前回の「3ステップ」は試してこそ意味がある?
厚利少売ラジオの第11回は、前回の振り返りから始まります。前回は厚利少売を実現する3ステップとして、価格を上げる、お客さんを減らす、高い価値を提供する、という3段階が紹介されました。
川原さんによると、3ステップの順番は、その人のステージや今の課題感によって変わるとのことでした。
すがけんさんは、話してみて改めて「こんだけのことなんだな」と感じたといいます。難しく思えがちな厚利少売が、シンプルにできるという手応えがあったようです。
ぜひやってみてほしい。で、やるまでに感じる悩みって、実はやってみると大したことがないことがほとんどじゃないですか。
だから、やってみてできなかったことを相談してクリアしていくっていうのがすごい重要だなと思いますよね。
川原さんも、知ったことをいかに試すかがポイントだと応じます。試した結果の悩みや感想をラジオで共有し、聴く人の人生が変わるところまで一緒に進めたい、というのが2人の目指す姿として語られています。
すがけんさんは、番組のコメント欄やイベントがコミュニティのようになり、やった人が取り残されずに変化まで続けられる場にしたいと話しています。
単価100万円から10億円、なぜそんな話が生まれたのか
本編のテーマは「単価を100万円から10億円に上げた方法」です。前回の3ステップだけでは実際のイメージが湧かない人に向けて、すがけんさんがCMOを務めた広告代理店で年間売上100億円を達成したプロセスを、最初から聞く企画です。
川原さんは、数字だけ見ると「100から10」で減っているように見えるけれど、実際は100万円から10億円への単価アップだと強調します。
しかも年間の売上100億円ですからね。上場企業だって今普通に上場しましたってみんな言ってても、売上10億円とかですからね。
すがけんさんによると、当時のインターネット広告は、1回の取引単位がおおむね月100万円ほどでした。安ければ50万円から、複数のメディアをまとめて発注する場合でも100万円から500万円ぐらいが相場だったといいます。
看板と雑誌の時代から、インターネット広告は何を変えた?
当時のインターネット広告が何をするものだったのかを、すがけんさんは看板の例で説明します。看板はクリエイティブとなるシールを作って貼るもので、制作費が何百万円もかかり、貼り直しも手間です。
だって200万円かけてシール作ったのに1日で捨てるってマジで意味わかんないですよね。
そのため看板の掲出期間は1か月ほどが基本でした。雑誌も9月号、10月号のように1か月単位です。期間が長いぶん高く、1つの媒体にしか出せず、それが正しいかどうかもわからない、という状態でした。
一方でインターネット広告は、間にシステムを挟めば、さまざまな掲載先に自動で少しずつ出し、クリックなどの結果が良かった場所に厚めに配分できます。すがけんさんがインターネット広告に携わっていた15年前ぐらいは、この技術が生まれて普及していった頃だといいます。
制作費が高く貼り替えも手間なため、掲出は1か月単位。期間が長く高価で、1つの媒体に絞らざるを得ない
システムで複数の掲載先に自動で出し分け、結果の良い場所に厚く配分し、ダメなら別の場所を探せる
掲載できるメディアが増え、広告を出したい企業も1000社から1万社へと増えていく、市場が盛り上がっていた時代だったと話されています。
市場規模は8000億円から3兆円へ
すがけんさんは「ちょっと適当ですけど」と前置きしたうえで、当時の日本全体のインターネット広告予算は8000億円ぐらいだったと振り返ります。
2023年のデータでは、テレビ広告が2兆円であるのに対し、インターネット広告は3兆円まで伸びているといいます。少し前まではテレビと競っていたものが、さらに伸びて抜いた形です。
すがけんさんは、今の市場は自分がやっていた頃の4倍近く大きいと述べ、それでも単価10億円は今もどの広告代理店も達成できていないのではないか、と話しています。
単価を上げたかったのではなく、売上100億円が先だった
すがけんさんが最初に掲げたのは、単価アップではなく年間売上100億円という目標でした。きっかけは、会社を売却したあとも一定期間会社に残るロックアップ ── M&Aの際、売却後も一定期間は経営陣や主要メンバーが会社を辞めないよう約束する取り決め。事業の継続性を保つ目的で設けられますの状態にあったことです。
辞めないでほしいと言われた期間は3年で、辞めなければ何をしていてもよい立場だったといいます。それでも、ぼんやり過ごして「気が抜けた」と見られるのはダサいと感じていたそうです。
僕はほんとその会社立て直しで入ったんで、なんていうか、僕の実績じゃないわけですよ。社長は別だったし。
自分の実績を作りたいという思いから、すがけんさんは会社のメンバーと話し合い、「むしろあの頃より働こう」と挑戦を始めます。ただ、最初はまったくうまくいかなかったといいます。
100万円の商品で100億円は届くのか
100万円の商品で売上100億円を達成するには、1万回買ってもらう必要があります。すがけんさんによると、100万円の商品の受注率はおよそ5%で、20回提案してようやく1回売れる計算でした。
