金融リテラシー調査の分析レポートと、「いつの後悔か」という前回の話
今回、井上ヨウスケさんが取り上げるのは、野村総合研究所が出した、J-FLECの金融リテラシー調査を分析したレポートです。毎年行われている金融リテラシーのテストの結果を分析したもので、井上さんは「すごくいいレポート」と評価しています。
僕個人はですね、金融リテラシーってちょっと間違った解釈されてる風潮ってすごいあるよなとずっと前から思っていたんですけど、それを裏付けるというか、その傾向っていうのがちょっと感じられる(レポートなので)。
本編に入る前に、井上さんは前週の放送「長期目的の選択は短期の感情に支配されていると言っても過言ではない」を振り返ります。後悔しないように、と言うときの後悔はいつの時点の話なのか、という問いが前回の中心でした。
今日の自分の後悔を減らす行為は、将来の後悔を多くするかもしれないし、将来の後悔を減らすっていう行為は、まあ予測はできないわけですよね。
井上さんは幸せや人生の評価についても、「いつの時点にピークを合わせるのか」という同じ問題があると話します。そのうえで、自身は「人生を評価しない」とある程度決めていると明かしています。
ハワード・マークスはなぜ「謙虚」なのか
前回の放送には、リスナーのソラミさんからコメントが寄せられ、井上さんが触れたハワード・マークスの話題に反応があったといいます。井上さんにとってハワード・マークスは、マーケットに50年近く居続けている「レジェンド」のような存在です。
井上さんによると、ハワード・マークスはもともと本を出すつもりがなかったものの、顧客向けレポートを読んでいたバフェットさんに後押しされて『投資家の大切な20の教え』『投資で一番大切な20の教え』を書いたというエピソードがあるそうです。日本語訳の帯にもバフェットさんの言葉があると紹介しています。
謙虚っていうのは、まさにああいう人のことを謙虚って言うんだなと思っていて。
ハワード・マークスは「下げ相場で買い入れるのが怖くない人なんていない」と語っており、井上さんはこの言葉を重視しています。下げ相場でも買えばいいだけと簡単に言う人は、実体験が伴っていないのではないか、というのが井上さんの見方です。
「二人はレアル・ソシエダ」と天心くんへの敬意
雑談パートでは、井上さんがサッカー日本代表のウルグアイ戦とパラグアイ戦を見た感想を話します。ワールドカップメンバーとそうでない選手のギャップを強く感じた2試合だったといいます。
井上さんが一番面白かったのは、実況の一言でした。相手チームに久保選手のレアル・ソシエダでのチームメイトが2人いるという話の流れで、実況が「二人はレアル・ソシエダ」と言ったのです。
妻と二人でね、ほぼ同じタイミングぐらいで「いやプリキュアか」って言ったんですけど。
話題はそこから、ファウルを取りにいく久保選手のアピールや、格闘家の那須川天心選手へと移ります。井上さんは、天心選手の振る舞いが評価を落とす面もあるとしつつ、敵を作ってでも主人公を引き受ける姿勢を尊敬していると話します。
人をバカにするって簡単だし、でもなんかそのバカにされる立場に立つって勇気がいることだし。
井上さんは冷笑的な態度が嫌いだと語り、ビッグマウスを叩かれながらもチャレンジする姿をかっこいいと評しています。
正答率は57%から53.4%へ。どの分野が下がったのか
本編では、9月24日ごろに出たというレポートの中身に入ります。井上さんはこのレポートをXでたまたま見かけたといいます。金融リテラシー調査は毎年実施されており、最新は25問、継続して出題されてきた24問のデータで傾向が分析されています。
レポートによると、24問の客観的な正答率は2019年の57%から2025年には53.4%まで低下しています。井上さんは、正答率で見る限り金融リテラシーは下がっているというのが客観的な結果だと説明します。
分野別では、日常的な基礎分野の低下が目立ちます。一方で、金融経済の基礎や資産形成の低下は小幅にとどまっており、井上さんは投資ブームが資産形成分野を下支えしていると読んでいます。
| 区分 | 項目 | 変化 |
|---|---|---|
| 分野 | 生活設計 | 6.3ポイント低下 |
| 分野 | ローン・クレジット | 6.2ポイント低下 |
| 分野 | 家計管理 | 5.5ポイント低下 |
| 年代 | 30代 | 6.5ポイント低下 |
| 年代 | 40代 | 5.6ポイント低下 |
年代別では現役世代の低下が大きく、30代と40代で下げ幅が目立ちます。18〜29歳の正答率は39.4%と低いものの、年齢を重ねるほど高くなる傾向は以前からあるとしています。
知識は下がっても、自信だけが下がらないのはなぜか
井上さんがこのレポートで一番面白いと感じたのは、客観的な知識が低下する一方で、主観的な自己評価は維持あるいは上昇する傾向が観察されたという点です。
24問の正答率は2019年から2025年にかけて低下
下がらず、維持あるいは若干上昇
