酔っぱらいの「根本」を誰も説明していない?
ビールや日本酒が好きなレンさんは、これまでもビールやワイン、日本酒の回を配信してきました。それでも「お酒を飲むと体の中で何が起きているのか」という根本の話はしていなかったと切り出します。
え、わかる?これなんでさ、楽しくなっちゃうんだろうとかさ。眠くなっちゃうんだろうとかさ。
エマさんが「アルコールって必要な栄養素なのか」と尋ねると、レンさんは、取らなくても死なないし必須の栄養素でもないと答えます。必要ないのに欲しくなってしまう点が、二人にとっての不思議の出発点です。
そこで今回は、エタノールという分子が体に入ってからどうなるのかを、ひたすら追いかける「エタノール体内ツアー」として進められます。レンさん自身、飲み会で話したいネタとして準備したそうです。
小さすぎる分子が胃と腸をすり抜ける
エタノールは炭素が2個並び、そこにOH(ヒドロキシ基)が付いた、とてもシンプルで小さな分子です。レンさんによると、この「小さい」という性質がすべての出発点になります。
小さな分子は気体になりやすく、いろいろなタンパク質にくっついて作用しやすく、膜を通り抜けやすいという特徴があります。そのためエタノールは体のあちこちに出入りし、あちこちで作用します。
でもね、エタノールはその逆で、いろんなとこに行っていろんなことしてるから、ある意味制御できてないみたいなことでもある。
レンさんは、狙った場所だけに効かせたい薬とは真逆の存在だと説明します。いろいろな場所でいろいろなことをしているという性質が、酔っぱらいを複雑な現象にしています。
口から入ったお酒は、まず胃に届きます。レンさんが紹介する目安では、胃が吸収するのは20%ほどで、残りの80%は表面積の大きい腸などで吸収されます。
空きっ腹で飲むと酔いやすいという話も、この仕組みで説明できるといいます。腸が空っぽのとき、胃は最初に入ってきたものをすぐ腸へ送り、腸がすぐに吸収します。
一方、先に何か食べて腸が吸収で手いっぱいになっていると、後から入ってきたものは胃でしばらく留まります。この留まる時間が満腹感につながり、アルコールもすぐには腸へ届きません。
胃が空
最初に入ったアルコールを、胃はすぐに腸へ送る
腸で即吸収
腸が空いているので、そのまま一気に吸収される
血中へ
吸収されたエタノールが血液に乗り、酔いやすくなる
そのためレンさんは、酔いたくない人は最初に何か食べて、胃でアルコールを留める時間をつくるほうがよいと話しています。
ビール1本で血中アルコール濃度はどれだけ上がる?
酔いの度合いをどこで測るかは、実は難しい問題だとレンさんは言います。飲酒運転の検査では呼気に含まれるエタノールを測りますが、全身に行き渡る経路として一番重要なのは血液です。
エタノールは腸で吸収されたあと、血液に乗って全身を巡ります。そのため、酔いの基準のベースになるのが血中アルコール濃度 ── 血液中に含まれるアルコールの割合。飲酒量や体格、時間経過で変わり、酔いの程度や飲酒運転の判定の目安に使われますです。
レンさんによると、ビールの瓶を1本飲むと、血中アルコール濃度はおよそ0.02%上がります。数字だけ見ると少なく感じますが、0.02%上がるとかなり酔っている状態です。
エマさんは、もともと血中にどれくらいエタノールがあるのかを質問しました。レンさんの答えは、何もしていない状態だと0.0000001%かそれ以下で、血液1リットルあたり1ミリグラム以下というものです。
ただし、ごく稀に、腸内細菌が食べたものを腸の中でアルコール発酵させてしまう病気があるといいます。オートブルワリー症候群 ── 腸内の酵母や細菌が糖質を発酵させ、体内でアルコールを作ってしまう疾患。飲酒していないのに酩酊状態になることがありますと呼ばれるもので、一滴も飲んでいないのに酔ったような状態になります。
