初のゲスト回、社労士・内山美央さんとの出会い
産業医の本音、記念すべき初のゲスト回です。パーソナリティの小橋正樹さんは、これまで第1回から第16回まで1人で喋り続けてきたそうで、いい加減お前もう一人で喋りすぎだろうという思いから、今回から専門家との対談企画をスタートしました。
一回あたりの尺がだいたい15分で来てますから、かける16で約4時間。いい加減お前もう一人で喋りすぎだろうと。
記念すべき最初のゲストは、うちやま社会保険労務士事務所の内山美央さんです。社会保険労務士 ── 労働・社会保険に関する法律や人事労務管理の専門家。国家資格が必要で、書類作成や手続き代行、労務相談などを行う。略して社労士とも呼ばれる。
よろしくお願いいたします。社会保険労務士の内山美央と申します。
小橋さんと内山さんは、7、8年ほど前に小橋さんが個人で産業医をしていた頃、担当先の人事担当者として出会ったそうです。今はお互い立場が変わり、内山さんは大阪で社労士事務所を開業しています。
そうですね、2年経ったぐらいのところです。
開業して2年ほど。事務所は大阪ですが、ITツールを駆使してオンラインで全国対応しているそうで、東京や、なぜか岐阜に2社、鳥取など、幅広い地域の企業と顧問契約を結んでいます。
内山さんは、株式会社ワンセルフのコーポレートサイトのコラムも執筆しています。安全衛生領域の専門的な内容で、内山さん自身も勉強しながら仕上げたと話されています。
結構私もすごい安全衛生の領域が強いわけではなかったので、勉強させていただきながらいいものができたんじゃないかなっていうふうに思ってます。
大阪から東京、そして地元へ。内山さんのこれまで
ここからは、内山さんが今に至るまでの経緯です。内山さんは大阪府吹田市の出身。太陽の塔がある街です。
大阪の出身、吹田市という。太陽の塔がある(街)の出身でして。
新卒で入った会社も大阪でしたが、3年目に営業になったタイミングで東京支社へ転勤。その後6、7年ほど東京にいたそうです。
そして出産・育児のタイミングで、夫も会社も転勤になったこともあり、生まれ育った大阪に戻ってきたという流れです。
新卒3年目で社労士に合格。「800時間」の勉強エピソード
内山さんが社労士の資格を取得したのは、新卒3年目のとき。最初に入った会社が人事部向けのサービスを展開する会社で、当時の社長から新卒全員が社労士を受けるように言われたのがきっかけでした。
そもそも内山さんは、それまで社労士という言葉すら知らなかったそうです。大学は文学部でしたが、人事という職種に興味があってその会社を選びました。1年目は全員が受験し、2年目以降は強制ではないなか勉強を続け、3年目で合格しました。
社労士試験の勉強はかなり大変だと言われます。内山さんによると、合格には1年で800時間の勉強が必要とされているそうです。
平日私は平日2時間と土日どっちかは6時間、8時間とかをやるみたいなのを1年間続けてっていう感じですね。
社労士試験は暗記の試験で、範囲がとにかく膨大だと内山さんは話します。労働基準法、労働安全衛生法、社会保険や年金まで幅広く、暗記を一通り終えたら問題集をひたすら解くという勉強法だったそうです。
なかでも労働安全衛生法は馴染みがなく難しかったそうです。労働基準法は労働時間など身近なテーマから入れる一方、その次に来る安全衛生法は全く馴染みがなく、とにかく暗記するしかなかったと振り返ります。
試験は年1回、毎年8月に実施されます。そのため勉強していた時期は、毎年の夏祭りや花火大会に行けなかったそうです。
当時住んでたのが板橋の花火大会が見れるような、家の窓から見えるようなところだったので、花火やってるなというのを見ながら勉強してたのを覚えてます。
合格したときの喜びは格別だったと内山さんは語ります。高校受験も大学も希望どおりではなかったなかで、社労士試験は人生で初めての勉強の成功体験だったそうです。
名刺に「社労士」と入れたら仕事が激変した
