他人と比べて後悔してしまうというお便り
今夜のお便りは、バタやんと同世代というペンネームみおんしーさんから届きました。
2ヶ月前にSpotifyでこの番組と出会い、すでに2巡目だといいます。
私はいつも他人と比較しては羨ましく、悔しく葛藤してしまいます。また、人生の節目や大切な進路などで選択肢をいつも間違えては、くよくよと後悔してしまいます。他人と比べず、今置かれた状況も楽しめるような作品があれば伝授いただきたいです。
あの時ああしていれば、あっちを選んでいれば。そう思い返す分かれ道は、誰にでもたくさんあるものです。
今回は自分の思い出話は交えず、早速1冊の本を紹介していきます。
今夜の1冊は吉田修一の作家30周年記念作
今夜の勝手に貸出カードは、吉田修一さんの最新作『タイム・アフター・タイム』です。
『国宝』が大ヒットし、映画も日本映画史に残る大作となった吉田修一さん。本作はその作家30周年記念作品と書かれています。
532ページという分厚さで、綺麗な装丁の重量感ある1冊です。
この厚さにおののき、しばらく積読になるかと思っていたそうです。
読み始めてみたところ、すっと入り込んでしまって、3日、4日で読み切ってしまいました。
今と過去を行き来する長編恋愛小説
主人公は建築会社に勤める40歳の尾崎隼人、通称おっそう。土砂降りの雨の中でタクシーを取り合ううちに、高校の同級生であり、かつての恋人だった久遠愛という女性と偶然再会します。
2人は偶然にも新しい美術館建設プロジェクトの担当者として再会し、再び会話するようになります。
しかし、コンペで起用された建築家がデザインを盗用したのではという疑惑で計画は暗転。尾崎の家庭に関するスキャンダルや、久遠が抱える過去の影も描かれていきます。
一方で物語は、2人が恋人になるまでの20数年前へと遡ります。故郷の長崎や、一時期過ごした沖縄の離島の、眩しい青春の夏の場面です。
現在の東京、過去の長崎、沖縄。章を分けて行ったり来たりしながら、彼らが手放したもの、守りたかったもの、今も引きずっているものを丹念に描いた長編大作です。
ジャンルを一言でいえば、長編の恋愛小説。吉田さん自身もインタビューで、恋愛小説を書けるか最初は不安だったと語っていたそうです。
土砂降りの雨
主人公がタクシーを探してずぶ濡れになり、傘もひっくり返ってしまう
相乗り
男女4人でタクシーに相乗りすることになる
再会
相手の1人が、かつての同級生であり恋人だった久遠愛だった
最近は急な土砂降りが襲ってくることも多く、現実と重ねつつ読める。そのドラマチックさから、場面がありありと映像で頭に浮かんできたといいます。
久遠愛は吉高由里子さん、尾崎は妻夫木聡さんを思い浮かべながら読んでいたそうです。
その理由は、同じ吉田修一さんの『横道世之介』が映画化されており、長崎から上京する主人公を妻夫木さんが、恋人を吉高さんが演じていたから。頭の中で一緒くたになったといいます。
サブの登場人物にも人生がある
この小説がいいと感じた理由は、吉田修一さんの視点がとても優しいところにあります。
主人公の尾崎と久遠の視点を交互に描くやり方もできたはずですが、そうではありません。2人以外のサブの人たちを、サブのままにしていないのです。
そのサブの人たちをサブのままにしないで、その人にも一生を与えられているんですね。
久遠や尾崎が転機で出会う人たちにも、それぞれの人生と転機がある。だから今の価値観になっている。そこにもちゃんとフォーカスが当てられています。
これが、みおんしーさんのお便りとリンクする部分であり、この本をすすめたいと思った理由でもあります。
豪放磊落に見えたり能天気そうに見えたりする人でも、その人なりの痛みや後悔がある。その痛みがあるからこそ、あっけらかんとした今にたどり着いていることもあるのです。
一番印象に残った登場人物、比嘉
メインの2人以外で一番心に残ったのは、沖縄で若い頃の2人が世話になるボクシングジムのオーナー兼コーチ、比嘉という男性です。
元フライ級世界チャンピオンで、豪快な兄貴分。子どもたちにボクシングを教え、久遠にも教えてくれます。
輝かしい過去がある一方、42歳にしてピークが早めに来てしまった人でもあります。妹のことなどもあり、彼には彼の影があります。
人から見れば輝かしく優れた人に見えても、比嘉には比嘉の悲しみがあり、くよくよしているところもある。そう読めたといいます。
今ボクシングを習っていることもあり、もう少しボクシングのシーンや比嘉の人生を深掘りして読みたかったと感じたそうです。
同じ吉田修一さんの『太陽は動かない』『森は知っている』も紹介されました。産業スパイになった主人公の過去として南の島・沖縄が描かれ、淡い恋や青春が交わるハードボイルドな作品です。作風は違いますが、今回の作品ともリンクしてしまったと話されています。
神フレーズと「その時なりに頑張った」
今夜の神フレーズは、久遠と尾崎が「あの頃に戻れた自分にどう声をかけるか」を話す場面から。
この少し前には、大人になってから再会した比嘉と久遠が、これまでの人生や選択は間違っていなかったかを話す場面があります。その流れを受けたシーンです。
このあと尾崎は、照れ臭いけれど「頑張った」という趣旨のことを口にします。
一つ一つの選択が合っていたか間違っていたかはわからない。成功しているのか、誰かと比べてどうなのか、華やかか地味かもわからない。
一言で言うと頑張った、頑張ってきた。その時はその時の自分なりに頑張ってきたと言えるんじゃないかなと思った。
表紙は爽やかなブルーで、沖縄の情景も相まって夏らしい作品です。今年は夏らしいことをしていないという人にも、夏の思い出に読んでほしいと締めくくられました。
まとめ
他人と比べて後悔してしまうというお便りに、吉田修一さんの最新作『タイム・アフター・タイム』が紹介された回です。過去と今を行き来しながら、それぞれの人生を丹念に描いた物語を通じて、正解かどうかはわからなくても「その時なりに頑張ってきた」と自分を労わる読書の時間が提案されました。
- 今夜の1冊は吉田修一さんの作家30周年記念作『タイム・アフター・タイム』
- 現在の東京と、過去の長崎・沖縄を行き来しながら描かれる532ページの長編恋愛小説
- メインの2人だけでなく、サブの登場人物にも痛みや人生が丁寧に与えられている
- 神フレーズは「あの頃の自分になんて絶対会えないから。だからいいんじゃないかな」
- 一つ一つの選択の正解はわからなくても、その時なりに頑張ってきたと自分を肯定できる




