ディドロ効果の由来と、贈られたガウンの悲劇
いいシャツを買うと、それに合うズボンや靴、腕時計まで欲しくなる。そんな気持ちの変化には名前がついています。
はりまさんによると、この現象は「ディドロ効果」と呼ばれています。マーケティングの本やSNSでよく引用される言葉です。
ただ「一つ買うと関連商品も揃えたくなること」という説明は雑すぎる、というのがはりまさんの問題意識でした。そこで由来から深掘りしていきます。
ディドロとは、フランスの哲学者ドゥニ・ディドロの名前です。ドゥニ・ディドロ18世紀フランスの哲学者。啓蒙思想を代表する百科事典の共同編集者として知られています。膨大な項目を扱う編纂事業に長く携わりました。
ディドロは若い頃から貧しく、1765年には娘の結婚費用も払えないほどでした。金にならない百科事典づくりに没頭していたためです。
そこへロシアの女帝エカテリーナ二世が、彼の困窮を知り、蔵書を現在価値で約2000万円相当で買い取ります。彼女はディドロの百科事典を愛読していました。
これでディドロは一夜にして大きな金を手にします。娘の結婚費用も払え、お金も余る。ここまではいい話でした。
ところが、このとき贈り物として真紅の美しいガウンも一緒にもらいます。悲劇はここからでした。
やったと思って家に帰ったら、美しいガウンと自宅の平凡な家具がなんと場違いかということに絶望して。この豪華なガウンと自分の持ち物との間には、協調もなく、統一感もなく、美しさもないと。
ガウンに見合う高級品を、という欲望を抑えられなくなったディドロは、絨毯、彫刻、ダイニングテーブル、革の椅子と次々に買い替えます。
結果として、もらったお金を使い果たし、多額の借金までしてしまいました。1つの贈り物が連鎖的な出費を生んだのです。
身近なディドロ効果と、Apple・無印の世界観
この現象は、日常のあちこちで起きています。やーまんさんも心当たりがあると話します。
新しいソファ買った瞬間、急になんかカーテンが古く見えたりしますからね。ドラゴンボールZで単行本揃えた時に、背表紙が一つの絵になるじゃないですか。一巻だけ抜けてて、その背表紙を揃えたいがためにわざわざ買うもんね。
つまりディドロ効果とは、単に新しいものが欲しくなることではありません。新しく手に入れたものに合わせて、自分の世界を整えたくなる気持ちです。
この効果を強力に発動させている例として、はりまさんはApple製品を挙げます。
アメリカでは既存iPhoneユーザーの90.5%が、買い替え時にも新しいiPhoneを選ぶといいます。iPhone、AirPods、Apple Watchが連携するエコシステムが理由です。
ここで働いているのは、OS間の連携という便利さ、デザインの美しさ、そしてデータ移行の手間という要素です。
一度使い始めると別のOSに移すのが面倒になります。これはスイッチングコストの高さでもあります。スイッチングコスト別の製品やサービスに乗り換える際にかかる手間や費用、心理的負担のこと。高いほど乗り換えが起きにくくなります。
やーまんさんは、無印良品も世界観づくりがうまいと指摘します。落ち着いたシックな色合いで統一されているため、他のものも揃えたくなるのです。
売れる商品ラインナップを作る3つのステップ
では、この効果をどう商品ラインナップに落とし込むのか。はりまさんは大きく2つの前提を挙げます。
1つは、ディドロにおけるガウンにあたる「コアとなるアイテム」が必要なこと。もう1つは、見た目やブランドの「美的価値の統一」が取れていることです。
最初のステップが最も難しい、とやーまんさんは言います。ここがヒットしないと、後に続くシナジーが生まれないからです。
ベースとなるアイテムには、3つのポイントがあります。
他人の目に触れやすい
見られることで社会的な価値が生まれる
憧れの自分を象徴する
なりたい自分を表現できる商品である
購入ハードルが低い
