イグノーベル賞をノーベル賞にする大喜利とは?
2025年のイグノーベル賞を紹介する企画は、話しきれずに2本立てになり、今回はその後編です。前編で5つの賞を紹介し、後編でも残りの5つを取り上げます。
この回は「#科学系ポッドキャストの日」の10月のテーマ「これができたらノーベル賞!」に合わせています。そこで二人は、受賞研究を勝手に応用して「ノーベル賞級」にする方法を考えるという取り組みをしています。
イグノーベル賞をなんとかノーベル賞にする方法っていうのは、もともと受賞したイグノーベル賞の内容を、私たちの方で勝手に変えてノーベル賞級にしようっていう勝手な取り組みですよね。
(内容を)変えるじゃないな、応用するっていう感じ。
エマさんはこれを「大喜利的に考える」と言い換え、レンさんは「夢を語る」とまとめます。最初に取り上げるのは、イグノーベル化学賞の食用テフロンの研究です。
化学賞の受賞研究は、食用テフロンと呼ばれるプラスチックが、カロリーを増やさずに食べ物のボリュームを増やし、満腹感を得るためのよい方法かどうかを検証したものです。エマさんには、テフロンはフライパンの加工に使われるもので、食べられるイメージがありませんでした。
レンさんの説明では、テフロンはもともとポリテトラフルオロエチレン ── 略称PTFE。フッ素と炭素だけでできたポリマーで、熱や薬品に強く、ほかの物質がくっつきにくい性質を持つ代表的なフッ素樹脂ですという化学物質で、デュポンという会社がテフロンという名前で商業化したものです。テトラは「4つ」、フルオロは「フッ素」を指し、4つのフッ素がついたエチレンがずらっとつながったポリマーだと説明されています。
フライパンのテフロン加工が焦げつきにくいのは、フッ素があることでほかのものとくっつきにくい性質があるためだと、レンさんは話しています。
テフロンは食べても大丈夫なのか?
レンさんによれば、テフロンを使ってカロリー摂取量を減らす特許がアメリカで出ていて、実際にテフロン入りのチョコレートバーもあるらしいといいます。チョコレートの中で、テフロンはかさ増しに使われています。
食べ物のかさ増し自体は、実はよく行われている手法です。レンさんは例として、増粘剤と呼ばれるキサンタンガム ── 微生物の発酵でつくられる多糖類。少量で液体にとろみをつけられるため、ドレッシングやソースなど多くの加工食品に使われていますを挙げ、満腹感は得られるのにカロリーが少ない食品を実現できると説明します。
ただし、増粘剤には課題もあります。増粘剤は吸湿性がとても高く、たくさん入っているとお腹を下す原因になることがあるそうです。そこで別のゼロカロリー物質の候補として挙がったのが、テフロンでした。
テフロンは化学的にとても安定していて、酸やアルカリにも強く、熱にも耐えます。そのため口から体に入っても代謝されず、消化されないまま出てくるとレンさんは話しています。
増粘剤の課題
吸湿性が高く、多く入れるとお腹を下すことがある
テフロンの性質
化学的に安定で、酸・アルカリ・熱にも強い
体の中では
代謝も消化もされず、そのまま出てくる
提案
粉末にして食品のかさ増しに使えば、ダイエットにつながるのではないか
安全性の根拠として、ラットの毒性試験も紹介されます。90日間、テフロンが25%含まれる餌を食べさせても、ラットに目立った毒性はなかったといいます。
ラットの体重は少し下がったそうで、エマさんは「(栄養になる部分が)75%になるもんね」と納得しています。その後の研究でも細胞レベルの影響は確認されておらず、テフロンはカテーテルや注射針、人工血管、カミソリ、化粧クリームなどにも使われていると紹介されました。
テフロンは粉末にできるため、それを食べ物に混ぜてかさ増しに使えばダイエットになるのでは、というのが受賞研究のアイデアです。エマさんが人での臨床試験について尋ねると、レンさんは「されてないかな」と答え、安全性に関するさまざまな論文を集めて報告したものだと説明しています。
テフロン入り食品は環境問題とどう向き合う?
