自分の生活ってつまらないのかな、というお便り
今夜のお便りは、ペンネームまるこさんから届いたものです。仕事の作業中に何度も番組を繰り返し聴いているという、うれしい言葉から始まります。
まるこさんは、自分で決めたルーティンの生活を送っています。同じ作業着で出勤し、火曜は区民プール、水曜は接骨院、木曜は銭湯、金曜は図書館、休日は掃除の後に決まったカフェへ行くという毎日です。
そんな中で、まるこさんはインスタに上がってくる華やかな生活写真を見て、ふと不安になると言います。
私の生活ってつまらないのかなと。
その気持ちを肯定してくれたのが、映画『PERFECT DAYS』だったそうです。まるこさんは、本でもそんなルーティン生活を肯定してくれるものはないか、とバタやんにリクエストを寄せました。
まるこさんは、TODOリストをこなすのが心地よいのか、お金をかけていないのが好きなのか、自分でもよくわからないとも書いていました。日々が心地よい、そんな本を求めていました。
選んだのは1日10分の英語書き写し本
バタやんが今夜の「勝手に貸し出しカード」に選んだのは、ブレット・リンゼイ著、井上麻衣訳『100日後に英語がものになる 1日10分ネイティブ英語書き写し』です。
どんな本かは、そのタイトルにほぼ集約されています。左側のページに書かれた英語を、右側の罫線だけのページに書き写す、という作りです。
1日1ページ書き写すのを毎日続けると、テキストが100個あるので、100日後には英語がものになっているという本です。
今とても売れているようで、バタやんが近くのブックファーストに行くと、水色の表紙がドーンと平積みされていたそうです。もともと小説を探しに行ったのに、面白そうだと思って買ってしまったと話しています。
一日一ページ書き写すっていう新たなルーティンができたことが、私にとってはちょっとした楽しみ、仕事帰りの楽しみになっていて。
だからこそ、ルーティンの生活を送るまるこさんに紹介したいと思ったそうです。
この本にハマった一番のポイントは製本
バタやんがこの本にハマった一番のポイントは、内容よりもまず製本にあると言います。製本とは本の作りのことです。
普通の単行本は、ページを束ねているノド側を境に、開くと左右がふっくら盛り上がってしまいます。バタやんはその盛り上がりを本の美しさだと感じていますが、教科書として使うには途中でページが閉じてきてしまう難点があります。
ところがこの本は、ピタッと左右に開く作りになっているそうです。だから書きやすく、途中でページが盛り上がって閉じてくるストレスがないと言います。
もうこの製本の時点でこの本は優勝しているといいますか、なんか賞があったらぜひ賞をあげてほしいと思った本でした。
珍しい綴じ方ではないと思うが、今まで見た中でも一番ノーストレスな開きだと驚いたそうです。右利きのバタやんは、左利きの人にも書きやすいのではないかと、その細やかな気遣いに感動したと話しています。
5回書き写すのは、なんで私こんなことをと挫折
この本には、推奨される正しいやり方があります。まず本を買うとダウンロードできる音源を聞き、それを真似して音読し、さらに声に出して読み上げながら少しずつ書き写す、という流れです。
さらに、可能なら5回書き写せと書かれています。片ページには1回分しか書けないので、別のノートを買って残り4回を書くことになります。
ただ、バタやんは1回その通りにやってみて、早々に挫折したと言います。
なんで私こんなことをやっているんだろうっていうか、この夜中に何をやっているんだろうという気持ちにちょっとなっちゃって。
試験を受けるわけでも学生でもないのに、忙しい夜中に5回も同じことを書くのはくじけたそうです。バタやんの英語力では、読んで聞いて書くだけでも10分では終わらず、5回書くと40分から1時間かかってしまうためです。
そこでバタやんは、続けられる形に変えました。今は1ページだけ書き、音は聞けたら聞きながら、というやり方にしています。
一遍にやって飽きてしまうよりは、一日一ページちょっと物足りないなぐらいで終わる方が、あのルーティンっぽくていいかなと今のところ思っています。
同じ店で同じものを頼む父の気持ちがわかってきた
ここでバタやんは、まるこさんが書いていた「決まったことをやる」生活について、自分の変化を語ります。
若い頃のバタやんは、どちらかというとルーティンが苦手なタイプでした。むしろ変えたいと思うほうで、通学や通勤の道も違う道を行ってみたり、同じレストランでも違うメニューを頼みたいと思っていたそうです。
そんなバタやんは、いつも同じ店で同じメニューを頼む職場の上司や父を見て、なぜなのかと思っていました。せっかくだからいろいろ食べればいいのに、と感じていたのです。
ところが自分も45を過ぎたあたりから、同じ店で同じものを頼みたいと思うようになったと言います。
自分も四十五を過ぎたあたりから、やっぱ同じ店で同じものを頼みたいなって思うようになりまして。あ、そうか、これかと思って。
今のバタやんは、平日は同じ時間の同じ電車で会社に行き、土日はボクシングジムで同じ時間の同じ先生のレッスンに通い、その後は近くの銭湯へ行きます。銭湯でも、熱い湯に10分、ぬるめの炭酸泉に10分と決めているそうです。