社労士の資格を取ってから、内山さんの仕事は大きく変わったそうです。もともと受験したきっかけは社長に言われたことでしたが、2年目以降のモチベーションは別のところにありました。
当時、内山さんは勤怠システムの導入やヘルプデスク、営業を担当していました。ただ、若さゆえに信用されにくいという悩みがあり、名刺に社労士という肩書きを入れたいというのが一番の動機だったと言います。
割と労働時間のことは勉強してたんですけど、なかなか信用されにくいってところがあったので、名刺に社労士っていう肩書入れたいっていうのが一番のモチベーションだったんです。
実際に名刺へ社労士と入れると、仕事のやりやすさが格段に変わったそうです。お客さんである人事の方から「僕も持ってるんですよ」と声をかけられるなど、連帯感が生まれ、信用にもつながり、営業成績も上がったと話されています。
コロナと妊娠出産が重なった、独立開業への決断
内山さんが独立開業を考えるようになったきっかけは、資格を持ったことで芽生えた責任感でした。もっと知識を得たい、実務を学びたいという気持ちから、5年目ごろに企業の人事部へジョブチェンジします。
そこは長く働き続けられそうという観点で選んだ会社で、当時は開業する気は全くなかったそうです。源泉徴収や給与計算、年末調整、労務や評価のデジタル化などを担当し、楽しく働いていました。
ターニングポイントになったのが、コロナと自身の妊娠出産でした。当時の会社は観光業で、コロナで大打撃を受けたそうです。
当時の会社観光業だったんで、大打撃をコロナで受けましたね。雇用調整助成金を申請することになって、結構休業とかしてたので、すっごい大変だったんです。
その大変な対応をするなかで、内山さんは知り合いの社労士の先生たちが、助成金の申請の仕方をホームページで無料で教えている姿を目にします。そこで国家資格者は、こういうときにこそ社会に役立つものだと感じたそうです。
企業に勤めていると1社のことしかできない。それも大事でやりがいのあることだと認めつつ、より多くの会社の役に立ちたいという思いから、いつかは開業したいと考えるようになりました。
そして妊娠・出産・育児のタイミングで、夫の転勤も重なります。関西で同じ人事部の業務を続けるのは難しいという事情もあり、このタイミングで働き方を見直すことを決めました。
このタイミングでやっぱり自分の働き方見直してみようかっていうことで、やるなら今しかないかなっていうことで、エイって開業したっていうような流れです。
内山さんは社労士事務所での勤務経験がないまま開業しています。事務所で勤務してから独立するのが一般的なルートで、これは割と珍しいパターンだそうです。
それでも、1社目の会社の先輩や、人事部を辞めて独立したお客さんに相談し、勤怠システムを強みにやっていくとよいとアドバイスをもらったり、知り合いの社労士事務所を見学させてもらったりして、周りのサポートを受けながら今に至っていると話されています。
社労士には3種類ある?意外と知らない働き方の実態
ここからは、社労士の働き方についての話です。社労士の登録には、大きく分けて開業・勤務・その他の3種類があります。
個人の社労士事務所や社労士法人として独立している社労士
社労士事務所や一般企業の人事などに勤めている社労士
企業ではなく自宅などを登録している社労士
内山さんによると、社労士は全国に4万5000人ほどいるそうです。そのうち開業が2万8000人で半分以上を占め、勤務とその他で1万7000人ほどという内訳です。
開業のなかでも大多数は個人事務所です。2万4000人ほどが個人事務所で、社労士法人は4000人ほど。有名な社労士法人は一握りで、大体は1人2人でやっている個人事務所が最も多いそうです。
最近は副業社労士も増えてきているそうです。企業に勤めながら副業OKの会社で開業し、ライティングやセミナー業、社労士の交流イベントの企画などをする人もいて、開業の幅も広がってきていると内山さんは話します。
1号・2号・3号業務とは?社労士の仕事の中身
