薬剤師の仕事が面白いと気づいた5回生の転機
この回のテーマは、薬がわかるから生活が気になり、生活がわかるから薬のことが気になってくる、という薬剤師の思考の往復です。たいぞーさんは、学生実習の話とも絡めながら話を始めます。
薬剤師人生8万4000時間におもしろさとやりがいをお届けする薬学で患者を語る薬剤師たいぞーです。
たいぞーさんが薬剤師の仕事のおもしろさに気づき始めたのは、薬学部5回生の頃でした。ちょうど今の実習生と同じように現場を経験し、バイタルサイン ── 血圧・脈拍・体温・呼吸など、生命の状態を示す基本的な指標。薬剤師が測定や評価を学ぶ講習会も各地で開かれています講習会にも学びに行っていた時期です。
現場で患者を見て、薬学の専門性で患者の状態を見立て、薬物治療をより良くしていく。薬学部で学んだ内容を使えばそうした関わりができると知ったことが、たいぞーさんにとって大きな気づきでした。
これはなんとも薬剤師という仕事は面白いなということを思ったのが、当時の僕のすごい大きな気づきで、人生のある意味転換点だったなというふうにも思うわけなんです。
「暮らしが先に来る思考」とは何か
当時たいぞーさんが読んでいた本に、患者がどんな薬を飲んでいるかに着目する前に、まず患者の生活に目を向けるべきだという考え方が書かれていました。著者は、たいぞーさんが尊敬する大先輩の薬剤師、川添先生です。
「あ、そうか、薬ではなくて、まずは生活を見る」ということで、
たいぞーさんによれば、生活の中で患者が本当に困っていることに対して、薬がどう関わっているかを薬剤師の能力で見極めて解決すれば、患者の暮らしが整います。そうして元気に暮らしていくという健康の価値を、薬剤師が届けられるのだと感銘を受けたといいます。
具体例として挙げられたのは、食事が美味しくなくて食べられない、最近夜眠れない、便が出ない、といった訴えです。こうした生活の問題には様々な要因がありますが、影響しうる薬もまた様々に見えてきます。
暮らしが先に来る思考では、生活の困りごとから考えを始めることで、薬学的な視点が自然に動き出します。その思考プロセスを整理すると次のようになります。
暮らしの問題に気づく
食事が取れない、眠れない、便が出ないなどの困りごとを聞く
薬の影響を疑う
その問題に影響しうる薬が飲んでいる薬の中にないか考える
条件を検討する
どんな条件があれば薬が影響していると言えるのかを考える
介入して暮らしを整える
薬剤師の専門性で問題を解決し、健康という価値を届ける
たいぞーさんは、薬が先に来るより暮らしが先に来たほうが、薬学的に患者を検討して介入しやすくなる、というニュアンスのことが書かれていたと振り返ります。ただし、昔読んだ本なので記憶をたどりながらの話だと断っています。
10年の現場で見えた「薬が先」の良さ
では、薬が先に来る思考はそんなに悪いのか。たいぞーさんは、10年ほど薬剤師として現場で働いてみて、薬が先にわかっていることも案外悪くないのかもしれないと思うようになったといいます。
薬の作用機序がわかるからこそ、あれ、もしかしてこれって暮らしに何か影響してるかもしれない(と気づく)。
飲んでいる薬のことをきちんとわかっているからこそ、患者の暮らしが気になり、生活に関する情報を聞き取って確認しようとする視点が生まれる。たいぞーさんは、こうした流れも当然あると話しています。
一方で、暮らしから入る思考は、患者をまず把握してから薬を考えるので思考が回りやすく、取り組みやすい入り口だとも評価しています。たいぞーさん自身、学生のときに本を読んで実習で試したら、学生でも実践でき、薬学の専門性を使って患者を考えられたことを大きな感動として覚えているそうです。
2つの入り口は、出発点が違うだけで、どちらも患者の生活と薬を結びつける思考です。
患者の生活の困りごとから入り、薬の影響を考える。取り掛かりやすく、学生でも実践できる
薬の作用機序の理解から入り、暮らしへの影響が気になって生活を聞き取る。経験の中で積み上がる
たいぞーさんは、暮らしから入る取り組みを積み重ねるうちに、薬の側からでも患者の生活に着目できる思考が自分の中に構築されていくのではないかと考えています。
どちらが先かより大切なこととは?
生活が先か薬が先か、どちらがいいのかは議論になりがちです。しかし、たいぞーさんは個人的にはどちらでもいいと言い切ります。
最終的にきちんと患者さんの暮らしが良くなるというところに対して、薬剤師が自分たちの専門性を持って関わることができているのであれば、どちらが先になったとしても(いい)。
たいぞーさんが軸として挙げるのは2つです。薬のことをきちんと見極めること、そして患者の生活や暮らしに着目して健康という価値を届けていくことです。この両方を持って関われば、薬剤師は患者に価値を届けられ、専門性を活かしたやりがいやおもしろさに気づくきっかけにもなるといいます。
暮らしが先か薬が先かで悩んでいる人に向けて、たいぞーさんは、いい悪いではなく、自分にとってどちらが患者の暮らしや健康に関わり専門性を活かせるのかという視点で考えてみることを勧めています。そうすると悩みの本質に気づき、悩まずに行動へ移す第一歩につながるのではないかと話しています。
たいぞーさんは最後に、同じことを繰り返していたような気もすると笑いつつ、それだけ大事な視点だと締めくくりました。専門性を活かして健康という価値を届ける方法にはどんなものがあるか、聞き手にも考えてほしいと呼びかけています。
まとめ
この回では、患者の暮らしから薬を考える思考と、薬の知識から暮らしを考える思考の2つが語られました。たいぞーさんの結論は、どちらが先かではなく、両方の視点を軸に患者の暮らしを良くすることが薬剤師の価値だというものです。
- 学生時代、「まずは生活を見る」という考え方に出会い、薬剤師の仕事のおもしろさに気づいた
- 食事・睡眠・排便などの困りごとから薬の影響を考えると、薬学的な視点が自然に動き出す
- 薬の作用機序がわかるからこそ、暮らしへの影響が気になって生活を聞き取る視点も生まれる
- 大切なのは順番ではなく、薬を見極めることと暮らしに着目することの2つを軸に持つこと


