老後資金にインフレは考慮できるのか
老後資金の相談では、年金の不足分や病気にかかる費用を積み上げて、大体これぐらいが目安、という話をよくします。
すると「インフレを考慮していない」という意見が返ってくることが多いと、井上さんは話しています。AIと話していてもよく出るそうです。
けれど井上さんは、老後資金を考えるときにインフレを個別に考える必要は基本的にない、と考えています。理由は、それが費用側の問題ではないからです。
インフレを厳密に織り込むと計算が破綻する
そもそも、老後資金にインフレを厳密に反映させるのは物理的に難しすぎる、と井上さんは指摘します。
たとえば65歳で毎月3万円不足するとしても、真面目にインフレを考えるなら、66歳では3万1千円、67歳では3万2千円と、毎年赤字額が増えることを想定しなければなりません。
これを100歳まで積み上げ、さらに医療費についても使う年齢ごとにインフレ率をかけ直すことになります。それが本当にリアルなのか、という疑問が残ります。
仮に丁寧に計算して「インフレ考慮後は4千万円」という数字が出たとします。ここで問題が起きます。
インフレを考慮している数字が4千万円ですよと言われた時に、皆さんはこの4千万円という数値をどう考えますか。じゃあ4千万円準備するためにはどうしたらいいんだろうって考えないですか。でも、それを考えちゃダメなんですよ。
なぜなら「4千万円をどう準備するか」を考える時点で、私たちは今のお金の価値、つまり現在価値で考えてしまうからです。
将来の費用を未来の価値で出したのに、準備するお金を現在価値で考えると、右辺と左辺がずれてしまいます。かといって準備側も未来の価値で考えるのは、もう無理だと井上さんは話します。
だから老後資金は現在価値で考える
そこで基本になるのが、老後資金を現在価値で考えるという方法です。
インフレしていくのは前提にしつつ、今日のお金の価値に直したら大体これぐらい、という形で考えます。これがスタンダードだと井上さんは説明します。
この考え方では、運用利回りも名目リターンではなく実質リターンで見ます。
たとえば7パーセントで運用できても、インフレ率が2パーセントなら、実質は5パーセント。この5パーセントで30年後のお金が現在価値ベースでいくらになるかを見れば、足りそうかどうかが判断できます。
つまり現在価値で考えるほうが、計算はずっとシンプルになります。
インフレは費用ではなく運用側の問題
現在価値で考えるということは、インフレに追いついていける、という前提を置いていることになります。
銀行預金に100パーセント預けていれば、当然インフレについていけません。逆に、実質リターンがゼロパーセント以上あれば、インフレに負けることはありません。
だからインフレを気にするというのは、費用がかさむ問題ではなく、運用側の問題なのだと井上さんは整理します。
インフレする支出としない支出があるので、費用側で細かく織り込むのは難しい、とも話しています。
物価上昇率3パーセントは名目の話
ライフプランシートを作るときに、物価上昇率3パーセントと入れる人がいますが、井上さんはそこまできっちりやらなくていいと考えています。
たとえば物価が3パーセント上がっても、賃金が2.5パーセント上がっているなら、購買力ベースで見た差は0.5パーセントです。
つまり実感としては「物価高になった」と感じても、購買力で見れば0.5パーセントしか上がっていない、ということも起こり得ます。
この「物価高になったな」という感覚は、ロジックではなく感情の部分だと井上さんは指摘します。
「物価高なったな」とかって思う。でも「物価高なったなって思うけど、購買力は維持できてないな」とかって思わないじゃないですか。だから、この辺りって難しさが増すところがあって。
老後資金にインフレ分を上乗せするというのは、実質的には、インフレに追いつけない運用分のバッファーを準備する作業になります。
気持ちの安心料として上乗せするなら、それはそれでいい、と井上さんは話します。ただし実質リターンがプラスで運用できていれば、本来は必要ないという立場です。
老後不安はロジックと感情に分けて考える
井上さんが自分の老後不安をそれほど感じていないのは、人よりずっと調べているからだと言います。介護費用なども調べているそうです。
たとえば若くに病気や介護状態になった人は介護期間が長くなりがちですが、その分、長寿のリスクは削られます。長寿に備えたお金を介護に流用できる、といった見方もできます。
ここから井上さんは、老後不安を2つに分けて考えます。ロジカルに考える部分と、感情の部分です。
ロジカルに考えないといけない部分を感情で考えていたら、それはお金はいくらあっても足りないって感じるんじゃないかな。だってもうロジックでカウントしてないから。
寿命の話では、平均寿命や平均余命という基準を知っているから「120歳までは生きないだろう」と判断できます。基準となる数値、いわばアンカーがあるわけです。
一方、他の分野では参考になる数値を知らないため、「1千万かかるかも、2千万かかるかも」と不安が膨らみます。しかしアンカーから見れば、それは大きく外れたテールリスクかもしれません。
だからまずはロジカルに、大体これぐらい必要というお金の対応をする。それをしないと不安はなくならない、と井上さんは話します。
その先に残る「でもやっぱりかかる」という気持ちは、お金では解消しにくいとも指摘します。お金の不安をお金で解消するのは、あまりいい手法ではないという考えです。
お金いっぱいあるから俺不安ないねんっていう不安症の人を見たことがない。不安症の人っていうのは、究極お金の不安がなくなるぐらいお金持ったら、お金で解決できない不安を見つけてこれますからね。
だからこそ、ロジカルなお金の対応と、考え方や捉え方といった精神面の備えを、並行して進めていくことが大事だと井上さんは話します。
まとめ
老後資金はインフレしていく前提を置きつつ、現在価値で考えるのが基本です。インフレは費用がかさむ問題ではなく、実質リターンをプラスにできるかという運用側の問題だと整理できます。
- 老後資金にインフレを厳密に織り込むと計算が破綻するため、現在価値で考えるのが基本
- 運用利回りは名目ではなく実質リターンで見て、ゼロパーセント以上あればインフレに負けない
- インフレは費用の問題ではなく、追いつける運用ができているかという運用側の問題
- 物価高の実感は感情の部分で、購買力ベースで見ると上昇は緩やかなこともある
- 老後不安はロジカルな部分と感情の部分に分け、お金の不安をお金だけで解消しようとしない




