社労士にとって産業医は「試験でしか知らない存在」だった
今回のエピソードは、内山社会保険労務士事務所の内山美央さんを迎えた対談の後編です。社労士と産業医の連携をテーマに、パーソナリティの小橋正樹さんが話を進めていきます。
そもそも内山さんが「産業医」という存在を知ったのは、社労士試験の勉強がきっかけだったそうです。
社労士試験の時に、労働安全衛生法で50人以上の事業所は産業医が必要だっていうところから知りました。
当時は法律の条文に書かれている以上の知識はなく、産業医に会ったこともなかったといいます。1社目のベンチャー企業は30人規模で産業医の選任義務もなかったため、初めて出会った産業医が小橋さんだったそうです。
(小橋さんは)いい意味でお医者さんっぽくないなっていうのを。ビジネスマンっぽいなと。
「営業とはよく言われます」と小橋さんが返す場面もあり、フランクな雰囲気で対談が始まっていきます。
50人の壁と、健康管理で連携が必要になる場面
開業して社労士として働くなかで、産業保健との連携が必要だと感じる場面は多々あるといいます。とくに企業の規模が伸びてくるタイミングです。
そろそろ50人に差し掛かるっていう時になると、やっぱり産業医選任しないとっていうところもあります。
内山さんは、安全衛生の領域はそこまで強くないため、健康管理の話が出てきたときには産業保健の専門家と連携する必要があると話します。
一方で、社労士に寄せられる相談は健康管理だけにとどまりません。手続きの話から、問題を抱える従業員への対応まで、内容は多種多様だといいます。
(健康)管理のお話もありますし、本当に手続きの話もあったりとか、問題従業員の対応をどうしたらいいのっていう話とか。
休職・復職のルールが「実態と合っていない」問題
小橋さんが社労士との連携を望む場面のひとつが、休職・復職まわりのルールです。個別対応を重ねるうちに、就業規則そのものに無理が出ていると感じることがあるといいます。
内山さんによると、休職の条文は就業規則に入ってはいるものの、あっさりとしか書かれていなかったり、作ってから見直されていなかったりするケースが多いそうです。
あんまり作ってから変えてないよね、実態と合ってないよってことが多々あるので。
そのため就業規則の見直しを依頼されたときには、休職・復職まわりも合わせて変更することが多いといいます。その際、産業医がきちんと面談して復職判断に関わっているかを確認するそうです。
傷病手当金などの手続きも社労士の業務範囲です。産業医から社員に制度の存在を伝えることはあっても、実際の請求書の作成・提出は社労士が担うという役割分担になっています。
ローパフォーマー対応は「不満を生む前」に社労士へ
続いて、パフォーマンスが安定しない従業員への対応の話に移ります。小橋さんは、健康面のサポートはするものの、労務的な判断は社労士や弁護士と相談して進めるよう伝えているそうです。
本人にとって不利益になりうる対応のとき、社労士に相談するやり方は合っているのか。
内山さんは、その進め方は合っていると答えます。不利益をめぐって従業員が不満を持ち、訴えにまで至れば弁護士の領域になりますが、社労士はその前段階で不満を生まないようにルール設計したり、企業にやり方を工夫してもらうようアドバイスしたりする立場だからです。
さらに内山さんからは、就業規則が知らない間に変わっているケースへの注意も挙がりました。面談や企業とのやりとりのなかでルールを変える話になったときは、必ず社労士に伝えてほしいといいます。
(就業規則に)こう書いてあるんで、って言ったら、あ、これ実態は違うんですよみたいなのが割とあるので。
事前に相談してもらえれば、適切なタイミングで就業規則を変更できるというのが内山さんの願いです。
社労士が健康相談を受けたとき、どこまで踏み込む?
今度は内山さんから、産業保健について気になる点が投げかけられます。企業から健康にまつわる相談を受けたとき、どこまで踏み込んでいいのか気を遣うといいます。
健康の話で、どこまで社労士が個人のことを言っても問題ないのかっていうところは、ちょっと気を遣う部分かなと。
最近では、化学物質過敏症になった社員がいるがどう対応すればいいか、という相談もあったそうです。聞き慣れない症例の相談が来ると、調べないといけないと感じるといいます。
内山さんは、医学的な対応は産業医に聞いてくださいと伝えたうえで、職場環境づくりや配置変更が必要かといった労務の視点でアドバイスしたと振り返ります。
この点について小橋さんは、産業医は人体のプロ、社労士や弁護士は法律のプロだと整理します。お互いが専門外に踏み込むと、かえってリスクになるという指摘です。
医師として人体・健康のプロ。病気や医学的な対応を担当する
法律のプロ。就業規則や労務対応、職場環境づくりを担当する
小橋さん自身も「これは産業医に聞くことなのか」と迷う相談があるといいます。暴れている人を取り押さえてほしいといった依頼まで来ることもあり、これは警察の領域だと二人で笑う場面もありました。
企業が気づきにくい健康リスクを、産業医はどう見る?
