なぜ今回は「経営者」の視点から語るのか
今回のエピソードでは、これまでとは視点を変えて、経営者という立場から見た企業の健康管理について語られています。
小橋正樹さんには、産業医という顔と経営者という顔があります。第2回・第3回では主に健康面からスポットを当ててきましたが、今回はそのカウンターパートとして、経営面から光を当てていきます。
今回はちょっとこう、カウンターパートみたいな形で、経営者、主に経営面からスポットを当てていければなと思ってます。
そのため、まずは前提の共有として「そもそも経営の母体となる企業とは何か」というところから話が始まります。
そもそも企業とは何か、個人と法人はどう違うのか
小橋さんはまず、企業活動の基本的なサイクルを整理します。必要があればお金を集め、そのお金で商品やサービスを作り、お客様に売って稼ぎ、稼いだお金を未来のために投資する。その繰り返しだといいます。
企業はこうした一連の経済活動をやっている組織のことを指し、大きく個人と法人に分けられます。
個人は、たとえば個人事業主のように、基本的には自分の生計を立てるために、すべて個人の責任でお金などを管理しているものだと説明されています。
一方で法人は、実体として命があるわけでも人の形をしているわけでもないものの、事業をやりたいと届け出を出せば、人として認めてもらえる存在だといいます。
(法人は)アバターを作ったり、自分だけのオリジナルのゲームキャラを作ったりするような、そんなイメージかなと思います。
小橋さんは、個人が自分の生計のためであるのに対し、法人は「その法人という箱を使って世のため人のためになることをしていく」というスタンスの違いがあるのではないかと話します。
生身の人間より長生きする「法人」という不思議な存在
法人は個人さながらに、法人の名前で銀行口座を作ったり、いろいろな契約を交わしたりできます。管理するのは生身の経営者ですが、同じ経営者がずっと管理しなければならないわけではありません。
次の経営者に引き継げば法人は存続できるため、場合によっては生身の人間より長生きできるし、理論上は永遠に生き続けることも可能だと小橋さんは指摘します。
さらに法人には有限責任という仕組みがあります。法人がたとえ潰れても、個人の経営者には一定以上の責任が降りかかってこない構造です。ただし現実にはなかなかそうはいかないことも多いと補足されています。
いずれにせよ、こうした形で個人と法人が分離されているのが法人の特徴だと整理されています。
営利と非営利、実は共通点が多い
法人にもいろいろな種類があり、代表的なのは営利法人と非営利法人です。小橋さんの界隈では、営利法人といえば株式会社や合同会社、非営利法人といえば社団法人・財団法人・医療法人あたりが有名だといいます。
一般的には、自分の利益を追求するのが営利法人、公共の利益を追求するのが非営利法人と言われます。しかし小橋さんは、両者には結構共通点も多いと考えていると話します。
営利法人でも、利益を出すためにはプロダクトを買ってもらい、多くの人に価値を提供しなければならず、それは公益ではないかというのが小橋さんの見方です。逆に非営利法人でも、最低限の利益がなければ持続的な活動はできず、働く人にお金も払えなくなります。
集め方や売り方の違いはあっても、お金を集めて稼いで投資するという企業活動の原則は、営利・非営利を問わず共通するのではないかと小橋さんはまとめています。
自分の利益を追求。株式会社や合同会社が代表例。ただし利益を出すには多くの人への価値提供が必要で、それは公益ともいえる
公共の利益を追求。社団法人や医療法人が代表例。ただし最低限の利益がないと持続できず、働く人にお金も払えない
「え、こんな簡単に社長になれるの?」会社設立のリアル
ここから小橋さん自身のエピソードが2つ語られます。1つ目は、実際に会社を作ったときの話です。
小橋さんは5年前にワンセルフという株式会社を作りましたが、そのときの率直な感想は「え、こんな簡単に社長ってなれるの?」というものだったといいます。正確には法的には社長ではなく代表取締役です。
登記申請までは、司法書士に依頼して書類を集めたり、資本金を振り込んだり、オフィスを借りたり、印鑑を買ったりと、小橋さんなりに大変だったと振り返ります。
ところが、いざ登記申請を法務局に出しに行くと、受付でパラパラと簡単に確認されただけで手続きは終わってしまったといいます。
なんだ、これで今日から社長なんだ、みたいなですね。
(法人設立は)出生届だけ出しに行ったら秒で通っちゃいましたみたいな、そんな感じでした。
