学会発表の準備で見えた「専門性を使う」の中身
たいぞーさんは、日頃から「薬学で患者を語る際には薬学の専門性を使おう」と発信しています。今回は、その「専門性を使う」とは具体的にどういうことなのかがテーマです。
この話をしようと思ったきっかけは、週末に新潟で開催される日薬の学術大会 ── 日本薬剤師会が開催する学術大会のこと。薬剤師が研究や症例報告を発表し、情報交換を行う場ですで、たいぞーさんが症例報告のポスター発表を予定していることです。
たいぞーさんはポスターの中で、ある患者さんに介入する際、薬学的にどうアセスメントしながら対応したのかを整理しています。その作業を通して、患者さんをうまく見立てるための思考プロセスを改めて言語化できたといいます。
こういう思考プロセスの中で、こういう風に薬学の専門性を使っていくと、うまく患者さんのことを見立てられるなというようなことを改めて整理する機会がありまして。
患者を見立てる「3つのコア学問」と薬理学の役割
たいぞーさんによると、薬学部で学ぶことのうち、患者を見立てる上で思考プロセスのコアになる学問は3つあります。薬理学、薬物動態学、そして製剤学です。
1つ目の薬理学は、薬が体のメカニズムをどう変化させ、良くも悪くも影響するのかを学ぶ学問です。たいぞーさんは、薬理学の知識があることで、患者さんの状態と薬の作用機序の関係から、効果や副作用の有無を考えられると説明します。
たいぞーさんが強調するのは、表面に現れた症状という「現象」だけでなく、体の中で起こる変化として見極められる点です。
この症状があって、この症状があって、この症状がないということは、薬が影響している可能性は少し低いかもしれないなということであったり。
つまり、単一の症状に対して薬の影響が「ある・ない」を決めるのではなく、複数の症状の組み合わせから、可能性の大小でつまみを調整するように見立てていくということです。
単一の症状で判断する見方と、複数の症状から可能性を測る見方の違いは、次のように整理できます。
単一の症状を訴えられ、それに対して薬の影響があるかないかを二択で判断する
複数の症状が揃っているか、欠けているかを見て、薬が影響している可能性の大きさをつまみのように調整する
薬物動態学と製剤学を重ねると何が見えるのか?
2つ目の薬物動態学について、たいぞーさんは、体の中での薬の動き、つまり吸収・分布・代謝・排泄の流れを見る学問だと捉えています。
たいぞーさんによると、吸収・分布・代謝・排泄の過程がスムーズに流れていることは、薬が体の中できちんと作用していることを示す一つの指標になります。そのため、その流れを滞らせる要素がないかを確認することが大切だといいます。
さらに、吸収・分布・代謝・排泄の過程が強まったり弱まったりすると、薬の作用も強くなったり弱くなったりします。その増強や減弱が、効果や副作用として跳ね返って現れてくることもあります。
過程の変化
吸収・分布・代謝・排泄の過程が強まる、または弱まる
作用の増減
薬の作用が強くなったり弱くなったりする
現れ方
効果や副作用として患者さんの体に跳ね返って現れる
たいぞーさんは、この薬物動態の視点を薬理作用と兼ね合わせることで、薬が影響している可能性の大小を、さらにつまみを調整するように見極められると話しています。
3つ目の製剤学は、薬の製剤設計に関する知識です。体に入って徐々に溶け出して作用する薬もあれば、すぐに溶けて吸収され即効性を持つ薬もあります。
たいぞーさんは、同系統の薬と比べて化合物の構造の違いにより、作用が持続しやすい、より強く作用しやすいといった変化が起こる例も挙げます。製剤学の知識は、薬理作用と薬物動態の双方に影響を与える要素として役立つといいます。
たとえば、ある副作用が薬理作用として起こりうるとわかっていても、「なぜこの人に起こったのか」という疑問が残ることがあります。その場面で製剤設計の知識を使えば、吸収・分布・代謝・排泄がどう調整され、どんな時間的推移で作用したのかを見極めていけると説明されています。
3つの学問がそれぞれ見立てに果たす役割は、次のようにまとめられます。
| 学問 | 見ているもの | 見立てでの役割 |
|---|---|---|
| 薬理学 | 薬が体のメカニズムをどう変化させるか | 症状の組み合わせから効果や副作用の可能性を測る |
