出願した瞬間に受かった気がしてしまう入試
笠原さんがこの回の入り口に置いたのは、書類を仕上げて出願した瞬間に、もう受かった気がしてしまう入試があるという話です。それが総合型選抜だと切り出します。
総合型選抜は、これまでどういう生き方をしてきたのかが試されるような入試になっています。そのため、書類が完成して出願した段階で「これだけ自分のことを書いたんだから」と、なんとなく大丈夫だろうという気持ちになりやすいと説明されています。
ただし、それでもあっさり不合格が出ます。しかも、笠原さんによれば落ちたときのしんどさは一般選抜とは種類が違うといいます。
積み上げてきたものを書いて出したのに、それが要らないと言われたように感じるので、やっぱり結構しんどい入試なんですね。
この回は前半で、総合型選抜がこの10年でどう変わり、今どのくらい盛り上がっているのかを制度と数字の側から扱います。どういう生徒が向いているのかという現場の実感の話は、次回の後半に回されています。
なお笠原さんは冒頭で、あくまで情報提供が目的で、こうすれば受かるという話ではないと断っています。文部科学省の公開データや大学が公表している数字と、教員としての現場の実感を並べたものだという前提です。
2026年入試の3つの入口と「年内入試」という言葉
まず笠原さんは、今の大学入試の仕組みをざっくり整理します。受験した当時の感覚のままの人も多いだろうという前提で、最新の情報を紹介します。
2026年の大学入試の入り口は、大きく分けて3つあります。1つ目が一般選抜で、いわゆる学力試験で点数の合否を決める昔ながらの入試です。私立大学であれば主に3教科が多く、1月から2月にかけて実施されます。
2つ目が学校推薦型選抜で、高校の学校長の推薦に基づく入試です。大学が特定の高校に枠を当てはめる指定校推薦と、評定平均などの条件を満たせば広く出願できる公募制があります。指定校は合格したら必ず入学するのが原則です。
3つ目が総合型選抜で、この回のメインテーマです。志望理由書や活動実績、面接、小論文で、その大学で学びたい意欲と適性を見る入試です。
学校推薦型選抜と総合型選抜は年内に合否が出るので、まとめて年内入試 ── 10月から12月にかけて試験があり、年内に合否が出て進路が確定する入試の総称。学校推薦型選抜と総合型選抜を指す。と呼ばれます。この言い方はここ数年で急に一般的になったと笠原さんは話します。
合格したら必ず入学するという約束付きの出願。年内入試はこちらが多い。
他の大学と掛け持ちできる出願。同じ名前の入試でも大学によって扱いが異なる。
もう一つ避けて通れないのが評定平均、いわゆる通知表の数字です。高校1年生からの5段階の平均値が調査書に記載され、推薦や総合型選抜の出願条件になることが多い数字です。
評定平均は高校1年生の成績から含まれるため、後から取り返しにくいのが特徴です。笠原さんは、高校1年生、2年生の定期テストは、本人が気づいていなくてももう入試の一部になっているという言い方もできると指摘します。
数字を一つ挙げると、2025年度に私立大学へ入学した人のうち、一般選抜で入った人はすでに4割を切っています。学校推薦型がおよそ39%、総合型がおよそ23%で、合わせて6割強が年内入試です。
10年で倍増した総合型選抜の入学者
ここから笠原さんは、総合型選抜が実際にどのくらい増えたのかという話に入ります。根拠にするのは、文部科学省が毎年出している国公私立大学入学者選抜実施状況という資料です。
10年前の2016年度は、まだAO入試という名前でした。AO入試で入学した人はおよそ5万4千人、全体で8.9%ほどで、私立大学に限っても約1割という数字でした。
これが2025年度には、総合型選抜で入学した人がおよそ12万7千人、全体の19.5%で約2割になっています。私立大学に限ると22.8%です。総合型選抜を実施している大学も728大学あり、やっていない大学のほうが珍しい状況です。
2016年度 約5万4千人・全体の8.9%(私立で約1割)
2025年度 約12万7千人・全体の19.5%(私立で22.8%)