テフロンを食べる案で心配されるのは、環境への影響です。レンさんの説明では、下水の中で大きい粒子は沈みやすいため、分離してから水を海に返す方法がすでに取られていて、海にテフロンが大量に出ることはないのではないかと言われています。
一方でエマさんは、ゴミの中のテフロンは増えるのではないかと指摘します。レンさんによれば、テフロン自体はリサイクルが可能らしく、うまくリサイクルできれば環境への影響は最小限ではないか、というのも研究の提案です。
ただね、これね、みんなやり始めたら結構ね、大問題になるんじゃないかなと俺は思う。
エマさんはこれを、便利だからと使われすぎて問題になったプラスチックになぞらえます。レンさんも、理論的には大丈夫でも、実現すれば問題は起きるだろうと見ています。
レンさんは、この研究が本気の実用化提案というより、化学物質を危険視しすぎる風潮への「逆張り」ではないかとも考えています。テフロンはそれほど有害ではないと示しているのに、食べ物に混ぜると聞くだけで恐ろしく感じてしまう、という皮肉ではないかというわけです。
でもなんかそうやって初め無害そうかもっていうデータ集めて、で、何かしら実際に食べた人がいて、それで健康に害ないってことが多分わかっていくものだと思うから。
害のないものは多分害ないから、過剰に不安視するのも良くないと思うし、まあ入り口に立ったっていう感じなんじゃないですか。
エマさんの見立てでは、保存料や甘味料も同じように安全性が確かめられてきたもので、テフロンの食用利用は、その入り口に立った段階だということになります。
人工甘味料はなぜ長期の常用を勧められない?
テフロンという名前はフライパンのイメージが強いぶん、余計に不安を感じやすいのかもしれません。レンさんはここから、人工甘味料の話に広げます。
レンさんによれば、甘味料は「砂糖に似たものが入っている」と思われがちですが、化学的には砂糖とまったく違う物質であることも多いそうです。そのため、甘味料のほうが健康に悪いケースもあると話しています。
人工甘味料は体内で代謝されますが、エネルギーにはほとんどならないとレンさんは説明します。そのうえで、WHOの2023年の見解として、砂糖の代替として一時的に使うのはよいものの、長期的な常用は推奨されないと紹介しました。
理由として挙げられたのは、腸内細菌のバランスを乱すリスクと、長期の摂取が心血管疾患や2型糖尿病、全体の死亡率の上昇と関連する可能性です。レンさんは、細かい原因がまだわかっていない点がかえって怖いと話しています。
甘味が強いため、どんどん求めてしまう依存性の高さも指摘されます。エマさんが「麻薬っぽい」と言うと、レンさんは「麻薬とは言ってないけどね」と念押ししつつ、脳が欲してしまう感覚に近いと話していました。
脱線として、レンさんは人工甘味料が見つかった経緯も紹介します。実験を終えた大学生がパンを食べたら尋常でなく甘く、急いで実験室に戻ってその日に使った物質を全部舐めて甘さの正体に気づいた、という話です。レンさんは、それがサッカリン ── 最も古い人工甘味料の一つ。19世紀後半に偶然発見され、砂糖の数百倍の甘さを持つとされていますだったかな、と記憶をたどっています。
意図して作られたわけではない人工甘味料にも長期的な健康上の課題があるように、テフロンも本当に問題ないかはまだわからない、というのがレンさんの結論です。
ゼロカロリー物質で肥満を解決できたらノーベル賞?
