お香の材料のなかで最も高いものは?
「聴くお香ラジオ 禅こころノート」は、お香が好きすぎてお香ブランドを立ち上げた阪本琢磨さんが、お香や香りについて話す番組です。この回で阪本さんは、まずリスナーに「お香の材料で最も高価なものは何か」と問いかけます。
阪本さんによると、お香の材料はとても幅広いといいます。漢方薬やハーブ、自然素材から抽出したエッセンシャルオイル、合成香料などが香りのもとになります。
お香の材料には、香りのもと以外の素材もあります。お香を固めるための糊、香りを安定させる材料、煙の量を抑える材料、香りを閉じ込めておく材料なども使われます。
こうした材料のなかで最も高価なのは植物で、「伽羅(きゃら)」と呼ばれる木だと阪本さんは明かします。
まともなもの(伽羅)を買えば1グラム2万5000円ぐらいですかね。
伽羅は1円玉1枚ほどの重さで2万5000円前後になり、純金と同じぐらいの価格で取引されるそうです。阪本さんは続けて、伽羅がなぜこれほど高価なのかを説明していきます。
ただの木ではない、沈香が生まれる仕組み
阪本さんは、伽羅を「木ではあるけれど、ただの木ではない」と説明します。伽羅のもとになるのは、タイやベトナム、インドネシアなど、暑くて湿度の高い東南アジアに生える木です。
この木はジンチョウゲ科の一種で、高さが30メートルほどにもなる大木です。阪本さんは、種類の名前としてアキラリアなどを挙げています。
東南アジアに生えるこのジンチョウゲ科の木は、そのままでは特にいい香りはしません。枝を折ってみても、普通の木の香りがするだけだといいます。
香りが生まれるのは、この木が傷ついたり虫に食われたりしたときです。木は自分の体を守るために、人間のかさぶたのような樹液状のものを出します。
木が出したかさぶたのような部分は、抗菌や防虫のために質が変わっていきます。こうして変質したものを「沈香(じんこう)」と呼ぶと阪本さんは説明します。
ジンチョウゲ科の大木
東南アジアに生える。そのままでは普通の木の香りしかしない
傷・虫食い
何らかの理由で木が傷ついたり、虫に食われたりする
自己防衛
木が体を守るために、かさぶたのような樹液状のものを出す
沈香
抗菌や防虫のために質が変わった部分が、香りを持つ沈香になる
沈香自体は、お香の材料としてとてもよく使われているそうです。一般的なお線香にも入っていて、阪本さんの会社が販売するお香ブランド「禅こころ」の「SLEEP」にも配合されています。
産地で香りが変わる、ワインのような沈香
阪本さんは沈香を、ワインにたとえて説明します。ワインは同じブドウを使っていても、産地によって味がまったく違います。極端な例では、隣の畑のブドウでも味が変わるそうです。
ワインで産地による味の違いを指すテロワール ── ワインの世界で、土壌や気候、地形など、ブドウが育つ土地の環境がもたらす個性を指す言葉。フランス語の「土地(terre)」に由来しますのように、沈香も産地によって香りがまったく違うといいます。大まかには、インドネシア産は「タニ沈香」、ベトナムなどの産は「シャム沈香」と分けられます。
同じタニ沈香でも、グレードや採れた年によって違いがあります。安いものは1グラム10円ほどからありますが、高価なものは「とんでもない値段」になるそうです。
実際にいろんな沈香を、多分今まで50種類ぐらい試してみたんですけどね。まあ全然香りが違うという、面白いですよ。
沈香は松茸と同じように、天然ものが主流です。最近は人工的に作った沈香も出てきましたが、阪本さんの評価では香りがかなり劣るといいます。
人工の沈香について阪本さんは、「天然のものが手に入らなければ使うかな」という程度だと話します。そのため、人工の沈香はまだ主流ではないのではないか、と見ています。
沈香のなかの最高級品、それが伽羅
ここで話は伽羅に戻ります。諸説あるものの、沈香のなかでもとびきりグレードが高いものを、一般的に伽羅と呼ぶそうです。
つまり沈香と伽羅は同じ種類のもので、グレードによって呼び名が変わるということです。阪本さんは、栽培の現場を見たわけではなく、本で得た知識だと前置きしたうえで、伽羅が生まれる説の一つを紹介します。
その説によると、良い沈香を含む木が、虫食いや落雷、伐採などで倒れ、沼の中に落ちることがあります。普通の木であれば、沼の中でそのまま腐っていきます。
しかし沼の中で腐ってもなお残る部分は、香りが最も濃い部分です。そうした部分が沈香ではなく伽羅になる、という説もあるそうです。
伽羅はとにかく貴重なもので、阪本さんは「確か国際条約などで、輸入や輸出が一般的に禁じられている」とも話しています。
沈香と伽羅は香りがどう違う?
