国家試験を解き直す中で見つけた「気になる記事」
たいぞーさんは、薬剤師国家試験を実務に生かすセミナーを開催するにあたり、2日間集中して国家試験の問題を解いたと話します。
学生との違いは、試験ではないためわからないことをその場で調べられる点でした。問題を解きながら「これってどうだっけな」と気になる内容を調べていったそうです。
その調べ物の途中で、ある診療所の医師が書いているブログ記事に行き当たりました。内容は薬剤師の疑義照会に関するものでした。
医師のブログに書かれていた「食前か食後か」のすれ違い
そのブログで取り上げられていたのは、ある薬を食後服用で処方したところ、薬剤師から疑義照会がかかったという場面でした。
この薬の保険適用は食前なので、食後ではなく食前に用法変更をしていただきたい
保険適用に従った疑義照会であること自体は、ブログを書いた医師も理解していました。しかし医師には別の懸念があったと書かれています。
医師は、食前服用にすると患者が飲み忘れてしまうことを心配していました。飲み忘れれば薬が体に入らず、薬物治療の一歩目すら踏み出せないという考えです。
そのため、食前より効果が落ちるのは承知の上で、飲めないよりはよいと判断し、飲み忘れなく飲める食後で処方していたといいます。
(食後で飲む方が)飲めないよりはいいだろう
医師としては、まず治療を少しでも前に進めたい。だから食後のまま飲み忘れなく飲んでほしい。それが薬剤師にはなかなか理解されない、という趣旨がブログには書かれていました。
たいぞーさんは、この薬剤師と医師の視点の違いを考察した内容について、全く理解できないことはないと受け止めています。
薬剤師と医師は「違うところ」を見ているのか
たいぞーさんがここで感じたのは、疑義照会の場面で薬剤師と医師の視点がずれることは往々にしてある、ということでした。
患者の薬物治療を前に進めることを考えている
薬を適正に使うことを考えている
薬を適正に使うことは、結果的に患者の治療がうまくいくことにつながります。つまり両者は全く違うところを見ているわけではありません。
ただ、見ている角度が違うため、違う見え方になってしまう。たいぞーさんはそこにすれ違いの原因があると考えています。
同じ内容でも「伝え方」で疑義照会は変わる
だからこそ、疑義照会をするときには医師の視点ときちんと目線を合わせることが重要だと、たいぞーさんは話します。
今回の食前・食後の用法について言えば、添付文書に食前と記載があり、保険適用上も食前で使う規定になっています。そのため「食前に変更してください」という疑義照会そのものは、なんら間違っていません。
ただ、医師の視点に立つと、同じことを言っていても全く違った伝わり方になるのではないか、とたいぞーさんは指摘します。
問題の本質は、食前を守らず食後で飲むと吸収が落ち、医師が望む治療効果に向かえなくなることです。そこを伝えるべきだと考えます。
吸収率の低下から「そもそも要るのか」まで踏み込む
たいぞーさんが提案する伝え方は、単に用法の規定を示すだけではありません。食後で服用すれば飲み忘れは減るかもしれないが、その分吸収率が下がる、という点から話を組み立てます。
吸収率が下がるなら、この薬を「食後で少しでも飲めたらいい」という形で飲む必要性は極めて低くなる。むしろ食後でも服用できる別の抗生剤に変える方がよいのではないか、という提案につなげます。
この薬は食前で服用することが望ましいとされているんだけれども、食後で服用すると吸収率が何パーセント低下してしまう
(食後でも飲める抗生剤は)他にもあるわけなので、他の種類に変えて使用するのも一案ではないかなと思うんですが、どうでしょう?
こうした形で疑義照会を行えば、医師も違った視点や考えを持って判断できるようになるのではないか、とたいぞーさんは話します。
医師は治療がうまくいくと思っていても、臨床試験のデータを踏まえると治療への貢献が考え難い結果になることもあります。それを共有した上で、ごくわずかな効果を期待して使うかどうかは医師の病態の見立てによる、とたいぞーさんは述べます。
薬効をそこまで落としてまで使うなら、そもそもその抗生剤が要るのか。別の抗生剤でしっかり効かせる方が治療にとって効果的ではないか。そうした気づきを、医師と薬剤師がお互いに得られるのではないかと語ります。
「何を伝えたいか」だけでなく「相手が何を見ているか」
同じことを伝えるにしても、相手が見ている目線でこちらも情報を共有しなければ、届けるべき情報は相手に届かない。たいぞーさんは、薬剤師の仕事でそう感じる場面が往々にしてあると振り返ります。
自分たちが何を伝えたいのかももちろん大切ですが、相手は何を見ているのかという視点を混ぜ合わせた情報提供の仕方を考える必要がある、というのがこの回の要点です。
理屈や理論だけでは物事はうまくいかない。ブログの記事から、情報を伝えるときの目線合わせの重要性を改めて実感したと、たいぞーさんは話しています。
せっかく薬を飲んで治療をするのであれば、より効果的な治療を受けてもらいたい。そのために医師と目線を合わせ、伝えるべきことを伝えながら連携していきたい、という思いで締めくくられました。
まとめ
疑義照会は、規定に沿って正しく行うだけでは医師に「伝わる」とは限りません。薬剤師と医師は同じ患者を見ていても角度が違うため、相手が見ている目線に合わせて情報を組み立てることが、実際に情報を届ける鍵になります。
- 薬剤師と医師は違うところを見ているのではなく、見ている角度が違うため見え方がずれる
- 保険適用や添付文書に沿った疑義照会でも、規定を示すだけでは医師に届きにくい
- 用法の規定より「吸収率が下がり治療効果に向かえない」という本質を伝える方が目線が合う
- 吸収率低下を踏まえ「別の抗生剤に変える」など、医師が判断しやすい選択肢を添える
- 「何を伝えたいか」だけでなく「相手が何を見ているか」を混ぜた情報共有を意識する



