「うちの業界にAIは来ない」は本当に安全?
最初の相談は、製造業で開発の仕事をしているリスナーからです。AIをうまく使えないままだと市場価値が下がるのでは、という不安が寄せられました。
製造業で開発業務に携わってますが、AI活用がうまくできてません。このままではAI活用できない人材になり、市場価値が下がってしまうのではないかと不安です。AI活用しやすい分野への転職を考えるべきでしょうか?
いすけ さんからの質問
番組のAIの答えは「転職は不要。これから価値が下がるのはAIを使えない人ではなく、AIが答えを知らない現場を持っていない人だからです」。
この答えに、けんすうさんは「活用できた方がいい気もしますけどね」と少し首をかしげます。箕輪さんも「わからない」としたうえで、AIにできない領域が日に日に減っていることを指摘しました。
だからそれが一番危険だと思う。自分たちの業界はAIが来ない業界だっていう考え方が一番危険で。
そんなんある日突然そんな取って代わられるから。AIに取って代わる合理性というか、経済合理性があれば、誰かが開発しちゃうから。
箕輪さんによると、寿司屋やマッサージのような仕事も、フィジカルAI ── ロボットなど物理的な体を持ち、現実世界で動作するAIのこと。製造や物流、介護などでの活用が期待されていますが出てくれば、いずれ代わられる可能性はあります。それでも人間が残るとしたら、開発費をかけるより人間がやるほうが安いから、というだけの理由です。
一方、製造業の開発業務のように世界中に広くある仕事なら、AIは入ってくるだろうと箕輪さんは見ています。けんすうさんも、カメラ3台で撮っていた撮影が、1台の映像から何アングルも生成できる技術ですでに置き換わりつつある、と聞いた話を紹介しました。
AIを駆使する人なら生き残れるのか
箕輪さんは、AIの波を前にしても「AIを駆使する人が生き残る」とも思わない、と続けます。けんすうさんが例に挙げたのはライターの仕事です。
例えばライターさんでAI駆使してたくさん記事書けますって言っても、(編集者が)取材して、もうAIに書かせればいいやになったら来ないですもんね、仕事。
箕輪さんは、ライターが生き残ろうと編集者になって企画立案から担っても、今度は企画立案もAIでいいとなる、と話を進めます。けんすうさんが「ただ編集長だけでよくなりますよね」と応じ、話はさらに上の層へ移っていきました。
ライター
AIに記事を書かせればいいとなり、仕事が来なくなる
編集者
企画立案もAIでいいとなる
編集長
AIエージェントを使いこなせば、理論上は1人で足りる
最終決裁者
経営者やお金を出す人だけが残る
箕輪さんは、幻冬舎 ── 見城徹さんが1993年に創業した出版社。文芸書からビジネス書まで幅広く刊行し、箕輪さんもかつて在籍した編集者として知られますで言えば、そこまで単純ではないとしつつ、理論上は見城さんがAIを使いまくれば1人でいい、と話します。作家との関係づくりはまだAIには難しいものの、かわいい犬のAIに頼まれたら小説を書いてしまう作家もいるかもしれない、と冗談まじりに付け加えました。
みたいな風に考えると、究極最終決済者しかいらんよね。
けんすうさんも、最近見たグラフを紹介します。アインシュタインのような天才と普通の人の差も、AIから見れば誤差程度になり、編集がうまい・下手もいずれ差にならなくなるという見立てです。
見城さんが求めるのは、わかってくれる「人間」
箕輪さんは今まさに、見城徹さんの新刊『敗者の凱旋』を作っています。この本のメッセージはかなり入り組んでいて、ストレートに伝わる人はおそらくいない、と箕輪さんは話します。
見城さんは学生運動の時代、重信房子 ── 日本赤軍の元最高幹部。1970年代に中東を拠点に活動し、国際手配を経て2000年に逮捕、2022年に刑期を終えて出所しましたらが世の中の不平等を正そうとしていた空気の中で「この世はおかしい」と言っていました。けれど自身は普通に就職し、批判していた資本主義の世界で成り上がった。だから自分は敗者で、ただ死ぬ瞬間だけ凱旋したい、という構図の本だといいます。
『憂鬱でなければ仕事じゃない』や『たった一人の熱狂』のような、シンプルな成長のメッセージとは違うのが難しいところです。箕輪さんはこの日、朝7時ごろから見城さんと電話でゲラ作業をしていました。
