南場さんの講演から見えた「AI時代に先に人を動かす」意思決定
本編に入る前に、二人は先週開催されたDeNAのイベント「AI DAY」の話題に触れます。immedioはDelight Ventures経由でDeNAから出資を受けており、ショートピッチと展示ブースで参加したといいます。
DeNAさん、我々Delight VenturesっていうVC経由で出資いただいてるんで、AI DAYの中でショートピッチと展示ブース出していいですよっていうところでお邪魔しました。
最後の南場さんの講演には人が集中し、メイン会場は立ち見、隣の会場で中継されるほどだったと浜田さんは振り返ります。記事で話題になったのは、1年ほど前に発表した「3000人の業務を1500人でやり、残り1500人で新規事業をやる」という計画のその後でした。
あれぶっちゃけ進んでませんみたいなことで、結局その3000人の人たちが効率化した分で既存業務をゴリゴリやってしまって、既存業務のアウトプットが上がっている中で、なかなか移すのに苦戦してきましたと。
AIで効率化しても、既存業務が楽しくて人がそこから抜けない。だからDeNAは、手が空くのを待たずに先行して人を新規事業へ移していく方針に切り替えたといいます。浜田さんはこれを「すごくリアルだ」と受け止めます。
清沢さんは、この判断を南場さんらしい強いリーダーシップだと評します。AIで余裕が出たからと自ら役職を降りる人はいないため、先に人員を動かす意思決定が要る、という指摘です。
営業の聖典「SPIN営業術」はどんな時代に生まれたのか
ここから本編。取り上げるのはニール・ラックナムの「SPIN営業術」です。清沢さんはSansanに新卒入社した時から渡されていた本で、営業やインサイドセールスの「基本中の基本」だといいます。
浜田さんはSansanで初めて知ったと明かしつつ、SPINが今も営業の土台になっていると話します。清沢さんも、営業を突き詰めるとチャレンジャーセールス ── 顧客に新しい視点や気づきを与え、あえて議論を仕掛けて主導する営業スタイル。同名の書籍で提唱された考え方ですなど様々な概念が出てくるが、その大元にあるのがSPINだと位置づけます。
まず二人は、SPINがいつ生まれたのかを確認します。これは1980年代、ほぼ40年前の本です。当時は「いかにクロージングするか」が問われた時代でした。
よく英語ではAlways Be Closingみたいなね。クロージングの強さと頻度で勝負が決まるみたいに言われてた時代から、そうじゃないんじゃないかみたいな感じで生まれてきた。
ニール・ラックナムは多くの商談を分析し、勝負はクロージングの前で決まっているという示唆を導き出しました。クロージング中心の手法では足りないと考えて編み出されたのがSPINです。
このSPINが今も信頼されている理由を、浜田さんはアメリカのビジネス書の特徴に求めます。営業のプロではなく、研究者やコンサルタントが膨大な事例を分析して書いたものが多く、説得力が違うという指摘です。
ラックナムはイギリスのシェフィールド大学で行動心理学を研究した人物で、23カ国で3万5000件以上の商談に同行して分析した、前例のない大規模調査を行いました。
3万5000商談って、何十年かかかりそうですけどね。
12年かかった。
改めてSPINとは何か。4つの質問で顧客の課題を掘り下げる
SPINは、Situation・Problem・Implication・Need-payoffの4段階で顧客の課題を掘り下げる考え方です。浜田さんが順に整理します。
Situation(状況質問)はファクトの確認、Problem(問題質問)はそのファクトを課題に言い換える段階です。ここまでは前段にあたります。
SPINのユニークさは後半にあります。Implication(示唆質問)は「その問題が続くとどうなりますか」を問い、Need-payoff(解決質問)は「解決されたらどんなメリットがありますか」を問うものです。
浜田さんが強調するのは、後半の2つを質問しながら、顧客自身の口で語ってもらうことです。「このままだと来期の事業計画が達成できない」「解決すれば株価も上がる」「自分もマネージャーになれるかもしれない」といった言葉を引き出すよう誘導していく流れが重要だといいます。
清沢さんも、初学者は状況質問と問題質問に偏りがちだが、本質は示唆質問と解決質問にあると補足します。課題の存在そのものではなく、なぜそれが重要なのか、解決にどんな価値があるのかを顧客自身に合意してもらうプロセスが大事だという指摘です。
売れる営業は質問がうまい。SPINをどう時間配分するか
