さえぎられてモヤモヤする、というお便り
今回の回は、入社3年目のリスナー、さちねこさんからのお便りから始まります。飲み会や複数人の打ち合わせで、自分が話し終わらないうちに会話を人に取られてしまう、という悩みでした。
さちねこさんは、その具体的な場面も書いています。話がまとまらずダラダラしてしまい、「それってこういうことでしょ」と途中で要約されたり、「何々と言えば」と話を取られたりするそうです。
そういうことを言いたかったわけじゃないんだけどなぁと思うけれども、諦めてしまうことが多いです。
さちねこさんは、バタやんの話し方が上手で最後まで聞いてしまうと書き、努力していることや参考にした本を尋ねています。バタやんはまず、「話が上手」という言葉を謙遜せずに受け止めると話します。
これはそんなことないですよと謙遜せずにあえて受け止めさせていただくのは秘密がありまして。
話すのが苦手だから「書いてから喋る」
バタやんが明かした秘密は、話すのは得意ではないけれど、書くのは好きだということでした。だから、書いてから喋るという方法をとっていると言います。
これは番組だけの話ではありません。役職がつくと、乾杯や締め、開会の挨拶など、オフィシャルな会で話す機会が増えたそうです。
そういうのも全部全部原稿を書いています。実は本当にアドリブ力がなくて苦手なんですよね。
バタやんは、前もって言われていれば、AIにたたき台を作ってもらい、そこに自分っぽさを足して原稿を用意すると話します。フィラー ── 「えー」「あのー」など、話の合間に挟まれる意味を持たない言葉。後半で会話の役割として詳しく取り上げられる
そのうえでバタやん自身も、話し方がゆっくりなために途中でカットインされたり、いつの間にか自分のターンを取られたりすることがよくあると打ち明けます。だからこそ、さちねこさんの気持ちがよくわかったと言います。
本当に言いたかったことに結局今日はたどり着けなかったなとかって、帰ってからよく落ち込んだりもしますね。
会話は0.2秒で交代している
今夜の「勝手に貸し出しカード」は、水野太貴さんの『会話の0.2秒を言語学する』です。水野さんは人気ポッドキャスト『ゆる言語学ラジオ』の中の人として知られています。
タイトルの0.2秒とは、会話で話し手が入れ替わる「ターンテーキング」が起こる平均時間を指しているそうです。ターンテーキング ── 会話で話し手が交代すること。一人が話し終わると間髪入れずに次の人が話し始める、この発話者の交代を指す
このターンテーキングは、会議や飲み会だけでなく、家族の会話や友達との立ち話まで、あらゆる場面で1日のうちに何度も行われているとバタやんは説明します。
0.2秒がどれほど短いかについても、本では例が挙げられています。ネットで検索して「遅い」と感じるまでが、だいたい0.4秒ぐらいだそうです。
つまり、その半分ほどのスピードで、人は「次は自分が喋る番だ」と判断しているということになります。バタやんは、これをすごいことだと受け止めています。
サッチャーが会話をさえぎられた理由
どうやってその判断をしているのか、本では面白い論文が紹介されていました。取り上げられたのは、鉄の女と呼ばれたマーガレット・サッチャーです。マーガレット・サッチャー ── 1979年から1990年まで務めた元イギリス首相。強い指導力から「鉄の女」と呼ばれた。ここでは会話をさえぎられることに悩んでいたという分析が紹介される
サッチャーは、自分がインタビューの途中でよく会話をさえぎられるという認識を持っていたそうです。その原因を分析した結果が、意外なものでした。
サッチャーには、語尾が下がるときに独特の癖があったといいます。文の終わりに語尾が下がると、人は「話が一段落した」と感じるのですが、その下がり方が独特だったのです。
そのため、サッチャー本人はまだ話の途中なのに、相手には「話が一段落した」と思われてしまう。そこにギャップがあったという分析でした。
バタやんは、この話を自分に引きつけて考えます。自分も語尾が下がるときに時間をかけて下がる癖があるかもしれないと振り返ります。
「それは興味深いですね」ってこうキュンって下がると、一回話が終わったっていうのが分かりやすいっていうことなのかもしれないです。
ここからバタやんは、さえぎられてしまうのは自分のターンを維持する技術が足りないのかもしれない、という見方を示します。
フィラーは「私のターンですよ」という挙手
次にバタやんが取り上げたのが、話し始めの「えーっと」「あのー」といったフィラーです。この本によると、フィラーは話をまとめる時間稼ぎであり、同時に「今、私のターンですよ」という挙手のようなものだと理解したと言います。
つまり、これから自分が喋ると示して時間を稼ぎながら、頭の中で言いたいことをまとめている、ということです。
だからターンテイキングされないためのディフェンスだったのかと思って面白いです。
バタやんは、政治家などフィラーが多い人を例に挙げ、あれは「俺のターンだ」と主張していたのかもしれない、と話します。