そうしたルーティンが気持ちいいと感じるようになった一方で、新しい変化には少し怖さも出てきたと言います。土日に予定が入るのは楽しみでも、ルーティンが崩れる怖さも感じるようになった、というここ数年の実感です。
書き写す言葉が「臭い」のに、英語だと素直に響く
話は本の良いところに戻ります。もう一つの魅力は、書き写す元の文章そのものにあります。
この本の英文はオリジナルで、名作や偉人の名言をそのまま写すタイプではありません。10行前後のひとまとまりが1ページになっていて、それを書き写す形です。
テーマは「変化の旅に出る」「目標を立てる」といった章立てに分かれ、それぞれに「困難を乗り越えるには」「感謝をしよう」「目標をやり抜くには」といったチップスが英語と日本語訳で載っています。
バタやんは、せっかく書き写すならポジティブな言葉のほうがいいと言います。簡単すぎず、少し知らない言葉ややや難しいセンテンスも出てくるくらいがちょうどいいそうです。
そして、ここに面白い発見があります。「困難を乗り越えるには」のような話は、日本語だけ読むと説教臭く、きれいごとすぎると感じてしまう。ところが英語だと、なぜか素直に受け入れられるというのです。
ちょっと臭い言葉も英語だとなんかエンパワーメント、エンカレッジされる感じがします。キープゴーイングみたいな感じでちょっと後を押されるんですね。
神フレーズ「象を食べるには一口ずつ」
今夜の神フレーズは、この本から選ばれました。「象を食べるには一口ずつ」ということわざです。大きな目標を持つのは素晴らしいが、それを小さく切り分けよう、という意味です。
元の英文は「There is an old saying. How do you eat an elephant?」というもので、目標を達成するには少しずつ、という話です。このページには「グリット=やり抜く力」という見出しがついています。
バタやんは、やり抜く力というと大きなチャレンジ精神をイメージしていたと言います。しかし書き写しながら、同じことをやり続けられるかというレジリエンス力のほうが重要かもしれないと思い至ったそうです。
何かをやり遂げるとき、初動のやりがいやモチベーションはもちろん大事です。ただ、それだけでは続けられず、同じことをやり続ける力が別途必要だ、というのがバタやんの実感です。
初動の力
やりがい・モチベーション・やる気で動き出す
継続の力
同じことをやり続けるレジリエンス力でやり抜く
役所広司が教えてくれた「同じクオリティで繰り返す」プロ論
バタやんはここで、エピソード冒頭で触れた役所広司の話に戻ります。編集者時代、映画『すばらしき世界』の公開時に取材する機会があったそうです。
バタやんにとって役所広司は、生きる映画のような人だったと言います。多くの人に取材してきた中でも、とりわけ圧倒的な印象を残した相手でした。
取材はコロナ禍の時期で、アクリル板越しに向かい合う形でした。声が聞き取りづらく、お互いどんどん前のめりになっていったそうです。
なんか刑務所の面会みたいだなって思ったんですよね。
『すばらしき世界』自体が受刑者を描いた映画だったこともあり、役所広司のシネマティックな佇まいが、スタジオの片隅を一気に面会シーンのような空気に変えたと、バタやんは振り返ります。
同席していた西川美和監督が語ったという、役所広司のすごさが印象的だったそうです。役者の中には、リハーサルと違うことを本番でやって驚かせよう、という駆け引きをする人も少なくないと言います。
ところが役所広司には、そうした駆け引きが一切ないというのです。求められたことを、段取り通り、同じことを同じクオリティで出せる。少し体を向けるだけの指示でも、最初から最後まで完成している、と西川監督は話していたそうです。
大御所になるほど、ギャフンと言わせてやろうという欲が上がる役者もいるだろう中で、それをしないことこそがプロだと、バタやんはそのとき腑に落ちたと言います。誰にでもできることではない、という気づきです。
2000円で長く楽しめる、新しい楽しみ
この本は税別1800円で、初期費用は2000円ほどです。バタやんは、比較的お金がかからず長く楽しめる、新しい楽しみを与えてくれる本だと評します。
まるこさんが求めていた、お金をあまりかけずに日々を心地よくする本という条件にも合う一冊です。
象を食べきっているかしらと。ちょっと続けてみたいなと思います。
100日後に英語力が変わっているかは自信がないと言いつつ、バタやんは書き写しを続けてみたいと話しました。英語を勉強中の人にもすすめて、今夜の紹介を締めくくっています。
まとめ
決まった曜日に決まったことをする生活はつまらないのか、という相談に対し、バタやんは1日1ページの英語書き写し本を通じて、継続とリピートそのものの価値を語りました。象を食べるように、大きな目標も日々の暮らしも一口ずつ、というのが今夜の芯です。
- 相談は、ルーティン生活を肯定してくれる本を求めるまるこさんのお便りから始まった
- 紹介本は『100日後に英語がものになる 1日10分ネイティブ英語書き写し』で、ピタッと開く製本が大きな魅力
- 5回書き写す推奨法は挫折し、1日1ページ物足りないくらいがルーティンには続けやすい
- 神フレーズは「象を食べるには一口ずつ」。やり抜く力とは、同じことを続けるレジリエンス力でもある
- 役所広司の「同じクオリティで繰り返し出せることこそプロ」という仕事論が、継続の価値を裏づけた