エマさんは、前回の話題と同じく、食用テフロンにも肥満を解消する可能性があると考えます。レンさんも、理想的にはこれで肥満が解決すればノーベル賞クラスではないかと応じました。
前編で取り上げたピザとトカゲの研究は「味覚ハック」の話でしたが、二人は収録日が空いたせいで内容を忘れかけていました。今回のテフロンは味覚ハックではなく、ゼロカロリー物質で肥満を治療する方向で、しかも無理なくできそうだとレンさんは話しています。
エマさんの疑問は、すでにある増粘剤とテフロンで何が違うのかという点です。レンさんが調べたところ、増粘剤にはカロリーがあるものとないものがあり、食物繊維のようなポリマーが主成分のものは消化されにくく、カロリーは低いかほぼゼロだといいます。
それならテフロンは選択肢が1つ増えるだけでは、とエマさんが言うと、レンさんは配合できる量が違うと反論します。
カロリーゼロに近いものもあるが、配合はごく少量。多く入れると下痢のリスクがある
消化されずに出てくるため、食体験を損ねなければ割合を高められるというのが受賞研究の主張
いや、増粘剤ってそんな25パーとか入ってないと思うよ。ほんとちょびっとだけ。
エマさんは、味が薄まらない程度に2〜3%でも常に入れてカロリーをカットできれば、長期的には痩せそうだと前向きに受け止めています。
わざわざプラスチックを食べる人間は欲深い?
食用テフロンの話は、人間の欲の話へ広がります。レンさんは、昔はエネルギーが足りず少し食べて喜んでいたはずの人間が、現代では量を求めてプラスチックのようなものを作って食べて出していると指摘します。
なんかさ、人間って欲深い生き物だよね。
エマさんは、肥満が実際に問題になっている国もある以上、仕方がないと応じます。二人の間では「アホ」という言葉も飛び出しますが、レンさんは肥満を一概にそう言い切ることはできないと考えています。
肥満の問題って俺ほんと難しいなって思うんだよな。一概にアホとは俺言えないと思うんだよ。
病気や体質によって少ししか食べなくても太ってしまう人、食べるのを抑えられない人もいるからです。一方でエマさんは、物質的に貧しかった時代には肥満がそれほどなかったことを挙げ、現代の肥満の多くは安くたくさん食べられる環境のせいではないかと見ています。
レンさんはそれを、快楽を追い求めすぎた人間社会の皮肉な結果だと表現しました。話はさらに、レンさんが最近訪れたチェコの印象に移ります。
レンさんはヨーロッパの何カ国かを訪れたなかで、チェコの男性の肥満率に一番驚いたといいます。その要因として、チェコがビールの消費量で世界一であることを挙げ、ビールの影響も大きいのではないかと推測しています。
かさ増し食品が普及すると「100%の食べ物」は高くなる?
食用テフロンのノーベル賞化については、「ゼロカロリー物質で肥満を解決する」が落としどころになりました。ただ、レンさんは肥満問題を解決してノーベル賞が取れるのか、話しながら疑問も感じています。
ここからレンさんは、普及した後の社会を想像します。テフロンの粉が安く作れて世界中に広まれば、どんな食べ物も簡単にかさ増しでき、体積あたりの価格が下がります。その結果、かさ増しされていない普通の食べ物の値段が上がるのでは、という懸念です。
普及
テフロンの粉が安く作れて世界中に広まる
価格低下
あらゆる食品をかさ増しでき、体積あたりの価格が下がる
希少化
かさ増しされていない100%の食べ物が希少になる
値上がり
「かさ増しなし」がブランド価値になり、普通の食べ物を食べたい人が損をする
エマさんは、普及の度合いによると反論します。今は無塩バターやカロリーの低いアイスのように、健康志向の商品のほうが高い例もあるため、100%の食べ物が必ず高くなるとは限らないという考えです。
レンさんは、健康志向の商品が高いのは工夫のコストが乗っているからではないかと返し、自分の論点を改めて説明します。
結論、俺が言いたいのは、これがノーベル賞を取って肥満を解決した社会は普通のもの食べるの大変になりそう。
かさ増しされてませんっていうのがブランド価値になって値上がりしたりしたら、普通のもの食べたい人たちの方が損しそうだな。それってノーベル賞なるかなっていう。
話がかみ合わないまま、最後はエマさんが「テフロンが実際に普及して肥満問題を解消するレベルになったらノーベル賞を取るかもしれない」とまとめました。二人とも本当に取れるかは疑問としつつ、大喜利の答えとしてはこれでよしとしています。
お酒を飲むと外国語の発音がうまくなる?