一方で、バタやん自身はポッドキャストを始めてから、話し始めのフィラーを意識して言わなくなったと明かします。これは訓練で上達できることだと考えているそうです。
口癖は録音して何度も何度も聞くっていうことで、ちょっとずつ自分の癖を知り、言ってしまいがちなその文頭と語尾の癖を変えていく。
AIが議事録や文字起こしをしてくれるようになり、自分の言葉を文字で見る機会が増えたことも役立っているといいます。バタやんは、これはさちねこさんも意識と訓練で上達できると励まします。
フィラーは悪役ではない、という発見
ただし、この本を読んでバタやんは、フィラーは悪役ではない、悪いだけでもないとも考えるようになりました。フィラーには、話し手の状態を伝える働きがあるからです。
最初の言葉が「えっと」なのか「うーん」なのかによって、相手はその人が何に悩んでいるのかを想像できるとバタやんは説明します。内容に悩んでいるのか、伝え方に悩んでいるのか、言うか言うまいか悩んでいるのか、という違いです。
だからフィラーも立派なコミュニケーションの一つだと、バタやんは受け止めています。
フィラー以外にも、会話ではごく微妙な合図がやり取りされています。少し身を乗り出す、体がやや前傾になる、息を吸う。そうした動きで、お互いに「この人が話し始める」と感づき、ターンを渡し合っているのだそうです。
本当に微妙な微妙な動きで、あ、この人話し始めるぞっていうのをお互いに感づいてターンを渡している、ボールを回し合っているってことなんですね。
オンライン飲み会が続かなかった理由
この微妙な合図の話から、バタやんが確かにと感じたのが、オンライン飲み会が続かなかった理由でした。本にはその説明が書かれていたそうです。
会話が0.2秒で判断されているとすれば、オンラインのタイムラグはその判断を妨げます。さらに、微妙な仕草や息を吸う動きも読み取れません。
やっぱりあれはリアルな会話とは全く別のコミュニケーションですね。
バタやんは、オンラインの会話を、電話ともメールとも違う特別なジャンルではないかと表現します。
言語化スキルより大事なこと
バタやんは、この本はさちねこさんに紹介したものの、会話が上手になる具体的なHowToが書いてあるわけではないと断ります。この本は、なぜ会話が難しいのかをいろいろな角度から書いた本なのです。
だからこそ、自分たちがとても難しいことをやっているのだと客観的に知ることができ、それによって少し励まされる。そういう本だとバタやんは受け止めています。
続いてバタやんは、この本から神フレーズを紹介します。天才が生涯をかけても言語化できていないことを、私たちは毎日難なく実行している、という一節です。
言語学とは、言語化に対する過剰な信頼を相対化できる学問なのである。
バタやんは、今がまさに言語化ブームだと指摘します。少し前に言われたコミュ力より、言語化のほうが高尚な能力のように言われている気もする、と話します。
けれど、言語化できないものに価値がないかというと、そうではありません。私たちは言語化以外の多くのことで意思疎通を図っている、それがよくわかる本だったとバタやんは言います。
聞く技術こそが「話し上手」かもしれない
最後にバタやんは、この悩みに対する自分なりの答えにたどり着きます。会話が上手になるHowToがない本だからこそ、別の技術に目を向けます。
それは、自分が喋るターンでないときに、相手の状態を読み取る技術です。この人は喋りたそうにしている、言うか言うまいか悩んでいる、ずっと自分のターンを待っているのかもしれない。そうした情報をキャッチして、会話を観察する技術です。
この技術を高めれば、話した側の人を、サッチャーのように「まだ話が終わっていないのに」という気持ちにさせずに済みます。バタやんは、それができれば、それはそれで会話が上手ということなんじゃないかと話します。
喋った側の人が気持ちよく、会話を楽しむようなことができれば、それはそれで会話が上手ってことなんじゃないかと思ったりしました。
まとめ
話し上手の悩みに、言語学の視点から迫った回でした。会話が0.2秒で交代しているという事実は、私たちがいかに難しいことを日々こなしているかを教えてくれます。言語化スキルにとらわれず、相手を観察する技術に目を向けることが、この回の着地点でした。
- バタやんの秘密は、話すのが苦手だからこそ「書いてから喋る」こと。挨拶なども原稿を用意している
- 会話では話し手が平均0.2秒で交代しており、ネット検索で「遅い」と感じる0.4秒の半分の速さで判断している
- サッチャーが会話をさえぎられたのは、語尾の下がり方が独特で、話が終わったと相手に誤解されやすかったため
- フィラーは時間稼ぎであると同時に「今は私のターン」という合図であり、話し手の悩みも伝える立派なコミュニケーション
- 言語化できないものに価値がないわけではなく、相手を観察して会話を楽しませる技術もまた「話し上手」の一つ




