六周年と番組一周年、支えてくれた人たちへの感謝
冒頭で小橋さんは、株式会社ワンセルフが2019年11月1日の法人登記から六周年を迎えたことを報告します。ただ、最初の3年ほどは個人でやっていた頃とほぼ変わらなかったため、実感としては今年で周年くらいの感覚だといいます。
その一人の時期があったからこそ今につながっている、とも小橋さんは話します。2023年に事業家・組織家になることを決意してからは、直雇用で7人体制、業務委託や第9回・第10回で紹介したビジネスパートナーを含めると総勢20名以上に支えられているそうです。
もう本当これはですね、感謝という言葉しか出てこないというところです。
さらに小橋さんは、この番組「産業医の本音」も初回配信が2024年11月6日だったため、ついに一周年の節目を迎えたと明かします。
番組を支えてきた存在として、第10回で紹介した株式会社WIBの矢沼さんの名前が挙がります。毎週の収録がギリギリになり、カットの依頼もする中で、一年間いつも快く編集に応じてくれたことへの感謝を、小橋さんはこの場を借りて伝えています。
なぜYouTubeではなくポッドキャストだったのか
ここから小橋さんは、そもそもポッドキャスト配信をやろうと思ったきっかけを振り返ります。原体験は、第9回・第19回・第20回でも触れたワンハートの吉田先生のポッドキャストを聞いたことだったといいます。
その背景にあるのが、産業保健という仕事の性質です。小橋さんは、SaaSやAIのように商品そのものが良ければ売れるサービスと違い、専門職は人がそのままサービスになると考えています。
我々みたいな専門職は、人がイコールサービスみたいなところがあるので、どれだけ知識があっても、リスペクトして対話ができないっていうのは、もうその時点でこの人にお任せしたいってあんまり思わないんですよね。
そして、その人柄はホームページやテキストだけでは伝わりにくいと小橋さんは指摘します。テキストではいいことを言っていても、会ってみたら嫌な人だった、という経験は誰にでもあるという例を挙げています。
その点、ポッドキャストは多少お化粧できても、にじみ出る人柄や思いが比較的伝わりやすい媒体だと小橋さんは感じています。ではなぜYouTubeではないのか、という問いにも触れます。
ここで小橋さんは、世阿弥の風姿花伝の「秘すれば花」という言葉を引き合いに出します。風姿花伝 ── 世阿弥が著した能楽の理論書。「秘すれば花」は、あえて見せずに隠すことでかえって魅力(花)が生まれるという考え方を示した言葉です。声だけの関係だからこそ、実際に会ったときのドキドキ感がある、という感覚に近いと語っています。
なんかこう、声だけの関係だと、実際に会った時のドキドキ感みたいなのがこうあるじゃないですか。あ、本物の(吉田)先生だみたいな。
コンセプトとターゲット、そして根底にある「申し訳なさ」
本格的な準備は2024年の春ごろから、WIBとの構想づくりで始まったと小橋さんは振り返ります。まず決めたのがコンセプトとターゲットでした。
ワンセルフのやることが「働く個人・働く組織・働く社会の健康課題を解決する」ことだったため、番組もその延長線上にあるべきだと考え、比較的最初から明確だったといいます。具体的には、現場で困っている経営者、人事労務関係者、産業保健専門職の実務の一助になる番組を目指したそうです。
ここで小橋さんは、第1回では触れていない番組の根底にある思いを打ち明けます。それは同業者への「申し訳なさ」だといいます。
小橋さんの出身は産業医科大学で、同級生や先輩後輩に産業医が多く、困ったときに相談しやすい環境にあります。さらに大学指定の産業医コースでは、仕事をもらいながら体系的な研修を受け、専門医も十分取得できる仕組みが一定できているそうです。産業医科大学 ── 産業医の養成を主な目的として設立された大学。卒業生の多くが産業医として働く点に特徴があります。
一方で、産業保健の世界全体では、こうした仕組みがまだ整っていないと小橋さんは指摘します。
世の中の多くの産業医、もしくは産業保健専門職は、要件を満たして資格も取れたけど、仕事もない、仲間もいない、自分のやってることが正しいかどうかもわかんない。そういう孤独を抱えながら活動されてる方が本当にたくさんいらっしゃるんですよね。
この状況をフェアではないと感じ、働く人・組織・社会の健康にとっても望ましくないと小橋さんは考えます。そこで今の自分にできることの一つがこのポッドキャストだった、と結びます。
構成とBGM、「しっとり系のピアノジャズ」に至るまで
