コミットメントラインとは何か、当座貸越と何が違うのか
今回のエピソードで最初に確認されたのは、コミットメントラインそのものの定義です。菅井さんは、コミットメントが「約束」を意味することを踏まえて説明します。
ある一定期間、ある一定額について自由にお金を借りれる権利をお渡ししますという、ある種の与信の究極系みたいな形かなと思います。
この与信の究極系という表現が、この回全体を貫くキーワードになります。一定期間・一定額の枠内で、いつでも借りられる権利を渡すという点が特徴です。
続いて若林さんは、似た仕組みである当座貸越枠との違いを尋ねます。菅井さんは「似て非なるもの」と答えました。
コミットメントラインというのは、契約で定めた期間中は原則、銀行サイドはその義務を負うというものになります。
一方の当座貸越は、契約上いったんの期限は結ぶものの、銀行側がいつでも契約を終了できる権利を持っている状態のプロダクトだと説明されます。
つまり両者の決定的な違いは、貸し出す「義務」を銀行が負うかどうかにあります。コミットメントラインは銀行が貸し出しの義務を負うぶん、顧客にとってより安心感のある状態だと整理されました。
契約期間中、銀行が原則として貸し出しの義務を負う。顧客にとって安心感がある
期限は結ぶが、銀行が契約を終了できる権利を常に持っている
メリットは自由度、対価としてのコミットメントフィー
借りる側から見たメリットとデメリットについて、菅井さんはまずメリットの大きさを強調します。枠内であれば必要な額を必要な期間だけ借りられるため、自由度が非常に高いと話します。
お金を借りるという行為に関して言うならば、メリットしかないかなと思ってます。
その一方で、菅井さんは対価としてのコストにも触れます。約束をしてもらっている以上、「約束料」を払う必要があり、これがコミットメントフィーと呼ばれるものです。
コミットメントフィーは、枠のうち使っていない残高に対して何パーセントという形でかかります。使ったときの金利よりは小さい額ですが、コミットしてもらう対価として支払うものだと説明されました。
この性質から、若林さんは枠を使わなければ使わないでもったいない面がある点を確認します。菅井さんもそれを認めており、コミットメントフィーは枠を持つこと自体にかかるコストだと整理できます。
契約に潜む「使いたいときに使えない」トリガー
菅井さんが今日のトークのポイントと位置づけたのが、契約に盛り込まれる注意点です。銀行が負う貸し出しの義務には、それを免除できる条件が契約の中に入っているケースがあります。
どこまで条件を縛るかは企業の信用力によってまちまちですが、俗にコベナンツと呼ばれる条件で縛るのが一般的です。これが契約を解約するトリガーになったり、契約は続くが新規の実行ができない状態のトリガーになったりします。
ここを見落としていると、使いたい時に使えない、なんか不便な箱になっちゃうっていうケースは。
見落とすと「使いたいときに使えない」枠になってしまうという点が、この回でもっとも実務的な注意点として挙げられました。
コミットメントラインの金利とリスクの考え方
若林さんは、銀行がコミットする分リスクを取るなら、通常の貸し付けより金利が高くなるのかを尋ねます。菅井さんの答えは、単純に高いとは言えないというものでした。
期間のリスクについては、期限一括で融資をするときとリスクの取り方の考え方は同じだと説明されます。基本的な考え方は、期限一括のリスクと同様のイメージでよいということです。
ただし、専門的な話として、未使用枠にもリスクが存在する点が加わります。銀行の自己資本規制ではリスクウェイトアセットに応じてリスク料を計上する必要があり、コミットメントラインでは未使用時にもそれを積む必要があるため、そのリスク量を金利に織り込むことになると説明されました。
紐付け資金には向かない、運転資金として使う
どんなビジネスでもコミットメントラインを使うべきかという問いに対し、菅井さんはまず向かない使い方から説明します。設備購入などの紐付けの資金には、あまり使わない方がよいという立場です。
理由は、設備資金のような紐付けの資金に使うと、コミットメントラインの契約が終わった後にどう資金調達するのかの説明がつきづらくなるためです。
基本はやっぱり運転資金としてこう常時必要になる資金に対して使っていくというふうに考えるのが良いんだと思います。
銀行が提供するコミットメントラインは、一般的にジェネラルコーポレートパーパス、つまり一般事業資金として設定されることが多いものの、本来は常時必要になる運転資金に充てるのが基本的な考え方だと整理されました。
本来の役割は「有事のセーフティネット」