| 薬物動態学 | 吸収・分布・代謝・排泄の流れ | 作用の増強・減弱から影響の度合いを見極める |
| 製剤学 | 薬の製剤設計や化合物の構造 | なぜその人にその症状が、その時間経過で起きたかを考える |
たいぞーさんは、3つの知識を単独で使うのではなく、一人の患者さんの体の中で起こる薬による変化を、互いに照らし合わせながら考えることが重要だとしています。そして、知識を相互に照らし合わせて考えることこそが、いわゆる薬学的アセスメントだと話しています。
「薬学で患者を語る」は社会にどうつながるのか
たいぞーさんにとって「薬学で患者を語る」とは、薬理学・薬物動態学・製剤学の知識を総合的に用いて、薬剤師ならではの視点で患者さんの体を見立てていくことです。日薬のポスター発表の準備を通して、自分が日々そう実践していると改めて整理できたといいます。
たいぞーさんは、薬剤師ならではの視点で患者を見極められるようになると、薬剤師人生8万4000時間 ── たいぞーさんが番組冒頭で使う言葉。薬剤師として働く生涯の労働時間をおおよそ表した表現ですが面白く、やりがいのあるものになると話します。
さらに、薬剤師が面白くやりがいのある仕事をすることは、患者さんの薬物治療を良くすることにもつながります。医師が自身の専門的な力をより発揮できるよう協力し、社会にとって薬剤師がより良い仕事をすることにもつながっていくといいます。
見立て
薬剤師ならではの視点で患者を見極められるようになる
やりがい
薬剤師としての仕事が面白く、やりがいのあるものになる
治療の改善
医師と協力し、患者さんの薬物治療がより良くなる
社会
薬剤師が社会にとってより良い仕事をすることにつながる
たいぞーさんのポスター番号はP42番です。新潟の学術大会に参加する人には、抄録で演題を探してポスター会場に来てほしいと呼びかけています。
専門性を磨いてもキャリアにつながらない課題とは
最後に、たいぞーさんは来年2月14日に兵庫県姫路市で主催する予定の講演会を告知しました。タイトル、会場、時間はまだ決まっておらず、会場の確保に向けて準備を進めている段階です。
講演会では、薬学の専門性を使って患者さんに関わることで、薬剤師の力が社会にどんなメリットを届けられるのかを話す予定です。たいぞーさん自身は、専門性を活かして患者さんに関わる仕事を、薬剤師のやりがいであり面白さだと感じています。
一方で、たいぞーさんは現場で感じる課題も指摘します。プロとして研鑽を積み、患者さんにより良い介入ができる力をつけても、今の医療や薬局、会社組織の仕組みでは、収入を増やすキャリアアップの道がマネジメント職にほぼ限られていることが多いといいます。
マネジメントの道に進むと、自分自身がプロフェッショナルとして患者さんに関わる機会というのはどうしても減ってしまう。
研鑽
プロとして専門性を磨き、より良い介入ができる力をつける
キャリアアップ
収入を増やす選択肢として、マネジメントの道しか設けられていないことが多い
機会の減少
患者さんに関わる機会が減り、磨いてきた能力を活かす場も減ってしまう
たいぞーさんは、薬剤師がプロフェッショナルとして良い仕事をし、それが認められてキャリアにもつながる道筋を作れないかと考えています。講演会ではこの課題感を整理し、どう向き合えばいいかについても2月14日までに準備して伝えたいと話しています。
まとめ
たいぞーさんは、学会発表の準備をきっかけに、薬理学・薬物動態学・製剤学を相互に照らし合わせて患者を見立てることが薬学的アセスメントであり、「薬学で患者を語る」ことの中身だと整理しました。その面白さが患者さんの治療や社会にも広がる一方で、専門性をキャリアにつなげる仕組みには課題があると語っています。
- 患者を見立てるコアの学問は、薬理学・薬物動態学・製剤学の3つ
- 薬の影響はマルかバツかではなく、複数の症状から可能性の大小をつまみのように調整して見立てる
- 吸収・分布・代謝・排泄の変化や製剤設計から、なぜその人にその症状が起きたのかを考える
- 3つの知識を単独ではなく相互に照らし合わせることが薬学的アセスメント
- 専門性を磨いてもキャリアアップがマネジメント職に限られがちな現状は、2月14日の姫路での講演会で扱う予定



