リプレースだけが正解じゃない、という前置き
この回は、前回テーマだった産業医や産業保健サービスのリプレース(切り替え)を踏まえた続きから始まります。小橋さんはまず、リプレースだけが正解じゃないと念を押します。
思うところがあるなら、まず一度対話してみるのも一つの選択肢だと小橋さんは話します。医療の世界出身だと、企業社会への解像度が最初は低いことも多いためです。
私も駆け出しの頃は苦労したんですけど、やっぱり医療の世界出身だと企業社会への解像度って最初のうちは低いことも多くて。
企業には任命責任があるため、早急にリプレースを検討すべき場面もあります。一方で、企業の事情を丹念に伝えれば、リプレースするはずだった相手がいつの間にか頼れるパートナーに変わるケースも十分あり得ると小橋さんは言います。
もう一つ触れられたのが、仲介会社経由だと直接契約ができないという問題です。これはそもそも、産業医や保健師がどこにいるかわからないという課題があったから仲介会社が担ってきた、という背景も小橋さんは説明します。
小橋さん自身、お世話になった仲介会社には感謝していると話します。ただ、事業的な側面の強い産業医・保健師が人材仲介会社を介して契約になっている構造は不自然で、業界を挙げて議論されるべき時に来ているのではないか、と問題意識を示しました。
企業から見た「いい専門職」をN1で考える
本編のテーマは、いい産業医・保健師とは何か、どう探すのか、です。小橋さんはまず、いい専門職の定義は「どの立場から語るか」で変わると前置きします。
この番組は経営者や人事労務担当者向けの実務中心の番組なので、今回は企業という立場から見たいい専門職に絞って深掘りしていきます。
巷にはアンケート調査もありますが、今回はあえてN1、つまり小橋さん個人の視点で語ると断っています。小橋さん自身が一零細企業の経営者でもあるため、自分が企業側ならどう選ぶか、その思考回路を伝えるという立て付けです。
いい専門職の基準は、大きくスキルとスタンスの2つに分けて語られます。
スキルはカッツモデルの3つで見る
スキル面で小橋さんが参考にするのが、アメリカの経営学者ロバート・カッツが提唱したカッツモデルです。コンセプチュアル、ヒューマン、テクニカルの3つのスキルで捉えます。
1つ目のコンセプチュアルスキルは、組織全体の課題やソリューションのレベルで話し合えるかどうか、と説明されます。統括産業医では必須ではないか、と小橋さんは考えています。
2つ目のヒューマンスキルは、いわゆるコミュニケーション力です。小橋さんは特に「I'm OK, You're OK」の対話ができるかを重視し、3つの中で一番大事だと話します。
3つ目のテクニカルスキルは、専門職としての知識・能力です。あるに越したことはないものの、何で測るかが問題になります。
測る目安として、経験年数のほか、資格が挙げられます。産業医では、日本産業衛生学会の産業衛生専門医が鉄板だと小橋さんは話します。
そのほか、労働衛生コンサルタントや、日本産業保健法学会が発行する産業保健法務主任者にも小橋さんは注目しています。産業保健周りの法律や裁判例の知識ベースがあり、相場観を理解していると考えられるからです。
組織全体の課題やソリューションのレベルで話し合えるか。統括産業医では必須とされる。
いわゆるコミュ力。互いを尊重した対話ができるか。3つの中で最重視。
専門職としての知識・能力。専門医や各種資格が目安になる。
スタンスを決めるパートナー性・独立性・実用性
スタンス面は、パートナー性・独立性・実用性の3つの軸で主に見ていると小橋さんは話します。
1つ目のパートナー性です。小橋さんの印象では、人を大事にしたい経営者は思っているより多く、多くの場合はやり方や相場観がわからないだけだといいます。
だからこそ、企業側の思いや事情を聞いた上で建設的に対話し、同じ方向を向いて、時には先回りして伴走してくれる姿勢のある人にお願いしたい、と小橋さんは述べます。
2つ目の独立性です。同じ方向を向くとは、言いなりになることではないと小橋さんは強調します。最終的な意思決定と責任は企業側が取るからこそ、専門家としての知見やアドバイスは遠慮なく言ってほしい、という立場です。
耳障りのいいことしか言わない専門家って、少なくとも自分はあんまり信頼できないんですよ。
小橋さんは税理士のたとえを出します。脱税したいと言ったときに「いいですね、やりましょう」と言ってくる税理士は嫌ではないか、というわけです。責任は企業側が持つのだから、パートナー的な視点を持ちつつ独立したポジションも維持している人がいい、と話します。
3つ目の実用性です。専門家の知見は当然欲しいものの、難しいことをダラダラ言われ続けても結局どうすればいいかわからない、と小橋さんは指摘します。
望ましいのは、今の課題は何か、次に何をすればいいか、選択肢があるならそれぞれのメリット・デメリット、実際どちらがおすすめでそれはなぜか、といった具体的なレベルまで落とし込んでくれることだといいます。
さらに、忙しい企業側に代わって実際に手を動かしてくれたり、動きやすいようにオリジナルのフォーマットを用意してくれたりするところまでやってもらえるとありがたい、と小橋さんは付け加えます。
企業の事情を聞いた上で対話し、同じ方向を向いて伴走してくれるか。