レンさんは、この病気の人が飲酒運転とみなされて捕まり、裁判で「病気だったので飲酒運転ではない」という判決が出た例があるらしいと紹介しました。エマさんは、医師の証明書があったほうがいいし、社会的にもほとんど知られていない気がすると反応しています。
炭酸割りのほうが酔いが回りやすい理由
レンさんは、炭酸なしのお酒と炭酸入りのお酒ではどちらが酔いやすいかとエマさんに問いかけます。エマさんは「炭酸が腸での吸収を邪魔しそう」と考え、炭酸なしと答えました。
なるほどね。これはね、逆なのよ。
レンさんの説明では、炭酸から出る気体で胃や腸の内圧が上がり、胃から腸への排出や吸収が早まるらしいとのことです。その結果、エタノールも吸収されやすくなります。
吸収のスピードは通常どおり
胃や腸の内圧が上がり、吸収が早まって酔いやすい
エマさんは、炭酸で胃から腸への排出が早まるなら満腹感が減るのではと考えました。レンさんも、全体の排出が促進されるならその方向に行くかもしれないと認めつつ、少なくとも吸収は早くなるらしいとまとめています。
ワインならシャンパンのほうが少し酔いやすいという話も出ました。エマさんが「飲み会で炭酸割りの人に教えてあげよう」と言うと、レンさんは「それはあまり言われたくない」と笑っています。
顔が赤くなる人はアセトアルデヒドを分解できない
酔いやすさに関わる要素として、エマさんは体質を挙げます。レンさんは、吸収よりも大きな要素として、肝臓の酵素がアルコールをどれだけ分解できるかを説明しました。
腸から吸収されて血管に入ったエタノールは、肝臓を通ります。解毒を担う肝臓では、エタノールは毒として扱われ、酸化されてアセトアルデヒド ── エタノールが体内で分解される途中にできる物質。毒性が強く、顔の紅潮や動悸、吐き気、頭痛などの原因になりますという別の分子に変わります。
アセトアルデヒドはかなりの毒で、これを無害化するのがアルデヒド脱水素酵素、通称ALDHです。レンさんによると、エタノールをアセトアルデヒドにする力はほぼ誰にでもありますが、ALDHの働きは遺伝によって大きく違います。
エタノール
肝臓で毒として扱われ、酸化される
アセトアルデヒド
毒性が強い。分解できないと血流に流れ出る
無害化
ALDHが無害化する。この力に遺伝的な個人差がある
日本人にお酒に弱い人が多めなのは、このALDHの違いが理由だといいます。お酒に強い人は肝臓でアセトアルデヒドをすぐ分解しますが、弱い人はアセトアルデヒドが血流に流れ出てしまいます。
流れ出たアセトアルデヒドは血管を必要以上に広げるため、顔や体が赤くなります。心臓に届けば脈が上がり、脳に届けば吐き気が出ます。
エマさんは「血中アルコール濃度とは、実はアセトアルデヒドの濃度なのか」と尋ねました。レンさんは、そこはアルコール濃度で、アセトアルデヒドだけを測ると、たくさん飲んでも分解の早い強い人が酔っていないことになってしまうと説明します。
また、肝臓は1回で全部のエタノールを分解できるわけではありません。分解されなかったエタノールは全身を巡ってまた肝臓に戻り、何度も少しずつ分解されていきます。
まあね、一発で全部解毒できてたらね、酔っ払わないよね。
筋肉質と脂肪が多い人、酔いやすいのはどっち?
遺伝に加えて、レンさんは体格も酔いやすさを左右すると話します。体積が大きい人は体の水分も多いため、エタノールが薄まりやすく、酔いにくくなります。
では、筋肉質な人と脂肪が多い人ではどちらが酔いやすいのか。エマさんは筋肉質な人と答えましたが、レンさんによると逆です。
筋肉は水分が多く、エタノールが薄まりやすい
脂肪は油で水分が少なく、エタノールが濃いまま残りやすい
同じ理由で、男女でも違いが出ます。同じ体重なら脂肪が多めの女性のほうが、血中アルコール濃度が高く出やすいといいます。
エマさんは、体感として女性のほうがお酒に弱い人が多いイメージがあると話し、レンさんもその体感はおそらく合っていると応じています。
エタノールは脳のブレーキとアクセルをどう狂わせる?
