前回の振り返りと「自社の健康の定義」というコメント
番組冒頭で小橋さんは、前回のテーマだった健康の定義を振り返ります。WHOの有名な定義にあるフィジカル・メンタル・ソーシャルという3つの側面を知っておくことが、健康を深く考えるきっかけになると話します。
今回は、リスナーから寄せられたコメントも紹介されました。健康経営に取り組む際、お互いの思う健康がバラバラだとまとまらないので、自社における健康の定義を作る必要があるのではないか、という内容です。
これはもうほんとそうなんですよと、コメント読みながら膝を打ったような感じで。
小橋さんは、世の中にはウェルネス系やウェルビーイング系など「なんとか系」がいろいろあり、健康もそれらも8〜9割方は被っていると指摘します。そのうえで、自社にとっての定義を対話しながら決めること、そしてそれが経営そのものとリンクして運用されることが一番大事だと話しました。
企業に健康管理が必要な理由は「ベネフィットとリスク」
本題は「なぜ企業で健康のことを考えなければいけないのか」です。小橋さんは先に結論を述べます。組織的な健康管理が必要なのは、ベネフィットとリスクの両方の側面があるからだと整理します。
この回では、それぞれをさらに3つずつに分けて解説していきます。まずはベネフィットの側面から順に取り上げられました。
ベネフィットの側面:組織が健康になり、採用や企業価値にもつながる
ベネフィットの1つ目は、組織そのものが健康になることです。健康診断のフォローアップなど病気の予防だけでなく、たとえ病気になっても安心して働ける土壌があることも含まれると小橋さんは説明します。
これはフィジカルだけの話ではありません。ストレッチやウォーキングといった健康イベントは、普段話しかけにくい人とのコミュニケーションのきっかけにもなると言います。
特に企業がピリピリしている時にこそ、フィジカルだけでなくメンタルやソーシャルの側面からも健康を考えることが大事だと小橋さんは話します。
ベネフィットの2つ目は、人材の定着や採用力の向上が期待できる点です。健康を大事にしている企業は、採用や望まない離職にも一定の影響があると考えられています。
根拠として、社員が入社時に何を見ているかを調べた経済産業省の調査が紹介されました。報酬も大事ですが、社員の働き方や健康に力を入れているかという回答のポイントが非常に高いといいます。
ベネフィットの3つ目は、中長期的な企業価値の向上です。ただし、健康経営に取り組む企業は株価が上がったというデータについて、小橋さんは因果関係の証明は難しいと懐疑的な見方も示します。
企業を支えているのが人である以上、人を支えている健康に力を入れるっていうのは、企業価値向上の一つの要因には十分なり得るんじゃないかなと。
3つのベネフィットを総じて言えるのは、企業として健康に力を入れることが、企業の競争力やブランディングに影響する時代になってきているということだと小橋さんはまとめました。
組織が健康になる
病気の予防だけでなく、安心して働ける土壌やメンタル・ソーシャル面の効果も含む
人材の定着・採用力の向上
働き方や健康への取り組みは、採用や望まない離職に影響する
中長期的な企業価値の向上
人を支える健康への投資は、企業価値向上の一要因になり得る
リスクの側面:罰則、訴訟、評判の低下
続いてリスクの側面が3つ挙げられました。1つ目は罰則があることです。法令違反による刑事罰や行政罰などが該当します。
代表的な法律として、労働者の健康や安全を守る労働安全衛生法が紹介されました。小橋さんが普段関わる領域で多いのは、長時間労働やハラスメント、衛生委員会の未実施、産業医の未選任などだといいます。
リスクの2つ目は、訴えられることです。民事訴訟などを指します。労災になると民事訴訟がセットでついてくることも多く、企業にはお金も工数もかかる可能性があると説明されました。
小橋さんは、労災に関わらなくても、企業の対応に不信感があれば本人や家族が訴えようと考えるのも一定自然なことだと話します。
リスクの3つ目は、評判が下がることです。社会的な信用力や企業イメージの低下を指します。今はインターネットの口コミなどで情報が広がりやすく、悪い噂は特に広まりやすいと注意を促します。
