なぜ今「本当のことを書く」本が響くのか?
今回の雑談のきっかけは、中里さんが読んだ土門蘭さんの本『本当のことを書く練習』です。桜林さんは土門さんと交換日記を本にした『そもそも交換日記』の共著者で、この本も読んでいました。
中里さんがこの本を手に取った背景には、AIとの対比で「人間にしかできないこと」や「生っぽいもの」が時代に求められているのではないか、という関心がありました。
人間にしかできないこととか、本当のこととか、なんか生っぽいものみたいなものがこう時代に求められてるんじゃなかろうかみたいな。
桜林さんはこれを「風の時代」という言葉で受け止めます。作り物ではなく本音や本当のことを言う人のほうが良くなっていく時代だ、という意味合いです。
中里さん自身は、もともと前に立つのが好きではないタイプでした。それでもこの番組を含めて「自分を出していこう」と取り組むなかで、自分を出すとは何か、何が本当で何が生っぽいのかを考えるようになり、この本に惹かれたといいます。
毎日僕が朝起きて何々しましたとかやってもつまんないじゃん。別にそんなこと聞いても。
桜林さんは、この本は書く人に向けたものだとしつつ、書かない人でもタイトルにピンとくることはあるだろうと話します。
書けない人は「話す」でもいい
桜林さんは人と喋る仕事をしているため、書けない人がたくさんいることを知っています。そこで桜林さんは、書くのではなく、相手がいる場で話すという形で同じことをしていると説明します。
私はもう何回言い直してもいいし、同じ話を何回してもいいから話して。
一人で書けないけど、相手がいるから話せるってことはあるから。
中里さんは、土門さんの本にある「発表する文章の前に、誰にも見せない文章がたくさんある。それには日記がいい」という趣旨の記述に深くうなずいたそうです。
ただ中里さんも書くのは得意ではないため、最近は音声日記をつけています。さらに、桜林さんと話しているときのほうが、一人では思いつかなかったことが出てくるとも感じています。
本当のことは一つではない
中里さんが「どれが本当のことなのか」と問いかけると、桜林さんは、人前で整えた言葉が嘘だとも、一人で書く日記だけが本当だとも思っていないと答えます。
今夜書いたものは自分の中のめちゃくちゃ本当のこと書いたって思っても、次の日何言ってんの?って思うかもしれない。
桜林さんにとって、本当のことは日によって大きく変わるものです。それでも忘れてしまうから、その時その時の本当を書き残すことは大事だと考えています。
桜林さんは、そのすべてを認めたほうが楽だと話します。本当のことが一つあると思って書くのはしんどいという感覚が、この回の土台になっています。
noteは「置いとくね」、日記は書けない
中里さんは、桜林さんのnoteがどうやって書かれているのかを尋ねます。桜林さんのnoteは有料の、誰かが読むための文章です。
なんかこんなことみんな言ってたよみたいな。それについて私はこう思うんだよねっていうのを置いとくねっていう感じ。
一方で、人に読まれない日記は書いていないといいます。桜林さんは5年日記に挑戦したものの、1年目で書けなくなってしまいました。スケジュール帳を写しているようでつまらなくなったのが理由の一つです。
桜林さんは、誰に会ってどう思ったかを人に言いたくないうえ、自分のためだけに感情を残したいという欲求もあまりないと話します。
桜林さんは、土門さんのように自分の感情と深く向き合う人が感情を宝物のように残したい気持ちはよくわかる、としたうえで、自分はもともと感情が一番大事というタイプではないと説明します。
自分の感情と深く向き合い、不安をどかすために感情を出すタイプ(桜林さんの見立て)
漠然とした不安より具体的な困りごとがあり、どうしたいか・何ができるかを整理するタイプ
30歳で会社を辞めると決めた2年間のノート
桜林さんが書いてよかったと振り返るのは、30歳で会社を辞めると決め、辞めたあと何をするかを決めるまでの2年間です。この間、誰にも見せない紙のノートにたくさん書いていました。
桜林さんのノートの中身は箇条書きです。自分は何ができるのか、今何に困っているのか、会社を辞めても譲れないものは何か、お金は月にいくら必要か、使える時間は何時から何時までか、といった問いを書き出していました。