2つ目はイグノーベル平和賞で、お酒を飲むと外国語を話す能力が時々向上することを示した研究です。エマさんは「時々なんだ」と反応しつつ、仲のいい友達と飲んでいるときには実感があると話します。
二人は最初、一般論として理由を考えます。エマさんは気が大きくなり自信がつくからだと考え、レンさんは抑制機能が外れて、間違っていてもとりあえず喋るようになるからではないかと推測しました。
つまりそれが自分のもともとのポテンシャルってことだよね。
エマさんの疑問は、うまく喋れているのが本人の感覚なのか、客観的にも上手なのかという点です。研究になっている以上、客観的に測っているはずだと考え、実験の中身を尋ねます。
レンさんの説明によると、実験はオランダ、イギリス、ドイツの研究者によるもので、ドイツ語ネイティブで最近オランダ語を学んでいる学生50人が参加しました。
多く飲むとベロベロになるだけなので、アルコールは少量、いわば「ほろ酔い」程度です。会話相手がネイティブかどうかは不明ですが、評価をするのはネイティブ2人だとレンさんは説明しています。
結果は、アルコールを摂取した人のほうが、発音が優れていると評価されたというものでした。意外なのは、参加者自身の自己評価では、飲酒と発音のよさに関連がなかったことです。
研究では、少量のアルコールで外国語を話す際の抑制が緩和され、流暢な発音につながった可能性が推定されています。エマさんは、言葉がスラスラ出るといった変化を想像していたため、効果が客観的には発音に限られていた点に驚いていました。
「オランダ人の勇気」から考えるノーベル平和賞への道
レンさんは、ドイツ語話者のオランダ語に限った限定的な研究で一般化はしにくいとしつつ、こうした研究がそもそも少なかったことが評価されたと話します。2018年の研究です。
研究の動機には、ダジャレのような背景もあるそうです。英語には酒に酔った勢いを意味する言葉があり、それが「ダッチ・カレッジ」、つまりオランダ人の勇気です。
レンさんによれば、17世紀のイギリスとオランダの戦争中、酔ったオランダ兵が勇敢に戦うのをイギリス兵が見て生まれた言葉だそうです。研究はこの言葉にかけているのではないか、と紹介されました。
ノーベル賞化の案として、レンさんはまず平和賞を挙げます。研究が本物だと確かめられ、偉い人たちがお酒を飲んで話して世界平和になれば、ノーベル平和賞ではないかというのです。
エマさんは、お酒が飲めない人や飲みすぎる人もいることから、お酒以外で少し饒舌になれる特効薬があればいいと考えます。「言語能力が上がる特効薬」と言われて飲むだけでプラセボ効果がありそうだと、二人は笑います。
自然科学系のノーベル賞を狙うなら、アルコールが言語能力の向上にどう役立つのか、メカニズムまで徹底的に調べるという方向もレンさんは挙げました。エマさんは、重要な場面で飲めるコミュニケーション能力の向上薬なら欲しい人がいる、と自分も含めて話しています。
話は国のトップ同士の関係へ広がります。エマさんは、トップ同士が個人的に仲がよいだけで外交がよくなることはあり、トランプ氏は個人の感情で外交を決めるとよく言われると紹介しました。
翻訳技術が完璧になっても英語を学ぶ意味は?