内山さんから、産業医が職場巡視や面談のなかで感じる、企業側が気づきにくい課題について質問が出ます。
小橋さんが挙げたのは、目に見えにくい健康リスクです。たとえば化学物質を急激に大量に吸い込めば素人でも異常に気づきますが、低い濃度を継続的に吸い続ける場合は本人が元気なこともあり、健康診断で初めてわかることがあるといいます。
面談についても、勤怠やパフォーマンスが不安定なときに、それが病気の影響かどうかは分かりにくいと指摘します。企業が勝手に「なんとか病だろう」と判断したり、病院に行くよう指示したりするのは避けるべきだといいます。
(病気かどうかは)産業医とかと連携して、産業医の意見を聞きながら一緒に対応していく。
内山さんが「それを改善するために社労士ができることはあるか」と尋ねると、小橋さんは役割分担を明確にします。医学的な評価や意見は産業医が言えるものの、契約や法律、就業規則を踏まえて実際にどう対応するかは労務の問題だからです。
社労士の先生と協力して、その社員さんと会社にとって一番いいエピソードになるのかっていうところ。
産業医が提案する、企業ごとの健康経営の形
話題は健康経営の推進へ移ります。内山さんから、産業医の視点で企業に提案したい取り組みを教えてほしいという質問が出ました。
小橋さんはまず、企業にとって健康とはどういう状態かを定義することが前提だと話します。体の健康だけでなく、精神的・社会的な健康も踏まえて、一番いい状態を考えることが出発点です。
そのうえで、バランスのいい食事や睡眠、運動といった一般的に健康にいいこともその通りだとしつつ、企業ごとの優先順位づけが大事だといいます。
たとえば高齢の男性が多い企業では健康診断の異常が多くなりやすく、若い女性が多い企業では乳がんや子宮がんなど、30代・40代の女性がかかりやすいがんへの配慮が必要になることもあるそうです。
その判断のもとになるのが、健康診断やストレスチェック、労働時間のデータ、産業医や保健師の面談から見える傾向です。データに基づいて、その企業に一番いい健康経営の形を考えることを、産業保健と連携しながら進めるのがいいといいます。
内山さんにとっての健康と、M-1に出る社労士芸人
小橋さんが「内山さんにとって健康とは何か」と尋ねると、体だけでなく心も含めた答えが返ってきました。
体だけじゃなくて、やっぱ心もやる気にあふれて、楽しく活発に生きることが健康なんで。
運動はやっていなかったものの、先週の健康診断の1週間前に少しだけ運動をしてみたそうで、それを今年は続けようと思っていると話します。
後半では、内山さんの意外な一面も明かされました。趣味のお笑いが高じて、去年はM-1グランプリに出場したそうです。
M-1にも出る社労士芸人として生きていきたいなって思ってますので。
ミルクボーイを高校生の頃から応援していた最初期のファンで、結婚式にメッセージをもらったほどの繋がりだといいます。大阪出身らしいエピソードで、対談は和やかに締めくくられました。
最後に内山さんは、うちやま社会保険労務士事務所は大阪を拠点にしつつ全国オンライン対応が可能で、労務DXや労働時間の適正化に強みがあると案内しました。小橋さんの株式会社oneself.とも連携し、健康経営の推進に取り組んでいきたいと話しています。
まとめ
社労士と産業医が、それぞれの守備範囲を確認しながら、労務と健康の連携ポイントを本音で語り合った後編でした。専門外に踏み込みすぎず、お互いをつなぐことの大切さが繰り返し語られました。
- 企業が50人に近づくと産業医の選任が必要になり、健康管理で社労士と産業保健の連携が求められる
- 休職・復職のルールは実態と合わないことが多く、就業規則の見直しは早めに社労士へ相談したい
- 産業医は人体のプロ、社労士や弁護士は法律のプロ。専門外に踏み込むとかえってリスクになる
- 健康経営は一般論だけでなく、データに基づいて企業ごとの優先順位を決めることが大切
- 内山さんはM-1にも出場する社労士で、oneself.と連携した健康経営の推進にも意欲を見せている