桜林さんの書き方の特徴は、ノートの1ページ目から順に書くのではなく、テーマごとにページを分けていたことです。お金のことを思った日はお金のページに、お菓子のことを思いついた日はお菓子のページに書いていました。
仕事のことを考える前に、自分ってどうしたいんだっけ?みたいな。お金いくら必要なんだけ?え、お金のために働くんだっけ?みたいな。
桜林さんにとって、このノートは仕事を決める前の「ぐちゃぐちゃした部分」を分かるための作業でした。
何度も出てくる「ネック」から目標が生まれる
桜林さんがノートに書き続けると、何度も出てくるものや、いつも同じところで引っかかるものが見えてきました。当時の桜林さんにとって、それはお金が足りないことと時間が足りないことでした。
シングルマザーとして働ける時間が短いことも、お金が足りないことも嫌だ。そう分かったら、では解消するためにどうしたいのかを考えていきます。
書き散らす
不安、困りごと、できることをテーマ別に箇条書き
繰り返しに気づく
お金と時間が足りないことが全てのネックだとわかる
どうしたいか問う
時間は限られているから、短い時間でちゃんと稼ぎたい
言葉にする
「人の半分の時間で倍稼ぐ」
具体策を考える
それを叶える方法を具体的に考える
私のやりたいことは、人の半分の時間で倍稼ぐこと。これが私のやりたいことだってなったら、そこからどうやったらそれが叶えられるかを具体的に考えていく
桜林さんは、このノートには本当に思っていることしか書いていないと振り返ります。ただしそれは感情というより、どうすればいいか、どうしたいかの整理でした。
でもそれはもう紛うことなき本当のことで。だから蘭ちゃんが言うようなその感情とかのだけじゃないと思う、本当のことって。
入り口は「どう生きていくか」の不安
中里さんは、自分の音声日記では土門さんの本の影響で日々の出来事と動いた感情を話していると明かし、桜林さんのノートの書き出しを尋ねます。
桜林さんのノートの入り口は「これから仕事は何をするか」でした。ただそこから、何ができるかもわからない、お金が足りないのが怖い、といった不安が次々に出てきます。
だからもう一個ずつ箇条書きに何が怖いのかとか、うんと書いてくみたいな感じ。
桜林さんのノートには、何が嫌なのか、何が怖いのか、何が不安なのかを書くページもありました。大きなテーマは、何をしてどう稼ぎ、時間とお金をどう使って生きていくかです。
桜林さんは、2年間には波もあったと話します。真剣にお金のことを考えられる日もあれば、怖くて考えたくない日もあり、桜林さんはそれも全部本当だと捉えています。
今はもうこうしたノートは書いていないそうです。会社を辞める時期が大きな山だったからで、この先どうしようかと考えることはあっても、あまり感情ではないといいます。
絡まったものを一本ずつほどく「自分会議」
桜林さんは、大きく絡まった感情を一本ずつ分解するのが得意で、それは人の話を聞く仕事にも通じていると話します。分解する対象は感情でも、感情でなくてもかまいません。
桜林さんの見方では、もともと不安が強い人は、不安をどかすために本当の感情を出す必要があります。一方で桜林さんには漠然とした不安はなく、具体的に困っていることがあったため、やり方が違うのだろうといいます。
この「自分会議」には、あらかじめ決めたアジェンダはありません。その日に気になったことをテーマにします。桜林さんは、自分会議を中学生くらいからやっていたと思うと話します。
中里さんは、会社員時代に1日泊まりがけで「一人合宿」をして、今後どうしたいかや仕事に向き合えているかを考えていたことを思い出し、それを膨らませるとよさそうだと感じます。
週1回、喫茶店での1時間
桜林さんの2年間の自分会議は、毎日続けていたわけではありません。子どもが土曜の午後にアトリエの習い事へ行っている約1時間半の間、近くの喫茶店で過ごす時間が会議の時間でした。
でもこここの時間は会議の時間みたいにやってた。だから毎日毎日寝る前にノートを開くとか、そういうことではなかった。
中里さんが「その2年間のノートは今の活動につながっているか」と聞くと、桜林さんはそこで考え切ったから迷わない、と答えます。どうしたいかがわかれば叶えるだけで、実際にクッキー屋を始めて叶いました。
何年かすると、桜林さんにはまた違う違和感が出てきます。そのときは過去のノートに立ち戻るのではなく、今の違和感と今の考えでまた考える、というのが桜林さんのやり方です。
音声日記と紙のノート、どちらが向く?