エマさんは、ゼレンスキー氏とトランプ氏が英語で直接話したように、通訳なしで話せることは強いと指摘します。レンさんは、たとえ翻訳イヤホンができても、言葉を直接交わす大切さは残ると考えています。
すごい理性100パーセントで考えたら別にそんなんなくてさ、必要なこと伝わったらいいじゃんっていう感じもするけど、なんか理性だけじゃ人間動かないとこあるからな。
エマさんの上司の上司にあたる人は、昔から「技術があるから英語は必要なくなる」と言われ続けたが、結局英語は必要だったと話していたそうです。エマさんは、技術の進歩は速くなっているものの、本当に追いつくかには疑問があり、英語は学んだほうがいい派だといいます。
一方でレンさんは、技術は思い描く最大のところまで行ってしまう派です。Teamsの同時通訳のように、30年前には想像できなかった機能がすでに実現しつつあることを根拠にしています。
そこでレンさんが投げかけたのが、翻訳技術が行き着いたとき、学校で英語を教えるのをやめるのかという問いです。レンさんは、自分たちが生きている間は必要だとしつつ、100年後には英語の勉強はいらないとなるかもしれないと話します。
エマさんは、古典や漢文のように日常で使わなくても教科として残るものがあることを挙げます。科学や微分積分も同じで、論理的思考を鍛えるためなど「使うかどうか」とは別の理由で学ばれているという考えです。
翻訳技術が完成すれば、必要な人だけが必要なときに学べばよいという意見は今後必ず出てくる(レンさん)
教養として、また子どもの頃に学ぶほど定着し、将来英語を使う人の可能性を広げられる(エマさん)
レンさんも、英語ができれば選択肢が広がり、留学先など技術が使えない地域でも生きていけると認めます。あえて「いらない派」の立場から問いを投げましたが、レンさん自身は義務教育の英語は必要だと考える側です。
宇宙人を見つければノーベル賞は確実?
エマさんは話をさらに広げ、宇宙人が現れて宇宙の共通言語が出てきたら、宇宙語を教養科目に入れるのかと問いかけます。レンさんは入るのではないかと答え、そのとき地球の言語がどれだけ残っているかも気にしていました。
レンさんは、スペインの博物館で見た展示を思い出します。それは、各国の挨拶を録音したレコードを再生方法と一緒にボイジャー ── 1977年に打ち上げられたNASAの無人探査機。地球の音や画像を収めた「ゴールデンレコード」を積み、現在も太陽系の外へ向かって飛行していますに載せ、太陽系の外へ飛ばしたというものです。
逆に、ある日地球にわけのわからない挨拶のレコードが届いたらどうなるのか、と二人は想像します。エマさんは大パニックになる大発見だと言い、まず専門家が分析し、人間の喉や耳で扱える方法なら学ぼうという流れになってもおかしくないと考えました。
レンさんは、宇宙人が光など人間が感知できない周波数でコミュニケーションをとる可能性も指摘します。レコードという形式そのものが人間の感覚に寄っていて、視覚のない宇宙人には読み取れないかもしれません。
あ、わかった。じゃあノーベル賞に昇華させる方法。もう宇宙人を発見しましたっていう、そういう論文だったらノーベル賞取れるんじゃない?
エマさんの道筋は、外国語の習得から宇宙語の習得へつなげ、宇宙語を学ぶには宇宙人を認知する技術が必要で、それで実際に宇宙人を見つければノーベル賞、というものです。レンさんは、はっきりした生命の証拠を見つけただけでもノーベル賞だろうと応じました。
外国語の習得
お酒で外国語の発音がよくなる研究
宇宙語の習得
宇宙の共通言語を学ぶ時代が来たら
宇宙人の認知
宇宙語を学ぶには、まず宇宙人を認知する技術が必要
ノーベル賞
その技術で宇宙人を実際に見つける
ただ、知的生命体との接触については二人の温度差もあります。レンさんは、どの国がコンタクトをとるかなどで揉めそうだと、あまり起きてほしくない立場です。エマさんも、地球だけの問題で悩んでいられる今が一番幸せなのかもしれないと話しました。
宇宙人がいるとわかったら世界は1つになるのか、国連は対応をシミュレーションしているのか、「100日後に行くね」というメッセージが届いたら誰が地球代表として出迎えるのか、と話は膨らみます。最後はレンさんの「何の話だっけ?」で、宇宙人とのコミュニケーションにつながるかも、という結論になりました。
臭い靴箱を段ボールと紫外線で解決できる?
