われる王道MAが登場したといいます。
スコアリングとザ・モデル――BtoB分業体制との連動
この頃から注目されたのがスコアリングです。浜田さんは、その背景をBtoBの分業化に置きます。マーケティングがホワイトペーパーやウェビナーで情報提供を始めると、商品を直接聞きたいわけではない層が流入してきました。
ホワイトペーパーとかウェビナーの興味の人たちが入ってきました。これをそのまま営業に、こんな人たち興味持ってるらしいですよって渡すと、やっぱ怒られるわけですよね。
そこで、営業に渡してよい線引きを決める必要が出てきます。それがスコアリングでした。メール開封だけでは判断材料が弱いため、ウェブの活動履歴も見る必要がありました。
加藤さんは、この流れがザ・モデル ── 営業プロセスをマーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスに分業する考え方。福田康隆氏の著書で日本に広まりましたの分業体制と連動していたと指摘します。浜田さんも、著者の福田さんがMarketoの日本法人代表だった点に触れます。
第3世代のHubSpot――MAとCRMの境界が曖昧になる
浜田さんが挙げる第3世代はHubSpot ── インバウンドマーケティングを提唱し、MAからCRMまで手がける米国企業。CMSなどウェブサイト制作機能も備えますです。ポイントは2つあるといいます。
1つは、インバウンドマーケティングをカテゴリーとして確立したこと。BtoBでもSEOなどでウェブサイトに来てもらう発想を打ち出し、サイトを作れるCMS機能まで備えました。
もう1つは、HubSpot自身がCRMに進出し、MAとCRMの境界線が曖昧になっていったことです。
浜田さんは、Pardot ── Salesforce傘下のBtoB向けMA。2013年にSalesforceによって買収されましたが2013年にSalesforceに買収された点を挙げ、2000年代後半から2010年頃にMAとCRMが一体化していったのが第3世代の動きだと整理します。
第4世代のABM――「網をかける漁」から「一本釣り」へ
第4世代として浜田さんが挙げるのはABM ── Account Based Marketing。狙った特定企業(アカウント)に絞ってマーケティングと営業を仕掛ける手法。不特定多数への施策と対比されますの時代です。多くの人がMAとは認識していない領域だといいます。
背景にあるのは、MAやザ・モデルの課題でした。ウェビナーや展示会でリードは大量に取れても、その中に営業が行きたい企業が多くないという問題です。プロダクトの高機能化で、数千万円でエンタープライズに売る商品も出てきました。
網をかける漁から、一本釣りとか、槍で取る漁に変えたいみたいな感じになってくると、どっちかっていうと、ウェビナーやってメルマガじゃないマーケティングしたいよねみたいな。
ウェビナーや展示会で幅広くリードを集め、メルマガで一斉に育成する「網をかける漁」
ターゲット企業に絞り、来訪検知やポップアップで狙い撃つ「一本釣り・槍で取る漁」
浜田さんは、Demandbase ── ABMを支援する米国のプラットフォーム。ターゲット企業の行動検知やアカウント単位のマーケティングに使われますやシックスセンスのようなサービスを例に挙げます。IPアドレスなどを使い、ターゲット企業のサイト来訪を検知し、ポップアップやサイト内容の出し分けで狙っていく仕組みです。アメリカでは2010年代後半から広がっていたといいます。
加藤さんは、買い手側もSaaS企業に資料請求したらどうなるかを大体わかっているため、画一的なアプローチでは話を聞く理由が乏しいと補足します。
第5世代――セールスエンゲージメントとAI SDR
浜田さんは、MAからの派生として最新の動きを説明します。まず登場したのがセールスエンゲージメント ── インサイドセールスの1対1メールなどのアウトバウンド活動を、いつ何を送るか指示・管理して効率化する仕組み。アウトリーチやセールスロフトが代表例ですの時代でした。
