近しい2通のお便りから始まる「腸管が動かない」問題
今回は前回に続くお便り回答で、ほぼ同時期に届いた2通の質問を取り上げます。1通目のきよさんは、早期経腸栄養の重要性は認知されている一方、いざ始めても胃内残量の増加や腸管蠕動の壁に日々ぶつかると述べています。
きよさんの質問は、メトクロプラミド ── 消化管運動を促進する薬。中枢のドパミン受容体にも作用し、錐体外路症状などの副作用が知られる、エリスロマイシン ── マクロライド系抗菌薬だが、消化管運動を促すモチリン様作用があり、蠕動促進の目的で少量使われることがある、漢方薬などの導入タイミングや使い分け、使用のコツ、安易に使ってはいけない状態、副作用への注意点を問うものでした。
2通目のNさんは、人工呼吸管理の鎮痛鎮静で腸の動きが悪くなる経験から、経腸栄養開始時に予防的に蠕動促進薬を使うかを質問しています。ある病院ではメトクロプラミドをルーチンで点滴に混注し、別の病院では六君子湯と大建中湯を使っていた例も挙げられました。
小谷さんは、腎機能や心肺と同じように、重症病態では消化管も動きが悪くなると整理します。典型は人工呼吸中でショックが強く、それが立ち上がってきたところで経腸栄養を始める場面だと言います。
入れても返ってくる、なんなら入れた以上に返ってくるみたいなっていうのは結構よくあるシチュエーションだと思いますね。
薬を語る前に、まず外すべき「機械的なトラブル」
小谷さんは、議論の前提として除外すべき病態をまず挙げます。機械的な閉塞や消化管穿孔、腸管の壊死など、そもそも経腸栄養をしてはいけない患者を一旦のけておく必要があるという整理です。
つまり、蠕動促進薬の話に入る前に、消化管そのものの機械的なトラブルがないかを精査して除外することが前提になります。使っていいはずなのになぜ進まないのか、というときの対処として議論を進めるという枠組みです。
ちゃんとそういうトラブルが起きてないかは一旦精査した上で除外して、それでもつまり使っていいはずなのになんでいかないんだ、という時の対処っていうことをまず前提としながらお話をしていこうかなと思うんですけれど。
鎮静とオピオイドを先に見直す、小林さんの使い始め
小林さんは、蠕動促進薬はもちろん使うとした上で、他の介入をある程度やっても状態が変わらないときに使うことが多いと話します。他の介入と同時に使うこともあると言います。
他の介入とは、まず浅い鎮静を目指すことだと小林さんは説明します。鎮静が深いと腸は動かなくなり、オピオイドの投与量が多くても動かなくなるためです。減らせるなら減らし、鎮痛がそこまで必要なければフェンタニルを切る状況まで持っていくこともあると言います。
一方で、薬剤性が強く疑われても鎮痛がまだ必要な場合は、オピオイドをローテーションすることもあると小林さんは述べます。そうした介入をしても動かない、あるいは効果を待つより先に蠕動自体へ介入したいときに、薬を使っていきます。
個人的には一番最初に使うのはエリスロマイシンが多いかなとは思いますが、エリスロマイシンだったり、メトクロプラミドだったり、大建中湯、六君子湯とかの漢方薬もこの辺効果があると言われているので、手を替え品を替えやっているっていうのが実情かなと思います。
胃内残量はどこまで見る? 契機は嘔吐と腹部膨満
小谷さんは、開始基準をどこに置くかが本当に難しいと率直に語ります。しばしば参照される胃内残量には500などのカットオフが提案されているものの、よくわからないと言います。
小谷さんは、小児の人工呼吸患者で胃内容量を測っても測らなくてもどちらでもよいという趣旨の研究を目にしたことにも触れます。そのうえで、誤嚥しているときは介入したいと感じると話します。挿管中でも嘔吐して、気管支鏡で見ると経腸栄養剤らしきものが入っていれば、絶対に介入したいと言います。
小林さんは、最新のガイドライン改訂では成人でルーチンの胃残確認をしなくてよいとされており、確認しない施設が多いのではないかと補足します。では胃残以外に何を契機にするか、という問いに移ります。
