焼き餃子の香りは、どこから来ている?
聴く餃子の今回の回は、#科学系ポッドキャストの日への参加回です。10月のホストは「技術者かねまるのプラントライフ」さんで、テーマは「におい」でした。
小野寺さんはまず、焼き餃子の香りの出どころを大きく2つに分けます。1つ目は焼き目の香りで、メイラード反応 ── 糖とアミノ酸が加熱によって反応し、褐色の色と香ばしい香りを生む化学反応。パンの焼き色やコーヒーの焙煎香、肉の焼き目などで起きていますによって黄金色の焼き色やパリパリの食感とともに生まれます。
メイラード反応による香りは、餃子以外でも一般に「美味しい香り」と感じられるといいます。小野寺さんはパンの焼き目、焙煎したコーヒー、味噌を例に挙げています。
2つ目は、餡に包まれた香味野菜の香りです。代表はニンニクで、ほかにニラ、生姜、ネギなどがよく使われます。
ニンニクについては、番組の♯121で「切ったりすりおろしたりして細胞が壊れたときに香りが出る」という話をしたと振り返っています。
メイラード反応で、焼き色や食感とともに生まれる香ばしい香り
ニンニク、ニラ、生姜、ネギなど。細胞が壊れると香りが出る
餃子の香りはこの2つだけではありません。餡を練るときの醤油やお酒といった調味料、肉そのものの香りも加わります。それでも代表選手は焼き目と香味野菜だ、というのが小野寺さんの整理です。
鼻から吸う香りと、口から抜ける香りの違いとは
香りやにおいは鼻で感じるもの、と考えがちです。けれど小野寺さんによると、鼻への香りの届き方にもいくつかの種類があります。
焼き上がった餃子をお皿に移すとき、ふわっと香ばしい香りが立ちます。小野寺さんが「餃子は自分で焼いたほうが美味しい」とよく話すのは、この香りを楽しんでほしいからだそうです。
(皿に移すときの)この香りは鼻から吸い込んでいる香りですね。うん、これは当たり前ですよね。
一方で、餃子を口に入れて噛み、飲み込むときにも、もう一度香りを感じます。こちらの香りは、口の中から喉の奥を通って鼻へ抜けています。
鼻の穴から吸い込む香り。皿に移すときに立つ餃子の香りなど
口の中から喉の奥を通って鼻へ抜ける香り。噛んで飲み込むときの香り
この香りはレトロネーザルの香りだとかって、こういうちょっと言葉をね、当たり前に使えると通っぽく聞こえるとは思いますので、ぜひね、使ってみてください。
小野寺さんによると、私たちが「味」だと思っているものには香りが大きく影響していると言われています。日本の研究では、鼻をつまんで食べるとパクチーの風味がわかりにくくなったという結果が出ているそうです。
風邪で鼻が詰まると何を食べても味がしない、という経験も同じ話だといいます。香りを感じられないと味がしない、という点から、小野寺さんは次のようにまとめます。
香りが鼻に届くのは、飲み込んだ瞬間だった?
口から鼻へ抜けるレトロネーザルの香りは、口に入れている間ずっと鼻に届いているわけではありません。小野寺さんによると、香りが届くのは喉の奥へ抜けたときです。
根拠として紹介されたのは、2001年にドイツの研究チームが、食べている人をX線とMRIで撮影した研究です。
このドイツの研究によると、噛んでいる間は舌と上顎の奥の柔らかい部分が壁になり、香りを口の中に閉じ込めています。香りが鼻へ抜けるのは、飲み込むときなどのタイミングだけだそうです。
噛んでいる間
舌と上顎の奥の柔らかい部分が壁になり、香りを口の中に閉じ込める
飲み込む瞬間
壁が開き、香りが喉の奥から鼻へ抜ける
香りを感じる
餃子の香りがレトロネーザルとして鼻の奥でふわっと広がる
餃子に当てはめると、かじって噛んでいるときより、飲み込んだときのほうが香りがふわっと鼻の奥へ抜けていく、と小野寺さんは説明します。
もう1つ面白いのが、口の中の香りを、脳は「口で味わっている」と受け取るという話です。2005年の研究では、同じ香りを鼻から入れた場合と口の中から入れた場合で、脳の反応が比べられました。
香りってことは、口の中からプシュッて入れても、当然脳の鼻を担当する部分が反応するだろうと思いきや、口の中から入れた時には脳の中で口を担当する部分が反応したっていうことなんですね。
鼻から入れた香りでは脳の鼻を担当する部分が反応し、口から入れた香りでは口を担当する部分が反応した、という結果です。小野寺さんはこれを「香りを口が味わっている」と表現しています。
さらに、味と香りの組み合わせは記憶されていくといいます。知っている食べ物の香りを口の中で感じると、味としての記憶が呼び起こされ、香りが口の中で感じやすくなるという研究も紹介されました。
小野寺さんの結論は、餃子の味には香りも含まれていて、鼻だけでなく口でも感じる香りだということです。
鼻をつまんでも残る「記憶」と「刺激」とは
