新聞オワコンの時代に地方紙を斜め読みし合う番組が始まった
この番組は、地方紙が大好きな二人が、お互いの地元紙を斜め読みし合うポッドキャストです。瑞穂さんは「新聞オワコンの時代に」と前置きしつつ、その面白さを届けたいと語ります。
これはもう本当に、一人でも聞いていただければありがたい。
一人でも聞けば、もうそこに輪ができているってことですよね。
扱うのは、山梨日日新聞と長崎新聞のローカル記事です。収録は8月頭ですが、取り上げるのは前月7月の記事だと説明されています。
番組が始まったきっかけは、ナム子さんが最近になって地方紙の面白さに目覚めたことでした。瑞穂さんの音声配信に出演した際、その話で盛り上がったといいます。
地方紙を見ながら赤ペンでここつけ、って見つけてたら、これやばいよね、もう。
山梨と長崎という組み合わせは珍しく、二人とも身の回りに相手の地元の人がいないと話します。だからこそ、文化圏が離れた同士で語る面白さがあるという方向で意見が一致しました。
お寺は均質化する世の中の「最後の砦」
瑞穂さんは、ネットで情報がどこでも触れられるようになり、世の中が均質化していくなかで、お寺こそがローカルの象徴だと考えていると話します。
ナム子さんは最近まで新聞をあまり読んでいませんでしたが、急に読み始めて今は毎朝読まないと気持ちが悪いほどになったといいます。長崎ではこの時期、原爆や戦争関係の記事が毎日のように載っていると話します。
前日には一面に、ナム子さんの知人の母親が初めて原爆の証言をした記事が載っていました。90代で聴覚も弱り「最後だと思って」と語ったその人に、ナム子さんはすぐ連絡したそうです。
こうやって読んでもらえたら嬉しいし。もう九十何歳のお母さんで、「最後だと思って」みたいな感じで。
新聞や町の広報紙を読むと、上の世代とのコミュニケーションが生まれる。表彰された人に「有名人」と声をかけると喜ばれる、といった具体的な効用が語られました。
山梨のお寺と長崎のお寺、二人の自己紹介
ここで二人が改めて自己紹介をします。瑞穂さんは山梨県南アルプス市の宝厳寺の住職で、宗派は日蓮宗。お寺の住職をしながら、民泊宿坊やポッドキャストなども手がけています。
ナム子さんは長崎県大村市の浄土真宗寺院の坊守です。坊守とは住職の配偶者を多く指す役職で、お寺を守るという意味があります。坊守 ── 浄土真宗などで、住職の配偶者としてお寺を支える立場を指す言葉。もともとは寺を守る役割を意味する。その頭文字がローマ字でBMなので「BMなむこ」というアカウント名で活動しています。
二人は7、8年ほど前からの知り合いで、実際に会ったのは1年近く前に東京で一度だけ。そのときのイベントが、周囲のポッドキャストの起点になったと振り返ります。
いつか9月15日、うちで(大村で)なんかポッドキャストフェスやりたいとか思ったりしてますけど。
二人には「オンラインでは小柄に見えて、会うと意外と大きい」という共通点もありました。瑞穂さんは180センチ、ナム子さんは166センチだそうです。
4、50代は「いない」ことにされている?投稿欄という狙い目
二人はこの番組で、地方紙の読者投稿欄に載ることを目標にしたいと話します。
ナム子さんによれば、投稿欄は70代以上のコーナーと、10代の若者のコーナーに分かれていて、その間の世代が抜け落ちているといいます。忙しくて投稿しないと思われているのではないか、と分析します。
十代の声以上、以下というか以外になると、急にすごい高齢者ばっかりなわけよ。
ナム子さんは、ギリギリ40代の自分でも読んでいると驚かせたいと語ります。地方紙が4、50代を対象にしていないと感じるからこそ、そこに何が欠けているのかを真剣に考えたいという問題意識です。
ナム子さんは自らを「オンライン女」と呼びつつ、その情報収集の仕方に行き詰まりを感じたと話します。振り子がネット側から地方紙側へ振れた感覚だといいます。
今こそ地方紙だっていう、なんかふとこう直感が降りるタイプなんで。
瑞穂さんは、地方紙にはアルゴリズムに汚染されない偶然の出会いがあると応じます。セレンディピティ ── 予期しない偶然から価値ある発見をすること。ここでは、狙って探していなかった記事にたまたま出会う面白さを指している。
一方でナム子さんは、スマホの時代なのに記事にQRコード一つ載っていないことに疑問を呈します。詳細情報へすぐ飛べれば便利なのに、と。この「QRコードがない」問題は、この後も繰り返し話題に上ります。
クビアカツヤカミキリ、山梨の桃農家が厳戒態勢
いよいよ本題の記事紹介へ。瑞穂さんが最初に選んだのは、外来種のカミキリムシの記事でした。