吸収されたエタノールが一番大きな影響を与えるのは脳です。血液にはいろいろな物質が流れているため、脳にはほとんどの分子をはじくバリアがあります。
ところが、小さなエタノールはこのバリアをすり抜け、飲んで数分で脳に届きます。同じ理由で胎盤のバリアも通過するため、妊娠中の飲酒はいけないとされています。
脳でのエタノールの大きな作用は2つあり、レンさんは「アクセルもブレーキもバグらせる」と表現します。
ブレーキ役はGABA ── γ-アミノ酪酸(ガンマアミノブチリックアシッド)の略。脳の興奮を抑える代表的な抑制性の神経伝達物質ですというアミノ酸です。チョコレートの商品名にもなっていますが、脳では「落ち着こう」という信号を伝えています。
エタノールはGABAとは別の場所にくっつき、GABAが受容体に結合したときの効果を増幅します。脳の活動を抑える信号がさらに強まるため、眠くなります。
睡眠薬もGABAのブレーキを強めるものが多く、お酒と併用すると眠くなる作用が効きすぎて危ないとレンさんは注意しています。
アクセル役は、脳で最も多い興奮性の信号物質であるグルタミン酸です。エマさんは「旨味の成分だと思っていた」と驚きますが、脳では「もっと動け」「起きろ」という信号を担っています。
エタノールはグルタミン酸が受容体にくっつくのを邪魔します。神経がまともに働かなくなり、判断力が鈍ります。
| 物質 | 本来の役割 | エタノールの作用 | 結果 |
|---|---|---|---|
| GABA | ブレーキ(落ち着け) | 効果を増幅する | 眠くなる |
| グルタミン酸 | アクセル(動け) | 受容体への結合を邪魔する | 判断力が鈍る |
| エンドルフィン | 幸せを感じさせる | 放出を促す | 気分が上がり、ドーパミンも出る |
エマさんは、ブレーキが強まりアクセルも防がれるなら、全体としてはマイナス寄りになるのかと整理しました。レンさんは、脳全体として「いつも通り働けない」状態になると答えています。
「うえーい」から寝落ちへ、飲み会の脳内で何が起きている?
ここまでの話だけならただ眠くなるだけですが、エタノールには興奮させる作用もあります。レンさんによると、エタノールは脳の報酬系に作用し、エンドルフィン ── 脳内で作られる、鎮痛作用や多幸感をもたらす物質。「脳内麻薬」とも呼ばれますを作る細胞から放出を促すといわれています。
レンさんは、この仕組みにはまだわかっていない部分もあるようだと前置きしています。エンドルフィンは幸せを感じさせる物質で、エタノールはそのスイッチを勝手に押してしまいます。
で、勝手にハッピーになるスイッチが入ると、一緒にドーパミンも出る。
エマさんが「そしたら依存しちゃう」と言うと、レンさんは依存症もこれに関係すると答えます。
飲み会では、鈍る方向とハッピーになる方向のどちらが強いかが時間とともに変わります。乾杯して飲み始めたころはハッピーが勝つ興奮フェーズで、ある程度飲むと判断力が鈍るほうが勝ってきます。
飲み始めはエンドルフィンやドーパミンによるハッピーが勝つ興奮フェーズ
飲み進めると、判断力の低下や眠気が勝ってくる
エマさんは、判断力の低下はグルタミン酸、眠気はGABAによるものだから必ずしも連動していないのでは、と指摘しました。レンさんも連動はしておらず、どちらもハッピーより後に効いてくるという理解でよいと答えています。
だからさ、脳はめっちゃ忙しいわけで、眠くなりながら判断が鈍って気分は上がるっていう状態なのよ。
エマさんが頭痛も挙げると、レンさんはアセトアルデヒドで血管が広がり、血流が巡りすぎて頭が痛くなることもあると補足しました。
酔って出るのは「本性」ではない?
お酒を飲むと「本性が出る」とよく言われます。しかしレンさんは、脳の仕組みから見ると、それは違うと話します。
情報を処理する能力が落ちると、目の前のものだけに反応し、長期的なことを考えられなくなります。明日の朝が早いのにたくさん飲んでしまうのも、その一例です。
怒りやすくなる人は、怒ったらどうなるかという先のことを考えなくなっています。泣き上戸の人も、普段なら「今泣いたら変に思われる」と予測して抑えているところを、未来予測ができずに泣いてしまうのだとレンさんは説明します。
酔うと相手が美人やイケメンに見えるという研究も紹介されました。よく調べると、他人の顔の評価が上がるのではなく、魅力的な人に話しかけようという勢いが増すため、結果的に他人がよく見えるのだといいます。
自分のこともより魅力的に感じるようになるそうで、エマさんは「自信がつくんだね」と反応しました。酔うと外国語が上手くなるという研究はイグノーベル賞 ── 「人々を笑わせ、そして考えさせる研究」に贈られる賞。ノーベル賞のパロディとして1991年に始まりましたを受賞しており、これも判断が鈍って緊張が解けるためだと説明されています。
記憶が「飛ぶ」のではなく「記録できていない」
お酒で記憶をなくす人もいます。レンさんもエマさんも記憶をなくした経験はありませんが、友人にはそういう人がいて、しかも記憶があるかのように話すといいます。
レンさんによると、「記憶が飛ぶ」という表現は実はあまり正しくありません。記憶をつかさどる海馬 ── 脳の側頭葉の内側にある部位。新しい出来事を記憶として定着させる働きに深く関わっていますなどでは、見聞きしたことの神経のつながりがその場で強まり、記憶として焼き付けられます。
エタノールがあると、この焼き付けの働きが止まってしまうらしいのです。
いったん記憶したことを、お酒のせいで忘れる
海馬での記録が働かず、最初からデータが残っていない
エマさんは、記憶をなくす人はそれほど多くない気がすると疑問を投げます。レンさんは、ある程度の濃度まで飲む必要があり、一気に血中エタノール濃度が上がると、濃度が高い間だけ記憶がない人もいると説明しました。
ああ、そうそうそう。だからブレーカー落ちるみたいな話ね、これ。
エマさんは、自分たちも気づかないうちに断片的にブレーカーが落ちている可能性があるのでは、と考えました。レンさんは、そもそも人は2日前の夕食も思い出せないことがあるほど記憶は曖昧なので、忘れていることを忘れている可能性はあると答えます。
さらに、記録の機能が弱まっているぶん、いったん記憶されても忘れやすいという面もあるかもしれないと二人は話しています。
トイレが近くなり、翌日だるくなるのはなぜ?