井上さんは、点数が下がれば本来は自信も下がるはずだとして、自信過剰の傾向が出ていると解釈します。レポートでは、リスク性金融商品の投資経験が自信に与えるプラスの影響が以前より増し、資産規模による効果も拡大していると分析されているそうです。
井上さんはこの背景に、投資ならではの「フィードバックの遅さ」があると考えます。サッカーならワンプレーの失敗はすぐ結果に表れ、監督に交代させられるなど評価がすぐ返ってきますが、投資ではそうなりません。
(相場は全体で言ったら)10年あったら7年上昇するんですよ。で、3年が下落するみたいな。
井上さんの説明では、上げ相場ではポジションを取りすぎていても答え合わせが起きません。暴落で生活に影響が出て清算を迫られたときに、初めて間違いに気づくといいます。
株を持つ
相場は10年のうち7年ほど上昇するとされる
お金が増える
取りすぎたポジションでも上げ相場では答え合わせがない
自信がつく
増えたことを正しい選択の証拠と感じる
暴落で気づく
生活に影響が出て、初めてポジションの誤りがわかる
井上さんが好きな言葉として挙げるのが、JPモルガン ── 19世紀末から20世紀初頭のアメリカの銀行家ジョン・ピアポント・モルガン。現在の金融グループJPモルガンの名前の由来となった人物ですの「弱気相場では株式は正当な権利を持つ者の手に戻る」という言葉です。
レポートには、家計管理などの身近なお金の知識を持つ層ほど自己評価を慎重に見極める傾向が、2020年比でさらに強まったという結果もあります。また金融教育には、知っているつもりだった人に知らなかったと気づかせる、無知の知 ── 自分が知らないということを自覚していること。古代ギリシャの哲学者ソクラテスの考え方として知られていますにつながる効果があると書かれているそうです。
「投資できる人=リテラシーが高い」という風潮は本当か
レポートは金融実務への示唆として、投資経験者や資産保有層へのアドバイスでは、高い自己評価の裏で緊急予備資金や家計収支管理がおろそかになっている可能性に注意すべきだとしています。投資商品の提案だけでなく、家計基盤が脆弱でないかを確認するアドバイスが重要だという内容です。
井上さんはこの指摘を「なかなか難しいのでは」と受け止めつつ、自分も2021年ごろからYouTubeで同じことを言っていた気がすると振り返ります。世の中には、投資できている人ほど金融リテラシーが高いと見なす傾向があるといいます。
適度にリスクをちゃんと見定めて行動しようと思う人のことを、ただ臆病とレッテル貼りして、自分は勇敢だからどんだけでもリスク取れるみたいな風潮が、まあすごくあって。
井上さんは、バフェットさんの「川の水が引くまで誰が裸で踊っていたかわからない」という言葉を引き、答え合わせは未来にしかないと話します。そして、知識は本来、自分が何も知らないことを知って謙虚になるためのものだと語ります。
一方で井上さんは、金融リテラシーの高い人たちは10年前から一貫しており、実際には変わっていないとも感じています。投資している自分はリテラシーが高いと考える人が増えただけ、というのが井上さんの見立てです。
井上さんは、かまいたちの番組で「最近の若者は」と言う人は昔からいたが、ネット社会ではなかったので表に出なかっただけ、という話が出ていたことにも触れます。YouTubeのコメント欄についても、まともな人は投資を始めて情報を追わなくなり、離れていっているのではないかと話しています。
金融リテラシーの一発目は「破綻しないこと」
最後に井上さんは、金融リテラシーについての一貫した考えを示します。いかにお金を増やせるかではなく、破綻しないことがリテラシーの一発目だという考えです。
井上さんにとって金融リテラシーとは、破綻せずに自分の人生でお金に困らないプランを組めることです。投資ができることや、リスクをたくさん取れることは金融リテラシーではなく、自分に合った選択ができていればリテラシーがあると言えるとしています。
逆に、生活防衛資金がほとんどないのにリスク性資産を大量に持ち、お金を増やせている人について、井上さんは「それだけでは判断できない」と述べます。金融リテラシーという言葉が独り歩きしているなか、今回のレポートは日頃の実感を裏付ける数字だったと締めくくっています。
まとめ
今回のエピソードでは、金融リテラシー調査の正答率が下がる一方で自己評価は下がっていないというレポートをもとに、投資経験と過信の関係、そして金融リテラシーの本来の意味が語られました。
- 24問の正答率は2019年の57%から2025年の53.4%へ低下し、特に生活設計や家計管理などの基礎分野で下げ幅が大きい
- 客観的な知識は下がっても主観的な自己評価は維持・上昇しており、投資経験や資産規模が自信を押し上げている
- 上げ相場では答え合わせが起きにくく、投資のフィードバックの遅さが過信を生みやすい
- 井上さんは、金融リテラシーの核心はお金を増やす力ではなく、破綻せず自分に合った選択ができることだと考えている





