83歳の創業者が会社の行く末に直面したとき
パタゴニア創業者イヴォン・シュイナードは、時価総額約4300億円の会社をこれからどうするかという問題に直面していました。
当時83歳。話はまず「会社の末路」という一般論から始まります。
まず一つは事業承継。誰かに継がせる。二つ目の選択肢がバイアウト、売る。三つ目が廃業。この三つじゃないですかね、会社の末路って。
ただし、シュイナードが実際に検討した選択肢は四つでした。売却、上場、子供への相続、そして「それ以外」です。
結論から言うと、彼が選んだのは「それ以外」でした。まずは、なぜ最初の三つが選ばれなかったのかを見ていきます。
売却・上場・相続がすべて外れた理由
一つ目の売却は、理念の引き継ぎに不安があるという理由で外れました。
シュイナードは環境問題に強い危機意識を持っていて、製品も理念も「地球に優しいか」を基準に考えてきた人物です。
売却すればお金は入りますが、新しいオーナーが同じ理念を引き継いでくれる保証はありません。だから、なしと判断しました。
この判断の背景には、パタゴニアという会社の成り立ちがあります。
1972年、登山好きだったシュイナードは、岩に打ち込むピトン ── 岩の割れ目に打ち込んで登攀の支点にする金属製の道具。打ち込みや抜き差しで岩を傷つけやすい。という道具を自作していました。
それが評判を呼び、世界中で大人気の主力商品になります。
ところが、みんなが使う岩山を見に行くと、ピトンで岩がボロボロに削られていました。
自然を壊すような道具を作っていてはいかんと。
そこでシュイナードは、岩に打ち込まずに登れる器具の存在を知り、売上の70%を占めていたピトンの販売をやめる決断をします。
主力商品を捨ててでも地球に優しいものを作る。これがパタゴニアの最初期の姿勢でした。
それは服屋さんというよりは、地球に優しい衣屋さんみたいな感じなんですよ。
二つ目の上場も外れました。株主から成長第一の圧力がかかり、理念と両立しにくいためです。
三つ目の相続も成立しませんでした。子供たちが継ぐことを断ったからです。
シュイナード家には「億万長者になるのは最悪だ」という家訓があるといいます。長者番付に載ったことすら恥ずかしいと考えていたそうです。
「地球が私たちの唯一の株主」という仕組み
売却も上場も相続も外れたシュイナードが選んだのは、株の機能を分けるという方法でした。
まず株を、議決権のある株と議決権のない株に分けます。
議決権のある株は全体の2%で、シュイナード家が運営する「パタゴニア・パーパス・トラスト」に渡されました。
この団体は理念を守り続けることを目的にしており、会社をどうしていくかを決める役割を担います。
経営理念を議決する権利はシュリナード家にあるから、まず理念が変わらないですよね。利益を優先して理念が変わるってことがなくなるってことですよね。
残り98%の議決権のない株は、環境NPO団体「ホールドファスト・コレクティブ」に渡されました。
会社の運営で生まれた利益は、すべてこの環境NPO団体に流れます。理念はトラストが守り、利益は環境活動に使われる仕組みです。
この仕組みを整理すると、次のようになります。
株を2つに分ける
議決権のある株と、議決権のない株に分割する
議決権のある株2%
パタゴニア・パーパス・トラストへ。理念を守る意思決定を担う
議決権のない株98%
環境NPO団体ホールドファスト・コレクティブへ
利益の行き先
会社の利益はすべて環境NPO団体に流れる
ここで注意したいのは、シュイナードは売却したわけではないので、売却益を受け取っていない点です。
むしろ贈与税が発生し、数十億円を自腹で払うことになったといいます。
財団に資産を預けるのは節税対策として知られますが、今回はその真逆です。
むしろ金を払って、自分に金を残さない方法というのを編み出したという、かなりトリッキーな技を使ってるんですよね。
そしてパタゴニアには、こんなキャッチコピーが掲げられました。
NPOは地球のために活動している団体なので、文字通り「地球が唯一の株主」という体制になった、という理屈です。誇張はあるものの、構造としては成立しています。
いや、絶対無理だよ俺。すぐにお金もらう。
一方でやーまんは、利益の大半が流れる先のNPO団体で「甘い蜜を吸う人がいないか」という懸念も口にしていました。理念だけでなく運用の透明性も問われる仕組みだといえます。
なぜ日本人には「守り続ける会社」が刺さるのか
話題は、こうした「大切なものを残そうとするマインド」へと広がっていきます。
なんか日本人っぽいですよね。