インサイドセールスがワンツーワンで送るメールなんだけども、もう全部いつ何を送るかっていうのをこう指示してあげて送れるみたいな世代が、SaaSバブルくらいに、2020年くらいにあって。
それを自動化したものとして出てきたのがAI SDR ── AIが見込み顧客の抽出やパーソナライズメールの送信を自動で行う仕組み。SDRはSales Development Representative(開拓型のインサイドセールス)を指しますです。パーソナライズメールでありながら、ほぼメルマガのように自動で送られていく世界だと浜田さんは説明します。
今度それを自動化したものとして、AISDRみたいな感じのが出てきて。パーソナライズされたメールで、ちょっとABM的なやつも含めて、狙った商談取っていくみたいな。
加藤さんは、こうした流れを「どんどん目的ドリブンになってきている」と表現します。庭山さんの問題提起と同じく、MAを導入して終わりではなく、事業成長にどうつなげるかが問われているという見方です。
AI時代のMA――「MQLの死」とシグナルベースへ
AI時代のMAについて、浜田さんはまず「MQLの死」ともいえる地殻変動を挙げます。薄いリードでもとりあえず取ってナーチャリングし、いつか商談になると期待する発想が終わりつつあるといいます。
一旦ウェビナーとかやって入ってきたリードがいつか商談になるんじゃねみたいなものが終わりつつある感みたいな。すごいありますよね。
代わりに注目されるのが、ターゲット企業を狙いつつ、顧客が動く瞬間を捉える発想です。ここで鍵になるのがインテント ── 見込み顧客の購買意欲や関心を示す行動データ。比較サイトの閲覧や検索など、買い手の「今動いている」兆候を指しますやシグナル ── 顧客の状況変化を示す手がかり。サイト来訪や担当者の転職など、アプローチのタイミングを教えてくれる情報を指しますと呼ばれる情報です。
浜田さんは、アメリカではLinkedInで転職を検知してチャンスと捉える例が多いと紹介します。人材サイトで新しい採用ポジションを出した会社に片っ端から電話をかけるような従来の動きも、AIでほぼ自動化できるようになりました。
いわゆるWhyyou,whynowとかあると思うんですけども、その中でもWhynowのところがすごい今注目されてるなっていう気は、そのシグナルも含めてですね。
HubSpotのWarmly買収と「怖い世界」
浜田さんは具体例として、HubSpotがWarmly ── サイト来訪者の匿名データから、その人物を推測して営業機会につなげるサービス。HubSpotに買収されましたという会社を買収した件を挙げます。サイトに来た匿名の来訪者が誰かを推測する仕組みです。
IPアドレスで企業を特定するサービスは日本にもアメリカにもあり、代表格として浜田さんは、HubSpotが数年前に買ったClearbit ── 企業や個人のデータを補完・特定するサービス。HubSpotに買収されましたを挙げます。近年はそこから進み、来訪者を個人単位で推測しておすすめするサービスがアメリカに数社あるといいます。
多分ウェブサイト行ったら勝手になんか過去別にコンバージョンしたことないはずなのに、ウェブサイト行ったら連絡来るみたいな。怖い世界。
その背景として浜田さんが挙げるのがダークファネル ── 見込み顧客が比較サイトやSNS、AIなどで情報収集する、企業側から見えにくい検討プロセスのこと。資料請求などの可視化された行動より前の動きを指しますです。顧客が比較サイトやAIで調べる時間が長くなり、資料請求は最後の料金確認のような段階になっているといいます。
だからこそ、少しでも早く顧客の情報を取ろうと、あらゆるデータを使う流れがトレンドになっていると浜田さんは説明します。MAでありながら、MAの領域を超えつつあるという整理です。
メールにこだわらない、あらゆるデータを統合するみたいな。
日本のMAはどう進化する――寡占前のマルチプロダクト競争
日本のMAについて、浜田さんは事業者の多さに触れます。シャノンに加え、バウナウ(クラウドサーカス)、サトリ、Bダッシュ、マツリカなどがそれぞれ色を出しているといいます。