そこで何の編集技術もないですよ、僕は。ただ言ってることを理解して、ああ確かに確かにここいらないですねみたいな。
そしたらLINEで「俺のことを一番わかってくれてるのは箕輪だよ」って来て。
箕輪さんは、こうした作業もおそらく技術的にはAIでできると認めます。そのうえで、少なくともこの何十年かは「人間にわかってほしい」と思う人がいる、と考えています。
75歳の見城さんに「AIのほうが僕より優秀なので」と言っても、AIと対話しようとはならないはずです。人間を求める人に人間を提供する役割は時代の境目ではまだ残りそうな一方、業務として名前がついている仕事はかなり入れ替わる、と箕輪さんは見ています。
AIの企画がつまらない理由は「意外性」の欠如
けんすうさんは、アイデアの面ではAIはまだ全然足りない、と感じています。枠の中で一番いいアイデアは出せても、少し枠の外のものは出てこない、という実感です。
そこで箕輪さんが持ち出したのが、山口周 ── 独立研究者・著作家。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』などの著書で、ビジネスと美意識・人文知を結びつける議論で知られますさんの新刊に出てくる4象限です。アイデアを「意外性」と「納得性」の有無で分ける考え方です。
本づくりで言えば、中身の8割は納得性があって意外性がない文章でかまいません。けれどタイトルや一番言いたいところは、びっくりがないと売れないので、人間の経験や物事をひっくり返す発想が必要になる、という話です。
倫理とか常識から飛び越えて言うっていうのは、AIって変に真面目な賢いやつみたいな感じだから言わないんだよね。
けんすうさんも、AIに見城さんの本を考えさせたら「経歴を話して成長譚を語り、あなたも成功できます」という本を勧めがちだろう、とうなずきます。箕輪さん自身、執筆が進まない『無様に生きろ』無様に生きろの本のテーマを30個AIに考えさせたところ、本当につまらなかったそうです。
では「枠の外に出て」と指示すればいいのかというと、けんすうさんは「飛び越え方が下手」だと言います。枠の外が広すぎてとっかかりを失い、突拍子もないだけになりがちです。
一番やっぱ平均的なものを出すのが超得意なので、なんか方向性作ってあげないとやっぱりダメだし。
逆に言うと、さっきのでいうと30個のテーマ、箕輪さんが出して、その中身書くは結構できると思いますね。
つまり、テーマは人間が飛び越え、中身はAIに任せるという分担が見えてきます。
「人間性で生きろ」は変わった人向けの助言
ではAI活用に悩む相談者はどうすればいいのか。けんすうさんが「AIが苦手そうな枠の外のことをやる」とまとめかけると、箕輪さんが待ったをかけます。
みんなそう言うじゃないですか。結局そういう結論なんですよ。これから人間臭さだとか。そんなの無理じゃない?毎回言ってるけど。
どこに転職する?演劇とか行くってこと?
けんすうさんも、自分や箕輪さんが特殊な立場にいるから言えることで、普通の会社員はそもそもそんなことを求められてこなかった、と認めます。
箕輪さんはここで、祖母の葬式の帰りの車で聞いた家族の会話を話します。兄が「この公園よく来てんだよ」と言い、母が「大きいの?」と聞き、「大きくはないけど、そんなちっちゃくもない」と返す。そんな普通の会話が延々と続いていたそうです。
AI時代、人間性、タレント性で生きろなんて、変な人に向けて、変な人でもできないようなことを言っていて。
兄に「YouTubeとか出てるのか?」と聞かれ、甥には「ヒカキン好きって言いなよ」と話す。ヒカキンの面白さを分析し始める人のほうがおかしい、と箕輪さんは笑います。
けんすうさんも、タクシー運転手と「最近ずっと雨だったけど、今日晴れてよかったですね」という話で15分盛り上がったエピソードを披露しました。箕輪さんは、昔のビジネス書時代の自分なら「雑談の勉強をしたほうがいい」と思ってしまう、と振り返りつつ、それこそが会話なのだと話します。
結局、「人間は人間性を追求すべきだ」という2人がよく言う話は、9割の人には意味不明かもしれない、という結論に。けんすうさんの「じゃあ頑張ってくださいってことですね」で、1つ目の相談はやや投げやりに締めくくられました。
多彩な器用貧乏は、何に絞ればいい?