3つ目はイグノーベル工学設計賞で、靴の悪臭がシューズラックを使うときの快適さにどう影響するかを分析した研究です。メーカーは当然調べていそうな内容ですが、研究としてはあまり行われていなかったといいます。
背景にあるのは、人が使いやすく安全に使えるものをどう設計するかを考える人間工学 ── 人の身体や認知の特性に合わせて、道具や環境を使いやすく安全に設計するための学問分野ですの発想です。シューズラックでは、使う人の体験にとって臭うかどうかが大事なのではないか、という視点から研究が始まりました。
研究はインドで行われました。インドは高温多湿で靴箱が臭くなりやすく、学生149人へのアンケートでも、悪臭に悩む声が多く集まったそうです。洗ったり消臭グッズを使ったりする人は多いものの、洗うと靴が傷むことが悩みになっていました。
そこで研究者が提案したのが、消臭機能を持つシューズラックです。殺菌のために紫外線を照射する仕組みで、コストをかけないよう段ボールで紫外線ライトを覆った簡易的なものを作り、消臭効果を確かめました。
匂いの測り方は、研究者が自分で嗅ぐというものでした。レンさんは「自分の鼻を犠牲にしながら」と表現しています。短波紫外線を照射した時間ごとの結果は、次のとおりです。
エマさんは、自分はそこまで靴箱の臭さに悩んでいないとしつつ、地域によって需要があるなら作ればいいと受け止めます。商品化するなら、木やプラスチックの棚に照射機能や電源、紫外線が漏れないための蓋も必要になりそうだと話していました。
レンさんは、病院や歯医者でスリッパを戻すと紫外線を当てる機械があることを挙げます。エマさんの通う歯医者にも同じようなものがあり、家庭向けの製品にすることや、洗うと傷む服への応用も話題になりました。ただし服も長時間当てればボロボロになり、人に当たるのもよくないため、実用化の鍵は需要と安全対策、そして値段だと二人は整理しています。
靴箱で生き残った最強の菌は月に住めるか?
シューズラックのノーベル賞化は難航します。レンさんは、何が臭いのかを科学的に調べること自体はできても、それだけではノーベル賞にはならないと考えました。
だからこの世界中でこの紫外線靴臭消しシューズラックが流行ったとして、それでも消えない匂いみたいなやつが見つかって、その細菌からめちゃくちゃ有用な物質取れるとか。
すごい抗生物質が見つかればノーベル賞クラスだという発想です。エマさんはさらに、その菌を月で繁殖させ、「人類が初めて地球外で繁殖に成功した菌です」と発表すればノーベル賞ではないかと広げました。
レンさんの返しは「月臭くなりそうじゃない?」です。レンさんは漫画『テラフォーマーズ』を例に出し、環境を整えるためにゴキブリを放ったら人型に進化して人間と戦う話だと紹介しました。番組の概要欄では、作品の舞台は月ではなく火星だったと訂正されています。
エマさんは、地球でも細菌や虫から哺乳類が生まれたように、時間を置けばまともな生物が生まれるかもしれないと考えます。一方でレンさんは、アポロが月へ行ったとき、地球の微生物を持ち込んでいなかったのかが気になるといいます。
月に生態系を作る研究は実際にあると、レンさんは紹介します。魚と水と植物を閉じた環境に入れて生態系を作り、それを月に持っていって規模を広げれば、物質が循環し、魚を食べる自給自足ができるという研究です。重力の影響を受けにくい魚が選ばれているはずだとレンさんは話し、この話題は番組「サイエンスポット」で3週間ほど前に扱ったそうです。
エマさんは、人工的な助けがなくても生きられる生物を持ち込んだらどうなるかに関心を向けます。スペインの科学館で見た、放射線に強いクマムシ ── 体長1mm以下の小さな動物。乾燥や高温・低温、放射線などの極限環境に耐えることで知られていますや、ほかの生き物が毒とするものを食べる生物の展示を思い出していました。
ただ、レンさんの説明では、月の最高気温は120度ほど、最低気温はマイナス230度ほどの可能性があり、しかもその極端な温度が2週間ずつ続きます。シューズラックの菌くらいでは無理だろう、と二人は認めました。
エマさんは、遺伝子操作で過酷な環境でも生きられる菌を作り、太陽の光をエネルギー源にして月で繁殖させる案を出します。レンさんは面白いとしつつ、人間に害のある最強の菌だったら誰も駆逐できず、地球が終わる可能性もあると釘を刺していました。
酔っ払ったコウモリを一発で治す薬はノーベル賞?