笠原さんは、2025年度から集計の区分が少し変わっているため厳密に同じ物差しではないと断っています。ただ、人数で2倍以上、割合でも大体2倍になっているという変化の大きさ自体は間違いないだろうという受け止めです。
注意したいのは、昔の感覚とのズレです。10年ほど前のAO入試は枠が比較的小さかった代わりに、倍率としては意外と狙い目になるところもありました。そのため保護者世代を中心に、今もAOは穴場だと思っている大人が結構いると笠原さんは言います。
しかし今はそうではありません。人数と枠が増えた分だけ、競争もそのまま増えているというイメージです。一方で学校推薦型は10年前からずっと3割台で動いておらず、大きく動いたのは総合型選抜だと整理されています。
志願者で見ると景色が変わる、大学レベル帯ごとの事情
入学者の数字だけを見ると年内入試が主流に見えますが、笠原さんは志願者の数で見ると景色が変わると指摘します。私立大学への出願は、人数で見ると今でも8割くらいが一般入試だというのです。
しかも2026年度、私立の一般選抜の志願者は2年連続で増えていて、延べ数でおよそ364万人、前年比で1割増という数字です。国立志望者が併願を増やしたことや、有名私立大学への出願集中が背景だと言われています。
入学者では年内入試が6割なのに、志願者では一般選抜が8割という、一見矛盾する数字になります。これは、一人が何校も併願する一般選抜と、原則1〜2校に絞る年内入試の違いがそのまま表れているためだと説明されています。
さらに笠原さんは、大学のレベル帯ごとに事情がまったく違うと話します。この夏、自分のクラスの保護者向けに私立大学入試の資料を作った際、大学グループ別の志願者と合格者の数を調べたところ、レベル帯ごとに違う傾向が見えたといいます。
笠原さんによれば、早慶と呼ばれる学力帯は志願者も合格者もほぼ例年並み、上智・東京理科大のグループは志願者が増えた分だけ合格者も増えています。
一方で、GMARCHや関関同立のレベル帯では、志願者が増えたのに合格者はわずかに減り、絞り込みが起きています。日東駒専では志願者が1.1倍以上に増えたのに合格者は1割ほど減り、大東亜帝国でも受験者が1.2倍ほどに増えながら合格者は前年比1割ほど減っています。
入学者に占める一般選抜の割合を見ても差があります。上位大学や準難関大学では概ね5割から6割ですが、中堅以降の私立では2割から3割というところも少なくなく、入学者の主流が年内入試へ移っています。
だからこそ笠原さんは、私立だから3教科でなんとかなる、推薦や総合型でいけるだろうという見通しは、どちらもかなり危ない構えだと言います。自分の志望校がどのレベル帯にあるかで、受験生に見えている風景はまったく違うというのがこの回の要点の一つです。
年内に決まる入試は、楽な入試ではない
ここから笠原さんは、この回で一番伝えたいことを話します。年内に決まる入試は、楽な入試ではまったくないということです。
数字で見ると、2026年度の年内入試の倍率は、ある大学の基礎学力型テストで4.3倍、関西の公募制推薦では5倍を超えるところもありました。有名な基礎学力型を行う関東の大学には2万人近くが出願し、関西のある私立大学の公募制推薦では前年比2割以上増えて4万人が受験しているといいます。
つまり、人気校の年内入試は一般選抜と変わらない競争になっています。書類を出せば受かる、何かいいことを言えば棚ぼたで受かる、という入試ではもうなくなっていると笠原さんは強調します。
負担の面も見逃せません。年内入試では、志望理由書や面接に加えて、多くの場合は不合格に備えて一般選抜の勉強も並行する必要があります。一般受験なら勉強だけしていればよいのに対し、自分について考えて書いてまとめる作業や、話す練習が上乗せされます。
時間の面を見ても、どう考えても楽ではないですよね。
次に笠原さんは、入試の変化の方向性として捉えておきたいことを3つ挙げます。1つ目は、学力型の総合型選抜が増えていることです。教科の試験を課す年内入試が広まり、関東の有名私立大学の基礎学力試験は話題になり、関西では公募制推薦が以前から学力型で定着しています。
