フィールドが医療から企業に変わるということ
産業保健の世界に入っていくとき、いちばん大きく変わるのは、ベースとなるフィールドが医療から企業になるということだと思っています。
もちろん、どのフィールドに行っても、根底となる医療職の理念が変わることはないですし、変わるべきでもないと個人的には思っています。
ただ、その企業というフィールドの中で、専門職としてどう考え、どう立ち振る舞っていくのか。ここにはちょっとしたコツやスキルが必要になってくるんですよね。
なので私の場合は、そもそもの企業の仕組み、特に労務管理や健康管理の全体像を、ぼんやりでもいいから頭の片隅に入れておくことをおすすめしたいなと思っています。
この辺りを先に知っておくと、産業保健専門職としてのキャリアが、わりとスムーズにスタートしやすいんじゃないかなと感じています。
個人的におすすめしたい、衛生管理者の資格勉強
企業の仕組みを知る方法として、産業医や産業保健看護職の入門書を読むというのももちろんあると思うんですけど、私が個人的におすすめしたいのが『衛生管理者』の資格勉強です。
衛生管理者は労働安全衛生法上の国家資格なんですけど、ベースに医師や保健師の資格があると、申請すれば試験を受けなくても取得できるんですよね。
ただ、医師や保健師の資格があるだけで、本当に衛生管理者の知識や技能を持っていますかというと、まだまだ疑問だなと思っていて。
というのも私自身、産業医を始めて数年以上経ってから、衛生管理者の試験対策の講師を頼まれたことがあったんです。
そのとき初めて試験対策のテキストや問題集を予習がてら見てみたら、思っていたよりも全然難しくて。企業の健康管理に関する情報がすごく体系的にまとまっていて、なんなら知らないことも結構あったんですよね。
大掃除は年に2回。テキストで知らなかったこと
今でも覚えているのが、大掃除の話です。
年に一度の大掃除って、なんとなくの習慣でやっているものだと思っていたんですけど、実は『労働安全衛生規則』の第619条に、ちゃんと大掃除をやりなさいと定められているんですよね。
しかも年に1回じゃなくて、6ヶ月以内ごとに1回、つまり年に2回やらないといけないと書いてあって、これも本当に知らなかったです。
これはかなり各論的な話ですけど、テキスト全体を通じて、関係法令から労働衛生、労務管理まで体系的に学べる内容になっているんですよね。
実際に試験を受ける受けないは別として、問題集も充実しているので、ただ入門書を読むよりも、一定の目標を持って勉強しやすいんじゃないかなと思っています。
衛生管理者には、有害業務を含む第一種と、含まない第二種があるんですけど、せっかくなら第一種をおすすめしたいですね。
私もそうだったんですけど、医療職って対個人の支援は臨床時代からやってきているので慣れているんですよね。でも対組織への支援となると、臨床ではあまり機会がないので、最初は戸惑う部分があるんです。
そういうときに、労務管理や衛生管理のインプットが先にあると、対組織への支援にもより馴染みやすいんじゃないかなと思います。
何を経験しておくといいか。実はもう疑似体験はできている
もう一つ、何を経験しておくといいかということですよね。
これは学ぶことの延長線上にあると思うんですけど、やっぱり疑似体験、つまり実際に働く人の立場に立ってみることかなと私は思っています。
もし質問者の方が学生さんだったら、家庭教師よりも飲食でも建設でも、実際に職場で働いてみたら、当事者の気持ちも理解しやすいですよ、と言うと思います。
ただ、今回お便りをくださった方は、すでに看護師として11年働かれているので、実はもう疑似体験はできているんですよね。
なぜなら医療機関も一つの企業組織ですし、そこで働く医療従事者も、立場としては労働者じゃないですか。
だから企業を知るとか衛生管理を勉強するというのは、これから踏み入れる未知の世界の話じゃなくて、今ご自身が所属している医療機関にそのまま当てはまる話なんですよね。
もし自分がこの医療機関の産業保健専門職だったら何ができるのか。これを考えてみるだけでも、かなり産業保健業務の疑似体験になるんじゃないかなと思います。
まとめ
これから産業保健の道に進む医療職の方が、何を学び、何を経験しておけばいいのか。私なりの私見をお話ししてきました。まずは目の前の環境に、産業保健の視点で目を向けてみるところから始めてみてもいいのかなと思っています。
- 産業保健では、フィールドが医療から企業に変わる。まずは企業の仕組み、特に労務管理や健康管理の全体像を知っておくとスムーズ
- その入り口として、体系的に学べる衛生管理者の資格勉強がおすすめ。せっかくなら第一種を
- 何を経験するかは、実際に働く人の立場に立ってみること。医療職としてすでに働いているなら、その職場自体が格好の疑似体験の場になる