清沢さんは前職時代から、売れる営業ほど質問がうまいと感じてきたといいます。無駄な質問をせず、アイスブレイクも考え抜かれているという観察です。
本当に雑談するんじゃなくて、お客さんのホームページとか見て、そこをフックに自然なアイスブレイクを引き出して、自然ともうSPINに入ってるみたいな。
一方で浜田さんは、時間配分の難しさを指摘します。アイスブレイク、SPIN、クロージングを1時間に収めようとしても、計画せずに進めると状況質問と問題質問だけで30分が過ぎてしまうといいます。
清沢さんがマネージャーから言われていたのは、SPINで1時間を考えすぎないことでした。大型商談では、1時間目はまず状況と問題の理解に充て、2回目の商談を握る前提で設計する。1時間で全部やり切ろうとしない、という考え方です。
もう一つ叩き込まれたのが、クローズドクエスチョンとオープンクエスチョンの使い分けです。状況はややオープンに聞き、問題はクローズドにシャープに聞いて課題の真意を探る、と清沢さんは説明します。
(状況は)具体的に何がその人の役割で、どういうミッションで、今どういう業務が起きてるかっていうのは、ややオープン気味に聞くことは大事ですよね。
ただし浜田さんは、バランスの難しさも付け加えます。ある程度は自分の仮説をぶつけないと、相手にとっては聞かれてばかりになってしまうからです。
尋問になると、お客さんはむしろ喋りたくなくなる。
だからこそ、お役に立ちたい、価値を提供したいという前提で質問する。そして初回商談の最初に「なぜヒアリングするのか」を伝えることが大事だと清沢さんは話します。
SPINが効く商談・効かない商談。エンタープライズとSMBの違い
SPINが最もハマるのは、エンタープライズの大型商談だと本には書かれています。二人はその力学の違いを整理します。
SMB営業では単価も高くなく、相手が経営者であることも多いため、ROIや割引といった価格が論点になりがちです。浜田さんは、社長相手にSPINを丁寧にやると「まどろっこしい」と感じられかねないと言います。
一方エンタープライズ営業では、いきなり社長と話すことはなく、各部門のマネジメントと対峙します。だからこそ「今推進すべき理由は何か」「会社のためになるか」を掘り下げ、当面の相手をしっかり動かすことが重要になります。
清沢さんは、SPINだけでは太刀打ちできない場面もあると補足します。エンタープライズでは購買関係者が多く、チャレンジャーセールスや「隠れたキーマンを探せ」といった他の概念も必要になるという指摘です。
対峙する相手の状況質問から推進理由を理解し、上席や別部門にとってのwhyもSPINのフレームで捉え、合意形成しながらクロージングまで持っていく。清沢さんはこれをエンタープライズで大事な進め方としてまとめます。
SPINが向く商材・向かない商材。新しい概念ほど効く
商材の相性についても二人は話します。浜田さんは、法制度で課題が明確な商材ではSPINは合わないと言います。例に挙げたのは、電帳法 ── 電子帳簿保存法。帳簿や取引書類を電子データで保存する際のルールを定めた法律で、要件の改正により対応が必要になりましたやインボイス制度に対応する請求書システムです。
(電帳法対応の商材は)もう課題はめちゃくちゃ明らかなわけですよね。もうどのシステムを入れるかの問題でしかない。
逆に向くのは、すぐ導入しなくても法的には問題ないが、入れた方が良くなるかもしれないDX系の製品です。競合が皆入れているわけでもない商材では、「なぜ入れるのか」を掘り下げるSPINが効いてきます。
清沢さんは前職の名刺管理を例に、SPINの必要性を実感したと振り返ります。名刺管理には予算枠がなく、月額数十万円の価値へ昇華させるには課題の引き出しが欠かせなかったといいます。
名刺というものを月額数十万する価値に昇華させていくのは、SPINのいかに課題を引き出して、解決価値があるものとして抽象化していくものが必要。
清沢さんは、immedioのプロダクトも同じタイプだと位置づけます。明確な競合が少なく、法的に今すぐやるべき理由もない商材だからこそ、状況を理解し問題を引き出す必要があるという整理です。
初回商談だけじゃない。IS・営業資料・CSでのSPIN活用
SPINは初回商談だけのものではありません。浜田さんは、インサイドセールスの段階でも使えると言います。展示会やウェビナー経由のリードに対し、IS時点で「AIでリード減っていませんか」「このままどうなりますか」と問いかける形です。
