国立に住む経営者は「レアポケモン」?
今回の本編に入る前に、今井さんは最近大勢の経営者と会った話をしました。中川政七商店中川政七商店が開く、企業と人の出会いを作るイベントで、1日4本のトークショーの司会を務めたといいます。
そこで会った経営者たちは番組を聴いていて、青木さんやクラシコムに強い興味を持っていたそうです。ただ、青木さんは東京都の国立にいて、そうした場にあまり現れません。今井さんはその様子を「レアポケモン」と表現しました。
(司会が)1日で4本あったの、全部僕が司会するっていう。
今井さんに「損したと思うことはあるか」と聞かれた青木さんは、人とのつながりを広げることが事を成すうえで大事だと考えるなら損かもしれない、と答えます。青木さんにとって大事なのは、己をよく知って変な意思決定をしないことだといいます。
ここ(国立)にいるとさ、ほぼ自分の意思でそれ(人に会うか)決められるんだよね。
国立にいると誘われること自体が少ないため、付き合いで行かなければならない場面がほとんどありません。都心の会に国立から呼ぶのは港区の人を誘うのとはハードルが違うので、本当に会いたい人だけが誘ってくる。青木さんはこれを「ミスマッチが起きにくい」と評価しました。
一方の今井さんは、約10年前の独立時に先輩から真逆の助言を受けています。フットワークの軽さはどうでもよく、これから多くの人と仕事をするなら「呼ばれやすい場所に住んだほうがいい」と言われ、当時は新宿の近くに住んでいたそうです。
青木さんはこの違いを、二人の成功モデルが対極にあるからだと整理します。周縁にいたことで、みんなが見過ごしているものを見つけてきた青木さんと、中心に近づくほど力をもらえる今井さんという対比です。
周縁にいることで見過ごされているものを見つけられる。誘いが少なく、会う相手を自分でコントロールしやすい
呼ばれやすい場所にいることで仕事が広がる。中心に近づくほど力がもらえる
今井さんみたいな人が郊外に住むは、もうマジ損しかない。
トラッド一筋から、あえて流行に乗る40代へ
今回のテーマは「似合うと好き、どっちを優先するか」です。服を選ぶとき、似合うけれどあまり好きではない、好きだけれど似合わない、という経験は誰にでもあります。今井さんは、そんな場面で何を優先しているのかを問いかけました。
今井さんによると、青木さんの10年前、20年前、30年前の写真は今とテイストがまったく違うそうです。青木さん自身も「全然違う」と認めます。
青木さんの20代は、アイビーやトラッドの色が強いスタイルでした。当時トラッドはまったく流行っておらず、むしろ流行と関係なく「俺のスタイルはこういう感じ」と線を引いていたといいます。
(トラッドは)別にダサいとか古いってならないじゃん。だから逆にその変わらないことを良しとしてたのよね。
ところが40代に入ると、青木さんはストリートやモードの要素を取り入れ、最近は古着っぽいモードへと移っています。本人いわく、40歳くらいから「積極的に流行に左右されようとした」。好き嫌いも、似合うかどうかも、いったん置いての選択でした。
40代で初めて体験するリバイバルの衝撃
青木さんが流行に乗ろうと決めたきっかけは、40代で初めて「リバイバル」を体験したことでした。若いころに流行ったスタイルが一度ダサいものになり、それが再び流行るという現象です。
青木さんの世代にとって、Tシャツをパンツにインするのは「絶対やっちゃダメ」なルールでした。80年代に流行ったスタイルが90年代にダサいとされたことで生まれたルールだといいます。ところが40代半ばの前後に、若い人たちがインし始めたのです。
おいおいおいと。で、それかっこいいと思ってんの?みたいな。
そうした違和感が続くうちに、青木さんは気づきます。若いころ、昔の髪型のまま年を取った年上の人を見て「ちょっと古くない?」と思っていたのは、こういうことだったのかと。
青木さんの結論は、自分の審美眼を更新しないといけないというものでした。かっこいいと思えないから更新できない。だからこそ、好きや似合うをいったん置いて、たくさん見て真似してみようと考えたそうです。同年代から若作りと言われても、得るものが多そうだと判断しました。
具体的には、インスタやメディア、ミュージシャンの服装を見て、行く服屋も変えたといいます。そこでピンとくるものを買い、失敗と成功を重ねるうちに、4、5年ほどで更新された自分のスタイルができてくるという流れです。
違和感
若い世代の流行が、自分の感覚ではダサく見える
観察