2つ目の相談は、中小企業のコンサルをしながら副業でスタートアップでも働く人からです。
相談の要旨: 中小企業のコンサルをしながら、副業のスタートアップでAIのシステム開発や事業計画などを手がけている。経験が多岐にわたり何屋かわからないため、目の前の仕事をこなすだけでいいのか、明確な強みに絞り込むべきか迷っている。多彩な器用貧乏で終わってしまうのではないかという不安がある。
夢人 さんからの質問
番組のAIの結論は「絞り込むべき」。減らすのは仕事の種類ではなく、どんなときにこの人を呼ぶかを1つに決める、という回答です。
けんすうさんは、ビジネスパーソンが本を出そうと思ったら箕輪さんが思い浮かぶような状態はいい、と賛同します。箕輪さんは絞ることも大事だとしたうえで、別の道も示しました。
器用貧乏な人は、器用貧乏な自分を自分がやりたいことに使うっていう次のフェーズに行くしかないような気がして。
例に挙がったのは、箕輪さんのオンラインサロン「箕輪編集室」でデザインからホームページ、文章、アプリまで手がけてきたアザミさんです。秩父の横瀬に住むアザミさんは、その力を生かして横瀬で旅館を始めました。
困ったら呼ばれる箕輪編集室の何でも屋。デザイン、ホームページ、文章、アプリまで担当
横瀬で旅館を経営。ホームページやデザイン、キャッチコピー、AIを使ったダイナミックプライシングまで自分のために使う
箕輪さんとしては何でも屋の仕事を頼めなくなったものの、アザミさんの生き方としては絶対に正解だと話します。けんすうさんも、ゲームを作ってコミュニティを運営し研修として売るイケハヤさんの例を挙げ、器用でないとできない働き方だと続けました。
「あの人でいいか」と呼ばれる座りの良さ
けんすうさんは、多彩な器用貧乏が今後めちゃくちゃ増える可能性を指摘します。社内にも動画編集も経理もできる人がいて、仕事はどんどん増えていくそうです。
逆に言うとそういう器用貧乏な人をもう一回採用しようかっていうと、別にあの人でいっかになっちゃうっていうのが多くてますね。
AIを使えば動画編集やサムネイル作りもできてしまうので、器用な人は1人で全部こなせます。そこで、どんなときに呼ばれるかという基準がわかりやすい、と話は戻ります。箕輪さんが「何々といえば」になる方法を尋ねると、けんすうさんは「座りがいい」という言葉で答えました。
けんすうさんは、LINEヤフー元会長の川邊さんの対談に呼ばれた例を挙げます。普通のアナウンサーでは足りず、箕輪さんやひろゆきさんでは強すぎてもったいない。主催者は9割を川邊さんに話してほしく、1割の質問のスパイスがほしい。その条件に合うのがけんすうさんだった、というわけです。
箕輪さんも、前澤さんの大型ヨット「ナウシカ」を雑誌『ゲーテ』が特集する際、インタビュアーにと指名されました。前澤さんや熊谷さん、見城さんの大きな仕事に呼ばれるのは、インタビュー技術より「現場の安心」のためだと話します。
ライターAさんが、俺が裏でイヤホンで操って言ってても、多分「なんでこいつはこんな質問すんだ」ってなると思う。
同じ質問でも、誰が言うかで受け止め方が変わる、という話です。
何か考えがあるはずだと受け取られ、「そもそもお金ってね」と話が始まるかもしれない
「その次元の話はやめましょう」と退けられる
箕輪さんは、この違いの正体を、その人の蓄積や実績、失敗も含めた歴史が共有されていることだと考えています。
有名すぎて外される仕事もある
一方で、座りの良さは万能ではありません。けんすうさんは、これから売れそうな若手の取材などには箕輪さんは絶対に呼ばれない、と指摘します。
この前著名なサッカー選手の本をお願いしたいって言われて、「著名な編集者以外で」って言われたことがあって。
箕輪さんはそもそも、コーディネートはしても自分が編集したとは言わないほうがいい、と自分から伝えるつもりだったそうです。「この人まで箕輪と組むの?」となり、いつものパターンに見えてしまうからです。
さらに箕輪さんは、ベテランちさんとはよく食事をするものの、表ではあまり絡まないようにしていると明かします。東大理三で文学もできるベテランちさんの謎めいた魅力が、箕輪さんと絡むと一瞬でキャラ消費されてしまうから、という理由です。
なんかヤクザと一般人が表で会わないように、すれ違っても会釈だけするようなもんで。
有名だからこそ失うチャンスもあれば、無名だからこそ掴めるチャンスもある。けんすうさんも、あえて何もわかっていなさそうな新人を呼びたい場もある、と同意します。自分の座りのいいポジションを見つけることが大事だ、という話で今回は締めくくられました。
まとめ
今回の2つの相談からは、AIに置き換わらない場所は「業界」ではなく、意外性のある発想や、人に呼ばれる文脈の中にある、という見方が浮かび上がりました。ただし、人間性で勝負しろという助言が誰にでも当てはまるわけではない、という率直な視点も印象的な回です。
- 「うちの業界にAIは来ない」と考えるのが一番危険で、経済合理性があればいずれ置き換わる
- AIは納得性はあるが意外性のない当たり前のアイデアが得意で、枠を飛び越える部分は人間が担う
- 「人間性で生きろ」は変わった人向けの助言で、9割の普通の人には難しいかもしれない
- 器用貧乏は仕事の種類より「どんなときに呼ばれるか」を絞り、自分発の仕事に器用さを使う
- 座りの良さは蓄積や実績の共有から生まれるが、有名すぎて外される場面もある