言いなりではなく、専門家として言うべきことを言えるか。
課題と次の一手を具体的に示し、手を動かす・フォーマットを用意するところまでやれるか。
結論として小橋さんは、テクニカルなスキルはあるに越したことはないものの、専門職は物ではなく人のサービスなので、人柄やスタンスを重視したいとまとめました。
産業医・保健師を探す5つのルート
ここからは、いい産業医や保健師をどう探すかという話に移ります。小橋さんは5つのルートを紹介します。
1つ目は、前回から触れている仲介型のサービス、つまり人材仲介会社です。ネットで検索すればたくさん出てきます。
仲介会社のメリットは、登録している専門職の数が多いことです。相場感を知る意味では、まずいくつか問い合わせてみてもいいと小橋さんは話します。
デメリットは、前回も触れた通り直接契約ができないことや、仲介した専門職任せになる部分があり、質の担保にばらつきが生じやすい点だといいます。
2つ目は、士業型のサービスです。弁護士事務所や社労士事務所のイメージで、一言で言うと産業保健専門職のプロフェッショナルチームだと小橋さんは説明します。小橋さんの会社であるワンセルフもここに分類されます。
士業型のメリットは、日本ではまだ数の少ない、産業医や産業保健師を生業とする人たちのチームであるため、本気度が違い、相当の実績と経験を持つことが多い点です。
一方で、開業自体は実績や経験がなくてもでき、事務所のカラーも様々なので、結局はクリニック選びと同じく総合的に吟味するしかない側面もある、と小橋さんは注意を促します。
3つ目は、労働衛生機関、いわゆる健診機関です。働く人向けの健康診断を主力にしつつ、産業医や保健師のサービスも並行して行うケースがあり、比較的ワンストップで対応してもらえるのがメリットだといいます。
ただ、多くの場合はサイド事業のため質の担保が不十分なこともあります。小橋さんは、労働衛生団体連合会のホームページで全国の労働衛生機関の品質管理が行われている点に触れ、そこで認定された施設なら一定の信頼を持って健診も産業健診も頼んでみていいのではないか、と話します。
4つ目は、近隣の医療機関や地域の医師会です。第11回で触れた通り産業医の多くは兼業なので、近くのクリニックや病院が産業医もやっていることは珍しくない、と小橋さんは説明します。
直接問い合わせてもよく、地方では医師会とのつながりが大きいこともあるため、地域の医師会に問い合わせるとつないでもらえるかもしれない、といいます。
このルートのメリットは、主治医も産業医もワンストップで診てもらえることです。ただし小橋さんは、主治医と産業医は立場や役割が異なると指摘します。
たとえば就業制限の検討や復職可否の意見が必要になったとき、主治医である自分と産業医である自分に微妙なバッティングが生じたことがある、と小橋さんは自身の経験を挙げます。
そのため、主治医と産業医を別の人が担える体制も整えておくとより良いといいます。加えて、本業があるので産業医としてどれくらいコミットしてもらえるかも確認しておくとよい、と小橋さんは助言します。
5つ目はその他として、大学の公衆衛生系の教室が産業医を受託しているケースが挙げられます。近くの大学に問い合わせる方法があります。
また、産業医科大学にはラマティサイトという産業医の求人などを出せるサイトがあり、そうした方法もあると小橋さんは紹介しました。
| ルート | 主なメリット | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 仲介型サービス | 登録している専門職の数が多い | 直接契約ができず質にばらつき |
| 士業型サービス | 専門職チームで実績・経験が豊富なことが多い | 開業は誰でも可能で事務所のカラーが様々 |
| 労働衛生機関 | 健診とワンストップで対応してもらえる | サイド事業で質の担保が不十分なことも |
| 医療機関・医師会 | 主治医と産業医をワンストップで診てもらえる | 立場の違いや本業とのコミット量に注意 |
| 大学など | 公衆衛生系教室や求人サイトから探せる | 大学ごとの仕組みは要確認 |
シリーズ一旦終了と今後の予告
この回で、第6回から続いた「企業の担当者からよく問い合わせいただくシリーズ」が一旦終了します。途中にお正月企画も挟みつつ、複数回にわたって続いてきたテーマです。
今後はより具体的な部分まで掘り下げる回を続けていく予定だと小橋さんは話します。取り上げてほしいテーマや、今困っていて質問したいことがあれば、お便りを寄せてほしいと呼びかけました。
まとめ
企業から見た「いい産業医・保健師」を、小橋さんはスキルとスタンスの2軸で整理し、その上で探し方を5つのルートに分けて紹介しました。テクニカルなスキルだけでなく、人柄やスタンスを重視するという視点が一貫しています。
- リプレースだけが正解ではなく、まず対話してみるのも選択肢
- スキルはカッツモデル(コンセプチュアル・ヒューマン・テクニカル)で見る
- スタンスはパートナー性・独立性・実用性の3軸で見る
- 専門職は物ではなく人のサービスなので、人柄やスタンスを重視する
- 探し方は仲介型・士業型・労働衛生機関・医療機関や医師会・大学などの5ルート