浜田さんは、バウナウが製造業に強くアカウント数が多いこと、サトリやBダッシュが比較的大きいアカウントを攻めることなど、戦略が様々だと説明します。近年アクティブに開発している企業は、マルチプロダクト戦略の傾向が強いといいます。
その理由の1つは市場規模です。浜田さんは、日本でMAを導入しているのはまだ2〜3万社ほどだと見ています。
仮にそこの20パーシェア取れたとしても4000社、1社月20万円いただくと、それだと100億いくか。でもギリギリですよね。
シェアを取り切ってようやく100億円規模のため、HubSpotのようにMAだけでない戦い方が必要になりそうだと浜田さんは話します。クロスセルを前提にしないと、単体プロダクトでは厳しいという見立てです。
MA単体では回らない――リードの「関係値」とサンサンの話
日本でよく聞く課題として、浜田さんはサンサン在籍時に聞いたSalesforce導入企業の声を挙げます。
「MA入れたんだけどリードないんだよね」みたいな話が結構よくあって。「MA入れました。でもリードないですね。どうすんの?」「じゃあサンサン入れよう」みたいな。
MAを生かすには、まず名刺などのつながりをデータとして入れる必要があるという論点です。加藤さんは、単にMQLを入れればよいのではなく、関係値のあるリードをMAに入れられる状態を作ることが大事だと受けます。
浜田さんは、日本でもインテントを積極的に取りに行くセールスマーカーのようなサービスが出てきていると紹介します。HubSpotの次の世代にあたるDemandbase的なサービスに近い立ち位置です。
次に来るのは、アメリカで登場したセールスエンゲージメントとAI SDRの領域だと浜田さんは見ています。この辺りが日本でもホットになってくるという見立てです。
タイミングの勝負へ――MQLをただ渡す時代の終わり
加藤さんは、MAの本質はマーケの自動化であり、正しい人に正しいタイミングで届けることに戻ってきていると振り返ります。浜田さんも、タイミングの問題が大きくなっていると応じます。
浜田さんは従来のザ・モデルを、展示会でリードを大量に取り、MAで一斉にメールを送り、反応した層を打率前提でインサイドセールスに渡すモデルだったと整理します。ジュニアなメンバーも含めて多くの架電をこなせたことが前提でした。
百架電すれば二十繋がって三アポ取れるだろうみたいな。
しかし今は、フォーンデスク ── 迷惑電話や営業電話を判定・スクリーニングするサービス。かかってきた電話を取る前にふるい分けますのようなサービスやiOSの電話スクリーニングにより、通電率が以前の3分の2や半分にまで下がっているといいます。
そうなると、「よくわからないけどMQLだから当たっておいて」とインサイドセールスに渡すことが難しくなります。確度の高いリードをどう判定するか、顧客の興味が立った瞬間にどう渡すかが勝負になると浜田さんは述べます。
加藤さんは、営業を受ける側として主導権を握られたくない感覚があると話し、顧客起点でその場でアポを仕切る発想が理にかなっていると受けます。浜田さんも、興味が立っていない顧客に自分のタイミングで電話してアポが取れていた従来の状況を「よくわからない」と振り返ります。
お客様の頭の回転に助けられてるみたいな。
まとめ
MAは単なるメール配信ツールではなく、1992年から30年かけて進化してきた総合的な仕組みです。今はMQLをただ渡す時代から、シグナルやAIで顧客が動く瞬間を捉える方向へと大きく移り変わっています。
- MAはリード獲得からナーチャリング、営業への引き渡しまでを担う総合プラットフォームで、メール配信ツールではない
- 進化は世代でたどれる。メール配信→ウェブ連動→HubSpotによるCRM一体化→ABM→セールスエンゲージメントとAI SDRという流れ
- AI時代は「MQLの死」が語られ、インテントやシグナルで顧客が動く瞬間を捉えるアプローチに注目が集まっている
- 日本のMA市場は規模の制約からマルチプロダクト競争になりやすく、MAを生かすには関係値のあるリードを入れる前提づくりが重要
- 通電率の低下などにより、確度の高いリードをどう判定し、興味が立った瞬間にどう渡すかというタイミングの勝負に変わりつつある