インスタやメディア、服屋で流行を自然と目にする
試着と購入
ピンとくるものを買い、失敗と成功を重ねる
更新
4、5年ほどで新しい自分のスタイルができる
オーバーサイズブームは終わってほしくない
流れに乗ってみた実りについて聞かれると、青木さんは「普通にやりたくなるんだなっていう」と答えました。Tシャツの丈がある時期から妙に長くなるなど、なぜそのサイズ感の服が売られているのかもわかるようになったといいます。
青木さんは最初、オーバーサイズをすごくダサいと思っていたそうです。しかし乗っているうちにオーバーサイズ以外受け付けなくなり、今度は流行りはじめたジャストサイズのTシャツがピチピチしてダサく見える、という逆転が起きています。
それも今だけだなと思うから、打診買いじゃないけど、ちょっと1枚、2枚、ややタイト目のやつ買って着てみて。
最初はオーバーサイズがすごくダサく見えた
オーバーサイズ以外受け付けず、ジャストサイズがダサく見える
今井さんは、ボディラインに自信がないためオーバーサイズの今がありがたいと話します。青木さんも、年齢的にオーバーサイズで隠せていることが多いと同意しました。
終わらないでほしい。
二人は、ユニクロのTシャツの型が変われば流れは決定的になると話します。青木さんは、男性アイドルがお腹の出る短い丈のTシャツを着ている現象も、自分がやるかは別として「なんなんだ」と知りたいといいます。触る前にダサいと整理せず、一度浸かって自分なりに分かりたいという姿勢です。
BEAMSのタグがついていない服の謎
服好きの原点について、青木さんは高校生のころモッズが好きで、20歳過ぎからアイビーやトラッドに傾いたと振り返ります。当時のユナイテッドアローズやBEAMSは源流がアイビーやトラッドにあり、青木さんの世代には流行り廃りに左右されない「エバーグリーンなスタイル」だったといいます。
今井さんが初めてBEAMSに行ったのは中学2年ごろでした。滋賀県にはアウトレットではないBEAMSがなく、京都の新風館新風館まで出かけたそうです。今井さんは今も、BEAMSがある都道府県を「都会認定」しているといいます。
なんでみんなBEAMSに行って、BEAMSってタグのついてない服買って帰るんだろうって思ってたんですよ。
当時の今井さんはセレクトショップ ── 複数のブランドの商品を店の視点で選んで並べる小売店。BEAMSやユナイテッドアローズは自社企画の商品も多く扱っていますの仕組みがわからず、BEAMSのロゴが入ったものばかり買っていたそうです。オレンジのナップサックが嬉しかった、というエピソードに青木さんは「可愛い」と反応しました。
おしゃれになるチャンスを2回逃した今井さん
意外にも、今井さんは高校3年まで坊主頭で野球をしていて、大学時代も服への興味は低かったといいます。CDや漫画にお金を使っていて、服が好きになったのはこの5年ほどだそうです。青木さんは、今井さんをずっとおしゃれな人だと思っていたと驚きます。
今井さんは、変化の背景にサブスクの発展があるかもしれないと話します。今の若い人が飲食に使うお金が増えているように感じ、コンテンツにお金を使わなくてよくなった分、使い道が体験に寄っているのではないかという見立てです。今井さん自身も、コンテンツが充足して服を買えるようになり、人前に出る機会も増えました。
今井さんは人生で2回、おしゃれになるチャンスを逃したといいます。1回目は社会人1年目の初ボーナスで、おしゃれな同期に10万円ほどで3セット選んでもらいました。似合うものを選んでもらえたものの、好きではなく、テンションは上がらなかったそうです。
2回目は、出版社時代に世話になった校閲者で、神楽坂の書店かもめブックスの店主でもある柳下恭平柳下恭平さんとの出来事です。仕事で落ち込んでいた今井さんを飲みに連れ出し、深夜の解散間際にファミリーマートへ駆け込んで、7万円を手に出てきたといいます。
これあげるからさ、襟付きの服着な(って言われて)。
今井さんは再びおしゃれな同期にブランドを教わって服をそろえ、それ以来10年以上、仕事に襟のない服を着ていかなかったそうです。最近ようやく、きれいめならTシャツでもいいと解禁したといいます。
好きなブランドの共通点は「現代の作業着」
ビジネスユニフォームとして服を着ていた今井さんが、買うのを楽しいと感じるようになったのは、明確に好きなブランドに出会ってからでした。挙げたのはミノトール、テアトラ、FCEの3つです。