目標
年間売上100億円
必要な受注
100万円の商品を1万回買ってもらう
必要な提案
受注率5%なので20万回の提案が必要
現実の体制
社員300人ほどのうち営業は30人ほどで、全員で動いても届かない
川原さんが「バックオフィスの人まで営業に行かせても無理」と応じると、すがけんさんは「今の楽天モバイル状態ですね」と冗談まじりに返しています。
すがけんさんは、問題は100万円という価格そのものにあると気づきます。価格と価値はイコールなので、価格が100万円なら価値も100万円にしかならない、という考え方です。
1000万円、1億円と上げるたびに何が起きたか
インターネット広告はパックにできるため、すがけんさんは100万円の枠を10個束ねて1000万円の商品にしました。すると、これまで100万円の提案をしていた担当者は、自分の決裁額を超えるため買えなくなります。
そこで1000万円を決裁できる人を探して会いに行きます。しかしその人も2000万円の予算しかなく、1000万円を1社に預けるのは困るという反応でした。インターネット広告は分散して良いところを見つけるもの、という前提があったからです。
値下げはできないので、次は1億円の商品にしました。今度はテレビCMと比べられて断られたといいます。
この頃に聞いた話として、すがけんさんは江崎グリコ ── キャラメル「グリコ」で知られる大阪の老舗菓子メーカー。1922年に栄養菓子としてグリコを発売しましたのエピソードを紹介します。キャラメルが駄菓子屋で売られていた時代に、グリコだけは価値のあるものとしてデパートで売っていた、という話です。
値下げすれば目標に届かず、値上げしてもしばらくうまくいかない。その中ですがけんさんは「よくわかんないけど、とりあえず10億円にしちゃう」と決めます。目標を達成するには上しかない、というロジックでした。
10億円の提案に、準備より先に「行く」
すがけんさんは川原さんに、10億円でインターネット広告を買ってもらうにはどんな付加価値が必要かを問いかけます。川原さんは、広告効果が高いかどうかがわかることを提供する、と答えつつ「ちょっと足りないなと思いながら喋りました」と認めます。
すがけんさんによると、1000倍の価格を前にすると、人はいろいろ足したくなるといいます。唐揚げも焼売も美味しく、ご飯は魚沼産こしひかりという幕の内弁当のように、おまけを詰め込みたくなる、という例えです。
それ(完璧な準備)がないと提案ができないと思っちゃって、みんな提案しないんですよ。だから提案に満たないんですよね。みんなモジモジして。
でも僕の場合、行くから始まってるんで。
すがけんさんは、自分は考えたり努力したりするのがあまり好きではないと話します。相手の好みもわからないまま何年もかけて作り込み、違うと言われるのは馬鹿らしい、という考えです。
川原さんの「勝手な努力だからね」という言葉に、すがけんさんは、みんな勝手に努力し、勝手にコストを上げて自滅していると応じます。そこで、断られる前提で一旦提案し、ダメな理由を3つ聞いて帰ると決めたといいます。
本編はここで時間となり、続きは次回に持ち越されています。
ベルリン在住のラーメン店経営者からの相談
後半はお悩み相談のコーナーです。時給30万円で経営アドバイザーをしているすがけんさんに、リスナーのビジネスの悩みをぶつけます。今回は埼玉で複数のラーメン店を経営する方からの相談です。
私は埼玉で複数のラーメン店を経営しています。利益は出ていますが、まさに薄利多売です。そこで、そのうち1つの店舗を厚利少売型に変えていきたいと考えています。厚利少売の場合、どのようなことから始めていけば良いか教えてください。なお、私自身は今ベルリンに住んでいて、こちらで3号店を準備しています。
川原さんは、ベルリンまで番組が届いていたことを喜んでいます。
お金を払える人は、その店の近くにいるか
すがけんさんが厚利少売を考えるときに必ず気にするのは、お金がない人は払えない、という点です。ラーメンは1000円、2000円の価格帯で、1000円を超えると炎上する話がXで定期的に話題になるほどだといいます。
すがけんさんは、会社を売却した頃に見たデータの例を挙げます。3万円のスニーカーを買う人を年収のデータと組み合わせると、やはり年収の高い人でした。600万円か800万円か、年収のある水準を超えると普通に売れていたそうです。
川原さんに「すごい当たり前のこと言ってる」と突っ込まれつつも、すがけんさんは、だからこそお金のある人を探さなければいけないと続けます。
インターネットで商売してれば、インスタの作り方、Xのやり方次第ですぐ年収1億の人が目に触れるようなことってできるじゃないですか。
でも住んでるエリアで、その土地で商売してる方って、いきなり年収1億の人がその道を歩くことってないと思うんですよ。
店舗型の商売では、そのエリアの相場と「このエリアで高い」と感じる水準を把握し、相場の2倍ぐらいを意識する必要があるといいます。そのうえで、埼玉の店舗のどちらが厚利少売に向いているかを見極めることを勧めています。
