番組初のお便り回、寄せられた相談とは
今回のエピソードは、産業医の本音史上初めてのお便り回です。この番組は企業の健康管理に関わる人全般に向けて発信されていますが、今回は産業保健の世界に関わっていきたいと考える看護師から相談が届きました。
現在看護師11年目で、今まで看護師としての経験しかないですが、企業で働く方の健康管理や予防医療の分野に関わりたいと考えています。この分野に興味を持った看護師が最初に学ぶべきことや経験しておくといいことがあれば教えていただけないでしょうか。
小橋さんは、この番組が産業保健の道を歩もうとする人の道しるべになっているなら嬉しいと感謝を述べたうえで、これから産業保健の世界に入りたい医療職がまず何を勉強し、何を経験すべきかというテーマで話を進めます。
「人・本・旅」で産業保健の専門職像を醸成する
まず何を学ぶかについて、小橋さんは「卵が先か鶏が先か」だと前置きします。実際にやってみて学ぶという側面もあるものの、それだけでは芸がないとして、番組の文脈から一つの指針を挙げます。
その指針が、第44回から47回に出演した岩田裕介さんの回で出てきた「人・本・旅」です。産業保健に関わるいろんな人と話し、いろんな本を読み、いろんなコミュニティに行くことで、自分の中の専門職像を少しずつ醸成していくという考え方です。
いろんな人と喋って、いろんな本を読んで、いろんなコミュニティに行って、そうやって少しずつ自分の中の産業保健専門職像みたいなものを醸成していく。
医療から企業へ、まず知るべきは企業の仕組み
そのインプットの中で何を優先すべきか。小橋さんが挙げるのは、そもそもの企業の仕組み、特に企業における労務管理や健康管理の全体像です。ぼんやりとでも頭の片隅に入れておくと、産業保健専門職としてのキャリアをスムーズにスタートしやすいと話します。
理由は、ベースとなるフィールドが医療から企業へ変わるからです。どのフィールドに行っても根底にある医療職の理念は変わらないし変わるべきではない、と小橋さんは考えます。一方で、そのフィールドの中で専門職としてどう考え、どう立ち振る舞うかには、ちょっとしたコツやスキルが必要になると言います。
個人支援から組織支援へ、戸惑いを埋めるもの
この「対組織」への支援こそ、医療職が産業保健で戸惑いやすいポイントです。医療職は臨床時代から対個人の支援には慣れているものの、対組織への支援は臨床でその機会がないためだと小橋さんは説明します。
医療職っていうのは、対個人の支援は臨床時代からバシバシやってるので慣れてるじゃないですか。だけどやっぱりこれが対組織への支援となってくると、なかなか臨床だとそういう機会もないので、最初結構戸惑う部分っていうのもある。
最終的には場数を踏むしかない部分もあります。ただ、はじめに労務管理や衛生管理のインプットがあると、対組織への支援もより馴染みやすくなるというのが小橋さんの見立てです。
産業医もつまずいた「衛生管理者」の勉強という近道
企業の仕組みを学ぶ具体的な方法として、小橋さんが個人的におすすめするのが衛生管理者の資格勉強です。衛生管理者は労働安全衛生法上の国家資格で、医師資格や保健師の資格があれば、試験を受けずに申請だけで取得できます。
ただし小橋さんは、医師や保健師の資格があるだけで本当に衛生管理者の知識や技能を持っているかは疑問だと言います。その根拠は、小橋さん自身の経験にあります。
産業医始めて数年以上経ってから衛生管理者の試験対策の講師を依頼されるようなことがあったんですね。
講師を引き受けて予習がてら問題集やテキストを見てみたところ、思っていたよりも難しく、テキストを通読すると企業の健康管理に関する情報が体系的にまとまっていて、知らないことも結構あったと振り返ります。
大掃除は年2回。テキストが体系的だと感じた具体例
小橋さんが体系性を実感した具体例が、大掃除です。なんとなく年に一度やるものだと思っていたところ、実は労働安全衛生規則の第619条に定められていることを知ったといいます。
しかも年に一回じゃなくて、6ヶ月以内ごとに一回、つまり年に2回やらないといけないっていう風に書いてあって、これもほんと知らなかったって感じでした。
これは各論的な内容ですが、衛生管理者のテキストは関係法令から労働衛生、労働整理まで体系的に学べる内容になっていると小橋さんは評価します。問題集も充実しているため、ただ入門書を読むよりも、一定の目標を持って勉強しやすいと勧めます。
衛生管理者には有害業務を含む第一種と、有害業務を含まない第二種がありますが、せっかくならと第一種の衛生管理者をおすすめしています。
有害業務を含む職場に対応できる。小橋さんが医療職におすすめするのはこちら。
有害業務を含まない職場を対象とする。
学びの次は「疑似体験」。働く人の立場に立つ
次に、何を経験しておくといいかについて。小橋さんはこれを学びの延長線上にあるものとしたうえで、鍵になるのは疑似体験、つまり実際に働く人の立場に立ってみることだと話します。
もし相談者が学生なら、家庭教師よりも飲食や建設など、実際に職場で働くバイトを勧めると言います。当事者の気持ちを理解しやすくなるからです。最近増えている学生起業も、経営的な視点を持てるという意味でプラスだと補足します。
医療機関も一つの企業。今いる職場でできる疑似体験
ただし今回の相談者はすでに医療職として働いています。小橋さんは、その場合は実はもう疑似体験ができていると指摘します。
医療機関も一つの企業組織ですし、そこで働く医療従事者も立場としては労働者じゃないですか。
だからこそ、企業を知ることや衛生管理を学ぶことは、未知の世界の話ではなく、今自分が所属している医療機関にそのまま当てはまる話なのだと小橋さんは語ります。
その視点で今の環境を見て、「この医療機関で自分が産業保健専門職だったら何ができるか」を考えるだけでも、かなりの疑似体験になるというのが小橋さんの答えです。
まとめ
番組初のお便り回では、産業保健を目指す医療職がまず何を学び、何を経験すべきかという問いに、小橋さんが自身の経験を交えて答えました。学びの入口としては企業の仕組み、経験としては働く人の立場に立つ疑似体験が軸になっています。
- 産業保健に進む医療職は、まず企業の労務管理・健康管理の全体像を押さえておくとスタートしやすい
- 衛生管理者の資格勉強は、企業の健康管理を体系的に学べる近道。医療職には第一種がおすすめ
- 医療職は対個人の支援に慣れているが、対組織への支援には戸惑いやすく、事前のインプットが助けになる
- 経験の鍵は疑似体験。すでに働いている医療職は、所属先の医療機関を企業として見直すだけでも学びになる