においが苦手な食べ物を、鼻をつまんで食べる人もいるかもしれません。小野寺さんによると、鼻をつまんでも何かを感じてしまうのには、いくつか理由があるそうです。
1つ目の理由は、脳の記憶です。小野寺さんは、2001年のフランスの研究を紹介します。
このフランスの研究では、白ワインににおいのない色素で赤い色をつけ、54人に飲んでもらいました。すると全員が、赤ワインの香りを表す言葉で表現したそうです。目から入った情報で、脳が香りを勘違いしたというわけです。
来るぞ来るぞ、餃子の香りが来るぞっていう風に脳が待ち構えている。だから鼻をつまんでも、舌で感じる味ってのはね、残っちゃうんですね。
小野寺さんは、餃子を食べたことがない人なら「何のにおい?」となるかもしれない、とも付け加えています。脳の記憶があるからこそ、餃子を知っている人には香りが立ち上がる、という見方です。
2つ目の理由は、辛さやピリッとくる刺激です。小野寺さんによると、これはにおいでも味でもなく、神経への刺激だといいます。
人の口や鼻、顔の皮膚には三叉神経 ── 顔の感覚を脳に伝える大きな神経。目・上顎・下顎の3方向に枝分かれしていることから、この名前がついていますが通っていて、その神経の先が化学物質を感じています。本来は刺激物や毒から体を守るための、痛みや熱さのセンサーだそうです。
人間は、この三叉神経のセンサーが起こす辛さを、好んで食べるようになりました。唐辛子の場合、辛味成分カプサイシン ── 唐辛子に含まれる辛味成分。口の中の熱や痛みを感じる受容体を刺激し、辛さとして感じられますを受け取るセンサーは、もともと火傷するような熱さに反応するものだったそうです。
このカプサイシンのセンサーを研究したジュリアス博士は、2021年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。英語で辛いものを「ホット」と言うように、神経から見ても「辛い」は「熱い」なのだと小野寺さんは説明します。
餃子に関係が深いのは、ニンニクの辛みです。生のニンニクを舌にのせるとピリッとしますが、これも唐辛子と同じ仕組みで、ニンニクの成分が口の痛みのセンサーを刺激しています。
ところが、焼いてホクホクになったニンニクには、このセンサーが反応しないそうです。そのため、ニンニクの切り方で餃子の味わいが変わります。
火が届かない生の部分が残り、ニンニクのピリッとした辛みも残る
辛みをできるだけ減らし、ニンニクの甘みや香ばしさが残る
もう1つの例は、餃子に使うことはそれほど多くない山椒です。山椒の「しびれ」は、小野寺さんによると触覚だといいます。
山椒のしびれ成分であるサンショオール ── 山椒に含まれる成分。舌や唇の神経を刺激し、ビリビリと振動するようなしびれの感覚を引き起こしますは、皮膚の神経を刺激して、ピリピリと振動するような感覚を起こします。唇に山椒を当てるとピリピリするそうなので、試してみてほしいと話しています。
山椒はしびれだけでなく、香りも持っています。もともとミカンの仲間で、香りを分析するとレモンのような柑橘系の香りがするそうです。
山椒には、花から作る花山椒、青い実から作る実山椒、熟した実の種を除いて粉にした粉山椒などがあります。収穫のタイミングや作り方で、香り方も変わるといいます。
このセクションの締めくくりとして、小野寺さんは、香りは鼻だけでなく、肌や顔の神経も使って感じているのではないか、とまとめています。
しびれが主役の「麻辣生餃子」はどんな餃子?
今週のお取り寄せ餃子は、京都・東山三条のマルシン飯店の「麻辣生餃子」です。マルシン飯店は昭和52年創業の中華料理店で、今も行列ができる東山の人気店だそうです。
現在は創業者の長男である前川龍四郎さんが、先代の後を継いで餃子を作っています。
マルシン飯店の通販では、先代からの味を受け継ぐ野菜多めのスタンダード「マルシン餃子」と、前川さんが開発した「熟成豚肉生餃子」が二枚看板です。熟成豚肉生餃子には、京都の熟成肉の名店・中勢以の熟成豚肉が使われています。
そのマルシン飯店から今年新しく出たのが、麻辣生餃子です。辛みだけでなく、しびれがしっかり効いているのが特徴で、小野寺さんは前川さんからお中元としていただいたそうです。
いや、これ(麻辣生餃子は)しびれが好きな人はむちゃくちゃ好きだと思います。
今までね、激辛餃子みたいな辛い餃子っていうのが多かったんですけど、しびれを強調した餃子ってなかなか意外となかったなと思うぐらいですね。
餡にも良いお肉が使われていて、ベースの餃子そのものがしっかり美味しいといいます。そこにしびれと辛みがしっかり入り、ご飯が欲しくなる餃子だと小野寺さんは勧めています。
香りの分子は、なぜ油に溶けるのか?