菅井さんは、コミットメントライン本来の役割は、有事のときの緊急避難的な扱いだと説明します。ここでアメリカでの使われ方が引き合いに出されます。
アメリカでは上場企業もクレジットリボルビングファシリティーを引きますが、基本的には使いません。上場企業は社債を発行して金融マーケットから直接調達しているためです。
金融危機が起こると、その直接調達市場がこう止まってしまうので、社債が発行できなくて資金が詰まるという時に、コミラインがあると(コミラインを)引いて生き延びれる。
つまり米国的なコミットメントラインは、有事のためのコストとしてコミットメントフィーを払い、本当にどこからも資金調達できなくなったときに使うための契約として持たれているケースが多いということです。
若林さんはこれを、ビジネスモデル以前にセーフティネットであり、コミットメントフィーも有事のための保険料に近いと言い換えます。菅井さんもこの整理に同意しました。
期限と借り換え、そして頻発させないこと
スタートアップの場合、有事用に維持できるほどの財務体力を持つ企業は多くないため、事業に必要な資金として枠を使っていくのがよいと菅井さんは補足します。
その際に意識すべき点が2つ挙げられました。1つは、コミットメントラインには必ず期限が来るため、期限のときにどう借り換えるかを想定しておくことです。
もう1つは、銀行とのリレーションにつながる点で、実行を頻発させないことです。枠なので毎日でも借りられますが、頻繁に借りていると資金計画への懸念を持たれかねません。
今日も借りて明日も借りて、なんか3日後も借りてみたいな感じでやっていると、変な話、そのあなたの資金計画大丈夫ですか?っていうふうに(見られてしまう)。
そのため、説明できるものであればよいものの、そうでない場合は資金計画を練りながら実行のタイミングを考えることが、テクニックとして大事だと話されました。
- 必ず来る期限に向けて、どう借り換えるかを想定しておく
- 実行を頻発させず、資金計画を説明できる状態にしておく
- 日頃の銀行とのリレーションを意識する
スタートアップでの戦略的活用とM&A
スタートアップでの具体的な使い方として、まず急成長時の資金手当が挙げられます。若林さんは、先出しの資金が出ないことで成長が止まらないよう手当てするイメージを示し、菅井さんもこれを認めます。
さらにレイトステージのスタートアップでは、M&Aをする側での活用が挙げられました。事業成長のために他社をM&Aする際、買うための資金を持っていることを示すためにコミットメントラインを引くという使い方です。
それ用のコミットメントラインが存在してるんですっていうことを示すためにコミットラインを引くというのがあって。
この場合は一般事業資金ではなく、M&Aという用途を銀行と話し合いながら設定するケースになります。若林さんは、ロールアップのようにM&Aを戦略的に使う動きがスタートアップでも増える中で、こうした使い方もあり得ると受け止めました。
どうすれば引けるのか、企業信用の磨き方
最後に、スタートアップがコミットメントラインを使いたいと思ったときにどうすれば使えるのかが問われます。菅井さんは「難しい」と前置きしつつ、答えは企業信用を高めることに尽きると話します。
コミットメントラインは与信の究極系であり、そう簡単に引けるものではありません。だからこそ信用力を高める必要があるという流れです。
コミットメントラインは与信の究極形だというふうに思っているので、そんなに簡単に引けるものじゃないので。
その信用力は、定量面だけでは足りないと強調されます。数字に表れる信用力を高めることに加えて、日々のコミュニケーションを通じてこの会社は大丈夫だと理解してもらう定性面の両方が大事だという説明です。
定量と定性の両面で企業の信用力を磨くことを意識して成長し、一定の規模になったときにようやく検討できるものだと、菅井さんは締めくくりました。
まとめ
この回では、コミットメントラインが銀行に貸し出しの義務を負わせる与信の究極系であること、当座貸越との違い、契約に潜む注意点、そして有事のセーフティネットとしての本来の役割と、スタートアップでの戦略的な活用法が整理されました。
- コミットメントラインは、契約期間中に銀行が原則として貸し出しの義務を負う点で当座貸越と異なる
- 自由度が高くメリットは大きいが、未使用枠に対してコミットメントフィー(約束料)がかかる
- 契約にはコベナンツなどの免除条件があり、見落とすと「使いたいときに使えない」枠になる
- 本来の役割は有事のセーフティネットで、運転資金や急成長時の手当、M&A用途などで使われる
- 与信の究極系であり、定量・定性の両面で企業信用を磨いて初めて検討できる