心理的・金銭的に手を出しやすい
やーまんさんは、これを見た瞬間にファッション商材、特にスーツを思い浮かべたと話します。
他人の目に触れやすい。いつかアルマーニの超高級スーツ着てみたいなという、ちょっとした憧れもある。購入のハードルも、もうスーツ着てる人にとって必要なものだから極めて低い。贅沢品でこれ買うのどうしようかな、っていうのがない。
スーツを買えば、シャツ、ネクタイ、靴下、靴、バッグ、時計と周辺商品が次々に欲しくなります。まさに入り口商品の典型です。
車も同じです。新車が来ると、汚れたゴミ箱やザラザラのハンドルカバーまで替えたくなります。カメラを買えばケースやSDカードが必要になります。
ありますね。ディドロってますね、俺ら。
不協和を予測し、規格でつなぐ
ステップ2は、少し黒い言い方だとはりまさんは前置きします。ベースアイテムが届いたとき、既存の所有物が急にみすぼらしく見える不協和を発動させる、という考え方です。
そのために、お客さんの周りでどのアイテムが浮いて見えるかをあらかじめ予測しておきます。
予測しやすいのは、スーツに対するシャツや靴下のように、組み合わせが明確なものです。
もう1つ意外と効くのがサイズ感です。棚にピタリと合う収納がシンデレラフィットすると、同じ規格で揃えたくなります。
そしてステップ3では、統一された世界観や共通規格を準備し、「これとこれを組み合わせるとより良い暮らしになる」と提案します。
はりまさんが具体例に挙げたのが、電動昇降デスクのプレダクツ{要確認: プレダクツ}です。机がベースにあり、裏にUSBハブやガジェット収納を取り付けて拡張できます。
もうこの机買っちゃったら、もうこのブランド以外のものを置いちゃダメっていう感じになるもんね。
机は約15万円からと高価ですが、電動デスクとしては極端に高くはなく、長く使う前提なら納得感がある、という見方も示されました。
クロスセルの肝と、逆ディドロ効果
やーまんさんは、まとめて買ってもらえる商品づくりを普段から意識していると話します。これはクロスセル狙いにあたります。クロスセルある商品の購入者に、関連する別の商品もあわせて勧めて購入してもらう販売手法のことです。
はりまさんが肝だと考えるのは、ベースアイテムと連携するものです。気に入ったものをより良く使える、と感じられると購入ハードルが下がります。
反対に「逆ディドロ効果」もあります。コアとなるものがなくなると、周辺のものを手放すことにも抵抗がなくなる現象です。
断捨離をしたいときは、あえてコアの商品を先に手放すと進みやすい、とはりまさんは言います。
一方で、その悲しい例も紹介されました。SNSで、大事にしていたNゲージを勝手に捨てられた人が無気力になり、コレクション全体を手放してしまったという話です。
コアを手に入れると、周囲も揃えて世界観を整えたくなる
コアを失うと、周囲のものにも執着がなくなり手放しやすくなる
最後は雑談に流れ、はりまさんは阪急電車にハマった話を、やーまんさんは利尻醤油を切らさず買っている話を披露しました。
新しいものを一度知ってしまうと、知らなかった頃には戻れなくなる。ディドロ効果は、そんな形で日常に少しずつ侵食してくると2人は話しています。
まとめ
ディドロ効果とは、1つのコアな買い物をきっかけに、周囲を揃えたくなる購買心理です。Appleや無印良品のように世界観と規格を統一しておくことで、関連商品が自然に選ばれるラインナップが作れます。
- ディドロ効果は「新しいものを揃える」のではなく「手に入れたものに世界を合わせたくなる」心理
- 売れるベースアイテムは、他人の目に触れ、憧れを象徴し、購入ハードルが低いもの
- ラインナップ設計は、ベース作り→不協和の予測→世界観や規格の統一提案の3ステップ
- コアと連携する商品を用意すると、クロスセルの購入ハードルが下がる
- コアを手放すと周辺も手放しやすくなる「逆ディドロ効果」は断捨離に応用できる
