コロナ禍で失われた「弱い紐帯との会話」
2020年、コロナ禍によって対面での仕事ができなくなり、一気にリモートワーク化が進みました。
オンラインビデオツールやチャットが発達したことで、ミーティングや業務連絡はなんとか回るようになりました。
しかし、その中で失われたものがあると、タカハシさんは指摘します。それが職場での「弱い紐帯との会話」です。
近年はオフィス回帰の波が来て、だいぶオフィスに戻った感覚がありますが、その理由の一つもここにあるのではないかと話されています。
弱い紐帯とは何か
1973年、マーク・グラノヴェッターが「弱い紐帯の強み」という有名な理論を発表しました。
人とのつながりには、強い紐帯(強いつながり)と弱い紐帯(弱いつながり)の2種類があるという考え方です。
強い紐帯は、毎日顔を合わせるような関係のこと。家族や、いつも一緒に働く同じチームがこれにあたります。
親密で信頼は厚い一方、同じ情報や価値観を共有しているため、情報が閉じやすい傾向があります。
弱い紐帯は、たまにすれ違う他部署の人や、ちょっとした知人、コミュニティの仲間などです。週に1〜2回会うかな、というイメージです。
こうした弱いつながりは、自分たちの輪の外にある新しい情報や、予期せぬ相談、チャンスを運んでくる架け橋になります。だからこそ、新しいアイデアやイノベーションのきっかけとして注目されました。
毎日会う家族や同じチーム。信頼は厚いが情報が閉じやすい
他部署の人や知人。輪の外の情報やチャンスを運ぶ架け橋になる
Microsoftの研究が示したもの
この弱い紐帯が、リモート化によって消えてしまったという研究があります。
2022年、Microsoft社の大規模研究によって、あることが実証されました。
全社リモートで、同じチーム内の連携、つまり強いつながりは維持・強化されました。一方で、他部署との連携、つまり弱いつながりは激減したのです。
つまりコロナ禍のリモートワーク化によって、弱い紐帯がもたらす偶発的な効果を失ってしまった、ということになります。
喫煙所というハブ、少人数という限界
タカハシさん自身も、弱い紐帯の効果を実感してきたと振り返ります。30代の頃、成長中のベンチャー企業に勤めていた時のことです。
組織が拡大し部署の壁ができかける中、当時は喫煙所が弱いつながりのハブとして機能していました。
今はタバコ吸ってないんですけれども、当時は僕もタバコを吸ってましたし、喫煙者多かったですよね。そこが役職や部門を超えたインフォーマルなつながりの場として機能していました。
その後、10人未満の小さな企業に転職すると、人数が少ないため全員が強い紐帯でした。すると、新しい情報や予期せぬチャンスはあまりなかったといいます。
また、心理的安全性が全くない職場に勤めていた時は、偶発的な対話が生まれる余白そのものがなかったとも語られています。
なぜリモートで弱い紐帯は生まれにくいのか
リモートワークになると、強い紐帯、つまり用がある関係は維持できます。Zoomやチャットでやりとりできるためです。
一方で弱い紐帯は難しくなります。隣の部署のあまり関係がなさそうな人に、いきなりZoomやチャットで連絡するのは起きづらいからです。
用件がなければ連絡しづらい。このツールの構造こそが、弱いつながりの機会を減らしてしまった原因だと整理されています。
オンラインで余白を設計する工夫
ただし、オフィスに出社しないとイノベーションが起きない、と決めつける必要はありません。オンラインでも機会を生み出す工夫はできます。
ノンプロ研では、Zoomではなく、いつでも音声でつながれるDiscordというツールを使っています。集まる人たちが日々雑談や情報交換を活発にできている印象があるといいます。
チャットでも「独り言チャンネル」があり、用がなくてもつぶやいてよい場所になっています。つぶやきにスタンプやコメントで反応が起き、緩いやりとりが生まれています。
一見用がなさそうな人どうしが緩く関係を持てる場づくりは、オンラインでもできる。タカハシさんはそう提案します。
まとめ
リモートワークで用件のある会話は回るようになった一方、弱い紐帯とのちょっとした会話は消えてしまいました。原因はツールの構造にありますが、オンラインでも余白を設計する工夫は可能です。
- 弱い紐帯は、輪の外の新しい情報やチャンスを運ぶ架け橋になる
- Microsoftの研究では、リモート化で強いつながりは維持され、弱いつながりは激減した
- 用件がなければ連絡しづらいツールの構造が、偶発的な会話を減らしている
- 常時つながれる音声や、用がなくてもつぶやける場で、オンラインでも緩いつながりは設計できる