immedioではレブコマのmeetelを使い、インサイドセールスの会話をAIにSPINで評価してもらっているといいます。浜田さんはそれを見るのが面白いと話します。
清沢さんは理想の連携像を示します。ISの段階で状況質問と問題質問をしておき、フィールドセールスはその情報をもとにその場で提案し解決へ向かう、という流れです。
営業資料にもSPINは応用できます。浜田さんが例に挙げたのは、Zohoの営業資料です。サブスクリプションにならなかった企業はFortune 500から消え、なった企業は伸びていく、というストーリーが組まれているといいます。
あなたはこのサブスクリプションエコノミーに乗るんですか、乗らないんですか、みたいなのが営業資料の中にもすでにストーリーとして表れている。
浜田さんは、この資料自体がインプリケーションを踏んでいると分析します。データを持たずスポットで物を売り続けた場合の未来を問いかけ、示唆質問を資料の中で展開しているという見立てです。
さらに清沢さんは、カスタマーサクセスでもSPINは使えると言います。売る場面ではなくても、困っている顧客の状況を具体的に聞き、その人の役割や立場をヒアリングして問題を解決していく流れに当てはまるからです。
営業段階でSPINを踏んで導入してくれた顧客でも、CSの現場で対峙する相手は変わることがあります。清沢さんは、その人たちともう一度握り直す場でSPINが活きると話します。
SPINの誤解を解く。質問数でも、順番通りでもない
最後に二人は、SPINで誤解されがちなポイントを整理します。一つ目は、SPINが「質問をたくさんする営業」だという誤解です。清沢さんは、本質は質問数ではないと言います。
売れる営業が質問が多いのは、無駄に聞いているのではなく、課題解決に必要な質問を逆算して適切なタイミングで投げているからだ、と清沢さんは補足します。
営業ってほっとくとシチュエーションの質問ばっかりしちゃって、それはお客さんにとっても苦痛だから、早くお客様の課題解決につながる方の質問にシフトしていかなきゃいけない。
大事なのは、その質問が顧客自身を前に進め、課題解決につながるものかどうかです。そこを外すと、顧客はただ尋問されているように感じてしまいます。
二つ目の誤解は、SPINの順番通りに質問を並べる必要があるというものです。清沢さんは、実際の商談はそこまで機械的ではないと言います。重要なのは示唆質問と解決質問まで到達することで、丸暗記ではなく、顧客の認知状態にどう問いを設計するかが鍵になります。
浜田さんは、顧客がすでに問題を語っている場合の進め方を示します。「リードも通電数も減っている」と言ってくれるなら、「このままだと成長目標を達成できないですよね」「解決したらどうですか」と進め、案内まで一気に行けるといいます。
推進者の方が進めたいと合意できれば、じゃあどう社内説得しますかと同じテーブルに座ってシナリオを組んでいく。だからそこの切り替えをできるか。
浜田さんは、SPINの目的をクロージングを一緒に考える場づくりだと言い換えます。導入すれば会社にとって良いのは間違いない、という前提を握り、どう入れるかを一緒に考えるためにSPINがある、という整理です。
AIの時代に、人間に残された「問う」という役割
締めくくりとして、清沢さんはAIで情報が氾濫する時代だからこそSPINに立ち返る意味があると話します。原理原則でお客さんに価値提供することが大事だ、という着地です。
浜田さんは、AI時代でも営業は最も置き換えにくい仕事ではないかという説を紹介します。SPINにあるような「問う」という行為は、人間独自の役割だという見立てです。
浜田さんは、人間にしかできないことはSPINだけではなく、チャレンジャーセールスのような他のメソッドにもあると言います。今後も名著を読みながら、AI時代に人間に残された役割を考えていきたいと締めくくりました。
まとめ
SPIN営業術は40年前に生まれたフレームですが、状況・問題・示唆・解決という4つの質問で顧客自身に課題と解決価値を語ってもらうという本質は、AI時代のBtoB営業でもなお有効だと二人は結論づけます。
- SPINはクロージング偏重への反省から、23カ国3万5000商談の分析をもとに生まれた
- 初学者は状況・問題質問に偏りがちだが、本質は示唆質問と解決質問で解決価値を顧客に合意してもらうこと
- 最も効くのはエンタープライズの大型商談と、課題が自明でない新しい概念の商材
- SPINは初回商談だけでなく、IS・営業資料・カスタマーサクセスにも応用できる
- 質問数の多さでも順番通りでもなく、示唆と解決までたどり着き、一緒にクロージングを考える場をつくることが目的