日本は世界で最も長寿企業が多いといわれます。二人は具体例を挙げていきます。
一つは大阪の建設会社「金剛組」。はりまが昔住んでいた場所の近くにあったといいます。
もう一つは日本酒の酒蔵です。やーまんは「兼菱」を例に挙げました。
兼菱酒造は永正二年、1505年に創業してるから500年。日本最古のブランドとして伝統の味を作り続けています、とのこと。
やーまんは、大切なものを承継していく姿勢は日本的で、破壊と再生を繰り返すアメリカ企業のイメージとは対照的だと話します。
なんかすごい稀なアメリカ企業な気がします。
ここで話は「パーパス」という言葉の解釈にも及びます。
はりまは、ミッションやビジョンを「自分はこうします」という意思表明、パーパスを「社会から見たこの会社」と整理していました。
私たちはこうします、という自分側からの意思表明
社会にとってこの会社の存在価値は何か、という社会側からの問い
理念は最初に決めるより、走りながら定まる
二人は、理念やパーパスは最初に完璧な一文を作るものではない、という考えで一致します。
はりまは、原体験は「昔の辛い経験」だけとは限らないといいます。
今なんかこういうことをついついやっちゃうよなっていうものが集積されていけば、それを自分の原体験として、そこから思想に昇華させていくっていうのがいいやり方なんじゃないかな。
やーまんも、一発で掘り上げていい一文は出てこない、方向性はあってもやりながら気づくことが多いと同意します。
そのうえで、二人が特に評価したのがパタゴニアの「矛盾を抱えたまま続ける姿勢」でした。
環境第一の人が、環境に悪いことを垂れ流し続けるのは難しい。それでもできることを探し、会社を成長させながら続けたことがすごい、とはりまは言います。
やーまんは、この感覚を自作ラーメンにたとえました。
本当は体にいいものを食べたいんだけど、美味しいラーメンを作る上で、絶対にこのラードをたくさん入れなきゃいけないみたいな、この矛盾を抱えながら苦しみながらラードを器に入れるんですよ。
みんなもう白黒つけすぎですよ。もっと曖昧な着地点ですから。
白黒ではなくグラデーションで着地する。それこそが人間だし、企業のあり方でもある、という話でまとまっていきます。
自分たちの「存在意義」をどう言葉にするか
最後は、二人自身の会社やこの番組の理念に話が向かいます。
はりまは、そろそろ会社の思想を言語化しようと思い始めていると話します。きっかけは、このラジオでした。
いろんな人がチャレンジするきっかけづくりが好きだなと最近思い始めてるんですよ。
はりまの会社は子供向けのプログラミング教育をしていますが、プログラミング自体は手段だといいます。
大事なのは、自分の作りたいものを形にできるようになること。それができれば、新しいことへの一歩も踏み出しやすくなる、という考えです。
やーまんは、自分のブランドで毎日ブログを書き、日常や考えをコラムのように残していると話します。思想をアウトプットすると生きやすくなる、という実感があるそうです。
そして話は「存在意義」というキーワードに戻ります。
今、自分たちの会社がなくなったら、社会にとってどれだけ損失なのか。
はりまは、世界全体でなくても半径100メートルほどの範囲でいい、誰かが困るかどうかが一つの目安だといいます。
一方でやーまんは、大きなことを考えすぎると足元がぐらつくとも指摘します。今月の固定費や今日の生活を稼ぐ視点も欠かせない、という現実的な話です。
社会にとっての存在意義や理念。ブレずに持ち続ける軸
今月の固定費や日々の売上。地に足を着けた現実的な動き
大きな方針はブレないままコツコツやっていくと。
最後は、この番組自体のパーパスもいつか言語化してみたい、という話で締めくくられました。
まとめ
パタゴニアは、理念を守るために売却も上場も相続も選ばず、株の議決権と利益を分けて「地球が唯一の株主」という仕組みを作りました。自腹で贈与税まで払うその決断からは、矛盾を抱えながら大切なものを残し続ける姿勢が見えてきます。
- シュイナードは売却・上場・相続を退け、議決権2%をトラスト、株98%を環境NPOに渡す第四の道を選んだ
- 利益はすべて環境NPOへ。売却益はなく、逆に数十億円の贈与税を自腹で負担した
- パタゴニアは環境に悪い自覚を持ちつつ、できることを探し続ける「矛盾を抱えた会社」として評価された
- 理念やパーパスは最初に完璧に決めるものではなく、走りながら集積し言語化していくもの
- 存在意義は世界規模でなくてよく、半径100メートルで誰かが困るかどうかが一つの目安になる