4つ目はイグノーベル航空学賞で、アルコール摂取がコウモリの飛行能力やエコーロケーション能力を低下させるかを調べた研究です。エマさんは「アルコール関係多いですね」と反応していました。
コウモリは自然の中でも、熟してアルコール度数の高まった果物を食べて酔っ払うことがあるそうです。ただし、コウモリは1%以上のエタノールを含む餌を避けるようになるといい、レンさんは「飲酒運転しませんみたいな」と感心しています。
アルコール入りの餌を食べたコウモリでは、飛行やエコーロケーションに次のような変化が見られました。
エコーロケーション ── 自分で出した超音波の反響を聞き取り、周囲の物の位置や距離を把握する能力。コウモリやイルカが使うことで知られていますは、コウモリが超音波を出し、その反響から空間を把握する仕組みです。レンさんによれば、この研究は2010年のもので、近年増えている動物が酔う研究の先駆けだといいます。
ノーベル賞化を考える段になって、二人は前の大喜利の結論を思い出せなくなります。レンさんが「宇宙とのコミュニケーションの証拠を見つけたらノーベル賞」という「意味わかんない着地」だったと振り返る場面もありました。
そこでレンさんが思いついたのが、酔った状態を一発で治す薬です。飲めば完全に酔いが醒め、普通に車で帰れる薬ができたらすごいのではないか、という案です。
そしたらさ、もう介抱する人たちとかにとってさ、めっちゃいいんじゃない?
エマさんは、ウコンのように酔いすぎを防ぐものはあっても、酔った状態を一気に戻すのは難しそうだと言い、レンさんも無理だと思うと認めています。
エマさんは素朴な疑問として、人間以外にアルコールを好んで摂る生物がいるのかも尋ねます。レンさんによれば、熟した食べ物のアルコールの匂いをもとに餌を探す動物は多く、哺乳類や鳥類、昆虫が酩酊状態になることもあるそうです。ただし果物が熟すと糖分も増えるため、動物が欲しいのは糖分なのかアルコールなのか切り分けられていない、とレンさんは話しています。
最終的に、コウモリで酔いの原理を見つけ、酔いを一発で治す物質を開発して人間に応用する、という筋書きにまとまりました。
カチョエペペのチーズがダマになる理由とは?
最後はイグノーベル物理学賞で、パスタソースの物理学、とくに不快なダマにつながる相転移を見つけた研究です。レンさんがまず驚いたのは、2025年4月末に発表されてから半年ほどしか経っていない、最短クラスの受賞であることでした。
テーマになったのは、イタリアの伝統的なパスタ「カチョエペペ」です。名前はチーズとコショウという意味で、いわば普通のチーズソースのパスタですが、ソースの中でチーズがダマになりやすく、作るのが難しいとされています。
レンさんの説明では、物理学的にはチーズがうまく水に分散していない状態です。研究ではダマになってモッツァレラチーズのようになる状態を、相分離の「相」にちなんで「モッツァレラ相」と名付けました。
熱をかけすぎるとタンパク質が変性して塊ができ、その後温度を下げても元に戻りません。温度を変えて実験したところ、65度ほどで凝集してしまうことがわかったそうです。
伝統的なカチョエペペでは、ただの水ではなくパスタの茹で汁でソースを作るとダマになりにくいことが知られています。研究によれば、パスタから溶け出たデンプンの濃度が、チーズのダマになりにくさに関係しているといいます。
加熱しすぎる
65度ほどでチーズのタンパク質が変性し、ダマになる
茹で汁を使う
パスタから溶け出たデンプンがチーズ同士がくっつくのを防ぐ
デンプンを足す
茹で汁だけでは薄いので、ジャガイモやコーンスターチのデンプンを加える
安定したソース
温度をそれほど気にせず作れ、一度分散すれば再加熱しても固まらない
茹で汁だけではデンプン濃度が薄く作るのが難しいため、ジャガイモなどからデンプンを追加すればいいという結論に至ったそうです。エマさんは、海外では片栗粉が手に入らずコーンスターチで代用していることを話し、論文にもコーンスターチでよいと書かれていました。
論文には、適切なデンプン濃度はチーズの重量に対して2〜3%という「科学的レシピ」まで載っています。チーズはペコリーノ・ロマーノで、人によってはパルミジャーノ・レッジャーノを30%まで含めてもよいとされ、ほかにパスタ、粉末デンプン、水、塩コショウがあれば作れるそうです。
一度ちゃんと作ればチーズが分散しているので、80〜90度に再加熱してもソースは固まらないとも書かれています。レンさんは「これ何の論文だよ」と笑いつつ、お腹が空いてきたと話していました。
パスタソース物理学で世界を救えるか?