リスクをまとめると、企業として健康管理をおざなりにすることが重大なリスクやコンプライアンス違反になってくる時代だということです。ベネフィットと合わせて、そういう時代になっていると小橋さんは話します。
さらに踏み込むと「健康課題は人権問題そのもの」
ここから小橋さんはさらに踏み込みます。リスクの話は企業を主語にすればその通りだが、もっと根本的に言うと、健康課題は人権問題そのものだと語ります。
前回紹介したWHO憲章の前文には続きがあり、健康は基本的人権の一つだと書かれています。人種、宗教、政治的信念、経済その他の社会的状況によって、健康が差別されるべきものではないという趣旨です。
もちろん現実には、戦争や貧困などの社会情勢や経済状況によって健康の格差は存在します。それでも健康は基本的な人権だという思想が根底にあると小橋さんは強調します。
この人権の観点は、健康の定義と並んで絶対に見逃してはいけないポイントだと小橋さんは感じていると話します。
人権を起点にすると、法体系がつながって見える
小橋さんは、健康と法律の関係を人権から整理します。日本の憲法では基本的人権をはじめとした国民の権利がうたわれ、その権利を守るために様々な法令が存在すると説明します。
働く人、特に労働者を守る法律として労働基準法をはじめとする労働法関連があり、なかでもダイレクトに健康に関わるのが労働安全衛生法だといいます。
一方で個人の健康については、太く短く生きたい、健康に悪くても好きなものを食べたい飲みたいという生き方も、公共の福祉に反しない限りは自由であり、権利として認められていいと小橋さんは述べます。
自分の人生を生きるっていうのも、精神的な健康に大きくつながりますしね。
ただし、個人の意に反して健康が不当に害されることは別だと小橋さんは線を引きます。管理が不十分な工場で有害物質を吸ってしまう、暑い環境で対策なく働く、極端な長時間労働やハラスメントが横行するといった例が挙げられました。
そうした働く人や集団の健康を不当に害する環境は、そもそも企業が提供してはいけないし、国も認めてはいけないと小橋さんは述べます。
そして、基本的人権を侵害するようなことは結果的に企業にとって大きなリスクになる、と話をつなげます。同時に、健康は誰にとっても大事だという根底の思想を、なるべく多くの人で共有していくことが大事だとまとめました。
基本的人権
憲法が定める国民の権利。健康もそのひとつと位置づけられる
権利を守る法令
権利を守るために様々な法令が存在する
労働法関連
労働基準法などが働く人・労働者を守る
労働安全衛生法
なかでもダイレクトに労働者の健康に関わる法律
今回のまとめと、人権を起点にする考え方
今回は「なぜ企業で健康を考える必要があるのか」を取り上げてきました。小橋さんは、今日話した内容は健康に限らず人事労務全般にも通じる話ではないかと振り返ります。
特に人権の部分について、人に関する決まり事は企業社会でも増え続けているが、人権を起点に考えれば一連のルールや法体系がなんとなくつながってくる感覚を持っていると話しました。
決して私が言ってることが全て正しいとは思ってないので、ぜひリスナーの皆さんの感想やご意見などもどんどんお待ちしております。
まとめ
この回では、企業が組織的な健康管理を行うべき理由を、ベネフィットとリスクの両面から整理し、最後は「健康は基本的人権」という根底の思想まで踏み込みました。人権を起点に考えると、健康にまつわる一連のルールや法体系がつながって見えてくるという視点が示されています。
- 健康経営やウェルビーイングは、自社にとっての定義を対話で決め、経営とリンクさせて運用することが大事
- ベネフィットは「組織が健康になる」「人材の定着・採用力の向上」「中長期的な企業価値の向上」の3つ
- リスクは「罰則」「訴訟」「評判の低下」の3つで、健康管理をおざなりにすること自体が重大なリスクになる時代
- WHO憲章では健康は基本的人権の一つとされ、健康課題は人権問題そのものと捉えられる
- 個人の生き方は公共の福祉に反しない限り自由だが、意に反して健康を不当に害する環境は企業も国も認めてはいけない