判断材料として挙げられたのがインバウンドです。どちらの店なら海外の人が食べに来るか、Googleマップやインスタで頑張ればその人たちの目に触れるかを考えないと、今までのお客さんにただ「高い」と言われるだけになる、と注意しています。
限定3杯から始める値上げの進め方
すがけんさんは、全メニューを一律2倍にすると単純に客が来なくなると話し、まず特別な商品を作ることを勧めます。最初は3杯限定や5杯限定で、通常より高いメニューを出す形です。
長く通ってくれるお客さんや、Googleマップで見つけた人が「せっかく来たから一番いいやつを」と頼み、価格に見合う価値だと感じれば注文が増えていく、という見立てです。
川原さんは、まずやってみることと、ちょっとだけやることが、本編の話とつながっていると指摘します。
すがけんさんは、特別な商品が美味しくなければリピーターは元のメニューに戻るが、それもシグナルだと話します。誰にハマるのかを考え直せばよい、という受け止め方です。
だから下手したら通常の商品のリピーターさんがそれ(特別な商品)頼もうとしたら、いやいやこれやめてくださいって断ってもいいです。
川原さんは「食べさせてよって言っちゃいそう」と笑い、断られて食べた客から改善のアイデアがもらえるかもしれない、と応じています。
最初は仕込みの手間がかかり、高くしても利益はそれほど出ないかもしれません。すがけんさんは、10杯になれば厚利少売になると思えるならやればよく、全部置き換えないと成り立たないならやめたほうがいい、と線を引きます。
これってうちの店舗の50杯分になるよ、この10杯って。っていうようなものを作れたらいいと思います。
ニューヨークで3000円なら、本場では5000円で食べたい
川原さんは、自身が見てきた海外の様子を紹介します。ニューヨークではラーメンが大人気で行列ができ、日本円にして3000円ぐらいが普通だといいます。クオリティは日本のほうがはるかに高いものの、現地の人はとても喜んで食べているそうです。
食べ方の違いも語られます。日本では、パッと出てパッと食べられることがラーメンの基本価値です。一方アメリカでは、バータイムや夕食時に、お酒を飲みながらつまみのように少しずつ麺を食べているといいます。
時間がないときにパッと出てきてパッと食べられることが基本価値
日本円で3000円ほどが普通。夜にお酒を飲みながら、つまみのようにゆっくり食べる
川原さんは、ラーメン1つとっても、人が何を求め、何を良さとして食べているかは全く違うと感じたといいます。
すがけんさんはここから、海外の人が本場の日本に来たときの気持ちに話を広げます。日本で「安い、うまい」と感じても、安うまでいいのかという問いです。
そう、ニューヨークで3000なら本場の日本で5000円で食べたいわけ。
わざわざ行ってんだから。それ(本場のラーメン)をなんか安うまに変えちゃダメなんですよね。
すがけんさんによると、わざわざ本場に来た人は「安くてうまかった」ではなく「やっぱ本場は違う、クオリティが高い」で終わらせたいものです。安いものを食べに行ったと思われたくない、というお金を払う側の気持ちを理解してほしいと話しています。
川原さんは、現地を見ているからこの感覚がわかると話し、相談者のショウヘイさんがベルリンにいることについて「動きの筋のいい方なんだろう」と評価しています。この回答は、厚利少売にしにくい商材を扱う人にも役立つはずだ、と締めくくられました。
出版された『厚利少売』に込めた思い
最後に、すがけんさんから告知があります。2024年10月10日に匠書房から『厚利少売 薄利多売から抜け出す思考・行動様式』が発売され、多くの人に読まれているといいます。
すがけんさんは、100年後、1000年後にも残る本にしたいと話します。厚利少売は奪い合いではなく、周りの人と価値観を分かち合い、与え合って全員で抜け出すものだという考えです。
僕は究極的には日本全部が全部2倍になって世界と同じになる世界を目指してますので、ぜひですね、周りに広めてみんなで変わっていけたらいいなと思っております。
番組では、お便りフォームでビジネスの悩みや質問、解説してほしい用語を募集していると案内されています。
まとめ
この回では、売上100億円という目標から逆算し、価格と価値はイコールという考えで単価を1000万円、1億円、10億円と引き上げていった過程が語られました。完璧な準備より先に提案へ行くという姿勢は、ラーメン店の相談で示された「限定3杯から小さく試す」進め方とも重なっています。
- 100万円の商品で100億円を売るには、受注率5%だと20万回の提案が必要で、価格そのものが壁だった
- 単価を上げるたびに決裁者・分散投資・テレビCMとの比較という新しい壁が現れた
- 10億円の提案では、作り込むより先に行き、ダメな理由を3つ聞いて帰ると決めた
- ラーメン店の厚利少売は、払える客がいる店を選び、限定の高価格メニューで反応を見ながら広げる
- 本場を訪れる海外客は安うまではなく、高くても本場の質を求めている