特定外来生物のクビアカツヤカミキリの成虫が、7月15日に山梨県甲州市の桃・すもも畑で発見されたという記事です。クビアカツヤカミキリ ── 中国などが原産の外来カミキリムシ。特定外来生物に指定されており、幼虫が桜や桃、すももなどの樹木の内部を食い荒らすため、果樹への被害が問題になっている。
17日の県の調査では、市内の別の桃畑でも幼虫が木の内部を食い荒らした痕跡が見つかりました。繁殖力が非常に強く、他県では桃やすももなど1万本以上の被害が確認されているといいます。
昨日会った農家の人には、8月頭のうちに農薬散布をするよう指導が来ているそうで、農家は戦々恐々としていると瑞穂さんは伝えます。
これ山梨(の新聞)載ってますね。注意喚起。
このカミキリムシは平成24年に愛知県で確認され、急速に拡大しているとのこと。大きいものは4センチほどあり、人間に害はないものの木を食い荒らします。ナム子さんは気候変動との関連を気にしていました。
トンボが70キロ飛んだ。長崎の記事も同じ7月15日の「虫」だった
続いてナム子さんが選んだ記事も、なんと虫でした。しかも同じ7月15日の記事で、二人はその偶然に驚きます。
すごくなんか神がかってない?これ一回目に。
記事は、長崎バイオパークの伊藤園長が続けているウスバキトンボの全国マーキング調査についてのものです。マーキングした個体が、長崎から約70キロ離れた福岡・糸島で見つかりました。ウスバキトンボ ── 日本で「お盆トンボ」とも呼ばれる、お盆の時期に多く飛ぶトンボ。長距離を移動する習性があるとされるが、その実態はよくわかっていない。
この園長はこれまで3万7800匹以上にマーキングをしてきました。糸島で見つかった個体には「くびさんななきゅう」と書かれており、発見者がNHKの番組を見ていて園長に連絡したそうです。
伊藤園長は、連絡があった時に「宝くじに当たったかのような喜びだった」って。
マーキングは、油性マジックのようなもので羽に直接手書きされています。瑞穂さんは、書く方法も見つける人もすごいと驚きます。
いや、すごい羽に直書きなんだと思ってびっくりしました。
この長距離移動の確認は、東京から神奈川、熊本から宮崎に続く全国3例目でした。トンボが県をまたいで6、70キロ移動できるという発見です。園長は皆から「ホモサピエンスの中で一番トンボを捕まえたのではないか」と言われるほど熱心な人物だといいます。
園長は蝶のアサギマダラも30年前から調査しており、記事では自身を大谷翔平選手に例えていました。
蝶とトンボの二刀流で頑張ってる、って。
同じ7月15日、同じ虫でも、山梨は「注意喚起」、長崎は「解明に向けて」という対照的な記事でした。ナム子さんは、こうした話題はSNSでは自分の興味に合わず回ってこないと話します。
桃農家への被害を防ぐための注意喚起。繁殖力が強く農薬散布の指導も出ている
70キロの長距離移動を確認した明るい発見。園長が「宝くじに当たったよう」と喜ぶ
山梨や長野に「昆虫食」の文化はある?
カミキリムシの話から、ナム子さんが山梨や長野に虫を食べる文化があるのではと尋ねます。瑞穂さんは山梨ではコオロギは食べないと答えます。
検索してみると、昆虫食で注目されているのは長野の伊那谷でした。長野には昆虫の缶詰があり、長崎でも買えるとナム子さんは話します。
背景として、海がなく魚が獲れにくい土地でタンパク源を確保するために虫を食べていた、という説が語られました。ただし、クビアカツヤカミキリを食べようという話ではなく、検索した二人は「とても食べられない」と笑います。
甲府で県内初の「酷暑日」。でも最近急に暑くなったわけではない
間をつなぐ軽い話題として、瑞穂さんが酷暑日の記事を紹介します。今年から新たに設けられた酷暑日にあたる40度が、7月25日に甲府で観測され、県内初となりました。酷暑日 ── 最高気温が40度以上の日を指す呼び名。気象庁が2025年から情報発表に用い始めた区分で、猛暑日(35度以上)よりさらに暑い日を表す。
山梨で40度は8年ぶりで、意外と記録されていませんでした。過去最高気温の40.7度は2013年で、瑞穂さんは「最近の方が暑い気がしていたが、結構前からずっと暑い」と気づいたと話します。
長崎―宮崎の高速バス廃止。ネットでは出会えなかった身近なニュース
ナム子さんが選んだのは、長崎と宮崎を結ぶ高速バスが廃止されるという記事です。
ナム子さんのお寺では、住職の姉が宮崎在住で、このバスに乗ってこないと来られない人でした。廃止後は佐賀で乗り換えたり、宮崎から福岡へ飛行機で飛んでから来たりする必要が出てくるといいます。