エタノールは脳以外にも働きます。顔が赤くなるのは主にアセトアルデヒドの作用ですが、エタノール自体にも血管を少し広げる作用があるといいます。
腎臓は血液をろ過して不要なものを膀胱へ送りますが、そのままだと水が出すぎるため、一度膀胱へ行きかけた水を血液に戻しています。エタノールはこの再吸収を止めてしまいます。
腎臓に作用
エタノールが水の再吸収をやめさせる
尿が増える
水がどんどん膀胱へ行き、トイレが近くなる
脱水
液体をたくさん飲んでいても、出すぎて脱水のようになる
エマさんの「だからこそ水も飲んだほうがいい」という言葉に、レンさんも同意しています。
エタノールは血糖値にも影響します。肝臓は糖をためたり、糖の塊から少しずつ糖を出したりして血糖値を調整していますが、エタノールは血糖値が下がったときに糖を血液へ送るラインを止めてしまうといいます。
その結果、血糖値がかなり下がり、エネルギー不足のような状態になります。飲み会の翌日のだるさや、妙にお腹が空く感覚はこれが原因だとレンさんは話しています。
カフェインや冷たいシャワーで酔いは覚めない
最終的に、血液中のエタノールの90〜95%は肝臓で分解され、残りは汗や尿、息から出ていきます。体から消えるまでには10時間ほどかかります。
レンさんは、この10時間を早める方法はないと断言します。カフェインを取ったり冷たいシャワーを浴びたりすると酔いが覚める気がしますが、体感が変わるだけで、血中のエタノールの量はまったく変わりません。
まあカフェイン取ったらさ、脳はちょっと覚醒するんだけど。それって覚醒された酔っ払いが生み出されてるだけで。
肝臓がエタノールを分解する速度は、性別や体格に関係なくほぼ一定で、1時間あたり0.015%といわれているそうです。
エマさんは、人種によって分解能力に差があるという話と矛盾しないかと尋ねました。レンさんの説明では、一定なのはエタノールをアセトアルデヒドにする速度で、差があるのはアセトアルデヒドを無害化する段階です。
アセトアルデヒドを分解する遺伝子が少ない人は、エタノールは減っていくのにアセトアルデヒドがたまってしまいます。この差が、二日酔いのなりやすさや酔いの残りやすさの違いになるといいます。
金曜日になるだけで飲みたくなるのはドーパミンのせい
体の中が大パニックになり、最後は解毒されてめでたしめでたし。それでもまたお酒が欲しくなるのは、途中で出てきたドーパミンのせいだとレンさんは言います。
お酒そのものに依存性があるというより、お酒を飲む環境が「欲しい」を誘発するようになるといいます。居酒屋でお酒を飲んでドーパミンが出る経験を重ねると、居酒屋に行くだけで飲みたくなるスイッチができあがります。
飲酒
居酒屋などでお酒を飲み、ドーパミンが出る
結びつき
その場所や曜日がドーパミンのスイッチになる
合図で欲求
毎週金曜に飲む人は、金曜になった時点でドーパミンが出る
再び飲酒
欲しい気持ちの向かう先がお酒になる
エマさんは、ほかの動物もアルコールを欲しがるのかと疑問を持ちます。レンさんは、熟した果実の例を挙げました。
腐る直前の果実はエタノールの匂いを出します。果物が少ない環境では、その匂いを頼りに餌を見つけた個体が生き残り、子孫はエタノールの匂いに反応しやすくなったのではないか、という説があるといいます。
レンさんは、エタノールを出しているのは酵母などの微生物だとも補足し、人間がエタノールを好むのも同じような理由かもしれないと話しました。この進化の話は、二人が以前に配信したお酒の回でメインに扱ったテーマです。
ただし現代の人間は、匂いではなく、飲んだときに楽しいからお酒を求めている面が大きいとレンさんは考えています。報酬系が刺激され、お酒以外のことがきっかけで飲みたくなるスパイラルが完成しているという説が多いそうです。
「少量のお酒は健康に良い」は否定された?