コンセプトが固まった後は構成の検討に入ったと小橋さんは語ります。ソロ回を基盤に、時折ゲスト回を挟む形が一番長続きするだろうと考え、これも比較的すんなり決まったそうです。
進め方の流れは、第30回で紹介したポッドキャストスタジオのクロニクルの流れが好きだったため、それに倣ったといいます。
具体的な番組の流れは次のような構成です。
- オープニング
- チェックイン
- メインパート
- チェックアウト
- エンディング
ここから悩みが大きくなってきたと小橋さんは振り返ります。まずはBGMです。フリー素材でいいと思いつつ、番組全体の雰囲気を左右するためこだわりたかったといい、2024年の夏はひたすらフリーサイトの曲を聴きまくっていたそうです。
BGM選びの分かれ道は、まず元気系かしっとり系かでした。小橋さんは自分の声がうるさい部類に入ると考え、元気系だと鬱陶しくなると判断してしっとり系を選んだといいます。
さらにしっとり系の中でも、メインはあくまでトークなので、それを邪魔しないよう少ない楽器でシンプルなものがよいと考えた結果、今のピアノジャズに落ち着いたと説明します。
人気占い師風からの却下、タイトル案がふるいにかけられていく
ギリギリまで悩んだのがタイトルだったと小橋さんは明かします。メインとサブの両方で、いくつもの案が検討されました。
メインの初期案には「その悩み産業医が解決します」や「産業医小橋正樹の健康管理術」といった、人気占い師のようなタイトルもあったといいます。ただ、健康課題はワンメソッドで簡単に解決できるものではないため、これは違うと見送ったそうです。
続く案の「小橋先生のウェルビーイング相談室」や「産業医が教える健康企業の豆知識」も却下されます。ウェルビーイングは自分には胡散臭く感じたこと、そして「教育」や「指導」という言葉が苦手なことが理由でした。
教育とか指導って言葉が苦手なんですよ。あれって対ことじゃなくて対人じゃないですか。そもそもお前はそんなに立派な人間なのかっていう意識がどうしても働いちゃうので。
こうして最終的に残ったのが「産業医の本音」でした。本音なら比較的好きに喋れて気が楽になる、という理由を小橋さんは「意識の低い理由」と表現しています。
「間」に行き着くまで タイトルとサブタイトル決定の舞台裏
サブタイトルの検討では、最後まで「働く人の健康のリアル」と「健康と経営をリンクする」の2案が残ったと小橋さんは語ります。
「働く人の健康のリアル」は、「産業医の本音」との組み合わせは良いと感じたものの、続けて読み上げると「の」が多いと気づき、却下したそうです。
そこで残った「健康と経営をリンクする」は普段からよく言っている言葉で、これでいこうと思っていたといいます。しかし、いざタイトルにしようとすると迷いが生じたと明かします。
そもそも産業医としての自分と経営者としての自分で普段から葛藤してばかりじゃないかと。本当にそんなに簡単に健康と経営をリンクできるのかと。
問い直すうちにどうすればいいか分からなくなり、ここから先はあまり覚えていない、と小橋さんは正直に語ります。
ある日、お酒を飲みながらネットの動画配信を見ていたところ、20年ほど前に流行った恋愛映画「冷静と情熱のあいだ」に行き着いたそうです。それに感動してしまい、深くない理由で最終的に「健康と経営の間」に決まったといいます。
一周年を終えて、二年目に向けて
今回の締めくくりで小橋さんは、番組誕生秘話を取り上げてきたことを振り返ります。本編で触れたもの以外にも、オープニングやエンディングの台本、概要欄の説明文など、悩むポイントは多かったといいます。
それでも最終的には形になり、世に出すことができたと小橋さんは語ります。2年目については、もう少し余裕を持ったスケジュールでやっていきたいという抱負を述べています。
いかんせんここまで人生ギリギリチョップの精神でやってきましたので、反省しろよって感じなんですが、これからも頑張っていきたいと思います。
まとめ
一周年を迎えた「産業医の本音」の制作秘話として、番組がどんな思いと選択の積み重ねで形になってきたかが、小橋さん自身の言葉で語られた回でした。
- ポッドキャストを選んだのは、人柄や思いがにじみ出やすく、専門職の「人=サービス」という性質と相性が良いと感じたため
- 番組の根底には、恵まれた環境にいる自分と、孤独に活動する同業者との差への「申し訳なさ」がある
- BGMは声がうるさい部類という自己認識から、トークを邪魔しないしっとり系のピアノジャズに落ち着いた
- タイトルは人気占い師風の案やウェルビーイング系の案を却下し、好きに喋れる「産業医の本音」に決定
- サブタイトルは映画「冷静と情熱のあいだ」に感動したことがきっかけで「健康と経営の間」に着地した