共通点は機能性です。UVカットや防水などのアイコンがバッジのように並ぶ、ガジェットっぽさが今井さんには魅力でした。昔からパタゴニアを買うなど、もともと機能が好きだったといいます。
今井さんは、これらのブランドがよく言う「現代の作業着」という言葉を気に入っています。着ていて楽で、シュッとして見えて、いろいろな機能がある。割とオーバーサイズで誰にでも似合うよう作られているため、ようやく気後れせずにいろいろな場所へ行けるようになったそうです。
ただ今回の企画を受けたとき、ディレクターのノジノジさんから意外な指摘を受けました。
「今井さんってその好きとか似合うとかで選んでない気がしていて」って言われて、どっちでもないと思われてるんだなっていう。
トラッドの様式美と「説明可能じゃない」選び方
好きなブランドを聞かれた青木さんは、そういうことをあまり考えず、古着店のセカンドストリートで探すくらいだと答えます。そのうえで、今井さんの選び方は「機能性で選ぶ」というアイデンティティを軸にしやすいと指摘しました。
青木さんによると、トラッドは様式美で、ジャケットは段返りの3つボタン、パンツはノータックでダブルを3.5センチ、といった決まりがあります。今井さんが真似しやすかったのかと聞くと、青木さんは「コードが明確だった」と答え、そもそも洋服は身分などによって「どう着るべきか」が先にあったと説明しました。
規律の中にあるトラッドには、似合う、好きを超えて「これは正解だろう」という安心感がありました。40代からの青木さんは、その逆を目指しています。
他者目線から見て正解かどうかっていうことをできるだけあんま考えずに、説明可能じゃない動きをしようっていうのが(スタイルを変えてきた理由)。
本棚や古着屋でピンとくるものに気づく感性は、放っておくと摩耗していく、と青木さんはいいます。アートを買うようになったのも、うんちくで間違いない作家を集めるのではなく、パッと見て思わず買う経験を許される範囲でたくさんしたかったからだそうです。
様式美のコードが明確で、他者目線でも「正解」とわかる安心感がある
他者から見た正解を考えず、ピンときたものを選ぶ。説明可能でない領域を広げる
青木さんは、並んでいればピンとくるものを選べる自分であることに自信を持ちたいといいます。自己認知が少し変わっていて、自分は何でも似合うと思い込んでいるそうです。他者から見てかっこいいからと、しっくりこないものを選ぶと、かえって似合わなくなる感覚があるといいます。
自分の身体感覚としてしっくりきてるものを選べれば、それが一番似合うはずだし、好きでもあるし。
ただし、それがうまくいくのは1割くらいだと青木さんは笑います。しっくりきているかは買ってしばらくしないとわからないため、首をかしげながら修行して「いつも変な格好してる」状態だそうです。
センスは「判断」ではなく「決断」の筋トレ
今井さんは、選択肢から1つを選ぶ行為を筋トレだとするなら、鍛えているのはセンスか決断か、と問いかけました。青木さんは両者を同じ意味かもしれないとしたうえで、言葉を区別します。
例えば50点、Bが80点だからBを選ぶっていうのは、これ判断なんだよ。決断じゃないんだよ。
点数で優劣がわかるものから、高いほうを選ぶ
どちらがよいかわからないものを選ぶ。センスによる選択はおそらく全部これ
青木さんは、頭でっかちで言葉や論理で物事を扱うタイプであり、しっくりくる感覚を本来あまり感じられないことを弱みだと話します。だからこそ、映画や本も事前情報を入れずに選び、それがしっくりくる割合を増やしたいといいます。
今井さんも、気になる映画はできるだけ予告しか見ていない状態で初日に観るようにしています。大成功だったのは『シン・ゴジラ』で、初日にたまたま観てむちゃくちゃ面白いと思ったそうです。
今井さんは毎日見ているはてなブックマーク ── 記事を保存・共有できるウェブサービス。ブックマーク数のランキングと、ユーザーが付けるコメントが特徴ですでも、コメントを見る前にニュース本文を読むといいます。例に挙げたのは、収録直前の「石破さんが退陣表明」という記事でした。
もしかしたら僕はいいこと言ってんじゃんって思うかもしれなくて。あ、でも世間的にはダメなんだこれってなった時に、なんか学習があるっていうか。
「似合う」は過去の再生産なのか
話は本題の「似合うとは何か」に戻ります。自分が嬉しいかどうかも似合うの要素なのか、という今井さんの問いに、青木さんは独自の見方を示しました。
似合うっていうことが自他ともに確認できてる状態ってさ、まあ過去の再生産じゃん。