山梨から石川へ行くのが大変なのと同じで、地図上では近く見えても宮崎と長崎は意外と行き来しづらい、と二人は距離感を確かめ合います。
本当に僻地なんですよ、宮崎。意外と。
ナム子さんはこの記事を読んですぐ姉に連絡し、相手は「知らなかった」と言ったそうです。ネットをいくら見ても、宮崎の記事は自分に関係なく出てこなかっただろうと振り返ります。
その、アルゴリズムって大したことなくないかもよって思っちゃった。
ここでも、トンボやバスの詳細サイトへQRコードですぐ飛べないのはなぜか、という疑問が繰り返されます。調べてみると、山梨日日新聞にはウェブ記事への誘導や情報提供のQRコードが多数あり、長崎新聞には見当たらないという差が見つかりました。
地方紙の記事サイトは有料で、見出ししか読めないことも多いと瑞穂さんは指摘します。ナム子さんは、新聞でネット情報を知ったのだからこそ、QRコードを載せてほしいと感じたと語ります。
高校2年生がペタンク日本代表に。地方紙だから載れる快挙
瑞穂さんが次に選んだのは、甲斐清和高校2年の岡田さんがペタンクの世界ジュニア大会に日本代表として出場するという記事です。ペタンク ── フランス発祥の球技。小さな目標球に向かって金属製のボールを投げ、いかに近づけるかを競う。ヨーロッパでは手軽なスポーツとして親しまれている。
瑞穂さんはペタンクを、小学校でグラウンドゴルフと一緒にやった競技だと説明します。赤い小さな球を投げ、砲丸のような重いボールをそれに近づける競技だといいます。
なんか地味ね。地味すぎる。
岡田さんの祖父母はどちらもペタンク選手で、祖父は全日本優勝経験のある小沢一雄さん、祖母は日本ペタンクシングルス選手権を制した洋子さんという、いわばペタンク界のサラブレッドでした。
岡田さんは祖父母の薫陶を受け、中学2年頃から本格的に競技に参戦。ジュニア競技が盛んな埼玉の教室に通って力をつけたそうです。
瑞穂さんは、東京の高校2年生のペタンク代表なら新聞には載りにくいだろうと言います。山梨だからこそ地方紙に載れる、と地方紙ならではの手の届きやすさを語りました。
山梨だから新聞に載れるっていう。地方最高だっていう。
ゼンリンの観光アプリ「ストローカル」がやたらお得
ナム子さんが最後に選んだのは、地図大手ゼンリンが作った観光型アプリ「ストローカル」の記事です。MaaS ── Mobility as a Serviceの略。移動や観光にまつわるサービスをアプリ上でまとめて扱う仕組みを指す。
このアプリでは、対象施設のチケットを最大30パーセント引きで購入できます。長崎では「ぐるっと割キャンペーン」が実施中で、ペンギン水族館やバス一日乗車券などが割引になるといいます。
割引はかなり大きく、九十九島うみきららが1470円から1030円に、軍艦島上陸ツアーが最大6000円から4200円になるなど、登録だけで100ポイントもらえる特典もあります。
あまりにもお得感があったんで、長崎に来たい人、まずこれダウンロードしとかないともったいないぞっていう話。
このアプリは九州から始まっており、長崎は35施設と特に力が入っている一方、山梨では使える施設が見当たらなかったといいます。ゼンリンは北九州の会社だと二人は知ります。
瑞穂さんは、ゼンリンがGoogleマップに押されるなか、地図に個人名が載らなくなった時代の「次のゼンリン」を探っているのではと推測します。地元とのつながりが強いからこそ、こうした割引が実現できるのかもしれないと二人は語りました。
新聞もお寺も、これからどうなるかわからないという点で似ている。ナム子さんは、だからこそ地方紙に惹かれているのかもしれないと締めくくります。
だから惹かれてんのかも。結構すごいポッドキャストになるかもしれない。
まとめ
山梨と長崎という文化圏の離れたお寺の二人が、地方紙を斜め読みし合う番組の初回。偶然にも揃った「虫」の記事から、酷暑日、高速バス廃止、ペタンク日本代表、観光アプリまで、地方紙ならではのローカルな話題が並びました。根底には、アルゴリズムでは出会えない偶然の情報の面白さと、新聞もお寺も先が読めない時代への共感がありました。
- 山梨と長崎、離れた土地の地方紙を斜め読みし合う番組で、初回は偶然どちらも「虫」の記事だった
- 同じ7月15日でも、山梨のクビアカツヤカミキリは注意喚起、長崎のウスバキトンボ70キロ移動は明るい発見と対照的
- 高速バス廃止のように、身近で大事なニュースはネットのアルゴリズムでは出会えないと二人は実感している
- 高校2年のペタンク日本代表など、地方紙だからこそ載れる快挙に手が届く面白さがある
- 記事にQRコードが少なく詳細サイトへ飛びにくい点に、二人は共通して疑問を感じている





