「血圧が安定している」は誰の目線の言葉か?
たいぞーさんは、薬局で在宅医療や外来患者対応に取り組みながら、社内の新人育成や研修講師も務める薬剤師です。今回の放送では、薬剤師が患者を語るときに薬学の言葉を使うことを「かなり大切な作法」だと話しています。
たいぞーさんが例に挙げるのは、降圧剤を服用している患者さんです。直近の血圧を確認したところ、値が安定していたというケースを想定します。
このとき「血圧が安定している」と患者さんに伝えたり、薬歴 ── 薬剤師が患者ごとに記録する服薬の履歴や指導内容の記録。処方内容、副作用の有無、相談内容などを残し、継続的な服薬管理に使いますに残したりすることは、間違いではありません。たいぞーさんも、一般的でごく自然な見方だとしています。
ただ、たいぞーさんによると「血圧が安定している」という言葉は、表向きには病気の状態を評価しているようにも聞こえます。医師によっては、薬剤師が診断をしているという、あらぬ誤解につながることもあるといいます。
(血圧が安定しているという言葉は)表向きにこうパッと見てみると、病気の状態を評価しているようにも聞こえてしまいます。
薬剤師の頭の中で本当に評価しているもの
たいぞーさんは、服薬情報提供書 ── 薬局の薬剤師が、患者の服薬状況や気づいた点を医師に文書で伝えるための書類。トレーシングレポートとも呼ばれますなどを書いて医師に出す際には、こうした誤解を生まないようにすることも大事だと考えています。
では、薬剤師が「血圧が安定している」と言うとき、頭の中では何を考えているのか。たいぞーさんは、今処方されている降圧剤がこの人に対してちゃんと薬効を示している、という評価をしているはずだと話します。
血圧が安定している(病気の状態を評価しているようにも聞こえる)
処方されている降圧剤が、この患者さんにきちんと薬効を示している
この言い換えでは、観察している事実は同じでも、評価の対象が病気から薬へと移っています。
たいぞーさんは、患者さんの血圧という結果を見ながら、そこに薬がどう関わっているかという因子を読み解くことこそが、薬学で患者を語る行為そのものだと表現しています。
薬の視点を一枚挟んで患者さんを見ると、薬学的なアセスメント ── 患者の状態や情報を集めて分析し、問題点や必要な対応を評価すること。医療職が判断の根拠を整理する際に使う言葉ですを自然に行えるようになる。たいぞーさんは、これを自身の実践の中で感じているといいます。
回りくどさが「なぜ」を動かす
たいぞーさんも、薬の視点をあえて挟む表現は、一見すると回りくどい言い方や伝え方になりうると認めています。そのうえで、その回りくどさこそが「めちゃくちゃ大事」だと話します。
理由は、薬の視点を意図的に挟んでおくと、患者さんの状態が改善しないときに、その原因として薬が影響していないかという思考が自然に始まるからです。
なんでこの人の血圧改善せえへんのやろうなということ。で、そのなぜというところに薬が影響していないかという思考が勝手に動き出すんではないかなというふうに思います。
たいぞーさんは、血圧が目標値に届いていない場合、薬の影響だけでも考えられることは本当に様々あるとして、いくつかの視点を挙げています。
| 視点 | 考えられること |
|---|---|
| 薬効 | 薬がちゃんと薬効を示していない |
| タイミング | 作用のタイミングが測定のタイミングとずれている |
| 他の薬の影響 | 別の薬が血圧の値に影響して邪魔をしている |
| 服薬状況 | そもそも飲めていないので作用していない |
| [[相互作用]] | 他の薬との相互作用で血中濃度が変動している |
たいぞーさんによると、こうした薬学的な視点は、薬という情報を間に一枚挟んで患者さんを見ることで、自然に浮かび上がってくるといいます。
当たり前の思考を言葉にする意味
たいぞーさんは、薬剤師はこうした思考を頭の中で自然に行っているため、あえて言葉にしない人も多いのではないかと話します。
一方で、その思考を言葉にすることで、当たり前にやっていることを当たり前として実践でき、どの患者さんにも抜け漏れなく薬学的な視点で見ることができるようになる、というのがたいぞーさんの考えです。
さらにたいぞーさんは、薬剤師が自分の考えを薬学の思考で言語化していけば、薬剤師ならではの視点から見える患者さんの姿を捉えられると話します。それが医療の中に薬学を取り込み、患者さんの治療をより良くすることにつながるのではないか、と締めくくっています。
薬剤師が患者さんを見る時に、薬学の視点をきちんと回りくどくてもかませる、それの意味が一つ大事だなということが伝わる放送になっていれば嬉しいなというふうに思います。
まとめ
今回の放送でたいぞーさんは、「血圧が安定している」を「降圧剤が効いている」と捉え直す例を通じて、薬の視点を挟んで患者を語ることの意味を示しました。回りくどく見える言い方が、医師への誤解を防ぎ、改善しないときの「なぜ」を薬学的に考えるきっかけになると話されています。
- 「血圧が安定している」は、病気を評価している、つまり診断をしているように聞こえることがある
- 薬剤師が評価しているのは、処方された降圧剤がその人に薬効を示しているかどうか
- 薬の視点を挟むと、改善しないときに薬効・タイミング・服薬状況・相互作用などの問いが自然に浮かぶ
- 当たり前の思考を言語化することで、どの患者にも抜け漏れなく薬学的視点を向けられる



