生成AIの時代に「言語化」を大事にする理由
番組の冒頭、後藤さんは最近感じている課題として、生成AIによって実行スピードが一気に速くなっていることを挙げます。
速くなること自体は事実であり、いいことでもあります。ただ後藤さんが少し怖いと感じているのは、そのやり方や方向が正しいのかを確認するレビューの部分です。
実行するスピードがめちゃめちゃ速くなってるなっていうのを感じるんですよね。少し怖いなって思うのは、それが正しい方向に行っているのかっていう確認が、もう洪水のように溢れ返っちゃっていて。
何を大事にするのかがちゃんと言語化されていないと、実行が速い分、方向の角度が少しずれるだけで、気づいたら全然違うところに行ってしまう。そんな懸念があるといいます。
数度行く方向の角度がずれるだけで、もう気づいたらバーンって全然違うところに行っちゃうんじゃないかな。
だからこそ社内では今、ルールや大事にすることを言語化していく作業を進めなければ、と日々感じているそうです。そんな流れから、この回のテーマ「なぜ教育に人生をかけたのか」へと話は入っていきます。
小学5年生で見た、1本のテレビ番組
後藤さんの夢は「世界平和」。実はこれ、小学5年生のときからずっと変わっていないといいます。
原体験になったのは、当時テレビで見た1本の番組でした。NHKの特番で、発展途上国の子どもが学校に通いたくても通えない、という国連の特集だったといいます。
特集されていたのは、後藤さんとほとんど同じくらいの年齢の子。家の手伝いをしなければならないから、学校に通えないという内容でした。
それを見た後藤さんには、電気が走るような衝撃が走ります。自分は勉強が好きなわけではないのに学校に通わせてもらっている。一方でテレビの向こうの子は、通いたくても通うことすら許されていない。
なんかずるいなって思っちゃったんですよね。自分は勉強好きじゃないのに学校に通わせてもらっているし、好きに生きていける。でも同じ時間の中で、生まれた場所が違うだけで、学校に通うことも許されない状況がある。
その子は何か罰を受けたわけではなく、ただそこに生まれただけ。その状況を後藤さんは「世界が歪んでいる」と感じ、自分が生まれた環境をずるいとまで思ってしまったといいます。
当時ファイナルファンタジー5を何周もするほどゲーム好きだった後藤さん。ゲームの中で何度も世界を救ってきたように、自分が救わなきゃいけない世界とはこれなんだ、と直感したそうです。
国際ボランティアへの疑問と「根本治療」への転換
小学校の卒業文集には「世界中を旅しながら国際ボランティアをやる」と書いていた後藤さん。しばらくは自分もその道を進むと思っていました。
ところが中学・高校で国際協力の本を読むうちに、ふと疑問が湧きます。
国際ボランティアをやられている人たちって世の中にこんなにいっぱいいるのに、なんか貧困の連鎖が終わらないぞって。
ここで後藤さんは、2つのアプローチを区別して考えるようになります。
目の前に流れている血を止める。極めて重要だが、貧困が生まれる仕組み自体は変わらない
そもそも貧困が生まれるシステムや仕組み自体を変えていく
ボランティアは素晴らしく、目の前の血を止めることは極めて重要だと後藤さんは言います。そのうえで、自分の役割は根本治療の側に回りたい、と高校の頃から思い始めたそうです。
たどり着いた答えは「教育」と「雇用」
では、根本治療のために何をすればいいのか。大学に入った直後ごろ、後藤さんが結論として考えたのが「教育」と「雇用」の2つの軸でした。
最終的に自分が結論として今思っているのは、教育と雇用だったんですよ。
どんな環境に生まれても、なりたいものになるための努力が認められる。そして獲得した能力が適正に評価され、世界中のどこにいても、いろんな人と一緒に働ける。そんな環境を作れないか、という発想です。
この2つは、片方だけでは車輪がうまく回りません。学ぶ環境が整っても、それが仕事につながると分からなければ、そもそも学校に通わなくなってしまう。
逆に働く環境があっても、学ぶ環境がなければ、教育のある場所に育った子だけがうまくいき、差はどんどん開いていってしまいます。
教育と雇用がしっかり接続されて、学んで自分の夢をつかみ取るんだ、自分の幸せを自分なりに作っていくんだっていうところにフォーカスができる。そんな社会の仕組みが作れないかな。
人が力によって人から何かを奪うのではなく、なりたいものになるために前向きに努力し続けられる。そうしていくと世界は平和になっていくのではないか、と後藤さんは考えています。
制度設計とテレワーキング。学問で積み上げたもの
その社会を作るために必要なものを、後藤さんは自分の人生の中で1つずつ獲得してきたといいます。まず大学では、貧困が起きる根本原因を解決するための制度設計を学びました。
具体的には、意思決定の原理を理解するゲーム理論と、公共政策の価値を統計で算定する計量経済学です。
みんながある種自己中心的に行動しても、自然と貧困の仕組みが解決されていく。そんな制度をどう作れるかを、学問的に見たかったといいます。