小林さんが挙げる契機は、嘔吐やそれに伴う誤嚥で有害事象が明らかに起きているとき、そしてお腹が張って腹部単純写真でも腸管が動かずエアだらけになってきているときです。こうした患者では腹部レントゲンをチェックするようにしていると言います。
骨折外傷の鎮痛と蠕動のジレンマ、そしてQT延長への注意
小谷さんは、オピオイドの用量は鎮痛の具合によってもともと最適化されていることが多いと指摘します。あちこち骨折した外傷患者で普段より多めのフェンタニルを入れ、他の局所麻酔薬を足すのも難しい場面は本当に悩ましいと言います。
そうしたときはマルチモーダルに鎮痛を組み立てても難しく、小谷さんはあまりビビらずに薬へ進む、と話します。エリスロマイシンとメトクロプラミドは両方いくことがほとんどだと言います。
漢方については、小谷さんは使いたい人が使えばよいという立場です。効果があるかないかもよくわからないと率直に述べ、パントテン酸もあまり使っていないと言います。
一方で、蠕動促進薬を使うときに気にするのがQT延長 ── 心電図のQT間隔が延びる状態。進行すると致死的不整脈につながりうるため、延長を起こす薬剤の併用に注意が必要です。小谷さんは心電図をたまに取り、ある程度延びていても使わざるを得ないときはモニター上に表示するようにしていると話します。
注意する理由は、他の目的で使っている薬剤がさらにQT延長を起こしうるためです。代表例としてアミオダロンを挙げ、アミオダロンは切りづらいことが多いので、蠕動促進薬の側で余計なことをしないよう気をつけると言います。
薬で良くならないときの次の一手と、対症療法という現実
小谷さんは、これで良くならないときに何を考えるかを小林さんに尋ねます。小林さんは、薬物的な介入として時々ネオスチグミン ── コリンエステラーゼ阻害薬。副交感神経を優位にして腸管運動を促し、大腸の偽性閉塞などに使われることがあるを使うこともあると答えます。
それでもどうしようもないときは、小林さんは消化器内科に相談し、場合によってはイレウス管を入れてじっくり待つことが多いと話します。そこから先はすぐに動かすプランが自分の中で出てこないため、他の専門家の意見も聞きながら介入することが多いと言います。
小林さんは、薬剤性の麻痺性イレウスによるものだった場合も、結局は対症療法で待つしかないと整理します。鎮静や鎮痛薬が原因なら、先に抜管して鎮痛を切っていける方向を目指し、原疾患の回復を待ちながら腸の方は粘る、という進め方が多いと述べます。
それでも腸管がどうしても使えないなら、致し方なくTPN ── 中心静脈栄養。腸を使わず静脈から栄養を投与する方法。腸管が使えない期間の栄養手段として併用されるも併用しながら栄養投与を続けると小林さんは言います。
小谷さんは、この整理で頭がすっきりしたと応じます。急性腎障害が改善しなければ透析を行うのと似た構図で、透析が残ったままでも抜管や昇圧離脱は進められるように、腸の方はイレウス管とTPNで待ちつつ、病状改善に伴い外因性の薬剤が抜けると少しずつ前に進むという感覚だと話します。
除外したい病態を何度も見に行く――CDIやNOMI、術後膵炎
小林さんは、機械的閉塞以外に頭の片隅に置いている病態としてCDIを挙げます。CDI ── クロストリディオイデス・ディフィシル感染症。抗菌薬使用後に起こりやすい腸炎。重症化するとトキシックメガコロンや腸管麻痺に近い状態になることがあるでは、時にトキシックメガコロンのように腸がまったく動かない状態になることがあると言います。
抗菌薬を使っている中でイレウスに近い状態が出て、発熱など他の感染症のサインがあれば、小林さんは一度CDをチェックしていることが多いと述べます。小谷さんは、これは下痢のないCDIというパターンになる点が示唆的だと応じます。