レンさんは、飲んで話すのが楽しいのはいいとしつつ、飲まないと不安になる方向へ進むとアルコール依存症につながると注意します。だからこそ、ほどほどに飲むことが大事だと強調しました。
エマさんは「全く飲まないより少し飲むほうがいいのでは」と尋ねます。レンさんは、ワインを少し飲む人のほうが長生きするという研究を見たことはあるものの、それがエタノールの影響なのかはわからないと答えました。
ワインに含まれるほかの成分の影響かもしれないし、楽しくなることや、人間関係が円滑になってサポートを得られることが長生きにつながっているのかもしれない、と二人は可能性を挙げています。
一方で、はっきり言えることもあります。お酒ががんのリスクを上げることは証明されており、エタノールによって細胞に変異が入りやすくなるといいます。
レンさんが追加で調べたところ、「全く飲まない人より少し飲む人のほうが死亡リスクが低い」という研究は実際にありました。ただし、後にバイアスがあったと指摘され、ほぼ否定されているそうです。
飲まない人のグループに、病気でお酒をやめた人が含まれ、少し飲む人のほうが健康に見えていた
このバイアスを補正すると、少し飲む人も飲まない人と大きく変わらないという結論になる
レンさんは、だからといって少量のお酒が非常に危険というわけでも、1杯で不健康になるわけでもないとしています。そのうえで、健康関連とあまり紐付けない方がいいというのが結論だと話しました。
飲めばリスクはあり、飲みすぎればお酒関連の病気のリスクも高まります。それと楽しく飲むことを天秤にかけ、自覚しながらほどほどに飲みましょう、というのが二人の着地点です。
すべての原因は「エタノールが小さいこと」
レンさんは最後に、エタノールが体に入ってからの話を振り返ります。すべての原因はエタノールが小さいことで、そのため脳にはフリーパスで入り込みます。
肝臓は一度にすべてを解毒できないため、エタノールは全身を巡ります。脳ではGABAやグルタミン酸に働きかけて能力を落とし、リミッターが外れたり判断力がなくなったりします。
さらにドーパミンが出ることで、お酒を飲みたくなるきっかけも生まれます。レンさんは「次の日が休みだと飲みに行きたくなる気持ちはよくわかる」と話し、エマさんも飲み会はそれほど好きではないものの、少し飲もうかなという気持ちはわかると応じました。
最後は個人差がありながらも肝臓などで分解され、体から出ていく。これがエタノールの体内での一生です。エマさんは「分子が小さいと影響が多大ですね」と感想を述べ、レンさんは今後もエタノールに関する研究はたくさん出てくるだろうと話しました。
いやー、でもなんか直感的にはあんまりいいこと見つかんなそうだから、俺あんまやりたくない。
「自分でエタノールを研究したら」とエマさんに勧められたレンさんは、調べた感じ「毒は毒」だと話し、自分で自分の首を絞めたかもしれないと苦笑しています。今回は毒の話が出てくる流れのため、お酒を飲みながらの収録はやめたそうです。
このエピソードは、コミュニティ「サイエントークラボ」で「酔っぱらう話をしてほしい」という要望があったことも収録のきっかけになりました。また、収録はテーマ発表前でしたが、偶然にも共通テーマが「アルコール」だった7月の「科学系ポッドキャストの日」に合わせて配信されています。
まとめ
エタノールは小さな分子であるがゆえに、胃腸をすばやく通り、脳のバリアもすり抜け、さまざまな場所で作用します。眠気、判断力の低下、高揚感、記憶の欠落、脱水や低血糖まで、酔っぱらいはその作用の重なりとして説明できます。健康効果を期待するのではなく、リスクを自覚したうえでほどほどに楽しむことが大切だと二人は締めくくっています。
- 空きっ腹や炭酸割りは、アルコールの吸収を早めて酔いやすくする
- 顔が赤くなるのはアセトアルデヒドの作用で、その無害化能力には遺伝的な差がある
- エタノールはGABAを強め、グルタミン酸を妨げ、エンドルフィンを出させることで脳を混乱させる
- 記憶は「飛ぶ」のではなく、海馬で最初から記録されていない
- 分解速度は早められず、WHOは「安全な飲酒量は存在しない」としている