青木さんは、確証されたノウハウを必要な場で使うのは良いことだとしつつ、似合うはクリエイティブではないかもしれないと話します。クリエイティブな人が安牌を選んでいるなら、形は似合っていても振る舞いはその人に似合っていないのでは、という問題提起です。
青木さんによれば、似合うにはいくつものレイヤーがあります。生き様と選び方が似合っていれば、造形としては破綻していてもかっこよく見えることがある。一方で、きちんと計算されたスタイルで自分に似合うものをよく知るおしゃれな人も大勢いるといいます。
おしゃれな人ほどスタイルの幅が狭い
青木さんは、おしゃれな人はみんなスタイルの幅が狭いと断言します。変な格好をしないことが、おしゃれな印象の肝だという考えです。
変な格好をしないっていうことがおしゃれな印象の結構肝だなと思ってて。
体型や身長など、生まれ持った見た目に課題を強く感じている人ほどおしゃれだ、と青木さんはいいます。制約を受け入れ、その中できちんと工夫し、絶対に踏み越えないセルフコントロールの力があるからです。青木さん自身は制約をわかっていなかったり、やりたいことを優先したりするため、シュッとした日と破綻した日がばらばらにあると話します。
今井さんはこの話で、パリに住む友人の言葉に合点がいったといいます。友人は日本に帰るとき「着ていく服がない」と感じるほど、日本の街の人をおしゃれだと思っているそうです。パリの人は実はそれほど服を選んでいない、とも話していたといいます。
青木さんは、西洋に源流のある洋服の世界では、日本人の見た目には課題しかないことになると応じます。和服ならフランスの人が課題だらけになり、謎の進化をした和装が生まれるだろう、とも。日本人のおしゃれの底上げは、課題認識の強さから来ているのかもしれない、という見立てです。
「似合わなくなってきたら言ってほしい」
青木さんは、似合うかどうかは「カメラ」をどこに置くかで変わると整理します。自分の目線か、特定の誰かの目線か、広く社会か。服を着る目的も、自分のため、他者からの評価のため、他者の快・不快に配慮する利他的な動機のためと、人それぞれです。
今井さんは、自分は半分自分のため、半分会社のためだと話します。そのうえで、話を聞いて怖くなったと打ち明けました。
ちょっとこれは聞いてる僕の近しい人への今お願いですけど、似合わなくなってきたら教えてほしい。
青木さんも強く共感しつつ、周りの人は見慣れてしまうため気づきにくいと指摘します。そこで青木さんは、10年に1回スタイルチェンジをすると決めているそうです。
(僕は)一応ね、10年に1回スタイルチェンジをするって決めてんの。
30代の終わりにスタイルを大きく変え、50代を迎える前の48歳ごろから試行錯誤してガラッと変えた、と青木さんは振り返ります。45歳ごろと今では、スタイルが全然違うかもしれないといいます。今井さんは、パーソナルスタイリストにも相談してみたいと話しました。
番組初の公開収録「オーバーシンカーズナイト」
番組の最後には、考えすぎフラグメンツ初のイベント「オーバーシンカーズナイト」の告知がありました。リスナーから募集したテーマをもとにした公開収録と、番組について考えるトークセッションが予定されています。
開催は2025年11月28日(金)、18時半開場、19時開演です。会場は東京都世田谷区のHOME/WORK VILLAGEHOME/WORK VILLAGEの3階教室で、チケットは限定30枚の抽選です。申し込みは10月15日(水)から10月22日(水)23時59分までと告知されました。
当日ほんとマジで5人ぐらいしか来なかったらどうしようかななんて思いながら告知してるんで。
まとめ
「似合う」と「好き」の二択に対し、青木さんは、自分の身体感覚でしっくりくるものを選べれば両方を満たせるはずだと考え、審美眼を更新し続けています。今井さんは機能性という軸で「現代の作業着」に出会い、似合うか好きかとは別の選び方をしていました。
- 青木さんは40代でリバイバルを体験し、好きも似合うも置いて流行に乗ることで審美眼を更新した
- 今井さんは機能性のある「現代の作業着」系ブランドに出会い、服を買うのが楽しくなった
- 点数で選ぶのは判断、どちらがよいかわからないものを選ぶのが決断で、センスは決断の筋トレに近い
- 似合うは過去の再生産でもあり、おしゃれな人ほど制約を受け入れてスタイルの幅を絞っている
- 周りは見慣れて気づきにくいため、青木さんは10年に1回スタイルチェンジすると決めている