大学院では、今度はテレワーキングの研究に取り組みます。時期は2012年ごろ。コロナ以前で、リモートワークがまだ当たり前ではなかった時代です。
テーマは、オンラインコミュニケーションにおける信頼関係が、どう作られていくのかというプロセス。統計学と心理学の立場から研究していました。
対面で会う時と、オンラインでコミュニケーションする時ってなんかこの感覚違うじゃないですか。その感覚の差っていうものは何によって生まれているのか。
この研究は、教育の領域で起業したことで途中で止まっているそうです。ただ後藤さんは、その先に見ていた可能性を語ります。
たとえばカンボジアの優秀な人がシリコンバレーで働くとき、多くは現地に移住します。すると生産も消費もシリコンバレーで回り、カンボジアの経済は回らず、地域間の格差が固定化されてしまいます。
もしテレワークが対面と変わらない自然な感覚でできれば、シリコンバレーの仕事をカンボジアにいながら行い、給与を受け取り、その地域の経済を回せる。住む場所と経済が回る場所を切り離せる、という発想です。
子どもたちに持ってほしい「無根拠な自信」
もう一つの軸である教育について、後藤さんが強くこだわるのが、子どもたちに自信を持ってもらうことです。
俺ならなんかやれるかもしれないっていう、この無根拠な自信みたいなものを子供たちにみんな持ってもらいたいなと思うんですよね。
ところが教育が、誰かと比較され続けたり、自分のペースや学習スタイルに合わなかったりすると、子どもは「自分がダメなんじゃないか」と思ってしまいます。
本当はただみんなのペースややり方に合っていないだけなのに、そこで心をくじいてしまうのはもったいない、と後藤さんは言います。
さらに近くに学校がない、先生がたまにしか来ないといった環境では、そもそもペースも見てくれる人も存在せず、うまく学べません。そうなると、無根拠な自信は養われにくくなってしまいます。
だからこそEdTechやeラーニングで、一人ひとりのペースやスタイルに寄り添い、「やればできた」という感覚を繰り返し生んであげられる仕組みを作りたい、というのが後藤さんの考えです。
自信を積み上げたうえで、世界中にはいろんな可能性があると示していく。そうすれば、子どもたち自身が「これに興味がある」「これをやりたい」と考え、迎えに行けるようになる、と話します。
なぜ雇用ではなく「教育」を選んだのか
世界中の人と働ける世界と、なりたいものになれる社会。この2つのうち、どちらを自分の人生でやるのか。後藤さんはこの岐路に立ちます。
考えたのは、世界中の人たちの中で自分は何の役割を担うか、ということでした。
その視点で見ると、雇用の領域は比較的お金になりやすい。だから世界中の優秀な人たちが放っておいてもイノベーションを起こしてくれるだろう、と後藤さんは考えます。
一方で教育は、お金にならないわけではないものの、難易度が高くお金になりにくい領域。ビジネスで成功したい優秀な人ほど、選びづらい領域だと感じたそうです。
そこで答えはほぼ出ていました。教育と雇用の両方にイノベーションが必要なら、より起きにくい側に自分が覚悟を決めて向かうしかない、と。
よりイノベーションが起きづらい領域に対して、もう覚悟を決めていくしかないなっていうふうに思って、この教育っていう領域を自分の中ではやろうと。
起業だけでなく、大企業に入る、政治家になるといった道も考えたうえで、最終的に起業という形で教育にイノベーションを起こすと決めた、と後藤さんは振り返ります。
なぜLibryというプロダクトになったのかは別の機会に、としつつ、後藤さんはこの夢の大きさについても正直に語ります。
俺ならそれをやりきれるかもしれないみたいな風に、この課題にチャレンジできる子供たちが一人でも二人でも増えれば、本当にこの世界って平和に向けて進めていけるんじゃないかな。
世界平和は壮大で難しい夢。それでも人類は空を飛び、月にも行った。やってやれないことはない、あとは本気でやろうとする人がどれだけいるか、と後藤さんは言います。自分もそのうちの一人になりたい、と。
まとめ
後藤さんが教育に人生をかける理由は、小学5年生で見た1本のテレビ番組から始まり、「世界平和」という一貫した夢につながっていました。対症療法ではなく根本治療を、そして雇用ではあえて難しい教育を選ぶ——その選択の背景がまっすぐ語られた回です。
- 夢は小学5年生から変わらず「世界平和」。原点は学校に通えない同年代の子を映したテレビ番組
- 目の前の血を止めるボランティアではなく、仕組みを変える「根本治療」を志し、答えとして教育と雇用にたどり着いた
- 大学ではゲーム理論と計量経済学、大学院ではオンラインの信頼関係を研究し、制度設計とテクノロジーの土台を積み上げた
- 子どもたちに「俺ならやれるかもしれない」という無根拠な自信を持ってほしいという願いが、教育への思いの核にある
- 雇用より難しくお金になりにくい教育だからこそ、覚悟を決めて起業という形で挑むと決めた