小谷さんは、頻繁ではないが起こりうること、そして治療可能である点が大切だと強調します。ここまで話してきた対症療法とは別に、機械的閉塞を見つけに行くのと同じ流れで根本治療できるものとして、CDIは重要なポイントだと言います。
小林さんは、機械的閉塞とも違い根本治療があるわけではないが、ICUで起こりうるものとしてNOMI ── 非閉塞性腸間膜虚血。血管の閉塞なしに腸管の血流が低下して腸が動かなくなる病態。循環不全の重症患者で起こりうるを挙げます。閉塞の起点を探すために撮ったCTで、NOMIが引っかかることが多いと言います。どちらにしても機械的閉塞の検索で画像は撮られていることが多いという整理です。
小谷さんは、術後の膵炎もたまにあると付け加えます。嘔吐や腹部膨満で誰かがアミラーゼやリパーゼを取ると三桁になり、痛みは訴えないものの画像でわかることがあるという経験です。
嘔吐を消化器に押し付けない――ロスという視点
小谷さんは、治療を始めたくなる契機の一つに挙げた嘔吐について、自分の中でアラートが鳴る症候だと語ります。特に心臓外科術後で、リハビリ後に気持ち悪いといった場面では、体位の変化などで説明したくなるが、[[ロス:LOS:low output syndrome、低心拍出量症候群。心臓のポンプ機能低下で拍出が不足し、嘔吐など多様な症状を起こしうる]]だと思って対応した方がよいと言います。
小谷さんは具体例として、除水中やドブタミン減量中に低血圧が顕在化していなくても嘔吐が起こる場面を挙げます。一旦休ませて落ち着いても食事が取れないとき、ドブタミンを上げる、ペーシングで心拍数を上げる、除水を控えるといった対応が奏功することがあると話します。
一方で小谷さんは、時系列が進んで患者が勝手に良くなっただけかもしれず、介入が不要だったという理屈も否定はできないと断ります。それでも、嘔吐をロスの所見として見ておくことは大切だと考えており、自分自身が消化器に短絡的に結びつけて違った経験があるから、そう言うようにしていると述べます。
小林さんは、嘔吐はあくまで症候であり原因は多岐にわたると整理します。LOSや麻痺性イレウスだけでなく、心筋梗塞や頭蓋内出血でも嘔吐は起こりうるため、嘔吐だから消化器疾患という短絡的な結びつけはやはり危険だと言います。
救急外来とか内科外来で見た時の幅広い鑑別疾患をベースに、かつ今この人でどういう病態が起こりやすいのかっていう事前確率、そこら辺を組み合わせながら考えることが重要かなっていうふうに思いますね。
小谷さんは、術後の嘔吐をPONV ── 術後悪心嘔吐。麻酔や手術後に起こる吐き気・嘔吐。頻度は高いが、他の重篤な原因を除外せずに決めつけるのは危険と言いたくなる心理を認めつつ、その一対一対応で大丈夫かと自問すると話します。胃管が曲がっていない、と説明されてもなお引っかかる場面はあると言います。
小谷さんは、麻痺性イレウスやPONVかもしれないという可能性と、LOSかもしれないという可能性では、患者にとっての緊急性がまったく違うと指摘します。頻度は少なくても、命に関わり是正が可能な病態がコモンな症候の背後に隠れている以上、その除外は大切だと締めくくります。
まとめ
腸管蠕動促進薬の話は、機械的閉塞などを除外した患者を前提に、鎮静とオピオイドの見直しを先に置き、それでも進まないときに薬を重ねるという流れで整理されました。同時に、良くならないときは対症療法で粘りつつ、CDIやNOMI、そしてLOSといった是正可能な病態を何度も見に行く姿勢が語られています。
- 蠕動促進薬の前提として、機械的閉塞や穿孔、腸管壊死などを精査して除外しておく
- まず浅い鎮静とオピオイド減量を検討し、それでも動かないときにエリスロマイシンやメトクロプラミドなどを使う
- 胃残はルーチンでは重視されにくく、嘔吐・誤嚥・腹部膨満とレントゲン所見が契機になりやすい
- QT延長は心電図やモニターで注意し、アミオダロンなど併用薬の影響も考慮する
- 薬で改善しないときは対症療法で粘りつつ、CDI・NOMI・術後膵炎・ロスなど是正可能な病態を繰り返し除外する