番組の後半は、香りを餃子に残すための工夫がテーマです。小野寺さんはまず、においの分子はそもそも油になじみやすい、という前提から話を始めます。
人の鼻の中には、においをキャッチするセンサーが396種類あるそうです。1つのにおいがいくつかのセンサーに反応することで、どんなにおいかを見分けているといいます。
そのにおいの分子の多くは、水よりも油に溶けやすい性質を持っています。小野寺さんは、ラー油を水に落としたときの様子を例に挙げます。
ラー油を水の上にポトンと落としても、この赤い色っていうのは水の方に移っていかないですね。油のまま浮いた状態です。
唐辛子の赤い色も辛みも香りも、水ではなく油に溶けます。そして、香りは油に溶け込むと外に出にくくなる性質もあるそうです。
小野寺さんによると、香りを含む油の粒が小さければ空気に触れる面が大きくなり、香りが出やすくなります。逆に、たっぷりの油の中に入っている場合は、香りが出にくくなります。
ここで豆知識として、焼き餃子協会の「美味しい餃子勉強会」の話が紹介されました。「餃子を美味しくする香り」がテーマの回に、餃子屋はまだの濵田篤志さんがゲスト講師として来たそうです。
濵田さんは、大葉の香りをよく出すために細胞を壊す、と話していたといいます。方法は、刻んだ大葉をお椀のようにくぼませた手のひらにのせ、もう片方の手のひらで拍手するようにポンとたたくというものです。
大葉をたたく方法では、空気の衝撃で細胞が壊れ、香りが出やすくなります。大葉だけでなく山椒にも使えるそうなので、餃子を作る人は香りを出したいときに試してほしいと小野寺さんは話しています。
餃子は、油で香りを運ぶ料理だった?
香りが油に溶ける性質は、餃子のあちこちで使われています。小野寺さんは、餡、焼くとき、食べるときの3つの場面に分けて説明します。
まずは餡の中の油です。市販の餃子の原材料には、豚脂、ラード、ごま油がよく入っています。餡を練るときには、ニンニクや生姜などの香味野菜の香りもその油に溶け込んでいきます。
いわゆる「肉汁」についても、小野寺さんは補足しています。肉汁と呼ばれるものは肉の脂だけでなく、ごま油や香味野菜の汁、香りも一緒に運んでくれているといいます。
次は焼くときの油です。小野寺さんがいつも勧めるのは米油で、香りが強くないため餃子の味をより引き立ててくれるそうです。
一方で、中華料理店などでは仕上げにごま油を使うことがよくあります。餃子から立ち上る香りを増し増しにしてくれる、という効果です。
宮崎の古くからある餃子店の一部では、ラードで焼くそうです。昔は米油やサラダ油が手に入りにくく、豚の生産量が多かったため、豚の脂のほうが手に入りやすかった、という話を小野寺さんは聞いたといいます。
ラードで焼く餃子は、焼いている最中からラードの香りで食欲が刺激されます。焼くときの油の香りは、餃子に非常に残りやすいそうです。
最後は食べるときのフレーバーで、ラー油や醤油にも香りがあります。ラー油とお酢は、本来なら水と油のように混ざらない組み合わせです。
それでも、お酢と油は乳化 ── 本来混ざらない水と油が、片方が細かい粒になってもう片方に分散した状態になること。マヨネーズやドレッシングが代表例ですによって混ざりやすくなる、と小野寺さんは説明します。お酢の話は番組の♯115でも扱ったそうです。
油の粒が小さくなるほど、香りが出てくるスピードは速くなります。そのため、ラー油はお酢と混ぜることで香りを感じやすくなる、というのが小野寺さんの説明です。ラー油単体とお酢を混ぜたときとで香りが変わるので、試してみてほしいと話しています。
| 場面 | 使われる油 | 香りの役割 |
|---|---|---|
| 餡の中 | 豚脂、ラード、ごま油など | 香味野菜の香りを溶かし込み、肉汁と一緒に運ぶ |
| 焼くとき | 米油、仕上げのごま油、ラードなど | 焼いている最中や立ち上る香りを足す |
| 食べるとき | ラー油(お酢と合わせる) | 乳化で油の粒が小さくなり、香りを感じやすくなる |
焙煎ごま油と太白ごま油、ラー油の「砂」の正体は?