2つ目は面接の必須化です。文部科学省が2027年度入試から、総合型と学校推薦型で面接などによる評価を原則必須にしました。すでに学力型を行う大学には2029年度までの猶予がありますが、これまで教科の試験だけだった方式に面接が加わる大学が出てきます。
3つ目は、併願できる年内入試の登場です。合格しても他の大学を受けてよいという方式が増えています。ただし併願できる範囲や入学金の扱いは大学ごとに違うため、要項を読む必要があると注意されています。
さらに笠原さんは、倍率が上がると、多面的な評価の中でも数値化しやすいところに向かいがちだと言います。探究コンテストの全国入賞や、英検などの外部検定は年内でも一般選抜でも使える場面が増え、高校2年のうちに上位級を目指す流れができています。
裏を返すと、出願時期だけ頑張ればどうにかなるものではなくなっています。短くても高校3年間の積み上げが必要で、その手前の中高を通した経験や家庭の積み重ねも影響する入試になっていると指摘されています。
わかりやすいのは英検だといいます。はっきり数字が出るぶん合否との相関がはっきり見え、明らかに差がつくというのです。ただし笠原さんは、それが家庭の経済力や子どもの頃からの積み重ねに左右される点に触れています。
英検が合否のパスポートになりつつある状況も、あんまり健全だとは自分は思ってはいないですね。
評価基準が見えず、出願後に受かった気になる心理
最後に笠原さんは、冒頭で触れた年内入試ならではのしんどさに戻ります。倍率が4倍から6倍もある入試なのに、なぜ出願した瞬間に受かった気がしてしまうのか、という問いです。
口では「倍率が高いから受からないですよね」と言いつつも、自分が不合格になることを100%信じている生徒はいないと笠原さんは言います。出したらもしかしたら受かるかもという期待が膨らみ、受かった気になってしまうのです。
比べられるのが一般選抜です。一般選抜には模試の判定があり、合格最低点も公表されているので、自分の立ち位置が大体わかります。だから受かった気にはならず、不合格でも点数が足りなかったという受け止めがしやすいと説明されます。
ところが総合型選抜には、自分の位置を測るものがそもそもありません。どの大学がどういう評価をするのかがブラックボックスの中にあり、倍率が5倍だと知っていても、その中で自分がどこにいるのかを教えてくれる物差しがないのです。
しかも、方向性が間違っていても誰も違うとは言ってくれないため、そのまま突っ走ってしまうこともあると笠原さんは言います。だから出願後に受かった気がしてしまうのは、本人の油断というより入試の構造がそうさせている面が大きい、というのがこの回の見立てです。
人数が10年で倍になり、倍率が一般選抜と変わらなくなり、それでも評価基準は見えてこない。その状況で自分の生き方を全力で書いて出すため、これだけ頑張っているんだからという気持ちになります。
厄介なのは、その全力で書いたものが、不合格のときには人格を否定されたように感じてしまうことです。笠原さんは、これが評価基準の見えなさと直結していると話します。
どういう生徒が向いているのかは次回に回されますが、笠原さんは一言だけ、総合型選抜で入学するほうがよっぽど難しいというのが自分の実感だと述べています。その理由は後半に持ち越されました。
まとめ
総合型選抜は、この10年で入学者が倍増し、倍率も一般選抜と変わらないほど競争が激しくなりました。それでも評価基準は見えにくく、出願後に受かった気になりやすいという構造的なしんどさを抱えた入試だと整理されています。
- 総合型選抜の入学者は10年で約2倍に増え、私立では一般選抜で入る人がすでに少数派になっている
- 志願者数で見ると私立の出願の8割は今も一般選抜で、入学者6割・志願者8割というズレは併願の仕方の違いによる
- 難関から中堅上位では一般選抜の合格者が絞られ、志望校のレベル帯によって見える風景がまったく違う
- 年内入試は倍率が高く、学力型の広がり・面接の必須化・併願可の登場という変化が進んでいる
- 総合型選抜には自分の位置を測る物差しがなく、出願後に受かった気になりやすいのは入試の構造による面が大きい