中里さんは、音声日記にはカフェなど人目のある場所でやりづらいという弱点があると感じています。手で書くほうがどこでもできそうだと話します。
桜林さんは、紙のノートの「開けばすぐ読める」アナログさを評価します。テーマごとにページを分けて飛び飛びに書いていたため、見返して「こんなこと言ってたわ」と気づけたといいます。
桜林さんのノートは、考えが徐々にまとまると絞り込まれていきました。お菓子屋さんしかやってこなかったから、できないことをやるより結局お菓子屋さんをやろうと決め、そこからはどんなお菓子屋さんにするかを具体的に考える段階に移りました。
一個決めるまでのぐっちゃぐちゃ、もう書き散らかすみたいなやつは書き散らかしてた。
言語化力は必要?「ぴったりな言葉」を探す
中里さんは、リスナーでも試せる方法にしたいと考え、まず「桜林さんはもともと言語化が得意だったからできたのでは」と尋ねます。
桜林さんは、当時は言語化が得意だと思ったことはなかったと答えます。ただ、よくある言葉で間に合わせず、ぴったりの言葉を探そうとはしていました。
違和感を感じるみたいな風にすると綺麗だけど、いやそんなんじゃないんだよみたいな。
もっとぴったりな言葉を探す。これがムカつくとか。
桜林さんによれば、言語化が上手と言われる人の多くは、誰が読んでもわかる綺麗な言葉にしています。自分のためのノートでは、それはいらないといいます。
誰が読んでもわかる綺麗な言葉、かっこよく見えるよそ向きの言葉
自分にだけわかればいい、嘘がない「野良」な言葉
中里さんは「本当のことだわそれ」と納得します。言語化力よりも、自分に嘘がない言葉を探すことが大事だという気づきです。
桜林さんは、ぴったりな言葉を探すにはある程度言葉を知っている必要もあると付け加えます。中里さんは本をよく読むことが前提にあるかもしれないと応じ、桜林さんは中学生の頃からの自分会議に慣れていることもあると話します。
2年間も考え尽くせる?時間を区切るコツ
中里さんの2つ目の疑問は、「2年間考え尽くす」ことへのハードルです。桜林さんは、2年ずっとではなく週1回1時間だったと改めて説明します。
なんかまあ私はそこの午後、土曜の午後の1時間とかって決めてやってて。で、そうするともうその時間になったらノートを開く、考える時間ですってやるみたいなのがないと
子育てと仕事で隙間がなかった桜林さんは、無理やり時間を作っていました。当時は2009年から2011年で、ノートは紙でした。紙なら図も大きい字も、嫌だという気持ちのにじむ乱れた字も書けるといいます。
カフェでイヤホンはしていたかと中里さんが聞くと、桜林さんはしていなかったと答えます。シーンとした部屋よりカフェくらいざわざわしているほうが書けるかもしれない、と話します。
桜林さんにとって大事なのは、「ずっと考えなきゃ」と抱え込むより、ここだけ考える、と時間を決めることでした。そうしてでも考えたかったのは、決めなきゃと思っていたからです。
考えるとは、まず外に出すこと
中里さんは、本当のことを書くとは、かっこつけた言葉ではなく、自分に問いかけてぴったりの言葉を探すことの繰り返しだと整理します。
桜林さんは、内省している自覚もなかったと話します。周りからは「よく考えて決めたって言うけど、考えるってどうやってるんですか」とよく聞かれていたそうです。
桜林さんと土門さんは流派もタイプもまったく違うものの、言っていることは同じだったりする、と桜林さんは言います。桜林さんは箇条書きタイプで、エモーショナルではなく具体的でした。具体的に困っていたからです。
中里さんは、人と話す中で考えが出てくることも否定せず増やしつつ、自分の掘り下げ方として桜林さんのやり方も試してみたいと締めくくります。番組定番の「呪いが解けました」の締めは、この回は呪いの話ではなかったため言い直していました。
まとめ
土門蘭さんの本をきっかけにした今回の雑談は、「本当のこと」は感情だけでも一つだけでもなく、書くでも話すでも外に出すことから始まる、という話に着地しました。
- 本当のことは日によって変わり、そのどれもが自分だと認めるほうが楽
- 桜林さんは週1回1時間、喫茶店で紙のノートに箇条書きする「自分会議」を2年続けた
- 繰り返し出てくるネックから「人の半分の時間で倍稼ぐ」という目標が生まれた
- 必要なのは綺麗な言語化ではなく、自分だけにわかる嘘のない言葉
- 書けなければ話すでもいい。まず自分の中から外に出すことが考える第一歩