社労士の業務は、1号業務・2号業務・3号業務という呼び方をされることがあります。これは社会保険労務士法第2条の第1号・第2号・第3号に書かれていることに由来しています。
このうち1号業務と2号業務は独占業務と呼ばれ、報酬をもらってやる場合は社労士しかできない業務です。
労働社会保険諸法令の書類作成・提出代行・事務代理。入社時の資格取得や退社時の喪失手続き、離職票の発行、障害年金などの申請、助成金の申請など
労働社会保険諸法令の帳簿書類の作成。労働者名簿・賃金台帳・出勤簿の法定3帳簿や、就業規則・雇用契約書・労使協定の作成など
企業の労務管理や社会保険の法律に関する相談・コンサルティング。独占業務ではない
助成金の申請も社労士の独占業務にあたると聞いて、小橋さんは驚いた様子でした。社労士がやってよい業務とやってはいけない業務が、意外とはっきり分かれているのが特徴です。
裁判の前に動く「特定社労士」という上位資格
社労士には、上位資格として特定社会保険労務士というものがあります。研修と試験を受けることでなれる資格で、内山さん自身もこのとき結果待ちの状態でした。
特定社労士は、個別労働関係紛争の解決をサポートする業務を担います。裁判まで行くと弁護士の領域ですが、その前段階に斡旋という手続きがあり、裁判よりも安く、簡易かつ迅速に解決を目指せます。
特定社労士は、その斡旋の代理人として意見陳述や和解の交渉、和解契約の締結ができます。人数は今1万4000人ほどで、社労士全体の3分の1ほどにあたります。
試験は論述式で、研修も土日に何回か1日がかりで受けたり、eラーニングも何十時間もあったりと、なかなか大変だそうです。それでも弁護士の先生から斡旋のやり方や考え方を直接聞ける貴重な機会だと内山さんは言います。
特に開業してやっていくんだったら絶対受けた方がいい資格です。
労働時間管理から会社の未来まで。内山さんが目指す社労士像
最後に、内山さんが今後力を入れていきたいことについてです。内山さんの事務所は「働きやすい環境づくりから企業の未来を支えます」という理念を掲げ、前職の経験から労働時間管理とITサービスを強みにしています。
内山さんは、労働時間管理を突き詰めていくと、長時間労働は結局、業務体制や進め方といった会社の根幹の問題であるケースがかなり多いと話します。産業医としてよく知る小橋さんも、その点に強く共感していました。
長時間労働の方って、結局業務体制とか進め方だったりとか、会社の核と根幹の問題であるケースっていうのがかなり多いんですね。
だからこそ、まずは長時間労働の適正化に取り組み、そこから会社の核となる業務領域にまで視野を広げていく。人事領域だけでなく、業務領域まで視野を広げて寄り添って支援できる社労士になりたいと内山さんは語ります。
最初は長時間労働を減らすという守りの意識でも、そこから会社が良くなっていけば、健康経営の取得やIPO・上場といった攻めの領域にも広がっていきます。そうしたコンサルティング領域にも携わっていきたいと考えているそうです。
内山さんは、開業社労士のなかではキャリアとして珍しく、まだ年次も浅い社労士だと自らを語りつつ、社労士の認知度を上げていきたいと話して締めくくりました。
まとめ
社会保険労務士の内山美央さんをゲストに迎えた初のゲスト回では、社労士を目指したきっかけから独立開業までの歩み、そして社労士の仕事内容や資格の種類まで、あまり知られていないリアルが語られました。
- 内山さんは新卒3年目で社労士に合格。名刺に肩書きを入れたい一心の受験が、仕事のやりやすさを大きく変えた
- 社労士試験は暗記中心で範囲が膨大。合格には1年で800時間ほどの勉強が必要とされる
- コロナ禍での助成金対応と自身の妊娠出産・夫の転勤が重なり、より多くの会社の役に立ちたいと独立を決意
- 社労士の登録は開業・勤務・その他の3種類。全国に約4万5000人おり、大多数は個人事務所として開業している
- 1号・2号業務は社労士の独占業務。裁判前の斡旋を担う特定社労士という上位資格もある