法人は人間が生まれたわけではないものの、その手軽さが小橋さんには印象的だったようです。
経営を始めて感じた「結局これは通帳管理なのか」
2つ目のエピソードは、現在進行形で会社を経営し始めてからの話です。現時点での率直な感想は「結局経営というのは通帳管理なのか」というものだと小橋さんは語ります。
結局経営っていうのは通帳管理なの?っていうところです。
背景として、法人設立から最初の2、3年は、これまでの延長線上で、ご縁のある企業の産業医活動をひたすら行う、法人だけれど実質は個人商店のような状態だったといいます。
その中で新鮮だったのがお金の流れでした。個人でやっていた頃は、産業医先から直接、小橋さん個人の銀行口座に報酬が振り込まれ、それで生活していました。
ワンセルフ設立後は、産業医先からの報酬はワンセルフの法人口座が受け皿になり、そこから改めて小橋正樹個人の口座へ報酬が支払われる形になりました。産業医先と本人との間に、ワンセルフというクッションが入ったのです。
個人と法人、2つの通帳をまたぐ難しさ
この変化により、これまで個人の通帳管理だけでよかったものが、個人に加えてワンセルフの通帳管理という2つの通帳管理が必要になったと小橋さんは話します。
しかも、法人から個人へ、あるいは個人から法人へと、お金を好き勝手にやりとりすることはできません。それをやると公私混同となり、個人・法人ともに社会的な信頼度が落ちてしまうといいます。
特にまだ一人でやっていた時期は、個人と法人それぞれの通帳管理のバランスに戸惑った記憶があると小橋さんは振り返ります。
産業医先から直接、小橋さん個人の口座へ報酬が振り込まれ、個人の通帳管理だけで済んでいた
報酬は一度ワンセルフの法人口座に入り、そこから個人口座へ。個人と法人、2つの通帳管理が必要になった
会社が成長しても、行き着く先はやはり通帳管理
そこから2、3年が経ち、今のワンセルフは人を雇い、お金を借り、サービスを作って営業する形で少しずつ成長し、経営理念もきちんとしたものを作っていると小橋さんは語ります。
それでもなお、ワンセルフの代表として考えることの行き着く先は、やはり通帳管理なのだといいます。
考えること自体は複雑になりました。以前は単なる出し入れだけでしたが、今は戦略的に人やマーケティングへ先行投資しているため、数ヶ月の資金繰り表を見ながら、目標達成の期限や、取引先との契約が終わった場合の銀行回りのタイミングなどを考えるようになったといいます。
複雑にはなったものの、行き着く先はやはり通帳管理だと小橋さんは感じています。いくら立派な理念を唱えても、お金がなければ自分はもちろん社員にも給料を払えず、会社は潰れてしまうからです。
今後フェーズが変われば考えは変わるかもしれないものの、会社設立という最も原始的な部分をゼロイチで体験してきた身として、現時点では経営の一番のコアは通帳管理だと小橋さんは考えています。
「社長は誰でもなれる」からこそ問われること
最後に小橋さんは、余談として将来社長になりたい人に向けた話を加えます。社長という役割を通じて何かを成し遂げたい人も多い一方で、社長になること自体が目的になっている人もいるかもしれないと指摘します。
そうした人に向けて、小橋さんは声を大にして「社長は誰でもなれる」と伝えたいといいます。今は株式会社も資本金の最低ラインがないためです。
社長になることそのものよりも、社長という手段を使ってどうしていきたいのかっていうのが大事なんだなと。
会社を登記した段階でも見える世界が広がってきたため、小橋さんは自身の起業を貴重な経験だと感じていると話し、次回へと続けています。今回は健康管理の部分までは踏み込めなかったものの、その触りとして核心に近づいてきたと締めくくられています。
まとめ
今回は、産業医であり経営者でもある小橋正樹さんが、経営者の視点から企業とは何かを整理し、自身の起業体験を通じて企業経営の最も原始的な核心を語りました。
- 企業活動の原則は「お金を集め、稼ぎ、投資する」の繰り返しで、営利・非営利を問わず共通する
- 法人は個人と分離され、有限責任を持ち、引き継ぎ次第で生身の人間より長く存続しうる
- 会社設立の手続きは想像以上に手軽で、小橋さんは「社長は誰でもなれる」と実感した
- 報酬の流れに法人というクッションが入り、個人と法人2つの通帳管理が必要になった
- 理念があってもお金がなければ会社は続かず、経営の一番のコアは通帳管理だと小橋さんは現時点で考えている