エマさんは今回のイグノーベル賞全体について、ノーベル賞にはまだ足りないものの、商品化にはすごく役立ちそうな情報が盛りだくさんだったと振り返ります。レンさんも「イグノーベルパスタソース」なら売れそうだと乗っていました。
ノーベル賞化の案として、レンさんはパスタソースを分散させる技術を材料や医療に応用する方向を挙げます。
絶対にダマになっちゃうと思われていた薬が、このパスタソース物理学を見て得たヒントをもとに、でんぷんちょっと入れてみたらすごく分散して使えるようになって、世界救いましたみたいな。
エマさんは、それなら医薬品の効果でノーベル賞を取るのでは、と指摘します。レンさんは、宇宙人とのコミュニケーションまで持ち出しているのだから別にいい、と開き直っていました。
エマさんは地球環境の観点から、溶けた氷河を固め直して海面上昇を防ぐ案も考えます。ただ、パスタソースはダマを防ぐ技術なので方向が逆で、氷河にデンプンは含まれていないとレンさんにすぐ突っ込まれました。最後はレンさんの「パスタだけに?」というダジャレで、大喜利は幕を閉じます。
つまんねえな。びっくりした、今。自分でつまんなくて。黙るわもう。
エマさんは、ノーベル賞になって世界の課題を救いまくり、宇宙人も見つかり、月で虫も繁殖したと、夢と希望が溢れていると締めくくりました。レンさんは、今年のノーベル賞は量子コンピューターあたりが受賞するのではと予想しています。
科学系ポッドキャストの日の次回のテーマは「トリビア」で、ポッドキャスターの参加を呼びかけています。あわせて、珠玉のトリビアを1分以内の音声か文字で送る「トリビアアワード」も募集中で、締め切りは10月17日ごろです。ポッドキャスターでなくても応募でき、Amazonギフト券がもらえるかもしれないと紹介されました。
まとめ
2025年のイグノーベル賞後編では、食用テフロン、酔いと外国語、靴箱の悪臭、酔ったコウモリ、カチョエペペの5つの研究が紹介されました。どれもノーベル賞には遠いものの、二人の大喜利によって肥満の解決、宇宙人の発見、月の生態系、酔い覚まし薬、新しい医薬品へと話が広がり、身近な研究が思わぬ未来につながる楽しさが伝わる回です。
- 食用テフロンは消化されずに出てくるためかさ増しに使える可能性があるが、人での試験はまだで、普及すれば環境や食品価格の問題も起こりうる
- 少量のお酒で外国語の発音は客観的に高く評価されたが、本人の自己評価には差が出なかった
- 段ボールと紫外線ライトの簡易シューズラックでは、2分の照射で靴の匂いが消え、長すぎると靴が傷んだ
- 酔ったコウモリは飛行速度が落ち、エコーロケーションの鳴き声も減ることがわかった
- カチョエペペのダマはデンプンを加えると防げ、チーズ重量の2〜3%が適切な濃度とされた