ごま油には、実は2種類あると小野寺さんは話します。香りの良い茶色い焙煎ごま油と、透明で香りがほとんどない太白ごま油です。
焙煎ごま油は、ごまを焙煎して火を通し、冷やして、蒸して、絞って、ろ過する、という流れで油を取り出すそうです。あの香ばしい香りは焙煎で生まれ、焼き餃子の焼き目と同じメイラード反応によるものです。
太白ごま油は、焙煎していない生のごまをそのまま絞って作ります。メイラード反応が起きていないため、色も香りもほとんどなく、熱に強くて焦げにくい性質が残るそうです。
焙煎したごまから作る。茶色で、メイラード反応による香ばしい香りがある
生のごまをそのまま絞る。透明で香りが少なく、熱に強く焦げにくい
太白ごま油は米油と同様に、餃子を焼くのに向いた油だといいます。少し高いのが難点だそうです。
小野寺さんのおすすめの覚え方は、最初に太白ごま油、仕上げに焙煎ごま油です。こう覚えると、2種類のごま油の違いも頭に入りやすいと話しています。
最後の話題はラー油です。ラー油は、熱した油にネギ、生姜、ニンニク、八角などを入れて香りを移し、さらに唐辛子と一緒に加熱するなどして辛みも移して作ります。こうして香りを移した油を香味油と呼ぶそうです。
中華料理店のテーブルに置かれた自家製ラー油の瓶の底には、細かい粒がたまっていることがあります。一般には「砂」と呼ばれるもので、ラー油を作るときに使ったスパイスや唐辛子の残りの粒です。
もうラー油より僕はどっちかって砂の方が好きっていうぐらいですね。この砂、美味しいので、もしね、見かけたらぜひ試してみてください。
ラー油の底の砂は、餃子にのせてもチャーハンにのせても美味しいと小野寺さんは勧めています。
鼻だけじゃない、全身で感じる餃子のにおい
エンディングで小野寺さんは、この回の内容を振り返ります。においは鼻だけでなく、口の中で香り、顔で辛みを感じ、皮膚でしびれを感じ、記憶からも呼び起こされるものだといいます。
元々ね、人間のね、生存のためにこういった匂いを使って生きてきたんでしょうけども、それがね、餃子の方にもうまく使われているということで、ぜひ餃子の匂いもこれからも楽しんでいただきたいなと思っておりまして
小野寺さんは「におい」というテーマが出てすぐに飛びついたそうです。#科学系ポッドキャストの日では、ほかの番組もにおいをテーマに話していて、ハッシュタグ検索やSpotifyのプレイリストから聴けると紹介しています。
この回で紹介した研究などの論文は、エピソードの概要欄にリンクが載っています。香りの研究はとても数が多く、どれも読んで面白かったそうです。
餃子を食べるときに、改めて香りを体で感じてみると面白いのではないか、と小野寺さんは呼びかけています。
餃子ポーカーで子どもたちは何を学ぶ?
「一言本音」のコーナーでは、宮崎県高鍋町での授業の話が紹介されました。小野寺さんはこの週末に高鍋町を訪れ、今年の義務餃育の授業で「餃子ポーカー」を行うそうです。
餃子ポーカーのルールは、8枚のカードから5枚を選んで役を作るというものです。役には肉と野菜を必ず入れる決まりがあり、カードには原産地が書かれていて、原産地がそろうと得点が高くなります。
ゲームを通じて、餃子の食材がどんなところで作られているのか、なぜ同じ原産地がそろうと得点が高いのかを考えてもらう狙いがあるといいます。
今年はSDGsも意識しているそうです。廃棄するような食材を使って餃子を作ると、翌年にジャパン餃子大賞カードがもらえ、カードの交換チャンスが増える、といった仕掛けも入れています。
カードの枚数は、複数のAIを使って1000回ほどシミュレーションしながら調整したそうです。小野寺さんは、今年も子どもたちの歓喜の声が聞けるのではないかと楽しみにしています。
まとめ
餃子の香りは、焼き目と香味野菜を主な出どころに、鼻から吸うルートと口から抜けるルートで届きます。さらに脳の記憶、顔の神経が感じる辛さやしびれ、香りを運ぶ油が重なって、餃子の「におい」ができていることが紹介されました。
- 焼き餃子の香りの代表は、メイラード反応による焼き目の香りと、ニンニクなどの香味野菜の香り
- 香りには鼻から吸うオルソネーザルと、口から鼻へ抜けるレトロネーザルがあり、口の中の香りは飲み込むタイミングで鼻に届く
- 鼻をつまんでも感じるのは、脳の記憶と、三叉神経などが感じる辛さやしびれの刺激によるもの
- においの分子は油に溶けやすく、餃子は餡・焼き油・ラー油などの油で香りを運んでいる
- 焼くときは太白ごま油、仕上げに焙煎ごま油。自家製ラー油の底の「砂」も美味しい


