「先生には言いづらい」残薬の背景には何がある?
薬剤師のたいぞーさんは、薬局で在宅医療や外来患者の対応をしながら、社内の新人育成や研修講師、勉強会やセミナーの開催にも取り組んでいます。今回のテーマは、薬の飲み残し、つまり薬が余ることについての話です。
たいぞーさんによると、薬局では「薬が余ってきている」として、薬の数の調整を頼まれるケースがよくあるといいます。
残薬が生まれる理由はさまざまです。予約のタイミングが前後して処方日数とずれ、それが積もり積もって余ってくる人もいれば、単純に飲み忘れが続いて薬が残ってしまう人もいます。
受診予約のタイミングが前後し、処方日数との差が積み重なって薬が余る
飲み忘れが続いた結果、薬が手元に残っていく
飲み忘れが続いている患者に多いのが、医師には言えずに薬局で打ち明けるケースだといいます。
先生には言いづらくてなかなか言えへんくてねっていうので、実は(薬が)残ってるんよっていうようなことを言われるような方が多いです。
たいぞーさんは、この気持ちはよくわかると話します。医師が頭を振り絞って治療戦略を組み立ててくれたのに、その通りに飲めていないとなると、怒られそうだという不安が勝ってしまうからです。
飲めていないことを隠すと、治療はどう狂うのか
一方でたいぞーさんは、飲めていないことを医師に伝えない状況を「大きな落とし穴」だと捉えています。
飲めていないことを伝えずに診察を受けると、医師は薬を飲んでいる前提で患者の状態を見立て、治療を組み立てます。その結果、治療設計そのものがずれたものになってしまいます。
たいぞーさんは、飲めていない状態が続くだけなら「百歩譲っていい」としたうえで、問題は飲み始めたときに起こると指摘します。
たとえば本人が一念発起して薬を飲み始めたり、自宅で飲めていないと知った家族が介護支援を入れて飲める体制を作ったりした結果、治療効果が思ったより強く出すぎて体調を崩す人が、実際の現場にもいるといいます。
飲み忘れを隠す
飲めていないことを医師に言わずに診察を受ける
誤った前提での処方
医師は飲んでいる前提で見立て、治療を組み立てる
飲む体制が整う
本人の決意や家族・介護支援で、急に薬を飲めるようになる
効きすぎによる体調不良
治療効果が想定より強く出て体調を崩す
「飲んでいない=効いていない」とは限らない理由
たいぞーさんは、治療のずれとは別に、もう1つ大事なポイントがあると話します。それは、飲めていない度合いによって、薬が体にどれくらい働いているかが変わるという点です。
薬のタイプや特性によって、飲み忘れが治療にどれほど影響するかは異なります。その見極めをしないことも、治療方針を見誤る原因になるといいます。
例として挙げられたのが血圧の薬です。血圧の薬には体の中で長く作用するものも多く、ある程度の頻度や間隔の飲み忘れであれば、効果がある程度持続するケースもあります。
飲んでいないイコール薬が効いていないというような見立てで考えてしまうと、また治療の方針を見誤ってしまうことにもつながってしまいます。
つまり飲み忘れの問題は、「飲めていない」という事実だけでなく、薬の特性を踏まえて飲み忘れを捉えることが欠かせないということです。たいぞーさんは、ここに薬剤師の大きな役割があると考えています。
薬剤師は残薬をどう読み解くのか
たいぞーさんによると、薬剤師の専門性である薬学 ── 薬の作用や体内での動き、安全な使い方などを研究する学問。薬剤師はこの知識をもとに調剤や服薬指導を行いますでは、薬が体の中でどう働くかとともに、どのくらいの時間作用するのかを理解するための勉強をしています。
そのため薬剤師は、飲み忘れの頻度と薬の特性を照らし合わせて、患者の状態を読み解くことができるといいます。
ある程度の飲み忘れがあっても、効果が持続した上で今の状態になっていると見られる
これだけ飲めていなければ、体ではほとんど効いていないと判断できる
医師に直接、飲めていないと伝えることも治療方針を立ててもらうためには重要です。ただ、たいぞーさんは、忙しい診療の合間に医師がそこまで正確に判断するのは、なかなか難しい現状もあるのではないかと話します。
薬局は「残った数の伝言役」ではない
たいぞーさんは、薬局で飲めていないことを伝えてもらう意味を、単なる伝言とは考えていません。
医師にただただ残ってる薬の数を伝える、それを伝える代行者としての役割を薬局の薬剤師が担うわけではなくて、
今の症状に対して薬がどの程度保たれたものになっているのか、なので治療をどのように組み立てていったらいいのかという下地になる情報を踏まえて、医師に(飲めていないことを)伝えることができる
薬局の薬剤師が患者と医師の間に入ることで、残薬の数だけでなく、治療を組み立て直す材料を医師に渡せる点に大きな意義があるといいます。
残っている薬の数をそのまま医師に伝える伝言役
薬の効き具合と症状を踏まえ、治療の組み立ての下地になる情報として医師に伝える
たいぞーさんは、患者が言いにくいと感じる「飲めてない」という一言を、治療の質を左右するだけの重みのある情報だと表現しています。
薬を余らせたときには、その背景に必ず理由があります。理由を正しく理解し、薬の特性を踏まえて治療の道筋を見直すきっかけとして、患者には薬局や薬剤師をうまく使ってほしいと、たいぞーさんは呼びかけます。
同時に薬剤師に対しては、ただの数の伝達役にならず、薬の特性と体の状態、薬の影響を見極め、医師と情報連携しながら患者の治療をより良くしていく必要があると話しています。
まとめ
薬の飲み忘れは隠したくなるものですが、たいぞーさんは、それを医師に伝えないことこそ治療方針を誤らせるリスクだと指摘します。さらに、飲み忘れの影響は薬の作用時間によって異なるため、薬学の知識をもつ薬剤師が間に入って読み解くことに意味があると語られました。
- 飲み忘れを医師に伝えないと、飲んでいる前提で治療が組み立てられ、後で薬を飲み始めたときに効きすぎることがある
- 血圧の薬のように長く作用する薬もあり、「飲んでいない=効いていない」とは限らない
- 薬剤師は、飲み忘れの頻度と薬の特性から、薬が体でどの程度効いているかを見極められる
- 薬局は残薬の数を伝えるだけの伝言役ではなく、治療を組み立て直すための情報を医師に届ける役割を担える