沈香と伽羅は同じ種類のものですが、香りの質は結構違うと阪本さんは言います。沈香は字のとおり「沈む香り」で、落ち着いた香りが特徴です。
ただし沈香の香りは、グレードと産地によって大きく変わります。ベトナムなどで採れるシャム沈香は甘く濃厚な香りで、インドネシアなどで採れるタニ沈香は、どちらかといえばすっきりしていて辛みがある傾向だそうです。沈香は値段が高くなるほど、香りや質が濃くなっていくのが常だといいます。
伽羅になると、香りはまた別物になります。沈香は一般に加熱しないとほとんど香りが出ませんが、伽羅は火をつける前から濃厚な香りがしているそうです。
落ち着いた香り。加熱しないとほとんど香りが出ない。シャム沈香は甘く濃厚、タニ沈香はすっきりして辛みがある傾向
火をつける前から濃厚な香りがする。焚くと、甘さや辛さ、酸っぱさ、濃厚さまでを凝縮したような香りになる
伽羅を火にくべたときの香りは、「ありとあらゆる世の中の香りを凝縮したような香り」と表現する人もいるそうです。甘さも辛さも酸っぱさも、すっきりさも濃厚さも含んだ香りだといいます。
香りの中の最も優れている香りというような言い方をする人たちもいますし、私もそういうふうに思います。
すごいね。すごいんですよ。語彙力が出てこないんですけども。
一休さんの「香十徳」にぴったり合う香り
最後に阪本さんは、一休さんの話を持ち出します。一休さんはアニメのイメージが強いものの、実在したお坊さんです。
一休さんが紹介したといわれるのが「香十徳」です。香十徳は、理想的なお香の条件をまとめたフレーズ集のようなもので、もとは四字熟語を並べた形だといいます。阪本さんは、香十徳を日本語訳で紹介しています。
阪本さんが日本語訳で紹介した香十徳の内容は、次のとおりです。
阪本さんは、香十徳の条件にぴったり合うのがまさに伽羅だと話します。伽羅はたくさん焚いてもよく、ごく少量でも香りが広がり、朝でも昼でも夜でも焚けるといいます。
伽羅は1グラム数万円もするため、阪本さんも「ぜひ試してください」とは言えないそうです。それでも、どこかで伽羅に出会う機会があれば試してみてほしい、と締めくくっています。
まとめ
お香の材料で最も高価な伽羅は、東南アジアの木が傷を守るために生んだ沈香のなかでも、とびきりグレードの高いものです。産地や質によって香りが大きく変わる沈香の頂点にあり、火をつける前から香り、香十徳の条件にもかなう素材として紹介されました。
- 伽羅はまともなものなら1グラム2万5000円ほどで、純金並みの価格になる
- 沈香は、ジンチョウゲ科の木が傷や虫食いから身を守るときに質が変わってできる
- 沈香と伽羅は同じ種類で、最高グレードのものが伽羅と呼ばれる
- 沈香は加熱しないと香りが出にくいが、伽羅は火をつける前から濃厚に香る
- 一休さんが紹介したといわれる香十徳の条件に、伽羅はぴったり合うと語られた

